表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/139

70. 同級生

 巫月が凝視する中、男が屋上から校庭に向かって飛び降りる。


――スタッ――


 しなやかに着地すると、そのまま巫月に向かって歩きだした。

 薄暗い校庭で、男の顔が段々と見えてくる。


(さとる)!」


 男の顔をはっきり認識すると、巫月は男の名を呼んだ。


「久しぶりだな、巫月」


 聡と呼ばれた男は、巫月の前で足を止めると、そばかすが見えるほど顔を近づける。


「懐かしいなあ。二年ぶりかあ」


「お前……なぜ……?」


 聡が親しげに話す一方で、巫月は動揺して言葉が上手く出てこなかった。

 そのため二人の会話は噛み合わないが、それでも聡は話し続ける。


「会えて嬉しいよ、本当に」


 言葉とは裏腹に、聡の笑顔は作り笑いにしか見えなかった。

 その作り笑いも、巫月が黙っていると段々と消えていく。


「何だよ。久しぶりに会えたんだから笑えよ、巫月」


「っ!!」


 聡の冷淡な口調によって、巫月は我に返った。


――ダッ――


 与一と共に跳び退って、聡と距離を取る。


「聡っ、ここで何をしているっ? いや、その白いスーツ、お前いつから創世会の一員になったんだっ?」


 巫月は、やっと質問するだけの冷静さを取り戻した。


『坊ちゃん、確か彼は高校時代の……』


「うん、京都に住んでた頃の同級生だよ。友達だ」


 聡が答える前に、与一が巫月に確認を行う。聡は、その後にゆっくり話しだした。


「驚いたよ、巫月。学校一優秀だったお前が、進学もせずに何をするかと思えば、卒業と同時に音信不通になって。何も言わずに突然いなくなっちゃうんだもんなぁ」


「それは……」


 聡の話で、巫月が言葉を詰まらせる。

 巫月は、そのまま黙り込んでしまった。


「先生も親も、お前の行方について何も教えてくれないしさあ。でもMISTに入ってたと知って、やっと納得がいったよ。なんせ秘密の機関だもんねー、あそこ。そりゃ、誰にも教えられないよねえ」


 聡が、気さくな言葉遣いで話しながらも、鋭い目つきで巫月を睨む。

 巫月は、聡の視線から逃げるように目を逸らした。

 そんな巫月に、聡はいきなり口調を強める。


「でもさあっ! 俺と(あかね)にぐらい言ってもよかったんじゃないの!? 俺たち三人、あんなに仲良かったじゃん!!」


 巫月は、何も言うことなく俯いた。巫月の中に過去の記憶が蘇る。

 記憶の中では、巫月、聡、そして茜という女の子が、高校からの帰り道を仲良さそうに歩いていた。巫月と聡のあいだを歩く茜は、巫月を見ながら楽しそうに笑っている。


「あの後、茜がどんだけ泣いたか知ってるのかよっ? 茜がお前のこと好きなの知ってたくせに、何で何も言わなかったんだよ!? 何とか言えよ、巫月!!」


 聡は、巫月の胸ぐらを掴んだ。


「……茜は元気にやってるのか?」


 聡に責められ、やっと巫月が口を開く。


「ああ。今、俺たちは付き合ってるんだ。あいつ、やっとお前のこと忘れてくれたんだぞっ!」


「……そうか……それならよかった」


 巫月は、俯いたまま小さい声で言った。


――ドゴォッ!――


 その瞬間、聡が巫月を殴りつける。


「ふざけんなよっ! お前だって茜のこと好きだったくせに! お前、俺が茜のこと好きなの知って身を引いただろ! 余計なことすんなよ!」


 聡は声を荒らげて咎め始めた。


「お前はいつもそうだ! 何をしても、カッコつけて俺を勝たせやがって。同情で勝たせてもらっても何も嬉しくないんだよ!!」


 どれだけ咎められても、巫月は言い返さない。


「俺は父親の死をきっかけに創世会に入って、守護霊を持った。俺にも霊能力があったらしくてなあ、召喚じゃなく、降霊の契りを結べたんだっ。分かるかっ? お前だけが特別じゃないんだよ! 俺だって強いんだ!」


 巫月は、殴られて口元が切れている。そこから滲み出てくる血を手で拭うと、静かに言葉を口に出した。


「……気が済んだか、聡? 気が済んだら、帰ってすぐに創世会を辞めるんだ。そして、茜と幸せに暮らせ」


「……何だと?」


「創世会が今してることは犯罪だ。このままでは、いずれお前は捕まる。そうなる前に創世会を辞めるんだ」


 殴られたにもかかわらず、巫月の瞳からは怒りも憎しみも感じられない。そこには、友達を思う優しさだけがあった。

 その瞳を見て、聡の怒声が静まる。しかし、鬱積(うっせき)した思いが消えることはなかった。


「……お前は、またそうやって俺と勝負をしないつもりか?」


「僕は、お前と戦う気はない」


 巫月と聡の意志が静かにぶつかり合う。


「それなら、俺が一方的にお前を叩きのめすのみだ。俺は、そもそも創世会の一員としてここに来てるからな。創世のためにMISTの隊員は潰す」


「……本気でそんなことに加担するつもりなのか?」


 脅すように話す聡に対して、巫月は冷静に訊いた。


「ああ、死んだ父に会いたいんだよ。知ってのとおり、ウチはお前ん家みたいに裕福じゃなかったからな。俺のために、父は毎日遅くまで働いてくれてた。そんな父が突然亡くなれば、もう一度会いたいと思うのは当然だろ?」


「この世とあの世を繋げるなんて馬鹿げてるっ」


 巫月が、聡の考えを否定するように片腕を水平に振る。


「家族を失くしたことのないお前には分からないんだよっ! 創世会にいるのはそんな人たちばかりだっ」


「それはっ……。でも、だからってっ」


 巫月が言葉に詰まると、ここで与一が念話を使い、巫月に話しかけた。


(坊ちゃん、彼は坊ちゃんの父君や母君に起きたことを知らないのですな?)


(……ああ。あのことは誰にも話してないから)


 聡は、巫月と与一が念話をしていることに気づかないまま、大声で話を続ける。


「俺を止めたいなら止めてみせろよ、巫月! 本気で俺と勝負しろ! そうしないと俺は、イズミって霊能者が協力するまで、ずっとMISTを攻撃し続けるぞ!」


 聡の言葉に対し、巫月は眉をひそめて黙った。

 聡も、巫月を睨みながら黙って返事を待つ。

 二人が黙ったことで、夜の静寂が強調された。


「……いいよ、分かった」


 巫月が、意を決したように言葉を発する。


「僕は今やMISTの隊員だ。そんなことを見過ごすわけにはいかない。だから勝負してやる」


 巫月は、ここで初めて戦う意志を見せた。


「やっとその気になったか」


「こうなったら、もう後戻りはできないからな」


 巫月が反対方向を向き、与一と共に歩き始める。ある程度聡と距離を取ると、ゆっくり振り向いた。


「覚悟しろよ、聡」


 そう言って、戦闘態勢を取る。


「嬉しいぜ。やっとお前に勝つ日が来た」


 巫月に呼応して、聡も戦闘態勢を取った。

 二人が構える中、与一が巫月に話しかける。


『坊ちゃん、宜しいのですな?』


「ああ。ただ聡とは一対一で戦いたいから、少しのあいだだけ爺は僕の中に入っててくれるかな?」


『……承知しました。坊ちゃんの不得手な近接戦闘ですので、こちらに利があるとは思えませんが、どうか気張ってくださいませ』


「厳しいこと言うね。でも、ありがとう」


 巫月との話を終えると、与一は巫月の体の中に戻った。


「そのまま守護霊と共に攻撃してくればいいものを……。その余裕がいつも鼻につくんだよ、巫月。人をいつも見下して……」


 聡が構えを維持しながら言う。


「僕はただ、聡が望むかたちで勝負したかっただけさ。このほうが白黒はっきりつけやすいだろ?」


「そういう態度を見下してるっていうんだよっ!」


「それはお前の被害妄想だろっ」


「うるさいっ、くらえっ!!」


 そう叫ぶと、聡は一気に巫月との距離を詰め、飛び膝蹴りを巫月の顔に向けて放った。


――ガッ――


 巫月が、両腕をクロスさせて膝蹴りを防ぐ。


「はっ!」


 巫月は、そのまま空中にいる聡に向けて、回し蹴りを放った。


――ドゴォーンッ!!――


 聡が腕で防御するが、回し蹴りの威力に負けて吹っ飛ぶ。


「くっ」


 聡は、空中で体勢を立て直し、片膝をついて着地した。追撃を警戒し、すぐに顔を上げる。


「ん?」


 しかし、巫月は追ってきていなかった。聡を見据えて話しかける。


「言い忘れてたけど、イズミさんは三番隊の隊員でね。僕はその三番隊の隊長なんだ」


「それがどうした?」


「責任があるんだよ。隊員を守るためなら、友達にも容赦しないぞっ!」


 巫月は雄々しく言い放った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ