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69. 囮

「相変わらず人使いが荒いなあ、椿木さんは。いや、あの人は隊外構成員には優しいから、隊員使いが荒いって言うべきか。囮になれとか、ひどすぎるでしょ」


 隊外構成員に対する襲撃事件から数日後、人通りが少ない深夜の街外れを、巫月は一人で歩いていた。椿木の「強い者が弱い者を守るのは当然だ」という信念のもと、隊外構成員は帝霧館内に留まり、隊員たちは屋外で襲撃を待っているのである。

 襲撃者を確保し、事件の真相を掴むのが目的であるが、襲撃者の正体が創世会の人間であるということは、あらかた分かっていた。


「大体、“屋外で人通りが少ない場所ならどこでもいい”って言われてもさあ、そんな都合良く襲撃者も現れないでしょうに。それとも、あれですかねえ。帝霧館を出た時から尾行でもされてるんですかねえ」


 巫月が手を頭の後ろで組み、ぶつぶつと独り言を言っていると、与一が背後に現れて話しだす。


『坊ちゃん、椿木さんの言っていることは間違っておりませんよ。強い者が弱い者を守る、そういう世の中でなければいかんのです。昔の人間は皆、そういう日本を創るために頑張ってきたのですから』


「分かってるよ、分かってるけどさー」


『でしたら、愚痴ばかり言ってな……』


 ここで与一が突然黙り込む。


「どうしたの、爺?」


『……坊ちゃん、周囲に怪しい動きをする者たちが集まってきております。どうやら、都合良く襲撃者が現れたようですな』


 実は、与一は前もって“空流検知”を唱えており、それにより周囲の空気の流れを正確に読んでいた。そのため、近づいてくる襲撃者にいち早く気づけたのである。


「え!? 本当に? いくら何でもできすぎだ。創世会には、遠方から監視ができる霊体でもいるのか……?」


『こうなると、その可能性も否めませんな。そう考えたから、椿木さんは“どこでもいい”とおっしゃったのでは?』


 巫月が「そうかもしれないね」と呟く。その表情は、不満をこぼしていた先ほどまでと違い、MISTの隊員といえる頼もしい表情になっている。


『それで坊ちゃん、ここからどうしますか?』


「確か、近くに中学校があったから、その校庭におびき出そう。そこなら複数の敵を相手にしやすいし、周囲にもあまり迷惑がかからない」


 与一が「承知しました」と言うと、二人は中学校の校庭に向かった。

 二つほど角を曲がると、すぐに目的の中学校に辿り着く。

 二人は、校庭を囲む金網を飛び越え、中に入った。


「ここなら周辺住宅に迷惑をかけずに戦えるか……」


 校庭には、いくつかの電灯と周囲の家の明かりにより、ある程度の明るさはある。


「爺、念のため、この辺一帯を結界で包んでおいてくれるかな? あの霊能者以外に感知されなくなるやつで」


『ええ。では、学校と校庭を全て結界で包んでしまいましょう』


 巫月の指示を受け、与一が大型の結界を張る。

 それから五分も経たないうちに、白スーツに身を包んだ集団が校庭に入ってきた。すでに各自が背後に守護霊を出現させており、戦闘する気が窺える。


「……全部で30人ってところか。確かにこの人数でボコられたら、隊外構成員一人じゃひとたまりもないね」


『そうですなあ。農民の守護霊、犬の守護霊、サラリーマンの守護霊が主か。いずれも力の弱い守護霊ですが、数の暴力にやられたのでしょう』


 巫月と与一が話していると、すぐに白スーツの集団がこちらに向かって走り始めた。


「戦う気満々か。しょうがない。爺、ちょうどいいから“カマイタチ”を試してみよう」


『宜しいのですか? あれはまだ正確性が足りませんが』


「今の威力なら、魂帯を外して体に当たっちゃったとしても、ナイフ傷程度にしかならないから大丈夫だよ」


『承知しました。では……』


 巫月の指示を受け、与一が咒文の詠唱を始める。

 程なくして、巫月たちは敵集団に囲まれた。


「あなたたちは、創世会の方々ですよね? 目的はいったい何なんです? 戦う前にそれぐらい教えてくれてもいいんじゃないですか?」


 巫月が動揺することなく問いかけると、敵集団は一瞬静まり返る。その後、巫月から一番近いところにいる男が答えた。


「……確かに、私たちは創世会の者です。こんな真似をして申し訳ないが、私たちの“創世”のために犠牲になってください」


 言葉どおり、男の表情からは、真剣さと申し訳なさが伝わってくる。


「創世? それは夢幻力を使ってこの世とあの世を繋げるということですか?」


「そうです。そのためにそちらのイズミさんが必要なんですが、彼は力を貸す気がない。だから、MISTを屈服させ、否が応でもイズミさんに力を貸していただきます」


 巫月は「やはり、そういうことか」と言うと、腰に手を当てて溜息をついた。


「分かりました。正直に話してくれたことには感謝します。ただ、僕もやられるわけにはいかないんで本気で戦いますが、本当にいいんですね? 僕とあなたたちとでは力の差がありすぎて、一瞬で終わりますよ」


 巫月がそう言って男を睨みつけると、男は一瞬たじろぐ。


「そ……そんな脅しをしても無駄です。いくらMISTの隊員でも、これだけの人数に勝てっこないっ」


 気後れしながらも、男はそのまま「みんなっ、いけーっ!」と号令をかけた。


「……忠告はしましたからね」


 巫月がそう呟いた後、「爺、お願い」と与一に声をかける。

 与一は頷いて、唱えていた咒文を結んだ。


『走れ言霊、風刃舞踏』


 その瞬間、圧縮された空気が風の刃となり、与一の体から四方に飛び出す。


――シュオンッ、シュオンッ、シュオンッ、シュオンッ――


 風の刃は、そのまま敵集団のあいだを縫うように飛び回った。その様は、まさに日本の伝承にある妖怪かまいたちである。


「ぐあぁーー!」


「ぎゃあぁっ」


 悲鳴とともに、敵の魂帯が次々に切断されていく。それに伴い、ばたばたと敵が倒れていった。


――シュオォォンッッ!――


 あっという間に、最後の敵の魂帯も切り裂く。


「ぐがあぁっ……。そ、そんな……」


 最後に魂帯を切られたのは、先ほど巫月と話した男だった。


「だから、言ったのに。バカですね」


 巫月がそう言い捨てるのと同時に、男が倒れる。

 結果的に、襲ってきた敵全員が巫月の周りで倒れ伏した。


「上手く全部命中したね、爺」


『ええ、これで実践に使えることが証明されましたな』


 巫月が振り向いて話しかけると、与一が微笑んで答える。

 二人の周りに、一段落の空気が流れた。


「さすがだな! 巫月!!」


 そこに、突然どこかから男の声が聞こえてくる。


「!!」


 巫月が声のした方向を見ると、若い男が学校の屋上からこちらを見据えていた。


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