68. 事件
親善試合からちょうど二週間が過ぎたこの日、ある事件でMISTが揺れていた。
前日、七人もの隊外構成員が、何者かのグループによって守護霊を除霊されてしまったのである。
「隊外構成員たちは、それぞれ違う場所で、違う時間帯に、複数の霊能者に襲撃されている。いわゆる集団リンチの状態だが、共通しているのは、襲撃者が皆白いスーツを着ていたということだ。それについてどう思う、イズミ?」
帝霧館の部長室で、椿木がイズミに意見を求めた。
「服装からすると、やはり創世会の者でしょうね。ただ、俺が会った白玖の印象からすると、彼がそんな闇討ちのようなことを指示するとは思えない」
イズミが首を横に振りながら答える。
「そうだな。私もお前の話を聞いていたから、最初は耳を疑った。何より創世会は、ここまで違法召喚以外の犯罪行為をほとんど行ってこなかったからな。そんな彼らが、突然このような暴挙に出た理由が分からない」
「……白玖の中で何かが変わったか、それとも創世会に何かが起きているか、どちらかですね」
イズミは、少し考えた後、椿木を見つめて言った。
「ああ。いずれにしても、こうなるとMISTとしても黙ってはいられない」
「……そう、ですね」
白玖のことを考え、イズミが歯切れ悪く答える。
「ただ、相手は数万人の霊能者を従える巨大な団体だ。一人一人の力は弱いが、数で攻められるとこちらが圧倒的に不利となる。作戦をよく練らなければならないな」
そう言うと、椿木は椅子の背もたれに深く寄り掛かり、腕を組んだ。
(いったい何があったんだ、白玖? これは大規模な戦いの引き金になるぞ……)
イズミが険しい表情を見せる。
――その頃、創世会本部。
創世会本部の広大な敷地には、二つの巨大な建造物が建っている。一つは大屋根を有する本堂で、もう一つは礼堂と呼ばれるものである。礼堂はアリーナ型の施設であり、信者の集会時には、ここに一万人もの信者が集まる。
白玖は、このうちの本堂において、高齢の女性と話をしていた。
「これで、だいぶ楽に歩けるようになると思いますよ。召喚したのは単なる農民の霊体ですが、彼の力を借りれば、通常の生活も可能なはずです」
創世会には、アニマのようにイタコがおらず、白玖が全ての召喚を行っている。この日も、足が不自由な女性のために霊体を召喚し、彼女の守護霊とした。
「ありがとうございます、教祖。もう諦めていたのですが、ここに助けを求めて本当によかったです。このお礼は、いつか必ずお布施としてお渡しいたします」
女性が頭を下げながら、白玖の手を両手で握る。
「お礼のことなんて考えなくていいですよ。それよりも元気でいてください」
白玖は、そんな女性を優しく見つめて言った。
それを聞いた女性は、拝むように何度も白玖に頭を下げる。
その後、しっかり歩けることに感動しながら、女性は本堂を出ていった。
「白玖様、宜しいですか? 大事なお話が……」
女性が出ていくとすぐ、最高幹部の羽生田が白玖に声をかける。
白玖は、何の話かすぐに察し、厳しい表情で頷いた。
「昨日のMIST構成員への襲撃ですが、やはり他の幹部の者たちが先導していたようです」
近くに誰もいないことを確認すると、羽生田がすぐに話しだす。
「やはり、そうですか。どうしてそんなバカなことを……」
「実は、MISTに王の器がいると分かった時から、彼らは声を上げていたんです。強制的にでも、MISTを潰してでも、器をこちらに取り込むべきだと……。しかし、私は白玖様が暴力的解決を望んでおられないのを知っていましたから、彼らを説得して抑えてきました」
白玖は、あまり驚いた表情は見せず、「何となく気づいてはいましたが、やはりそうだったんですね?」と確認した。
「ええ。彼らも最初は、白玖様がそう言うならと納得してくれていたんですが、あのイズミさんとの交渉が決裂してから、また声を上げだして……」
「それで、とうとう昨日の愚行に及んでしまったと、そういうことですか?」
白玖の眉間に皺が寄る。
羽生田は「はい」と言うと、面目なさそうに顔を下げた。
「彼らは自分たちが何をしたか分かっていない。これじゃあ、創世会対イズミさんではなく、創世会対MISTになってしまう」
「ええ、これで、遅からずMIST本部も動いてくるだろうと思われます」
白玖が顔を下げ、片手で顔を押さえる。
「それで、幹部たちは今どこに?」
白玖は、顔を押さえながら怒り口調で訊いた。
「こちらには戻ってきておりません。MISTが屈服し、イズミさんが手を貸す意思を示すまで、東京で攻撃を続けるつもりです」
「なんだってっ!?」
白玖が驚いて顔を上げる。そして「それは、すぐに止めなければっ」と焦った様子で言った。
「お待ちください、白玖様っ」
羽生田は、動きだそうとする白玖を止めて、説得するように話し始める。
「幹部たちに賛同する者は日に日に増えていっております。その者たちを説得するには、それなりの理由がなければ、もはやできません。人の“亡き者に会いたい”という気持ちはやはり強く、皆もう待てなくなってきているのです。あの世にいる者が生まれ変わってしまったら、もう会えないのですから」
「しかし、急がないとこちらの信者にも被害が出てしまいますよ! 隊員レベルになると、MISTの霊能者たちはかなり強いんだ。せっかく守護霊の力で普通の生活を送れている人たちも、そうなったらみんな除霊されてしまうっ」
羽生田は、「だからこそ、急いで策を練りましょう。あなたと私でっ」っと口調を強くして言った。
(くっ、あの時私がイズミさんを説得できていればっ……)
イズミと同じように、白玖も険しい表情を見せる。




