外伝 - RAIN CLOUD 後編 (上)
犯人の居場所を突き止めた宗志郎と凛は、その夜、犯人の家に向かった。
外から家の壁に張り付き、窓から中を覗き込むと、茶髪の中年男が携帯電話で話をしている。
二人は互いに目を合わせてから、聞き耳を立てた。
「はいっ、そうっす。不審死に見えるような事件を、前もって何件か起こしておきました。一人だけ霊能者らしきガキが気づいたようですが、まあ、問題ありません。見つけて始末するように、悪霊どもに言っておきました」
図らずも、男が得意げに事件について話す。
話の内容から、二人はすぐにこの男が犯人だと分かった。
聞かれているとは露知らず、男が大っぴらに話し続ける。
「この流れで、反対派の連中も不審死に見せかけて殺っちまいます。そしたら、疑われることなくリゾート開発に着手できますよ、小鴉さん」
男は、ついには計画の全容まで口にしてしまった。
(……そういうことか)
これを聞いて、凛が全てを理解する。
一方で宗志郎は、犯人を実際に見たことで、恐怖心が出てきてしまっていた。
「凛ちゃん、相手は大人の霊能者だよ。危険な人みたいだし、本当に僕らだけで大丈夫なのかな?」
不安になり、小声で凛に話しかける。
凛は「アタシがいるんだから大丈夫に決まってるでしょっ、黙ってっ」と小声で宗志郎を叱りつけた。
「で、でも~っ」
宗志郎が、ビビりながら男の悪相に再度目をやる。
「それより、これが上手くいったら、本当に俺をアニマの幹部にしてくれるんすよね? 頼んますよ。結構な利益が出る仕事なんすからっ。はい、あざっす。では」
電話を切ると、男はソファに腰掛けてテレビをつけた。
(ふう~~~~っ)
盗み聞きを終えた宗志郎と凛が、座り込んで壁にもたれかかる。二人は、再度小声で話しだした。
「分っかりやすい会話だったわね~。要は、リゾート建設の反対派を殺すために一連の事件を起こしてたってわけね。そんなことで罪もない人たちに危害を加えるなんて、絶対に許せない。相手がアニマだろうが何だろうが、必ず阻止してやるんだから」
「あの、アニマって?」
「ああ、守護霊持ちで構成された悪名高い裏組織よ。霊能者の世界ではかなり名が知れていて、誘拐から殺しまで何でもやるって聞いてる。あの男は、今回のことを成功させたら、そこの幹部にしてもらえるんでしょうね」
「いっ! めちゃくちゃ危ない連中じゃないかっ」
「大丈夫。ここには一人で来てるみたいだし、何とかなるわ。アタシは誰にも負けたことないんだから。さあ、忍び込んで一気に片をつけるわよっ」
「う、うん」
会話が終わると、凛を先頭にして、屈んだまま家のドアに向かう。ドアのカギが開いたままであることは確認済みだったので、そこから忍び込む寸法である。
――カチャ……――
ドアの前まで来ると、凛がゆっくりドアノブを回した。
(ん?)
その時、宗志郎が背後に冷たい気配を感じる。
『誰だあぁぁぁぁ』
振り返ると、目の前に老婆の悪霊の顔があった。
「うわあぁぁぁぁっ!」
驚いた宗志郎が叫び声を上げる。
「なっ、バカ!!」
凛の言葉と同時に、家の中から「誰だっ」と声が聞こえた。
「逃げて、宗志郎っ」
危険を感じた凛が、すぐに宗志郎に指示を出す。
「いや、だって……」
「いいから早く!!」
「わ、分かったっ」
後ろ髪を引かれながらも、宗志郎は林の中に逃げ込み、急いで木の陰に隠れた。
すぐに、家から男が飛び出してくる。
『くっ、走れ言霊、火球射弾!』
男が出てきたのと同時に、アメリアが出現して咒文を放った。
小さい火の玉が勢いよく男に向かう。
「何だ!? 守れ、道鏡!!」
危険を感じた男が守護霊を呼ぶと、袈裟を着た僧の守護霊が現れる。
――バシィーンッ――
道鏡と呼ばれた守護霊は、握っていた二尺棒で、アメリアが放った火の玉を弾いた。
「いきなり何かと思ったが、子供かよ」
『甘く見るなよ、血原。子供とはいえ霊能者だ。しかも守護霊は英霊。油断してると痛い目を見るぞ』
凛を軽んじる血原という男に対し、道鏡が苦言を呈する。
「ああっ? こんなガキが英霊を守護霊にしてるのかよっ」
『ああ。だが、子供の魂力ではいくら英霊でも力が出しきれないはず。油断さえしなければ問題ない』
「へへっ、そういうことか。おい小娘、何の目的かちゃーんと話せば、魂帯を切るだけで許してやる。もし意地を張ったりすれば、殺しちゃうかもしんねえぞ」
血原は、嫌な目つきで凛を見た。
――キッ――
凛が、鋭い目つきで血原を睨む。その背後では、すでにアメリアが次の咒文を唱え始めていた。
「バカにしないでよねっ!! やっちゃえアメリアっ」
凛の言葉と同時にアメリアが咒文を結ぶ。
『走れ言霊、火輪拘束っ』
――ボボボボボボォーッ――
すると、悪霊を捕らえた時と同様、道鏡の首、腹、足の周囲に三つの火の輪が出現した。
「これで、あんたも宿主も動けないわよ」
凛が口角を上げて言う。
『……ほう』
しかし、道鏡は全く意に介していない様子であった。
『子供の割には大したものだ。しかし、所詮は子供の魂力で放てる程度の咒文。こんなもの屁でもないわっ』
――バシィッ、バシィッン!――
言葉どおり、道鏡が両腕を広げるだけで体周りの火の輪が弾け飛び、足を一歩踏み出すだけで足周りの火の輪が弾け飛ぶ。
『本当の咒文というものを教えてやるわ、小娘』
――バシィッン!――
道鏡は、最後に首周りの火の輪を手で引きちぎると、そのまま咒文の詠唱を早口で始めた。
「そんなっ、あれを簡単に取っちゃうなんてっ」
凛の動きが、驚きのあまり止まってしまう。
そこで道鏡が咒文を結んだ。
『走れ言霊、悪霊懐柔』
――ブオォォォォン、ブオォォォォン、ブオォォォォンッ――
その瞬間、家の周囲の林から三体の悪霊が現れ出てくる。
『おぉぉぉぉぉ』
『ああぁぁぁぁ』
先ほどの老婆の悪霊を含め、悪霊が四体となった。
――ダッ、ダダッ、ダッ――
全ての悪霊が一斉にアメリアに向かっていく。
『はあっ!』
アメリアは、一体の悪霊を殴り飛ばした。しかし、その隙に他の三体の霊体に体を押さえられてしまう。
『くっ』
その後、起き上がった悪霊を含め、四体の悪霊に両腕両足を押さえられることとなった。
「アメリア!」
凛が声を上げるが、アメリアの動きが抑えられたことで、宿主の凛自身もほとんど動けなくなっている。
そこに、ニタニタしながら血原が近寄ってきた。
「これで分かったかい、生意気なお嬢ちゃん。大人の言うことはちゃんと聞くべきなんだよっ!」
――バシィィィィン!――
磔のような状態となった凛の顔に、血原の平手打ちが飛ぶ。
「がっ」
容赦ない平手打ちにより、凛の口元が切れ、血が滲んだ。




