外伝 - RAIN CLOUD 中編 (上)
「あっ、あなたが助けてくれたんですかっ? ありが……!!」
話している途中で、宗志郎が相手が人間じゃないことに気づく。
(こっ、この人も少し透けてる。人間じゃないっ。しかもピストルを持ってるじゃないか!!)
そう気づいた途端、宗志郎はまた「うわーーーーっ」と叫びだした。
『はははっ。本当にうるさいのう。儂は何の危害も加えんから安心しろって、少年』
霊体はピストルをしまうと、足を広げてしゃがみ、宗志郎の顔を覗き込んだ。
「わーーー……あ…………ぁ」
宗志郎の叫び声が段々と小さくなっていく。
(……確かに、なんかこの霊、さっきの霊とは違う感じが……。黒い空気も出てないし、なにより……笑ってる!? この人みたいに青白く光る霊は見たことあるけど、こんなにニコニコしてる霊は今までいなかった)
宗志郎は段々と冷静さを取り戻し、落ち着くと質問をした。
「あっ、あの、あなたは何なんですか!? 幽霊ですよね!?」
『儂か? 儂は龍馬。幽霊とはちっと違うかもしれんなあ。霊体と言ったほうが正しいと思うぞ』
「霊体……」
『まぁ、同じようなもんだから、細かいことは気にするな。ははははっ』
宗志郎は、今まで出会ったどの霊とも違う龍馬に対し、少し戸惑った。しかし、不思議と怖いという感覚はなく、むしろ一緒にいて心地よささえ感じた。
「そ、それで、どうして僕のことを助けてくれたんですか?」
『いやあ、どうしてと言われても、海を眺めてたら、なっさけない泣き声が聞こえたもんだからなあ。可哀そうになって、つい』
「ついって……」
『故郷の海ほどじゃないが、この辺の海は綺麗だのう。だが、どうやら戦で死んだ武士が多いようで、幽霊もたくさんいるようだ。この辺で霊が見える素質を持ってるとつらいだろう?』
同情するような龍馬に対し、宗志郎は「……はい」と俯いて呟いた。
『何があったのか話してみろ。死にたいなんて、よほどのことがあったんだろう、少年』
宗志郎は「霊についての悩みを霊に相談するなんて……」と思いつつ、なぜか龍馬の雰囲気に呑まれ、これまでのことを話した。
『……なるほどのう。そりゃ難儀なことだ。しっかし、幽霊ならまだしも、悪霊がそんなにいるとはなあ』
龍馬が両手をそれぞれの袖に入れて考え込む。
それから龍馬は、軽い口調で言葉を発した。
『儂が助けてやろうか?』
「え!?」
――ザパアァァンッッ――
この時、ちょうど堤防に高波が当たった。
この言葉を機に、宗志郎と龍馬は降霊の契りを結び、龍馬が宗志郎の守護霊となる。「守護霊がいれば、そんじょそこらの霊に負けることはないぞ」という言葉が決めてとなったのだが、後に宗志郎はこれを少し後悔した。
「ちょっと龍馬さんっ、助けてくれるんじゃなかったんですかーっ!?」
『いやあ、お前が霊に向かっていく心意気を見せんと、儂も助けようがないからのう』
老婆の悪霊から逃げながら、宗志郎が龍馬に助けを求めるが、龍馬は一向に助ける気配を見せない。
『とにかく、ほれ、向かっていけ。戦うんだ、少年っ。まずは逃げないことを学べ!』
「そんなこと言われても~~~~っ」
ただただ悪霊や幽霊と相対する、こんな訓練が繰り返し行われた。
そして、それが数週間も続いた頃、宗志郎は彼女に出会う。
『走れ言霊、火球射弾』
――ドーーーーンッ――
人気のない公園で、宗志郎がいつものごとく悪霊から逃げ回っていると、どこからか野球ボールほどの火の玉が飛んできて、悪霊を見事に撃ち抜いた。
「ひぃっ」
『んんっ?』
驚く宗志郎と龍馬の目の前で、悪霊が黒い煙となって消え去る。
二人が火の玉が飛んできた方向に目をやると、そこには守護霊を従えた少女が立っていた。少女は生意気そうな顔でこちらを見ている。
「あなた、守護霊持ちの霊能者のくせに、その程度の悪霊とも戦えないのっ? なっさけない」
少女は顎を突き出して、上から目線で宗志郎に言った。
「あの、中学生……いや、小学生かな。えっと、君は? もしかして君も霊が見えるの?」
「私は出雲凛。まだ小学生だけど、あなたと違って優秀な霊能者よっ」
「……霊能者」
胸を張って霊能者を名乗る女の子の登場に、宗志郎は戸惑いを隠せない。
凛は、たじたじな宗志郎から視線を移し、今度は龍馬に対して説教を始めた。
「あなたもあなたよっ、おっさん守護霊っ。守護霊ならしっかり宿主を守りなさいよっ」
『おっさんって、儂はそこまで歳じゃないんだがのう。それになお嬢ちゃん、儂には儂の考えがあってだなあ……』
龍馬の話を聞いているのかいないのか、凛が話の途中でまた喋りだす。
「ほんとアタシの守護霊とは大違いねっ。少し見習うといいわっ。アタシの守護霊はすごいんだから。ねえ、アメリア」
そう言うと、凛は背後の守護霊に笑いかけた。
『凛、あまり初対面の人に失礼なことを言ってはいけませんよ。ほら、困ってらっしゃるじゃないですか』
「……だって、なんかムカついたんだもん」
アメリアが宥めると、凛がふくれっ面をして顔を横に向ける。
『ウチの凛が突然申し訳ありません。私はアメリアと申します』
そう言うと、アメリアは深々と頭を下げた。
『ほえ~、異国の守護霊さんかい~』
「ちょっと龍馬さんっ、ちゃんとしてっ。あっ、あのお気遣いなく。僕は、自分以外で霊が見える人と会ったのは初めてだったので驚きましたが、大丈夫です。むしろ嬉しいくらいです」
『そうですか。それはよかった』
「あの、あなた達は、この辺の人じゃないですよね? 初めてお会いしたので……」
宗志郎が龍馬を窘めながらアメリアに訊くと、アメリアが答える前にまた凛が話し始める。
「ここの市長がアタシのパパの古い知り合いで、最近変な事件が多いからって調査の依頼をパパに出したのよ。ウチは代々除霊を生業としている霊能者一族だからね。それでアタシもついてきたんだけど、何ここ? 海しかないじゃないっ」
『確かに、もともと幽霊が多い地域ではあるが、悪霊がこれだけ頻発するのは普通じゃないからのう』
凛の話を聞いて、龍馬は両手をそれぞれの裾に入れた。
「でも龍馬さん、優秀な霊能者が来てくれたのなら、よかったじゃないですか。僕も安心して出かけられるようになるから嬉しいな』
宗志郎が頭を掻きながら言うと、凛がまた怒り始める。
「何言ってんの!? そもそもあなたたちがいるなら、これはあなたたちが解決する問題じゃない!」
「あっ、いや、僕はただ生まれつき霊が見えるというだけで、そういうことは一切してなくて。龍馬さんに守護霊になってもらったのも、最近というか成り行きというか……」
「あんたバカなの!? 力がある人間は、他の人を守るために力を使わないといけないのよっ。そんなことも分かんないの!?」
「あっ……」
凛の言葉で、宗志郎の中に哲太の言葉がフラッシュバックした。
「幽霊が見えるってことは、そいつらとも戦えるってことだろっ。悪い幽霊がいたら、みんなをそいつから守れるじゃん!!」
この哲太の言葉を思い出し、宗志郎が思いつめたように黙り込む。
そんな宗志郎を見て、凛は大きくため息をついた。
「はあっ、まあいいわ。どっちにしても、この事件はアタシが解決してやろうと思ってたし」
「えっ、お父さんが解決するんじゃないのっ?」
黙っていた宗志郎が、凛の言葉に反応し質問する。
「やることがなくて暇だから、アタシが解決してパパに褒めてもらうのよっ。そう決めたの。あなたに手伝ってもらうことも今決めたから、覚悟して!」
そう言うと、凛は右手をピストルの形にし、宗志郎に向けた。
「ええ!?」
宗志郎が大口を開けて驚く。




