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外伝 - RAIN CLOUD 前編 (下)

――キイィィィィ! ドガンッッッッ!!――


 車の急ブレーキの音と鈍い衝突音が街道に響き渡る。


「哲っちゃんっ!!」


 目の前の光景に、宗志郎の頭が真っ白になった。

 少しの静寂の後、辺りが騒がしくなる。


(血……血が出てる……)


 血を流して倒れ込む哲太を見ると、急激に宗志郎の思考が動き始めた。


(どうしよう、どうしよう。こういうときは、どうすればいいんだ。そうだっ、救急車だ。救急車を呼ばないとっ。携帯。携帯を出して……)


 哲太を見つめながら、手探りでカバンの中から携帯電話を探す。


(あったっ。これで電話を……)


――ブオォォォォンッ――


 宗志郎がちょうど携帯電話を握りしめた時、哲太の体から、先ほどの霊がどす黒い空気を放ちながら出てきた。


「黒い幽霊……あれは危ないほうの奴だ……」


 今までの経験から、青白い幽霊は何もしてこない静かな霊であり、黒い幽霊は攻撃をしてくる危険な霊であると宗志郎は認識している。彼が思う黒い幽霊というのは、実際は幽霊でなく悪霊なのだが、この時の宗志郎にはそれを知る由もない。

 幽霊と悪霊を混同してしまっている宗志郎であったが、危険かそうでないかという判断は(おおむ)ね正しかった。


『次はあぁ……どいつにするかあぁ……』


「しゃ……喋ったっ!!」


 霊が言葉を発したことに驚きの声を上げると、落ち武者の霊が振り向き、宗志郎と目が合う。


『お前……見えるのかあぁ……見たのかあぁ』


「そ、そんな……」


 落ち武者の憎むような目つきは、宗志郎を怯ませ、後ずさりをさせた。


(怖い。怖い。でも、ここで逃げちゃダメだ。電話。早く救急車を呼ばないと。哲っちゃんがっ)


 宗志郎は、恐怖心を(こら)えて携帯電話を出したが、震えて電話のボタンが押せない。


『見たなら……お前もだぁ……』


「え!?」


 低く響いているくような霊の声に、宗志郎の体は硬直した。

 恐怖で、宗志郎の目から涙が浮かんでくる。


『お前もだあぁぁぁぁ!!!!』


 そう叫ぶと、落ち武者の霊は勢いよく宗志郎に向かってきた。


「うわあぁぁぁぁ!!!!」


 宗志郎が振り向いて、ついにその場から逃げ出してしまう。


「来ないでえっ!! わあぁぁぁぁ!!!!」


 その後は、泣きながらただただ走った。

 夕日に照らされた家々が次々と過ぎていく。

 宗志郎にそこからの記憶はなく、気がついたら家の布団にくるまっていた。


「ううっ、うぅっ」


 布団の中から、苦しむような泣き声が聞こえてくる。

 その中には、宗志郎の絶望と後悔が充満していた。


(……僕は逃げ出してしまったっ。死にそうな親友を置いて逃げ出してしまったっ)


 同じ言葉が頭の中をぐるぐる回る。

 結局その日は、親にも相談できず、苦しさのあまり眠ることができなかった。


「聞いた? 宗志郎の奴、昨日の哲太の事故の時、近くにいたんだって」


「あいつ、哲太のことほうって逃げ出したらしいぜ」


 次の日に学校に行くと、哲太の事故の話は学校中に広まっており、方々(ほうぼう)から宗志郎の陰口が聞こえてきた。

 幸い哲太は一命を取り留めたが、集中治療室にいる状態が続いている。

 宗志郎は、教師に事情を聴かれ、また学校まで来た警察にも事情を聴かれた。落ち武者の霊については話さなかったものの、それ以外を話し終わる頃には昼休みになっていた。


「今日はもう帰って休みなさい」


 担任の言葉で、宗志郎はふらふらと学校から出る。

 普段なら警戒しながら歩く宗志郎であったが、この日は注意散漫になっており、霊に意識が向いていなかった。その結果、またも霊に出くわしてしまう。


「ま、また!? うわあぁぁぁぁ!!」


 昨日とは違う霊であったが、同じような落ち武者の霊で、目が合った途端に宗志郎を追いかけてきた。


「はっ、はっ。どうして、はっ、はっ、二日も続けて!」


 走って逃げながら、宗志郎が涙ぐむ。


(何で……何で僕ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!!)


 声には出さなかったものの、宗志郎は心の中で叫んだ。


(もうやだ! こんな人生嫌だよ!!)


 気がつくと、宗志郎は、家とは別方向にある海沿いの道まで走ってきていた。堤防に両手をつき、肩を揺らしながら涙をこぼす。


「こんな苦しみがずっと続くなら、もう生きていたくない!! もう死んだっていいじゃないか!!」


 宗志郎は、この上ないほどの大声で叫んだ。

 その声が引き寄せたのか、背中に寒気を感じた宗志郎が振り返ると、先ほどの霊が目に入る。落ち武者の霊は、後ろからどんどん迫ってきていた。


「……もう……いい。もういいよ。取り憑きたいなら取り憑けよ」


 宗志郎が、逃げることもせず、諦めるように言う。


「殺したいなら殺せばいい。それで僕も楽になれるよ」


 目の前まで来た霊に言い捨てると、宗志郎は目を閉じた。

 落ち武者の霊が宗志郎に向かって右手を伸ばす。


(父さん、母さん、そして哲っちゃん、ごめんね)


 宗志郎は、最期の言葉として、謝罪を心の奥底で述べた。


――パアァァァァァンッッッッ!!――


 その時、波の音をかき消すかのように銃声が響き渡る。

 驚いた宗志郎が目を開くと、落ち武者の霊が胸を撃ち抜かれていた。

 落ち武者の霊は、すぐに花火のように弾け、黒い煙となって霧散していく。


「なっ、何っ? 何が起きたのっ?」


 宗志郎が戸惑っていると、背後から男の声が聞こえてきた。


『うるさいのう、せっかくいい気分で海を眺めてたのに。気分ぶち壊しだぞ、少年』


 宗志郎が振り返り、堤防の上に目をやる。するとそこには、羽織袴にブーツという和洋折衷の格好をした霊体が、ピストルを構えて立っていた。


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