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外伝 - RAIN CLOUD 前編 (上)

 (あま)(がさ)(そう)()(ろう)は、静岡にある海辺の街で育った。常に何かに怯えているような彼を見て、周りの者はいつも不思議に思っていたが、それには彼にしか分からない理由があった。彼には、他の者には見えないものが見えていたのである。

 そんなことから宗志郎は、今日も、おどおどと周囲を警戒しながら中学校から下校していた。


「よっ!」


「うわあっ!!」


 同級生の(てつ)()が背後から声をかけると、宗志郎は異様に驚いて声を上げる。


「なんだ~、哲っちゃんかあ」


「ははははっ。相変わらず怖がりだなー、宗志郎は。もう俺も部活ないし、久々に一緒に帰ろうぜ」


 宗志郎のことを気味悪がる同級生が多い中、哲太は違った。宗志郎と普通に接し、笑いながら宗志郎をからかった。

 中学校で初めて出会った二人だったが、不思議と馬が合い、共に時間を過ごすことが多かった。


「なあ、宗志郎。あと半年で中学校も卒業でさ、そしたら俺たち別々の高校になんじゃん? 俺は、とてもとても宗志郎と同じ高校なんて行けないしさ」


 帰り道、頭の後ろで手を組んだ哲太が話しだす。


「えっ、うん……」


「だからさあ、そろそろお前の悩みを打ち明けてくれよ。お前がいつも何かに怯えてるのは知ってるけど、最後まで言ってもらえないんじゃ、なんか親友として寂しいじゃん……」


 軽い言い方だったが、哲太は本当に寂しそうな表情で言った。

 この悩みについては、宗志郎がずっと話そうと思っていたことではある。しかし、なかなか踏ん切りがつかずにここまで来てしまっていた。


「……うん。僕も哲っちゃんにだけはずっと言おうと思ってたんだけど、なんか、おかしな奴だなって思われたくなくて……。小さい頃、周りの友達に言ったら、みんなに不気味がられたから」


「俺がそんなこと思うわけねーじゃん。ガキの頃の話でいったら、俺なんて平気で泥水飲んだりしてたんだぜ。みんなから汚ねーってよく逃げられたよ」


 哲太がドヤ顔で笑みを見せる。


「ははっ、哲っちゃんらしいね。でも、僕のはそういうのとちょっと違って……」


 宗志郎は、歩きながら俯いた。

 宗志郎の悩む表情を見て、哲太は「まぁ、無理して言わなくてもいいけどさ。んじゃ、ゲームの話でもするかっ」と話題を変えようとする。


「哲っちゃん……」


 宗志郎は、哲太のこういう優しさにいつも居心地の良さを感じていた。一緒にいた三年間で何度か同じことを聞かれたが、哲太は決して無理強いをすることはなかった。


「この前買ったロープレがさあ、めちゃくちゃ難しくて……」


「いや、話すよ。今日はちゃんと話す。僕もこのまま卒業するのは嫌だからっ」


 話題を変えようとした哲太の話を遮り、宗志郎が覚悟を決める。


「……宗志郎……本当にいいのか?」


「うんっ」


 確認をする哲太に対して、宗志郎は力強く頷いた。


「……そうか」


 哲太が安心したように笑みを見せる。

 宗志郎は、それから少し歩いたところで話し始めた。硬い表情で「僕ね、哲っちゃん」と切り出し、哲太の目を見つめる。

 哲太は、じっと宗志郎の次の言葉を待った。


「普通の人には見えないものが見えるんだ」


「……普通の人には見えないもの?」


 哲太が顔を突き出し訊く。


「うん。僕ね、幽霊が見えるんだよ。おかしいでしょっ? そんなもんいるわけないとか、非科学的だとか言う人がいるけど、僕には見えるんだっ」


 哲太は、宗志郎の話を聞くと、宗志郎を見つめながら黙り込んだ。


「信じられないかもしれないけど、本当に幽霊っているんだよっ。青白い奴とか、どす黒い奴とかっ」


 哲太の反応がないまま、宗志郎が矢継ぎ早に話を続ける。話したかった気持ちが溢れ出ているようであった。


「中には怖い奴もいて、追いかけられたこともあるんだっ」


 黙り込む哲太に対し、信じてほしい宗志郎は口調を強めて言う。


「本当なんだよっ。信じられないかもしれないけど、本当なんだっ」


 気がついたら、哲太の腕を強く握っていた。


「……あっ……ごめんっ!」


 すぐさま哲太の腕から手を離す。これをきっかけに、宗志郎は少し落ち着いた。しかし同時に、他の人と同じように信じてもらえないのではないか、またおかしいと思われるのではないか、そんな気持ちが出始めてしまう。


「やっぱり……信じられないかな?」


 宗志郎の声が、打って変わって小さくなった。


「そりゃ……そうだよね。ははっ」


 苦笑いした宗志郎の顔が、自然と俯いていく。

 その時だった。哲太が目を見開いて大声で言った。


「カッコいいな!!」


 予想外の反応に、諦め半分になっていた宗志郎が「えっ!」と驚く。


「幽霊が見えるってことは、そいつらとも戦えるってことだろっ。悪い幽霊がいたら、みんなをそいつから守れるじゃん!! すげーよっ。言われてみれば、お前、なんかヒーロー顔だし、正義の味方みたいになれるかもしんないぞ!!」


「……いや、えっと、それって信じてくれるってこと?」


「当たり前だろっ。めちゃくちゃカッコいいよ、宗志郎!」


「……哲っちゃん」


 宗志郎は、今まで誰も信じてくれなかったことを、哲太が何の疑いもなく信じてくれたことがこの上なく嬉しかった。


「でっ、いつから見えるようになったんだっ? 今までどんな幽霊見たっ?」


「へへっ、えっとね……」


 夕暮れの街道で、歩いている宗志郎の目に嬉し涙が浮かぶ。

 交差点の赤信号で止まると、宗志郎は涙を拭き、隣にいる哲太にお礼を言おうとした。


「哲っちゃん、ありが……!!」


――ブオォォンッ――


 その時、背後から哲太の体に入り込もうとする落ち武者の霊が、宗志郎の目に飛び込んでくる。


「!!!!」


 落ち武者の霊は、驚いて声が出なくなった宗志郎と目が合うが、そのまま哲太の体に入っていった。


「哲っちゃ……」


 宗志郎が声をかけようとすると、哲太が赤信号を無視し、車が行きかう街道に歩きだす。


「ダメだっ!! 哲っちゃん!!」


 宗志郎は、すぐに手を伸ばしたが、すんでのところで届かなかった。


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