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65. 魔女

「うおおおおっ!」


――ガガガガガガガガッ――


 軽装になり、更に果敢に攻める凛であったが、ことごとく椿木にガードされた。

 椿木は涼しい顔をしているが、凛の顔には汗が滲み始める。


「はあっ、はあっ」


――タラリッ――


 その汗が滴り落ちる頃、凛がしばし立ち止まって汗を拭っていると、椿木が話しかけてきた。


「肉弾戦もいいが、このままでは勝てないだろう? そろそろ得意の咒文攻撃を始めたらどうだ?」


 椿木が、手のひらを上に向けたまま右手を差し出し、四本の指をクイクイっと動かす。


「……挑発してるんですか、椿木さん?」


 凛は、椿木の意図を読んで、ニヤリと笑った。


「そうさ、そろそろ“RAINの魔女”たるところを見せてほしいからな」


 椿木も不敵な笑みを見せる。

 すると凛は、深く一呼吸してから、大きく跳び退った。


「……いいですよ。こうなったら、ありったけを椿木さんにぶつけさせてもらいますっ」


――バッ! バッ!――


 言い終わるのと同時に、凛とアメリアが左右の腕を外側に向けて伸ばす。アメリアのほうは、同時に咒文を唱え始めた。


「本当は桜を倒すための技だったけど、しょうがないっ!」


 凛が、少し悔しそうな顔をして叫ぶ。

 この言葉は、遠くから試合を眺めている桜にも届いた。

 桜が、木に寄り掛かりながら「あんにゃろ~」と笑みを見せる。


「やって、アメリア!」


 桜が見据える中、凛が指示を出すと、アメリアが咒文を結んだ。


『走れ言霊、二元同発!!』


――ボボボボボボボボボボォッ! ピキピキピキピキピキッ!――


 咒文によって、アメリアの右手の先に火の球の大群が出現し、左手の先に氷の球の大群が出現する。球単体は大きいものではないが、いずれも百を超える大群である。


『ほー、二元素の同時発現かー。しかも火と氷とは。あの二つは相性が悪いから、同時に出すのは結構難しいはずなんだけどなあ』


 観戦している義経が、感心した様子で凛を眺めた。


「これだけあると、さすがの椿木さんでも避けきれませんよね?」


 そう言った凛が、オーケストラの指揮者のように右手を動かすと、アメリアも同様の動きを見せる。

 すると、浮遊している火の球の大群が、手の動きと連動しているかのように宙を舞った。

 これを見た義経が、すぐにこの能力の分析を始める。


(発現させたものを操作する特殊能力か……。与一も風で矢を操作することがあるが、あれとはちと違うな。対象を直接操作している。なるほど、あの能力で先ほどのプロペラ機を動かしていたわけか……。それにしても、あれだけの量を一気に操作できるとは、大したものだ)


 相手能力の分析、これはもう義経の癖のようになっており、自分が戦っていないときでも止まらない。


(難点といえば、魂力の消耗が大きいのと、一つ一つの球を別々に動かすことができないというところか……)


 そんな義経の目の前で、次に左手を凛とアメリアが動かし始める。すると、今度は氷の球の大群が同じような動きを見せた。


――ブオォォォォ~~ン、ブオォォォォ~~ン――


 最後に両手を同時に動かすと、火の球の大群と氷の球の大群が、それぞれ踊るように宙を舞う。


「いっきますよ~~~~、はあぁっ!!」


 掛け声を上げると、凛はアメリアと二位一体の動きをしながら、椿木に向かって右手を振った。


――ドドドドドドドドドドッ!!――


 手の動きに連動して、火の球の大群が勢いよく飛んでいく。


「来たかっ」


 放たれた火の球は、椿木の左方から激流のように押し寄せてきた。

 椿木が右方に跳躍して避けると、勢い余った火の球が地面に衝突して砕けていく。


「そっちばかり気にしてていいんですか、椿木さんっ?」


 凛は、今度は左手を振った。それに連動した氷の球の大群が、椿木の右方から襲いかかる。


「くっ」


 椿木はこれも避けようと、再度左方に跳躍した。すると、またも左方から火の球の大群が襲ってくる。砕けた分の火の球は、しっかり再生されていた。


「何!?」


――ドドドドドドドドドドッ!!――


 両群に挟まれるかたちとなった椿木は、後方に大きく跳躍し、これを何とか躱す。

 着地して凛のほうに目を向けると、凛とアメリアがまたも両腕を左右に伸ばしていた。

 その手の先では、火の球や氷の球が次々と再生されている。


「アタシの魂力が続く限り、火の球も氷の球も復活し続けますからねえっ!」


 凛は、どや顔で椿木に向かって叫んだ。


「……ふっ、すごいなっ。その小さな体のどこにここまでの魂力があるんだっ?」


 椿木の顔にも、やっと汗が滲んでくる。

 そこから椿木は、フィールドを縦横無尽に駆け回り、左右から襲い来る火と氷の球の大群を避け続けた。


「あれは、いくら椿木さんでも躱し続けるのは至難の業じゃないか?」


 試合を眺めながらイズミが言うと、義経は「そうでもないさ」と言って説明を始める。


『一見多くの球に攻撃されているようだが、実際は火の球は火の球でまとまって動き、氷の球は氷の球でまとまって動いている。つまり、二つの線に攻撃をされていると考えればいい。二つの軌道を読みながら戦えば、さほど難しくないよ』


「……なるほど。そう考えると、椿木さんなら最後まで躱し続けられるか」


 そう言ってイズミが義経のほうを見ると、義経は両眉を上げて一言だけ返した。


『ああ。いきなり三本目の線が出てこない限りはね』


 この義経の顔は、「確実に三本目がある」と言っている。はっとしたイズミは、すぐに戦いに目を向けた。

 ちょうどその時、凛が右足を勢いよく蹴り出す。


――ブオンッ!!――


 それによって、三本目の線が形成され、その軌道に乗って火の球と氷の球が複数飛んでいった。


『なんとっ!』


 椿木の背後にいる空海が驚く。


――ドドドドドドォンッ!!――


 三本目の線として撃ちだされた火の球と氷の球は、全て椿木と空海に命中した。

 足が止まった椿木たちに、左右方向からの火の球と氷の球も襲いかかる。


――ドドドドドドドドドドドドドドォンッ!!!!――


 結果、三本の線全ての火の球と氷の球が命中した。


「はあっ、はあっ、はあっ、よしっ!!」


 凛が息を切らせながら、ガッツポーズを取る。

 あたりには、火の玉の衝突による煙と、氷の球の衝突による水蒸気とが霧のように漂い、視界が悪くなっている。


「ア……アタシ、勝っちゃったんじゃない? MISTの本部長に勝っちゃったんじゃ……」


――パチパチパチ――


 凛が嬉しそうに喋っていると、霧の中から拍手が聞こえた。


「良い攻撃だったぞ、凛。一瞬肝を冷やした」


 霧が晴れると、ピラミッド型の結界の中で拍手をする椿木が見える。

 椿木は、手を叩きながら、余裕の笑みを浮かべていた。


「……ですよね~。あの程度でやられるわけないですよね~」


 凛は、やっぱりかという表情を見せる。


(っていうか、何であんな強力な結界をあの一瞬で出せるの? ありえないんですけど……)


 空海が結界を解くと、椿木は凛のもとに歩み寄った。


「前に見た時より、ずっと成長しているじゃないか。大したものだ」


 椿木に褒められると、凛は「ほとんどの攻撃を防がれちゃってますけどね、ははっ……」と苦笑いをする。


「しかし、あれほどの大技を出したら、もう魂力があまり残ってないだろう? 今日はこれぐらいにしようか。無理はしないほうがいい」


 椿木は、凛の体を気遣って、試合の終了を提案した。

 しかし、凛は首を横に振る。「まだいけます」と言うと、後方に跳ね、椿木と再度距離を取った。


「相変わらず、負けず嫌いだな」


 椿木が腰に手を当て、溜息交じりに笑みをこぼす。


「もう一度さっきのをやるわよ、アメリア」


 椿木と離れると、凛はすぐにアメリアに指示を出した。


『本気なの、凛? もう一度あれを使ったら、ほとんど魂力がなくなるわよ』


「それでもいいの。限界まで挑戦したいから」


 凛が、真剣な表情で椿木を見据える。

 アメリアは凛の判断を無謀だと思ったが、この表情を見て止めるのをやめた。


『オッケー。やってみましょう』


 アメリアが笑顔で答え、再度咒文を唱え始める。


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