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60. 牢獄

「凛、それ一応、内密にって言われてることなんだけど……」


 仁が困り顔で言うと、凛は「だって……」とふくれっ面をした。

 周囲の人間は、イズミと椿木を除き、皆驚いた顔をしている。


「マジかっ!! コウの奴も“王の器”だったのかよっ。そう言われると、あの異常な強さも頷けるなあ」


 隊員の中で、まず赤星が一番最初に口を開いた。


「言われてみれば、なんかコウさんって、確かにそれっぽいっ」


 次に巫月が口を開く。

 桜は、驚きの表情は見せたものの、腕を組んだまま口を閉ざしていた。

 蛍については、ただぽーっとした表情を見せている。


「……椿木さんは知っていたんですか?」


 最後に、椿木の冷静な様子を見て、京園寺が訊いた。


「ああ。だいぶ前からそうじゃないかと思っていたんだが、最近になってはっきりと弾田の口から聞いたよ。皆には機を見て話すつもりでいた」


 椿木が、おもむろに眼鏡を外す。


「しっかし、コウも水くせえなあ。言ってくれりゃーよかったのによお。隠す必要なんてねえじゃねえか」


 そう言って、赤星が両手を頭の後ろで組むと、凛が「違うと思いますっ」と強い口調で否定した。

 凛は、そのまま話しだす。


「今もそうだけど、コウさんは隠してるわけじゃなくて、自身に枷をかけてるんだと思います」


 赤星が「枷?」と訊くと、凛は頷いて話を続けた。


「コウさんの主たる守護霊は、強すぎるんですよ。アタシも一度しか見たことないけど、あれだと大抵の敵は相手にならないから、コウさんの糧にならないんですよね。だからいつも、あえて従たる守護霊だけで戦ってるんだと思います」


「……あの黒豹などか。確かに、コウという人間を知っている者にとっては、凛さんの話にはとても説得力がある」


 京園寺が腕を組んで頷く。

 凛は「凛って呼んでくれていいです」と言ってから、話を続けた。


「コウさん、最近は、まるで能力を試すかのように他の従霊を使うことも増えました。外国からやってくる強力な霊能者や他の王の器、きっとそういった霊能者たちとの戦いに備えてるんだと思います。でも、それでも主たる守護霊を使うことはまずありません」


「……コウのそういうストイックなところは、桜にも負けねえからなあ」


 納得した様子で赤星が呟く。


「……」


 桜は、自分が話題に出されても、腕を組んだまま黙って話を聞いていた。


「そういうコウさんを見てきたから、同じ王の器なのに、いつも主たる守護霊に頼って戦ってるイズミさんの話を聞いて、ちょっとムカついてたんですっ。イズミさんのことは、RAINでも話題になってますから」


 そう言うと、凛はまた不機嫌そうな表情を見せる。


「ごめんね~、イズミ。この娘、ほんとコウの大ファンで……」


 そんな凛を擁護するかのように、仁が申し訳なさそうな顔を見せた。


「いや、本当のことだから気にしなくていいさ。俺が義経に頼りっきりなことも、コウという霊能者よりずっと弱いことも、全て本当のことだ。俺も彼を見たとき、俺よりずっと高いところにいる霊能者だって、すぐに分かったよ」


 イズミは、凛を見つめ、優しく冷静に話す。

 凛は、少し気まずそうな顔を見せたが、コウへの憧れが強いためか、すぐにまた強気な発言をした。


「当然ですよっ。コウさんの主たる守護霊だって大英霊なんだからっ。本気を出したら、あなたなんか絶対に敵いませんよ!」


 それを聞いたMISTの隊員たちが、また驚きの表情を見せる。

 仁は「ちょっ!」っと言った後、焦った表情で叫んだ。


「だからあ、それも内密の話だって~っ!」


 隊員たちの表情が、驚きから苦笑いに変わる。

 本部長の椿木でさえ、これには苦笑いをせずにいられなかった。


「ふっ、とんだ紹介となってしまったな。まあ、コウの話はこれぐらいにしておこう」


「すいませんねえ、椿木さん」


 凛に代わって、仁が謝罪する。


「いや、こんな始まりがあってもいいだろう。とにかく皆、これから仲良くやってくれ。一緒に仕事をするんだから、ケンカはほどほどにな」


 そう言うと、椿木は両手を腰に置いた。

 こうして、RAINの二人の紹介は、凛の驚きの発言の連発で終わる。


『痛いところを突かれたな、イズミ』


 会議室を出る際、イズミの中の義経が揶揄い口調で言ったが、イズミは「そうだな。でも、へこたれていられないだろ?」と言って微笑んだ。

 これに対し、義経は「その意気だ」とイズミを軽く鼓舞したが、それだけでは終わらない。



――その夜、イズミの体内。

 義経は、イズミの中にある牢獄を一人で歩いていた。

 大きな通路を挟んだ左右の壁には、複数階の監房が並んでいる。上限が見えないほど壁が高いため、監房が何階層になっているかも分からない。そんな壁が、先が見えないほど遠くまで続いているのだ。

 牢獄自体は青白く輝いているので暗くないが、あまりにも遠方まで続いているため、先のほうは黒い空間にしか見えない。

 そんな中を、義経は考え事をしながら歩いている。


(悔しいが、あの凛という子が言ったことは正しい。今のイズミとあのコウという霊能者では魂力の差がありすぎる。それだけが強さを決めるわけではないが、もし今幻宝を巡って二人が戦えば、イズミは確実に負けるだろう)


 想像しただけで、義経の眉間に自然と皺が寄った。


(そうならないためには、更に魂力の総量を上げる必要があるが、さてどうしたものか。一番手っ取り早いのは、もっと積極的に霊体を取り込んでいくことだが……)


 義経が、両手を袖に入れて立ち止まる。


(今までは、取り込める最大数が未知ということで強い霊体に絞って取り込んでいたが、ここまで牢獄が広いなら、制限せずに取り込んでも問題ないかもしれないな……)


 義経は、静かな牢獄をゆっくり見回した。


(しかし、この牢獄はいったいどこまで続いているんだ? そもそも終わりがあるのか? それとも途中でループしているのか?)


 義経が「ふむっ」と呟き、その後、ニヤリと笑みを見せる。


『では、確かめてみるか』


 その瞬間、義経は両手を袖から出し、高速で走りだした。

 数百の牢獄を一瞬で通り過ぎていく。


――タタタタタタタタタタッ――


 それから義経は、休むことなく一時間ほど走り続けた。


(ふむ、ループしているような感覚はないな。それにしても、途方もなく長い。未だに終わりが全く見えないじゃないか)


 義経が一旦止まって、また歩きながら考える。


(さて、どうしたものか。引き返すか、それともまだ先に進むか)


 現世と霊界という二つの世界を知っている義経でも、この未知の空間では判断に時間を要した。


(危険性がないのだから、このまま進んでみても……!! 何だっ!?)


 何かを感じた義経が、突然足を止める。


『何だ、この鳥肌が立つような魂力は!?』


 義経は、前方を見ながら呟いた。


(さっきまで何も感じなかったのに、突然、バカでかい魂力を遥か前方から感じるようになった……)


 義経が、珍しく焦った表情を見せている。


(バカな……。この魂力は……神霊クラスの……その中でも上位クラスのものに匹敵するぞ……)


 凝視する先には闇しかないが、そこから目が離せない。


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!――


 義経は、通路の遥か遠くに何か蠢くものを感じた。


『この先に……いったい何がいるんだっ!?』


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