59. 紹介
「RAINから来た群青仁と出雲凛だ。仁のほうは、みんな知っているな。凛のほうは、MISTに来るのも初めてだし、知らない者のほうが多いだろう。短い期間だが、二人を宜しく頼む」
帝霧館の会議室において、椿木から隊員たちに紹介されたのは、今日から研修を行うRAINの二人だった。
仁は、先日イズミと共に戦った青年であり、元MISTの隊員である。
一方、凛という女性は、RAINに入ってまだ三年目であり、巫月と同年齢の若い霊能者である。実力者が行き来する本研修において、この年齢の者が参加するのは珍しい。去年参加した巫月と同様、組織に期待されている証だろう。
ちなみに凛は、MISTでの研修ということで、普段あまり着ない黒服をしょうがなく着ている。しかし、それが帝霧館であまり見られないフリルレースのワンピースであることから、少し悪目立ちしていた。小柄で、ブロンドの髪にカールをかけていることもあり、西洋人形のようにも見える派手な容姿である。
「宜しくでーすっ」
「宜しくお願いします」
皆が注目する中、笑顔の仁と違い、凛は不愛想に会釈する。
「おい、仁! 何でおめーが研修に来んだよ!? おめーはMISTのことよく知ってんだから、研修になんて来る必要ねーだろっ」
二人が紹介されると、赤星がすぐ仁の所に歩み寄った。
仁が白い歯を出して笑顔を見せる。
「おーっ、赤星かっ。いや~、久しぶりに東京の女の子たちと交流したくなってねえ。あっ、蛍もいるじゃないかっ。どうだい、久しぶりに食事でも行こっか?」
赤星と話している最中だったが、蛍が目に入ると、仁はすぐに食事に誘った。
蛍が「久しぶりだねー、仁くん。その無駄なお誘いも」っと笑みを見せる。
「お前っ、何にも変わってねえなあ。相変わらずの女好きで安心さえするわっ」
「赤星も全然変わってないようで、元相棒としては嬉しい限りだよ」
「いやいや、何が元相棒だっ。確かに雅さんと組めねえときは、いっつもお前と組まされてたけどよおっ。お前のせいで何度ひでえ目に遭ったかっ……」
赤星と仁が話をしていると、そこに巫月が入ってきた。
「仁さん、お久しぶりですっ」
「あーっ、巫月。久しぶりだねー」
「何だよ、巫月。仁のこと知ってるのか?」
赤星に訊かれ、巫月が「ええ、去年の研修でお世話になって」と笑顔で答える。
「そうなんだよ。楽しかったねえ。毎晩あのお店でお姉ちゃんたちに囲まれて……」
「いっ!! わーわーわーわーっ! なっ、何を言ってるんですか、仁さん!!」
巫月は、仁の言葉が皆に聞こえないように大声を出し、仁の口を手で塞いだ。
「へ~。お前、研修中にそんなとこ行ってたのかあ? このむっつりスケベが」
そう言って、赤星が巫月の顔を覗き込むと、巫月があたふたしだす。
「ちっ、違います。あれは仁さんが無理やり……」
「えっ、巫月、かなり楽しそうだったじゃないか」
「も~~~~、仁さんは黙って!!」
こうして仁が赤星や巫月と騒いでいる中、もう一人の研修者である凛は、ずっと黙って一方向を睨みつけていた。その先には桜がいる。
「ん?」
その視線に気づくと、桜はニヤニヤしながら凛のもとに寄ってきた。
「おや~~~~。その視線は何かなあ、凛。もしかして、去年のことまだ根に持っちゃってたりするう?」
桜に小憎らしい言い方で話しかけられると、凛はふくれっ面をして顔をそっぽに向けた。
そこに蛍がやってくる。
「桜ちゃん、凛ちゃんと知り合いなの?」
「いや~、去年研修に行った時さあ、“RAINの魔女”だとか言われて調子に乗ってる若い小娘がいたわけよお。で、あまりに高慢な態度を取ってるから、交流戦でとっちめてやったの。そしたら『初めて負けたあ』とか言って泣きだしちゃってさ~。それがこの凛なのよ」
「えっ……」
蛍は、まずいことを訊いてしまったと思い、後ずさりをした。
凛が、顔をキッと桜のほうに向け、大声で喋り始める。
「たまたま勝ったからって、いい気にならないでよねっ! 研修に来てたおばさんに、花を持たせてやっただけなんだからっ!!」
蛍は「おばさ……」と途中まで凛の言葉をリピートしたが、桜の形相が変わっていることに気づき、すぐに手で口を塞いだ。
「ほう~~~~、あれじゃあ教育的指導が足りなかったみたいねえ。あとでテニスコート来いや、凛」
「望むとこだよ、桜。若い女の成長速度を見せてやるっつーの」
「おいおい。“さん”をつけろよ、若輩者。てめえは外国人か? “さん”の使い方知らねえのか? 日本には目上の人に“さん”を付ける文化ってのがあんだよ」
桜と凛が睨み合いを始める。
そこに椿木が仲裁に入った。
「はいはい、その辺にしておけ。桜がおばさんなら私はミイラになってしまうだろう」
「いや、椿木さんは綺麗で憧れですけど……」
凛の歯切れが悪くなり、そのまま静かになる。椿木には、妙に従順に従った。
桜のほうは、「はい、は~い」と言うと、ケロッとした様子で自分の椅子に戻っていく。
「イズミ、お前は仁とはすでに会っているが、凛とはまだだろう。こっちに来て挨拶するといい」
桜と凛が落ち着くと、椿木はイズミに凛と接するよう促した。
イズミが席を立ち、仁と凛のもとに歩いてくる。
「おー、イズミー。この前はどうもねー」
「ああ、この前はありがとう。あらためて宜しく頼むよ、仁」
凛に先立ち、仁が挨拶をすると、イズミもそれに答えた。
仁がフレンドリーということもあって、すでに気楽に接することができるようになっている。
続けてイズミは、凛に対して「宜しく」と言ったが、凛は返事をせずにイズミをじーっと見据えた。
「あなたがイズミさん? 王の器?」
遠くで桜が「おいっ!」と凛につっこむ。どうやら、自分に対し「さん」付けをしないのに、同年代のイズミに「さん」付けをしたことが気に食わなかったらしい。
凛は、そんな桜を無視している。
イズミは、凛がいきなり「王の器」という言葉を口にしたことに多少戸惑ったが、それでも普通に返答をした。
「ああ、そうだけど」
返事を聞いて、凛が不機嫌そうな顔を見せる。
「あなた、早く幻宝を諦めて、コウさんに幻宝を譲りなさいよっ。コウさんが一番王に相応しいんだからっ。そもそもあなた、絶対コウさんより弱いでしょ!」
これを聞いた仁は、「あちゃ~~~~」と片手で顔を押さえた。




