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51. アール

「なんだ、髭を取ったら結構マシな顔してるじゃねえか」


「そうですか? 髭、実は嫌いなんですよねえ。食事をするときに邪魔になるし」


 赤星の言葉に対し、Rは口元を撫でながら答える。


「で、どうするんだ? カツラと眼鏡も取って降参するか?」


「いやいや、そこまで正体は明かしませんよ。今後の活動に支障が出るんでね。そもそも降参する必要なんてないでしょ」


 そう言うと、Rの目つきが変わった。


「おっとっ、守護霊を出すなよ。出したら攻撃する意思があると見なして、俺たちはすぐに攻撃するぜ」


 赤星の背後に半蔵が現れ、手裏剣を構える。

 Rを挟んで反対側では、巫月が与一を呼び、弓を構えさせた。


「いやいや、戦う意志なんてありませんよ。MISTの霊能者二人に勝てるなんて、ま~ったく思っていませんからねえ。ただ……」


 話を途中で止めたRに対し、赤星が「ただ……何だ?」と睨みながら問う。


「逃げさせてはもらいますよっ、五右衛門(ごえもん)!!」


 Rがそう言った瞬間、背後に派手なドテラを羽織った守護霊が現れた。

 五右衛門と呼ばれたその守護霊は、キセルを持ち、爆発したように逆立った髪形をしている。


「バカ野郎、出すなっつっただろうが!!」


 赤星が叫ぶと、半蔵が手裏剣を五右衛門に投げつけた。


――ビュンッ!!――


 五右衛門の背後からは、与一が矢を放つ。

 これにより五右衛門は、前方の手裏剣と後方の矢、二つに挟まれるかたちとなった。


「上か、左右か、どっちに逃げる? どっちにしても着地点を狙ってやるよ」


 赤星が目を光らせながら、次の手裏剣を構える。

 五右衛門は逃げようとせず、ただキセルを投げ捨てた。そして右の手のひらを手裏剣に、左の手のひらを矢に向けて突き出し、大声で叫ぶ。


『替われ!!』


――ヒュッヒュンッ!!――


 その瞬間、手裏剣と矢の位置が入れ替わった。

 矢が半蔵の目の前に、そして手裏剣が与一の目の前に現れる。


「なにっ!!」


 赤星が叫ぶのと同時に、半蔵は「くっ」と焦りながら、矢を刀で叩き落した。


――カッ!――


 半蔵の手裏剣に襲われることとなった与一は、弓を盾にして手裏剣を受け止める。


『……ちょこざいな技を使いおる』


 そう呟きながら、弓越しに五右衛門を睨みつけた。


――パチパチ、パチパチ――


「いやいや、さすがMISTの霊能者だ。お見事、お見事」


 Rが、拍手をしながら赤星と巫月を交互に褒め称える。


「ふざけんなよ、同じ手は二度と食わねえぞ。俺と巫月が対面してなきゃいいだけの話だろ」


 赤星の言葉に対し、Rは「そうなんですよねえ、これは困りました」と腕を組んだ。


「では、奥の手を見せましょう。ででん、でん、でん、でん、でん~~~~、ほいっ」


 Rが、まじないのような言葉を発した後に、赤星と巫月の顔を両手の人差し指でそれぞれ指差す。


「はあっ?」


 赤星は毒気を抜かれたような表情を見せた。


「たった今、私はお二人とその守護霊みんなの平衡感覚を盗ませてもらいました。もうまともに歩けませんよ」


 そう言って微笑むRに対して、「何言ってんだ、おめえ」と赤星が返す。


「すぐに分かりますよ。というわけで、そのあいだに私は帰らせてもらいますね」


 Rはバッグを片手で持つと、ゆっくり歩きだした。


「いや、なに帰ろうとしてんだよっ!」


 赤星が、勢いよくRに殴りかかる。しかし動きだした瞬間、道路が波打つように見え始め、パンチをまともに打てない。


(なん……だ!?)


 赤星のパンチは、Rに簡単に躱されてしまう。


「……くっ」


 赤星は更に拳を繰り出したが、これも躱された。


(まさか……本当に平衡感覚を盗まれたのか? マジでまともに動けねえぞ。俺がこうなってるってことは半蔵も……)


 赤星の予想どおり、感覚を共有する半蔵も全く同じ状態となっていた。


――スッ、スッ、スッ――


 目眩を起こしながらも根性で拳を出し続けるが、当たる気配すらない。


(うっ……なんか吐きそうにもなってきやがった……)


 赤星の顔色が、目に見えて悪くなっていく。


(……やべえ……このままじゃ……意識が……飛ぶ)


 ふらふらとし始める赤星に対して、Rは軽く足をかけた。


――ドターンッ――


 赤星は簡単に転んでしまい、そのまま「う~ん」と意識を失う。それとともに半蔵も赤星の体内に消えていった。


「赤星さんっ! くそっ。何をやっているんだ、あの人は!」


 巫月は、赤星の醜態に呆れつつもRから目を離さない。


「こうなったら、結構な傷を負わせちゃうかもしれないけど、もうしょうがない。爺、あいつの守護霊の動きを止めてっ。足に連射!!」


 巫月の掛け声とともに、与一が矢を連射した。

 しかし、弓の弦を弾く音がいつもと異なり、また矢速も遅い。


――ヒューン、ヒューン、ヒューン、ヒューンッ――


 なんと百発百中といわれている与一の矢が全て、Rとはかけ離れた場所に飛んでいった。


「なっ、何で!?」


 驚いた巫月が、振り返って与一の顔を見る。


『……すいません……坊ちゃん……視界が歪んで……』


 与一は苦悶の表情を浮かべており、今にも倒れそうになっている。


「そんな、まさか、本当に平衡感覚を盗まれたのか……うっ」


 すぐに巫月の視界も歪み始めた。路面が波打つように見える。


(……まずい。このままじゃあ僕まで意識を失って……)


 巫月が倒れぬようにと踏ん張っていると、そこにRが歩み寄ってくる。


「頑張らずにそのまま眠ってしまってください。そのあいだに私は帰らせてもらうので。ああ、眠っているあいだに殺したりしないのでご安心を」


 Rが話しながらカツラと眼鏡を取っているが、今の巫月の目にはぼんやりとしか見えない。

 巫月は何とか素顔を見ようとしたが、結局途中で力尽きてしまい、そのまま倒れた。与一もそのまま力尽き、巫月の体内に消えていく。


「今日は、なかなか楽しかったですよ。素敵な通り名も付けてもらいましたしね。それでは、ごきげんよう」


 小憎らしい笑顔で言うと、倒れた赤星と巫月を尻目に、Rは悠々と歩き去っていった。


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