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49. 一日

 イズミが白玖と遭遇した次の日、帝霧館の会議室では、二番隊および三番隊の隊員たちが椿木と共にミーティングを行っていた。

 辞職した阿形と、一時的に隊外構成員となった坂楽がいないため、現在は各隊が三人構成となっている。

 ミーティングの目的は白玖から得た情報の共有であり、たった今、椿木が説明を終えた。


「そういうわけで、幻宝を巡る動きが世界中で激しくなっていくことが予想される。そして、その激動は最終的に、幻宝が存在するという日本にもやってくるだろう。皆、しっかり準備しておいてくれ」


 椿木は腰に手を置き、皆に檄を飛ばした。


「ふひー。こんな能力を持った奴が、イズミ以外にまだ11人もいるってのかよ」


 赤星が、机に脚を乗せたまま愚痴をこぼす。


「ビビんな、赤星。それで椿木さん、創世会のほうはどうすんの?」


 赤星を軽く一喝した後、桜が椿木に訊いた。

 裏で赤星が「ビビッてねーわっ」と反論しているが、誰も聞いていない。


「創世会は、確かに違法な召喚を数多く行っている。しかしアニマと異なり、霊能者を使った違法行為などはほとんどしていないし、信者が何万人もいる宗教団体だ。そういう意味で、なかなか手を出しにくいのだよ」


「確かに、創世会を潰したら、一気にマスコミに注目されるでしょうしね。そうなると、ウチの存在が明るみに出てしまう可能性が大きい。それを踏まえると、上層部も簡単には決断できないんでしょう」


 椿木の説明の後、付け加えるかのように京園寺が話した。

 それに答えるように、椿木が再度話す。


「アニマのアジトと違って、創世会の施設の周りには、それなりに一般の住宅やビルもあるしな。あそこで派手に戦闘を起こしたら、大きく注目されてしまうよ。結界を張って一般人に感知されないようにしてもいいが、少しでも噂が立ったら、すぐに広まってしまう」


「そうなると、実質的な被害が出るまでは、創世会は無視ですね。イズミさんを狙ってるのは間違いないわけだから、彼らと事を構えるのは、次にイズミさんと接触してきた後か」


 巫月が結論付けると、椿木は「そうなるな」と同調した。

 皆も理解し、それぞれが軽く頷く。


「あと、これは関係ない話だが、来月後半から恒例の研修が行われる。今年はウチが迎えるほうだから、みんなそれなりの対応を頼む」


 椿木が研修について触れると、蛍が「ああ、もうそんな時期ですかー」と答えた。


「……研修?」


 イズミが隣の蛍に訊くと、蛍が説明を始める。


「研修はね、ウチとRAINで毎年行ってるものだよ。一年に一度、どちらかの組織の人間が相手の組織に行って、四カ月の研修を行うの。一応、同じ目的を持つ公的組織だから、良いところを学び合いましょうっていうのが目的なんだって。実際はライバル組織の視察だけどね」


「へえ、そういうのがあるのか。もっと組織同士で仲が悪いと思っていたから、そんなのがあるなんて意外だ」


「去年は、ウチの桜ちゃんと巫月くんがRAINに行ったから、今年は向こうがウチに来る番なの。どんな人たちが来るのか、ちょっと楽しみだよね」


 笑顔の蛍に対し、イズミは「ああ、そうだな」と笑みを返した。

 蛍の説明が終わると、椿木がイズミに話しかける。


「そういうことだ、イズミ。RAINの者の話を聞く機会はそうあることではないから、会ったら色々話を聞いてみるといい」


「はい」


 イズミが答えると、椿木は「では今日はここまで。解散」と皆に言い、部屋を出ていった。


(RAIN……あの霊能者がいる組織か……)


 ミーティングが終わり、皆が次々と部屋を出ていく中、イズミは残って思いを巡らせる。


『ほら行くぞ、イズミ』


 それから義経に声をかけられ、最後に部屋を出た。



――その夜、イズミの部屋。

 イズミと義経は、ベッドの上で、互いに頭を反対向きにして寝転んでいた。

 二人とも頭の後ろで手を組み、天井を見つめながら話をしている。


「それにしても、王の器が12人もいるのには驚いたな」


『そうだね。あれは以外だったけど、でもあれで分かったこともあるよ』


 義経が答えると、イズミは「分かったこと?」と言って、足元のほうにある義経の顔に目を向けた。


『ああ。数百年に一度しか出ないといわれている王の器がいきなり12人も現れたこと、偶発的に現世に転移してしまう霊体が急に増加したこと、それらのことを踏まえると、やはり今までにない何かが起きているよ』


「やっぱり、幻宝や夢幻力に関係しているのか?」


 義経が「そうかもしれないね」と言って目を閉じる。


「そういえば、昨日ちょっと話題に出たから思い出したけど、夢幻力の新訳については何か分かったのか?」


『いや、霊界で調べてみたけど、内容については何も分かってないよ。確かに存在はしたらしいんだけどね。でも、だからこそ、とても違和感を感じるよ』


「違和感?」


 イズミが訊くと、義経は目を開けた。


『ああ。もし新訳がそれなりのものだったとしたら、私に全く情報が入ってきていなかったことや、内容が霊界の上層部に伝わっていないことがおかしい』


「確かに、そうだな。そんな価値もないほどのデマだと判断されたんだろうか……」


 イズミが再度天井に目を向けて考え込む。


『だとしたら、よっぽど突拍子もない内容だったんだろうね。いずれにしても、そのへんはもう少し調べてみる必要があるかな』


「そうか。じゃあ、頼む。そういうのは、お前に頼るしかないから」


 そう言うと、イズミは軽く伸びをして、小さなあくびをした。

 それにつられて、義経もあくびをする。


『ふあぁ~~~~』


 それからイズミは、横向きになって目を閉じた。


『……もう寝るのかい、イズミ?』


「ん? ああ。眠くなってきた」


『じゃあ、ちゃんと布団をかけな。まだ夜は冷えるから』


 義経が上半身だけ起こし、優しく声をかける。

 するとイズミは、目を閉じたまま微笑み、眠たそうな声で呟いた。


「お前は、ほんと親みたいだな。なんか一緒にいて安心するよ」


 それを聞いた義経もまた微笑む。

 こうして、イズミと義経の一日がまた過ぎていった。


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