表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/71

外伝 - NOT BLUE 後編 (上)

「弾田さんっ」


 仁が呆然とする中、弾田が口角を上げる。


「見えるか、仁? こいつが霊能者を助ける守護霊ってやつだ」


 話しながら、弾田は背後にいる浴衣姿の男を親指で指差した。

 仁が、当惑しながら弾田の守護霊に目を向ける。


「守護霊……その青白い光を纏っている霊が……ですか……?」


「ああ、こいつは西(さい)(ごう)だ。宜しくな」


 弾田が答えると、西郷と呼ばれた背後霊は、仁に笑みを向けた。


『てめえ、霊能者か!? くそっ、俺の楽しみを邪魔しやがって。除霊なんてさせねえぞ、この野郎っ』


 ここで仁と弾田の話に、悪霊が怒り口調で割り込んでくる。

 その瞬間、西郷の纏う光が増幅した。


『黙れ、悪霊!! そのまま動くなっ!!』


『ぐっ!』


 悪霊は、西郷の一喝で動きが止まる。


(……な……動けねえ……何をしやがったんだ)


 悪霊が驚いた表情で立ちすくんでいる中、弾田は「そして、これこそ西郷の特殊能力だ」と仁に説明を始めた。


「特殊能力?」


「ああ。西郷の言葉には強い言霊が含まれていてな、その辺の霊なら思うがままに命令できるんだ。すげーだろ?」


 仁は、理解が追いつかず、口を開けたまま驚いている。

 弾田は、話しながら悪霊のもとに歩きだした。


「仁、霊っていうのはよお、霊じゃなきゃ倒せねえんだよ。だから俺たちは、こうして守護霊の力を借りて悪い霊たちをぶっとばすのさ」


 そう言った後、弾田は悪霊の前で足を止める。そして、悪霊に対し不敵な笑みを見せた。


「よお、悪霊。だいぶ手間かけさせてくれたなあ」


 弾田が声をかけると、悪霊が弾田を睨みつける。


『ふざけんなよ、こんなもんその気になれ……ぶばぁっ!!!!』


 悪霊が言葉を発した瞬間、いきなり西郷が悪霊を殴りつけた。


――ゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!! ゴンッ!!!!――


 西郷は、そのまま悪霊を無言で殴り続ける。


『がはぁっ、ぐはぁっ、ぐがぁっ!!!!』


 悪霊が磔状態で殴られるのを、弾田は冷たい目で、仁のほうは呆然と、見つめていた。


――ゴンッ!! ゴンッ!! ゴンッ!!――


 西郷に手を休める気配はない。


『分かったっ、俺が悪かった、もうしねえから勘弁してくれっ』


 すぐに、耐えきれなくなった悪霊が謝罪を口にしだす。

 悪霊は、そのまま弾田を説得し始めた。


『俺は生前、無実の罪で刑務所に入れられたっ。親はそれを苦に自殺したんだっ。ひでえだろっ?? そんな世の中に復讐したくなるのは当然だろっ??』


 それは聞いた弾田は、少し黙ってから「ああ、そりゃあ可哀そうな人生だったなあ」と言った。しかし、その表情には一切同情の気持ちが見えない。それどころか悪霊を睨みつけて、先ほどの西郷の一喝にも負けないほどの大声で叫んだ。


「だからっつって、他人を不幸にしていい理由にはなんねえんだよっ!!」


 その瞬間、西郷の手刀が悪霊の胸に突き刺さる。


『がはっ!!!!』


 悪霊は、苦悶の表情を浮かべ、両膝をついた。


『な……何でだよ……生まれ変わるまでの……ちょっとした遊びだったのに……』


「魂を破壊したから、もうおめえに生まれ変わりはねえよ」


 弾田が無表情で答える。


『そ……そんな……そんなーーーーっ!!!!』


「永遠に消え失せろ」


『いやだーっ!! 助け……』


――ブシャアァァァァッ!!――


 悪霊は、叫びながら黒い花火のように弾け、そのまま黒い煙となって散失した。


「バカ野郎が……」


 消えていく悪霊を見て、弾田が捨て台詞のように呟く。


――ポツッ、ポツッ、ポツッ――


 ちょうどその時、パラパラと雨が降り始めた。

 一度空を見上げてから、弾田が振り返る。


「終わったぜ。大丈夫か、仁?」


 弾田が声をかけると、仁は俯いて立ち尽くしていた。


「俺は……」


 仁が何かを言おうとしているが、その声は、降り始めた雨の音にかき消されるほど小さい。


「俺は何もできなかったよ、弾田さん」


「そんなことは……」


「何も……できなかったんだ」


 顔を上げた仁の目から、涙が溢れ出す。


「姉ちゃんが俺を守ってくれたっていうのに、俺は何にもできなかったんだっ!!」


 今度は、雨の音にも負けないほどの大声で叫んだ。


「何なんだよ、俺は!! めちゃくちゃ弱いじゃないかっ。あの悪霊が言ってたとおり、全然無力じゃないかっ!」


 雨との違いがはっきり分かるほどの大粒の涙が、雨と共に地面に落ちていく。


「何だよおーーーーーーーーーーっ!!!!」


 そう叫ぶと、仁は両膝をつき泣き崩れた。悔しさと情けなさが入り混じった声が、辺りに響き渡る。


「うわぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!!!」


 それから仁は、地面を叩きながら、ただただ大声で泣いた。

 弾田は、そんな仁を何も言わずに見守る。

 その時の弾田の瞳には、仁の姿と共に、大泣きしている過去の自分が映っていた。


――ザァァァァーーーーーーッ――


 雨脚が段々と強くなっていく。


「……なあ、仁」


 ドシャ降りになった頃、弾田は仁に声をかけた。


「お前、俺の組織に来ねえか?」


 この言葉は、雨の音で仁に聞こえていたかどうか分からない。

 しかし、この言葉が仁のその後の人生を決めることとなる。


「その痛みを知ってる奴は、きっとたくさんの人を救えるよ」


 そう言うと、弾田は雨空を見上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ