37. 忍者
赤星が瞬間移動を披露してから、イズミの防戦が続く。
決定的なダメージは受けていないが、攻撃を仕掛けては瞬間移動で消える赤星に対して、イズミは活路を見出せずにいた。
そのため、赤星の攻撃を避けながら、義経と念話を交わしている。
(義経、霊体の半蔵ならまだしも、なぜ人間の赤星が瞬間移動なんてことをできるんだっ?)
(まず、さっき半蔵が唱えた体霊結束という咒文だが、あれは宿主の肉体と守護霊の霊体との繋がりを極端に高めるものだ。まるで瞬間接着剤でくっつけるかのようにね)
ここで、突然真横に現れた赤星の蹴りがイズミを襲うが、イズミはそれを腕でガードする。
(そうか、それで? それと瞬間移動に何の関係があるんだ?)
(そうしておけば、半蔵の霊体に赤星の肉体が強制的に付いてくるだろ? だから、瞬間移動した半蔵に赤星を無理やり伴わせることができるんだ)
話している最中にも赤星の更なる攻撃が続くが、イズミはそれを回避しつつ話を続けた。
(つまり瞬間移動だけは半蔵が主体となって動き、赤星がそれに付き従う。瞬間移動した後は、赤星が主体となって動く。そういう戦闘スタイルってことか?)
(そうだ。犬の散歩をしているとき、主導権は普通人間にあるが、犬が突然勢いよく走りだすと、人間がそれに引っ張られて犬と同じ速度で走りだすだろ? まさにあんな感じだよ)
(なるほど。守護霊を犬に例えるのはどうかと思うが、良い例えだ)
(だろ? しかし、こんなことができるとは、本当に大した二人だよ。そもそも赤星の体にかなりの負荷がかかるはずなんだけどね)
ちょうど二人がここまで話したところで、赤星は攻撃を一旦やめた。
「さすがだな。完全に防御に回られたら、瞬間移動を使ってもなかなか決定打が当たらねえ」
「そうでもないさ。ぎりぎりだ」
「そうかあ? だが、これじゃキリがねえから、そろそろ大技を出して決着をつけさせてもらうぜ、イズミ」
「……瞬間移動なんて技を出しておいて、まだ大技が残っているのか?」
「ああ。とっておきだっ」
そう言うと、赤星は後方に跳ね、イズミと距離を取った。
そして、不敵な笑みを見せた後、自信満々に言い放つ。
「いくぜっ、これを見ても戦意喪失すんじゃねえぞ!!」
――シュンッ!!!!――
その瞬間、なんと赤星と姿形が全く同じ者が、赤星の横に現れた。
「なっ!?」
驚くイズミの前で、赤星の姿をした者が更に増えていく。
――シュンッ!! シュンッ!! シュンッ!!――
「分身!? バカな!」
子供の頃、忍者漫画の中で見た分身の術。それがまさに目の前で行われていることに、イズミは唖然とした。
「こんなデタラメな技、本当に人間ができるのか……」
最終的に、五人の赤星が驚くイズミを囲む。
動きが止まったイズミに対し、五人は同時に話しかけた。
「忍法分身の術ってやつだっ。びびったろ?」
イズミは言葉が出てこない。
『イズミ、動揺するなっ。これは半蔵の瞬転という技、つまり瞬間移動を急速に繰り返して幻影を見せているだけだっ』
立ち尽くすイズミを、義経が大声で諭した。
「あ、ああ。すまないっ」
義経の言葉で我に返ったイズミだったが、動揺は隠せない。
(……ふむ)
ここで、動揺が続くイズミを見て、義経に一案が浮かんだ。
赤星のほうは、五人が同時に同じ構えを取る。
「さすがに大英霊ともなると、これでもビビらねーか。しかも、もう原理までバレてるし。でも、こいつらみんなが一斉に攻撃したら、どうすんだい!!」
そう言うと、五人の赤星は一斉にイズミを襲いだした。
「くっ」
イズミが、一人の赤星に拳を当てるが、この赤星はフッと消え去る。
続けざまに、もう一人の赤星に蹴りを入れるが、この赤星も消え去った。
――ドゴンッ!!――
その瞬間、イズミの脇腹に幻影でない赤星の蹴りが入る。
「ぐはっ!!」
イズミは、よろけながらもこの赤星に反撃するが空振りとなった。
気がつくと、また赤星が五人に戻っている。
「今度はどれが本物なんだ!?」
――シャッ――
イズミが一人の赤星に回し蹴りを入れるが、またも消え去った。
幻影は、一人を消しても、また違う場所に一人が現れ、一向に減る気配がない。
「くそっ」
それでも奮闘し、次々と幻影を消していくイズミだったが、徒らにスタミナを消耗するだけであった。
「無駄だぜっ、イズミ」
そう言うと、五人の赤星はイズミを囲み、同時に拳を繰り出した。
(くっ、だがこの位置なら、回し蹴りで五人をほとんど同時に攻撃できるっ)
――シャッ、シャッ、シャッ、シャッ――
窮地となったイズミの回し蹴りが、次々と赤星の幻影を消していく。
(五、四、三、二、こいつが本物だ!!)
イズミの力を込めた蹴りが最後の赤星に入る。
――フッ――
しかし、この赤星も消え去った。
「なっ!?」
その瞬間、驚くイズミの後方から「今度こそ終わりだっ!!」という声がする。
――ドガァァァァンッ!!!!――
イズミが振り返った途端、赤星の強烈なパンチがイズミの顔面にヒットした。
「六人……目」
意識が飛びそうな中で、イズミは呟いた。
――ドシャッ……――
二位一体の動きをする義経と共に、地面に倒れ込む。
「ハァッ、ハアッ。俺の分身は、出そうと思えば十人は出せるんだ。五人が最大だと思った時点でお前の負けだぜ、イズミ」
赤星は、肩で息をしながら言い放った。




