表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/76

31. スタミナ

「アガちゃんはそっちをやるってことね。じゃあ、アタシはニワトリ頭をやるわ」


 桜が振り向いて、小鴉を睨みつけると、背後から道山が現れる。

 出現するとすぐに、道山は「鳥の守護霊持ちのようだな」と腕を組んだ。


「ニワトリ頭だと、くそ女~。てめえこそ雪山で上半身裸の守護霊なんか出しやがって、変態かよ」


「あぁ!? これこそレスラーの正装だろうがっ」


「知るか。あんなヤラセの見世物」


「この野郎、道山とプロレスをバカにしたな~。道山っ、まだちょっとアタシの中に入っててっ。まずこいつを一人でぶっとばす!」


 道山が「やれやれ」と言いながら、口角を上げて戻っていく。


――ダッ!――


 道山が戻ると、桜はいきなり小鴉に向かっていき、飛び蹴りを放った。


「当たるか、アホっ」


 小鴉が後方に跳び退って、これを避ける。


「まだまだあっ」


 それでも桜は、足を止めなかった。更に突進して延髄(えんずい)蹴りを入れようとする。


――ガンッ!――


 小鴉は、今度は避けることなく、しっかり腕でガードした。

 一瞬膠着(こうちゃく)状態となるが、それでも桜の勢いは止まらない。今度はパンチの連打を繰り出し始めた。


――ガガガガ、ガガガガガガガガッ!――


「くっ」


 小鴉は、後方に移動しながら桜のラッシュをガードし続ける。


「おらおらおらおらーっ」


「しつけーなっ、てめー」


 通常、パンチの連打をしてくる者は、疲労により途中でスピードが落ちる。そのときが相手の攻撃チャンスとなるのだが、桜のスピードはなかなか落ちなかった。


「何だこの女っ」


 小鴉が知る由もないが、桜はMISTの隊員の中で最も持久力がある。若い頃から厳しい走り込みを続けているおかげもあるが、なにより、それによって魂力を効率良くスタミナに変換する(すべ)を心得ているからである。


「くっ、いいかげんに一回止まれっ」


 小鴉は、桜のラッシュに耐えきれず、無理やり攻撃を繰り出そうとした。しかし、これは手痛い失敗となる。

 防御意識が一瞬低くなったことを、桜は見逃さなかった。


(ここだっ!)


――ドゴォォォォンッ!!――


 小鴉の胸に、桜の手刀打ちがさく裂する。


「ぐはぁっ!」


 小鴉の息が、一瞬止まった。


「もう一発食らえ!!」


 ここぞとばかりに、桜が二度目の手刀打ちを繰り出す。


「くっ!」


 ギリギリのところで、小鴉は地面を蹴って上空に逃れた。

 小鴉の背後には、鷹の守護霊が現れている。

 桜は、さすがに動きを止め、上空を見据えた。


(……そうだった。こいつは飛行可能な守護霊を持っているんだった。だけど、いくら鷹の守護霊でも、ずっと人を空中に浮かせているのは無理なはずよね。それなら、降りてきたところを仕留めるか)


 桜が見据える中、小鴉は浮遊したまま、しかめ面で胸を押さえている。

 桜は、そんな小鴉に対し、両手を口に添えて「降りてこい、ボケーっ!」と叫んだ。

 小鴉が「うっせえっ」と言い返し、気を取り直す。


「おい、MISTの女っ。そんなにやりたきゃやってやるから、お前がこっちに来いっ。ここまでジャンプしてこいやっ!」


「はあっ? バカか、お前っ。わざわざお前が得意な空中戦をしてやるわけねえだろっ」


 桜は、両手を腰に当て、呆れた口調で言った。

 小鴉が舌打ちをし、「そーかいそーかい」と不敵な笑みを浮かべる。


「じゃあ、しょうがねえ。こっちから行ってやるよっ」


――バッ!――


 言い終わるのと同時に、小鴉は桜に向かって急降下した。


(速い!)


 桜が、大きく水平に跳ねて交わす。


「甘いぜっ」


――ギュイィィィィンッ!――


 避けたと思ったのも束の間、小鴉は地上ギリギリで方向を変え、勢いそのままに桜に向かってきた。


「なっ!?」


――ドゴオォォォォン!――


 小鴉の頭突きが、桜の脇腹に直撃する。


「かはっ!」


 桜は、衝撃で道沿いの茂みの中に吹っ飛んだ。


「大当たり~!」


 小鴉が、バカにしたような口調で笑う。手応えから、桜に大きなダメージを与えた確信があったのである。

 実際、今の一撃は桜に骨折の痛手を与えている。


『桜、大丈夫か?』


 茂みの中で、道山が出現し桜に話しかけた。


「くそっ。あばら骨が何本か折れたかもね。あいつ、球場で戦った連中よりずっと強いよ」


『だろうな。球場にいた者たちは、純然たる霊能者ではなかった。召喚で守護霊を持たされていただけだ。それにひきかえ、この敵は恐らく生来の霊能者。生来の霊能者が守護霊を持つと、やはり強い』


「そういうことか。それで、どうしたらいい?』


 桜が肋骨(ろっこつ)に当てていた手を離し、次のステップに意識を向ける。


『うむ、避けた方向にも飛んでこられるというのは脅威だな。しかし、それが分かっていれば対処のしようはあるだろう。方向を変えた後、相手は必ず攻撃が当たると思って油断するだろうから、そこにカウンターの攻撃を食らわせるんだ』


「なるほどね、了解。絶対上手くやるから、道山はもう一度体の中に戻ってて」


『ふっ、お前は一度言い出すと聞かんからなあ』


「ありがとっ」


 道山が戻ると、桜は茂みから走り出て、そのまま小鴉に再度突進していった。


「バカの一つ覚えか」


 そう言って、小鴉がまた上空に逃げる。


――ザッ――


 桜は、また動きを止めざるを得なくなった。


「何だよ、ニワトリ頭。また逃げるのかよ。そんなにアタシのことが恐くなったのか?」


「あぁ? 何だそりゃ。挑発のつもりか? そんなのに乗るわけねーだろ。地上にいるとてめえがしつこいから面倒くせーんだよ」


「やっぱ怖いんじゃねえか。お前ほんとチキンだな。おっ、頭とちょうど合ってんじゃん」


 桜が頭の上で手を立て、トサカに見立てる。


「てめえ……。もう一回食らわせてやるよ」


「おー、来いよ。こっちこそ落ちてきたとこに、もう一回チョップを食らわせてやんよ」


 小鴉は、「ほざけ」と言って急降下の構えを取った。

 桜も手刀打ちの構えを取る。


(正直言って、あの速さに合わせて攻撃を食らわせるのは、今のアタシじゃ無理だ。だからここは……)


 桜の頭の中では、もう次に何をするか決まっていた。


「いくぞっ。死ねーっ! クソ女!!!!」


 桜が目を光らせる中、小鴉が急スピードで降下してくる。


「ここは、避ける!!!!」


 そう宣言した後、桜は一度目と同じように水平に大きく跳ねた。小鴉も地上ギリギリで方向を変え、桜に向かってくる。


「バカが、同じことの繰り返しじゃね……なっ!?」


――ザザァッ!――


 その瞬間、桜は右足のふんばりだけで跳躍を急停止した。そして、左足を後方に大きく振り上げ、蹴りの体勢を取る。


「くらえっ!! チキン野郎!!」


「くそっ、止まれね……!」


――ゴォォォォン!!!!――


 桜の豪快な蹴りが、小鴉の顎を下から突き上げた。


「あがっ!!」


 小鴉が吹っ飛んで、空中で仰向けとなる。


(あ……顎が……痛え……意識が……飛……)


――ガクッ――


 小鴉は、そのまま意識を失った。


――クルッ――


 桜のほうは、蹴り上げた勢いを利用し、後方に伸身宙返りを行う。


――スタッ――


 そのまま綺麗に着地した。


――ドチャッ!――


 対照的に、小鴉は無様に地面に落下する。もはやピクリとも動かない。

 桜のサマーソルトキックによって、勝敗が決した瞬間だった。


「はぁ、はぁ。勝った」


 顎の割れた小鴉を、桜が見下ろす。

 さすがの桜も少し息を切らしているが、勝利を確信すると、すぐ次の戦いに意識が向いた。


「あとは万次とかいう奴だけね……」


 そう言って、桜が万次と阿形のほうに目を向けた瞬間、大きい衝撃音が辺りに響き渡る。


――ドゴォォォォォォンッッッッ!!!!!!――


 それは、殴られて吹っ飛んだ阿形が、後方の木に衝突した音だった。

 衝撃で木が折れ、倒れてくる。


「まずいっ!!」


 折れた木は、桜が叫ぶのと同時に阿形の上に倒れ込んだ。


「アガちゃん!!!!」


 桜が、木と地面に挟まれた阿形に走り寄る。


「くそっ、大丈夫!?」


「桜さん、私は大丈夫だから、桜さんだけでも一旦逃げてください。あいつは強すぎる……」


「ちょっ……何言ってんのよ。いいから、ちょっと待ってて。すぐ救い出すから」


「桜さん、私のほうが年上なんだから、こんなときぐらい言うことを聞いてください……」


「バカっ、そんなことできるわけないでしょっ」


 桜が心配そうに叫ぶ。

 阿形は桜の腕を掴み、再度「逃げてください」と言ってから意識を失った。


「アガちゃん!! くそっ。待ってなよっ。すぐあいつを倒して助けるから!!」


 その時、万次が後方から桜に話しかける。


「おいおい、お前が俺を倒すのか? 笑わせんなよ、お嬢ちゃん」


「あぁ!?」


 桜が振り返ると、そこには守護霊を出した万次が立っていた。


「なっ……」


 万次の守護霊を見て、桜が愕然(がくぜん)とする。


「……そんな……それを召喚できるもの……なの?」


「おっ、いい反応だなあ。そういう表情を見たかったんだ、俺は」


「……そもそも……日本にいたの……?」


「知らねーのか、お嬢ちゃん。日本にもいたんだぜ、このマンモスはよお!!」


 そう、万次の守護霊は、すでに絶滅した太古の生物“マンモス”であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ