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28. 悪霊退治

 アニマによる拉致事件から二週間後、イズミと巫月はMISTの公用車で千葉に向かっていた。

 運転手が黙々と運転する中、隊長である巫月が、今回の任務についてイズミに説明している。


「……というわけで、アニマのアジトが長野にあることが分かったので、二番隊と蛍さんと阿形さんが現地で下調べをすることになりました。そのあいだ、イズミさんと僕は千葉で悪霊退治です」


「悪霊退治?」


「ええ。分かりやすく説明していきますね。まず、千葉に岩黒ダムというマイナーだけど結構大きいダムがあって、すぐ近くに展望台もあるんですが、ご存じですか?」


「……岩黒ダム?」


 イズミは少し考え、首を横に振った。


「そうですか。二か月ほど前、そこに地元の中学生の男の子A、B、C、Dの四人が遊びに行ったそうなんですよ。その時、少年Aが展望台から飛び降りて亡くなったんです。突然、狂乱状態になって」


「……なるほど。しかし、それだけで悪霊のせいにするのはちょっとな」


「それだけなら、確かにそうですね。しかし、それから一か月後、花を供えに行った少年B、C、Dのうち、今度は少年Bがそこから飛び降りて亡くなったんです。同じように、狂乱状態となって」


「ああ、そうなるとMISTの専門範囲に入ってくるな」


「ええ。それで千葉県警から巡り巡ってウチに要請が来たわけです。目撃者もなく、男の子たちの『悪霊に取り憑かれた』という証言しかない状態ですからね、無理もない」


 巫月は、両方の手のひらを上に向けて、肩をすくめた。


「そういうことか。まあ、大まかな内容は分かった。それで、まずはどこに行くんだ?」


「現場の展望台です。そこで少年Cと待ち合わせをしているので。少年Dのほうは、今もショック状態だから来ないみたいですけどね」


「それは、無理もないな」


「とりあえず、そこまでは二時間ぐらいかかるので、ゆっくりしていてください。せっかく今日は、公用車も出してもらっていることですし」


 イズミは、「そうか、了解だ」と言うと、ネクタイを緩めた。

 MISTに入ってから四か月、黒服姿も板についてきたイズミだったが、ネクタイの首を絞める感覚は昔から好きではない。

 それを知っている巫月は、イズミのその姿を見て、くすっと笑った。

 二人を乗せた車が、高速道路に入る。



――三時間後、岩黒ダム近くの展望台。

 少年Cと説明された男の子は、佐々岡という特に特徴のない少年で、千葉の進学校でオカルト研究クラブに属しているということ以外は、なんら普通の中学生と変わりなかった。

 イズミと巫月は、佐々岡から当時の状況を訊いている。


「ここで座ってみんなで話をしていたら、突然、山城がぼーっと立ち上がって、訳分かんない言葉を言いながら飛び降りたんです」


「山城くんというのは、最初に飛び降りた子だね? 二人目の、えーっと、飯田くんも同じような状態だったのかな?」


 巫月が質問すると、佐々岡は「はい、全く同じでした」と答えた。

 現場周辺は、緑に囲まれていて、人の気配も全くない。寂れた観光地という感じである。

 イズミは、巫月が質問しているあいだ、周りを見渡していた。


「巫月、何か感じるか?」


「いえ、僕も爺も何も感じません」


「そうか。義経も何も感じないそうだ。俺も何も感じない」


「どういうことでしょうね?」


 悪霊と呼ばれているものが成仏できない地縛霊であった場合、ここに留まっているはずである。しかし、その気配が全くない。そのことから、霊界から舞い戻った悪霊が、たまたまここで憑依したのではないかと二人は推測した。

 ただその場合、二度も同じ場所で、しかも偶然この少年たちが訪れた時にだけ憑依が行われたことに疑問が残る。


「飛び降りた時の様子で、他に気づいたことはなかったかな?」


 巫月が再度質問を行うと、佐々岡は少し考えた後、思い出したかのように答えた。


「……えっと、なんか目が白目になってて、連れていくとか呪うとか言ってたと思います」


「……そうか」


 巫月は、顎に手を当てながら、与一と念話を少し交わす。

 念話の途中、イズミと目が合ったことから、イズミも同じことを考えていると理解した。


「分かった。ありがとう。じゃあ、一応、もう一人の金田くんの電話番号を訊いておいてもいいかな? 話を訊けるようなら訊いてみるから」


「分かりました。でも、あいつは今話せる状態じゃないと思うんで、やめたほうがいいと思いますけど……」


「大丈夫。僕たちは無理強いはしないから」


 イズミと巫月は、佐々岡から電話番号を教えてもらうと、礼を伝え、その場から離れた。佐々岡を家まで送るつもりだったが、「自転車で来ているので」と断られた。



――その夜、少年Dである金田の自宅。

 ベッドで寝ていた金田は、低くかすれた声が聞こえ、目を覚ました。


『次は……お前だ……次は……お前だ……』


「だっ、誰!? 何!?」


『お前も連れていってや……る……お前が悪いんだぁ!!!!』


「ちっ、ちがっ、ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!」


 真っ暗な部屋に、金田の叫び声が響いた。



――そして、次の日。

 イズミと巫月は、佐々岡の自宅を訪れていた。


「佐々岡くん、言いにくいことだが、金田くんが昨日自宅で自殺した」


「え!? そ、そんな。馬鹿な。そんなこと、おかしいよ!! 何で!!」


 二階の部屋で、深刻な面持ちの巫月が伝えると、佐々岡はひどく狼狽(うろた)えた。


「今夜は君の安全を考え、僕たちは君の家の駐車場で待機させてもらう。ご両親の了解もとってあるから、いいね?」


 巫月が、佐々岡の背中を(さす)りながら優しく聞くと、佐々岡は涙ぐみながら首を縦に振る。


「じゃあ、僕たちは車に戻っているから。とにかく落ち着いて、何かあったら大声を出すんだよ」


 巫月が佐々岡と話しているあいだに、イズミは盗聴器を佐々岡の勉強机に仕掛けた。そして、イズミと巫月は目配せをした後、一旦車に戻って夜を待つ。


「さて、あとは待つだけですね」


「ああ、どう出るかな」


 車に乗ると、イズミはネクタイを緩めた。


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