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18. 傲岸不遜

『私から説明するよ、椿木』


 義経に説明しようとする椿木に対し、空海が言った。


『義経、私が知っているお前は、傲岸不遜を具現化したような男だった。加えて恐ろしく強く、とんでもなく頭が切れるものだから、それはそれは手を焼かされたものだ』


 空海の頭に、過去の義経の姿がよぎる。

 そこには、冷たい目をして刀を握る義経が佇んでいた。


『私から自由を奪いたかったら、一合戦するつもりでくるんだな』


 そう言い放った義経の周囲には、百人近い侍の霊体が倒れ伏している。

 義経の眼前には、愕然とする空海がいた。

 この時の全てを見下すような義経の表情を、空海は今でも鮮明に憶えている。


『初めてお前に会った時などは、悪鬼でも見ているのかと思ったぞ』


 義経は空海の話を聞きながら、「ひどい言われようだな」と呟いた。


『そんなお前がなぜ人間の守護霊となった? 大英霊と呼ばれる者たちは、そうそう守護霊になったりせんが、特にお前はそうだったではないか。いったい何があったのだ!?』


『……ああ、そこか』


義経が、少し間をあけて答える。


『それは簡単だ、おっさん。このイズミが私の宿主に足る存在だったからだ』


『それは、この若者が“王”と同じ能力を有しているから、ということか? 王の器だったから彼の守護霊になったと』


『そうとも言えるし、そうでないとも言える。私は、これが例えばイズミでなかったら、いくら王の能力を持っていたとしても守護霊にはなっていない』


『……不明瞭な答えだのう。しっかし、先ほど本人からも聞いたが、本当にこの青年がその能力を持っておるのか……』


 空海は、視線を義経からイズミに移し、じっとイズミを見つめた。

 イズミは臆することなく、空海を見つめ返す。


『おい、おっさん。イズミをあまりジロジロ見るなよ』


 空海は、義経の言葉が聞こえないかのようにイズミから視線を離さなかった。


(……この子が王の能力を……ん? この青年……もしや……)


『おい、おっさんっ』


 義経が再度声をかけると、今度はしっかり反応する。


『いや、すまんすまん。いい目をしているな、青年。まぁ、いいだろう。とりあえずは、それで納得しよう。それでお前たちは結局どうするんだ? MISTに入るのか?』


 空海が、再び視線を義経に戻す。


『それは、我が宿主次第さ。なあ、イズミ』


「……俺は、前向きに考えたいと思っています。しかし、今の仕事もあるし、すぐには決められない。先ほど給料を倍出すと言ってくれましたが、あれは今の俺の給料、多分それ以外の情報もすでに調べてあるということですよね? でしたら、叔父とのことなど、色々考えなければいけないことがあるのも分かっているはずだ」


 イズミが話すと、椿木と空海は顔を見合わせた。


「守護霊に似て、とても鋭い子ですね」


『そうだのう。なかなかの切れ者だ』


 その二人の会話を聞いた義経は、とても嬉しそうに腕を組む。


『そうだろ? 自慢の宿主さっ』


 その場の空気が和み、三人が笑うと、イズミは顔を赤くして「そういうのはやめてください」と言った。

 この後、MISTという組織の現在の構成や現状、また他の霊能者組織について椿木が詳しく説明し、それをイズミと義経が質問を繰り返しながら聞く。

 途中何度か、義経と空海が親子のような口喧嘩を起こしたが、椿木がこれを(なだ)めた。


「さて、あとは服装についての説明ぐらいだが、基本的にMISTの者は黒服を着ている。簡単に言うと喪服だ。これは霧雨の頃からの伝統で、霊体、つまり死者に敬意を示すという意味でこうなったらしい。今もその伝統が続いているのは、戦闘において身内と敵の区別がつきやすく、便利だからだろう。まぁ、離反したRAINの中にも(いま)だに喪服の者もいるがね」


「あなた方が黒服を着ているのは、そういう意味があったんですね」


「ああ。一番隊だの二番隊だのという呼び名といい、創立された明治時代からの伝統が今もいくつか残っているんだよ。それが良いのか悪いのかは別としてね」


「とりあえず、俺たちは今まで一度も黒服の霊能者とは戦ってないので、あなたたちの邪魔はしていないようですね」


「そうだな。君たちと戦っていたら、こちらもすでに何人か除霊されていただろう。そういう意味では、運が良かったといえるかもしれんな」


 椿木が、コーヒーカップに手をかけ、一口すする。


「それでは、こちらが話すことは以上だが、他に何か質問あるかな、花風君?」


「イズミでいいです。特にありません。とても明確な説明でした、椿木さん」


 イズミは、その性格上、心の動きが素直に態度や表情に出る。

 このときのイズミの表情から、イズミが椿木に良い印象を抱いているのが分かった。


「それならよかった。次に会うときは、君が黒服を着ていることを期待しているぞ、イズミ君」


「ええ、義経と共に前向きに検討します」


 イズミは、義経に目配せをすると、義経と共に立ち上がった。


『じゃあな、おっさん。気が向いたらまた来てやるよ』


 義経が挨拶をすると、空海は「ふんっ、そのでかい態度をどうにかしてからにせい」と答えた。

 この状況を見て微笑んでいた椿木だったが、イズミと義経がドアに向かって歩きだしたところで、何かを思い出したかのように真剣な表情を見せる。


「そうだ、一つだけ必ず憶えておいてくれ」


 椿木が声をかけると、イズミは足を止めて振り返った。

 義経も肩越しに振り返る。


「もし銀髪の霊能者に会うことがあったら、その時は、絶対に手を出すな」


 椿木は、眼鏡を外し、強い口調で言った。


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