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17. 勧誘

「……報告は理解した。こちらでも検討してみよう。それはそうと、たまには赤星に連絡してやってるのか?」


 イズミが佐治に案内されて部長室に入ると、椿木はちょうど誰かと電話していた。

 椿木がイズミに向けて人差し指を立て、手振りだけで少し待つように伝える。


「それでは、私はここで。花風様は、そこのソファにお掛けになってお待ちください」


 そう言うと、佐治はイズミを部屋に残し、静かに出ていった。


「確かに。今あいつがお前の声を聞いたら、寂しさが爆発してしまうだろうな。すぐにでもヨーロッパに飛んでいってしまいそうだ」


 椿木が話し続ける中、イズミは言われたとおりにソファに腰掛け、電話が終わるのを待つ。


(彼女も霊能者だね。しかもかなり強いよ、イズミ)


(戦ってもないのに、そういうのって分かるものなのか?)


(私ぐらいになるとね)


 イズミと義経は、電話の邪魔にならぬよう、念話で言葉を交わした。


「……では、今日はこのへんにしておこう。SAINTSはヨーロッパでも最大の組織なのだから、くれぐれも無理はするなよ」


 そうこうしているうちに、椿木の電話が終わる。

 椿木は、すぐに「すまない、待たせてしまったな」と言ってイズミの対面に座った。


「私は、このMISTの本部長を務める椿木だ。宜しく頼む」


「イズミです。宜しくお願いします」


 椿木が右手を差し出し、イズミと握手を交わす。


「君のことは巫月から色々聞いたよ。君は、他者の守護霊を奪うことができるらしいね。それは君の守護霊の能力なのかい? それとも君の生まれ持った能力なのかな?」


「これは生まれ持ったものらしいです。よく分からないですが」


「……やはり、そうか。いずれにしても稀有(けう)な能力で、かなり有用性が高い能力だ。早速だが、君、ウチに来ないか? 給料は今の仕事の倍出す」


 いきなりの引き抜きに、イズミが意外そうな表情を見せる。


「……いきなりですね。協力しろと言われることは予想していましたが、まさかここで働けと言われるとは思いませんでした」


「今、MISTはとても人手不足でね。マンパワーが欲しいんだよ」


「……それは数年前に半数が離反したからですよね? 巫月が言ってました。いったい何が起きてそうなったんですか?」


 イズミは、多少であるが、前もって巫月からMISTの話を聞いていた。この離反に関する話もその一つである。しかし、詳細までは聞いていなかった。


「始まりは、政府の中で意見が割れたことだった。悪意ある者の守護霊を除霊するか、それとも消滅させるかでね。その結果、消滅賛成派がMISTとは別組織を創立し、それに賛同する者がMISTからそちらに移った。それがRAINという組織だ」


「思想の対立ですか……」


「ああ。そうして一つの国に二つの特異事件対策組織ができることとなったんだ。おかしな話だがね。両方とも国の飼い犬だというのに、思想が違うものだから、小競り合いが絶えんよ。まぁ昨今は、東日本と西日本で上手く住み分けが成されてきているが」


「……俺は守護霊を消滅させることには反対なので、あなたたちの思想には賛同します。しかし、俺たちの目的はあくまで幻宝なので、他のことに時間を割くわけには……」


「それは巫月から聞いている。あの幻宝が本当に存在するなら、それはMISTとしても保護しなければならない。なので、君の霊界の特使としての活動は尊重するし、こちらもできる限り協力はするつもりだ。だから、MISTに入って、空いている時間を私たちの任務に当ててほしい。それなら、君の守護霊も納得してくれるんじゃないか?」


 イズミが顎に手を当て考える。


「国内で動くなら、必ず何かの後ろ盾があったほうが便利だ。あなたもそう思いませんか、義経さん?」


 椿木は、イズミの中に姿を消している義経に対して、さもそこにいるかのように話しかけた。

 それに反応した義経の笑みが、魂帯越しにイズミに伝わってくる。


『確かに、そうだね』


 椿木の問いかけに答えるように、義経がイズミの中から現れた。

 義経は、すぐにソファにもたれ掛かり、足を組んでイズミの横に座る。

 ちなみに義経は霊体であるから、基本的には浮遊している存在であり、現世の物質に実際に座るということはない。しかし、多くの霊体がそうであるように、生きていた頃の名残で、椅子の上では座る姿勢を取り、ベッドの上では寝転ぶ姿勢を取る。地上で「歩く」「走る」といった動きを見せるのも、同じ理由からである。


「巫月から義経のことも聞いていたんですね?」


 イズミが訊くと、椿木は「ああ」と言って立ち上がった。


「初めまして、大英霊さま。椿木と申します。巫月から色々話を聞きました」


『義経でいいよ。あと、嘘はよくないな』


「……それはどういう意味でしょうか?」


『君は、確かに私のことを巫月から聞いただろうけど、詳細は他の者から聞いているね? そして、私の力が明確に分かった上で、イズミと私を組織に誘った。じゃなければ、こんなに簡単に外部の者を組織に誘うわけがない。だろ、(くう)(かい)のおっさん?』


 義経が空海という名前を出すと、椿木は驚いた表情を見せた。

 それとともに、エコーがかかったような霊体独特の声が、椿木の背後から聞こえてくる。


『なぜ分かったのだ? 相変わらず生意気な小僧だのう、義経』


 すぐに、椿木の背後に袈裟(けさ)を着た坊主の霊体が現れた。


「また知り合いか? 義経」


 イズミが訊くと、義経は頬杖をついて答える。


『ああ、霊界で昔世話になった口うるさい坊さんだ。このホテルの結界を通った時にピンときたんだよ。この結界を張ったの、おっさんだろ? それでこの椿木ちゃんに俺のことを話したのもおっさんだ』


 空海と呼ばれた坊主の霊体は、「ああ、そうだ」と悔しそうな表情を見せた。


『まさか、おっさんがMISTの本部長の守護霊になっているとはね』


『霊界から要請があったのだ。MISTに在籍する者の守護霊たちは、半数が霊界から要請を受けて協力している者たちだ』


 ここで椿木が話に割って入る。


「義経さん、話に聞いていたとおり、あなたはとても鋭い方だ。しかし隠そうとしていたわけじゃないのは分かっていただきたい。空海さんは、旧知の友であるあなたの様子を少し観察したかっただけなのです」


『私の様子?』


 義経が椿木に聞き返すと、空海は神妙な表情を見せた。


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