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14. 白狼戦

『イズミ、足を止めるなよっ。こいつは避けた方向にしっかりついてくるぞっ』


「分かってるっ。多分、これが狼の動きなんだろっ」


 与一の言うとおり、青年と共に戦っていたのは義経であった。

 そしてこの青年は、当然、イズミである。

 降霊の契りから半年、今やイズミと義経の二人組は、霊界上層部が正式に認める存在となっていた。そのため、強力な守護霊や憑依霊について、霊界から出現情報が得られるようになっており、今回もその情報を基に白狼に辿り着いたのである。

 この世界に身を投じて間もないイズミだったが、宍戸との戦い以降、すでに七人もの召喚者や憑依者に勝利しており、そのうち五人の者から霊体を奪っている。全ての者から霊体を奪わなかったのは、吸収できる霊体数が未知であるため、真に強力な霊体に絞って吸収していたからである。すなわち、今のイズミは、蝶の霊体や宍戸以外に五体もの強力な従霊を従えているのだ。

 たった半年でここまで到達したことは、イズミの才能がいかに非凡なものかを強く物語っている。


「しかし、どうするっ? 守護霊の狼が奴の足元から一向に離れないぞ。これじゃあ、奴らのあいだにある魂帯が狙えないっ」


 二人が話している最中にも、白狼が攻撃を仕掛けてくる。


――サッ、サッ――


 イズミは、流れるような動きで白狼の拳を躱した。そのまま華麗に跳躍し、白狼との距離を取る。

 イズミと二位一体に動く義経は「やはり、そうか」と何かを確信すると、ここで言葉を発するのをやめ、口頭による会話から念話に切り替えた。

 これは、守護霊と宿主のあいだでだけ行える魂帯を通じた会話であり、これを行えば、言葉を用いずに意思疎通がとれる。念話は第三者に聞こえることがないため、秘密裏に戦略を立てる場合、非常に有用である。


(イズミ、奴の攻撃には一定のパターンがある。基本的に、右拳、左拳、頭突き、右足、左拳、左拳という攻撃のリピートだ)


(そうなのか? 分析が速いな。間違いないのか?)


――ガッ!――


 白狼がイズミに突進してくるが、イズミは念話をしながら、これを片腕でガードする。後方へ跳躍すると、追ってくる白狼から逃げつつ念話を続けた。


(ああ。それが奴の必勝パターンなんだろう。もう癖になっている感じだ。だから次に右、左と拳が来たら、その次に来る頭突きに対しカウンターを当てよう。どんな攻撃が来るか分かっていれば、カウンターを当てるのは容易い)


(カウンターなら、通常の攻撃よりでかいダメージを与えられるしな)


(そうだ。左手で奴の顎に掌底を食らわせろ。それで奴が吹き飛べば、守護霊とのあいだに距離ができ、そこで魂帯が(あら)わになるはずだ。それを右手の刀で斬るっ)


(なるほど。了解だっ)


――ザザッ!――


 念話が終わると、イズミは急停止をかけ、白狼に向けて構える。


「!?」


 腰を落とすイズミを見て、何かを察したのか、白狼も一旦足を止めた。長い前髪の隙間から、(いぶか)るような目つきでイズミを睨みつける。

 そのまま白狼は、構えるイズミの周囲を、円を描くように歩き始めた。


(……警戒し始めたか? 勘のいい奴だな。しょうがない)


 カウンターを狙っているイズミとしては、相手に攻撃を仕掛けさせたい。そのため、少し挑発的な言葉を投げかけた。


「どうした、怖気づいたのか?」


 それを聞いた白狼は、睨みながら舌打ちをする。そして「くそ野郎がっ」と叫ぶと、再度攻撃を仕掛けてきた。

 白狼の右拳がイズミを襲う。


(右の拳っ。いきなり当たりかっ)


 イズミはまず、この右拳を払った。


「みぎ」


 払うと同時にそう呟くイズミを、今度は左拳が襲う。


「ひだり」


 これも払うイズミ。

 左拳を払われた瞬間、白狼は頭突きの体勢を取った。


「ここだっ!!」


――ガゴォンッッ!!――


 狙いどおり、頭突きをしようとした白狼の顎に、イズミの強烈な掌底がヒットした。


「あがっ!!」


 白狼が後方に吹っ飛び、その位置に取り残された狼の霊体と距離ができる。

 これにより、白狼の足と霊体の足を繋いでいる魂帯が露となった。

 イズミは、それを見逃さない。


(斬れ、義経!!!!)


 イズミが右腕を振り下ろすと、それと同時に、義経の刀が振り下ろされた。


――ザンッッ!――


「いったか!?」


 手応えはあったが、魂帯が斬られた様子はない。


『ダメだっ、ぎりぎりで霊体を戻したぞっ。狼の足を少し斬っただけだ!』


 霊体を足元に戻した白狼が、すぐさまイズミに突進してくる。

 勝負を決めたと思ったイズミは、この突進に対して反応が遅れた。


――ドゴンッッッ!!――


 白狼の頭突きが、イズミの胸部に激しく衝突する。


「ぐはっ!」


 その衝撃で、イズミは後方の大木に向けて吹っ飛んだ。


『くっ、イズミっ』


 イズミと感覚を共有する義経の体にも、鋭い痛みが走る。

 イズミが大木に体を強打すると、手応えを感じた白狼が薄ら笑いを浮かべた。

 今の一撃のダメージが大きいことは、離れて一部始終を見ていた巫月や与一からもよく分かった。


「ありゃー、さすがに今のは効いたかなー」


『そうですなぁ』


「でも爺、あれは本当に大英霊なの?」


『ええ、あれは間違いなく大英霊の義経さまです。あの方は私を憶えていないかもしれませんが、私のほうはよくあの方を憶えております』


「だったら、いくら白狼といえども一瞬でやられていると思うんだけど」


『大英霊さまが本気を出せていれば、そうなるでしょうな。だが、残念ながら宿主のレベルが大英霊さまのレベルに追いついておりません。それゆえ本来の力を出しきれていないのだと思います』


「そうなの? いや、でも、あの人も充分すごいと思うけどなぁ。ほらっ、立ち上がったよっ」


 巫月たちから数十メートル離れた大木の下で、イズミがゆっくり立ち上がった。

 イズミが吹っ飛ばされたことで、イズミと義経のあいだには距離ができている。

 義経は、イズミが飛ばされた際も、すぐにイズミのもとに駆け寄ることはしなかった。大木に衝突する瞬間、イズミの魂力の光が一瞬だけ増加したのが見えたから、加えて感覚共有により重症でないことが分かったからである。

 この判断により、義経は、敵に背を向けることなく戦闘態勢を維持できた。


『イズミ、大丈夫だな?』


 白狼から目を離すことなく、義経が声をかける。


「問題ない。衝突の瞬間に蝶を出した」


 言葉どおり、大木に衝突する瞬間、イズミはあの蝶の霊体を出していた。そして、蝶が作り出す浮力で、衝突の衝撃を緩和したのである。


『見ていたよ。君の成長には本当に驚きだ』


「褒めてもらえたのは有難いが、どうする?」


『……そうだな。じゃあ、こうしようイズミ』


 義経は、そう言った後、また念話を始めた。


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