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83. 提案

「どういうことだ?」


 椿木が詳細な説明を白玖に求める。


「二週間後に、創世会の大規模な集会が京都本部で開かれ、一万人もの信者が集まります。そこにMISTの代表者五名を招請(しょうせい)させていただきますので、イズミさんの協力を賭けて、我らの代表者五名と戦っていただきたい」


 白玖は、皆に目を向けながら説明した。

 その提案に、隊員たちの目つきが鋭くなる。各自思うところがあったが、まず京園寺が口を開いた。


「何を言いだすかと思ったら、俺たちに見世物のようなショーを行えと?」


「確かに見世物とも思えるかもしれませんが、守護霊の除霊もありの真剣勝負です。そうやって十名もの人間が必死に戦う姿を見せれば、その結果がどうなろうと、文句を言う人間は出てこないと思いませんか? そこまですると、人というのは納得するものです」


「……逆を言えば、そこまで見せないと信者たちが納得しないということか」


「ええ。戦いには私も参加します。私は、こうなっても信者からの信奉は厚いので、その私が必死に戦って負けたとなれば、みんな心から諦めてくれるでしょう。無論、私も幻宝を欲する者の一人ですから、負けるつもりはありませんが」


 白玖の話を聞き、京園寺は視線を椿木に向けた。

 椿木が、少し考えた後に話しだす。


「ふむ。突飛な提案なようで、実はよく考えられている提案だな。これなら、君たちが勝っても負けても信者の気持ちは抑えられる。戦う人数もよく考えられているじゃないか。一戦だけでは物言いが起こることもあるが、五戦やって負けたとなると人間は諦めがつく。参考にしたのは、武道の団体戦か?」


「ええ。信者はほとんどが日本人ですからね。馴染み深いかたちにしたんですよ。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将というやつです。それに沿って、勝ち抜き戦にすればいいかと」


「なるほどな。それにしても、まさか信者の前で時代錯誤の決闘とは。確かにこのかたちにすれば、お互いに最小限の犠牲だけでこの戦いを終わらせられる」


「私の信者の中には……身体的障害を守護霊の力でカバーしている者もたくさんいます。このまま戦いが大きくなって、そういう者たちまで守護霊が除霊されることになったら、全くもって忍びない……。だから必死で考えたんですよ」


 白玖は、伏し目がちに優しい表情を見せた。

 椿木は、そんな白玖の表情から彼の純粋さを感じ取る。イズミから聞いていた白玖の人間像は、一旦は襲撃事件で崩れたが、この空気で静かに是正された。


「それで白玖くん、アタシたちが負けたら、イズミが創世会に協力しなきゃいけないのよね? それは分かったけど、あんたたちが負けたらどうしてくれるわけ?」


 ここで、桜が頬杖をつきながら冷静な口調で訊く。

 すると白玖は、「その場合は」と言って顔を上げ、はっきり断言した。


「創世会を解散します」


「!!」


 白玖の言葉に、会議室の者全員が動きを止める。


「本気なのか?」


 椿木が訊くと、白玖は「ええ」と言った後、ゆっくりと創世会の成り立ちについて話し始めた。


「創世会は……」


 創世会は、元は羽生田を教祖とした中規模の宗教団体であった。家族を亡くした者たちを集め、心の傷を癒すことを目的としていたのだが、羽生田が夢幻力の存在を知ってから、それが変わっていく。

 羽生田は、幻宝の封印を解けるという強い魂力を持つ者を探し始め、数年後に白玖に行き着いた。そして、白玖を中心とした新しい体制の構築を始める。

 白玖は、亡き妹に会いたかったため、すぐにその話に乗って、幻宝を求める教団の教祖となった。それが今の創世会の始まりである。

 それから、幻宝の情報を得るには経済力が必要となるため、白玖たちは同じ思いを持つ人々を次々に勧誘していった。この時に約束したのが、幻宝の獲得である。これを約束することで、傷心の信者が数多く集まり、今の巨大な創世会が出来上がった。


「……ですから、幻宝が得られないのであれば、創世会は存在意義すら失われるんですよ」


 説明が終わると、白玖は椿木を見つめた。


「本気……なのだな。しかし、事が事だけに、私も本部長としてすぐに君の言葉を信じるわけにはいかない。それは分かるだろう?」


 椿木が腕を組んで訊く。


「はい。ですから、これを用意してきました」


 そう言うと、白玖は内ポケットから何かの書面を出した。


――パサッ――


「……霊書(れいしょ)か!?」


 白玖が書面を広げると、椿木が驚きの声を上げる。

 霊書とは、強大な魂力を込めた契約書である。これには呪符的な効力があり、これを用いて契約を交わした場合、不履行の代償は契約者の死または守護霊の消滅となる。その代償の重さから、滅多にこれを目にすることはないが、白玖はこれを出してきた。


「ここには、“敗北により創世会が解散する”とはっきり記載されています。私のサインは終えていますので、これを受け取ってください」


 白玖が、まさに覚悟を決めた者の目をして、霊書を椿木に手渡す。

 椿木は、立ち上がってこれを受け取ると、すぐに一読した。


「勘違いしないでいただきたいのですが、私はMISTのほうにサインは求めていません。私の覚悟を信じてもらえれば、あなたたちからのサインはいらない。それでも、この霊書による私への効力は発生するはずです」


 椿木が読んでいる途中で、白玖が言葉を加える。

 読み終わると、椿木は霊書をテーブルの上に置いた。


「……なるほどな。しかし、そうはいかんだろう。MISTの人間を見くびってもらっては困る」


 鋭い眼光を放ちながら、椿木が白玖に言う。


「い、いえ。決して見くびって言ったわけでは……」


 白玖は、その眼光に一瞬気圧(けお)されそうになった。

 すぐに椿木が、テーブルの上に置いてあった京園寺のペンを手に取る。


「椿木さんっ、サインするつもりですか? それにサインしては何かあったときにあなたの命が……」


「大丈夫だよ、京園寺。覚悟には覚悟を以って答えねばな」


「しかしっ……」


 サインを止めようとする京園寺を、椿木は微笑んで宥めた。


「霊書を作れるほどの霊体となると、彼の守護霊はよほど強いのだろう。しかし、私はお前たちが負けないと信じているからな。イズミさえ良ければ、サインすることなどどうってことないさ」


 そのまま椿木は、イズミのほうに目を向けて言う。


「イズミ、負けたらお前は創世会に協力することになる。その条件でサインするがいいか?」


 その問いかけに対し、イズミは立ち上がって力強く答えた。


「絶対に負けないので、問題ありません」


 イズミの返答に、椿木だけでなく赤星や桜も口角を上げる。


――シャシャシャシャシャシャッ、シャッ――


 そのまま椿木は、勢いよく霊書にサインした。


「これで契約成立、だな」


 椿木が口角を上げて言う。

 白玖は、「え……ええ」と言葉を詰まらせながら答えると、振り返ってイズミに視線を向けた。


「……私も負けるつもりはありませんよ、イズミさん」


 霊書が光り輝く中、白玖が重々しい口調で言う。

 これにより、MISTの代表者たちと創世会の代表者たちによる正式な団体戦が決定した。


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