82. 謝罪
帝霧館に突然訪問してきたのは、今まさに議題の中心となっている創世会、その教祖である白玖だった。
敵のトップが堂々と現れたことに、隊員たちは驚きを隠せない。
「本物なのか?」
「はい。外見も情報と一致していますし、魂力もかなりの値でしたので間違いないかと」
椿木の問いかけに佐治が答える。
続けて椿木が「教祖がたった一人で来たというのか?」と訊くと、佐治は「そのようです」と直立したまま頷いた。
「……ふむ。意図が全く読めないが、この前の花見の時といい今日といい、大した度胸の持ち主だな」
椿木がそう言うと、イズミが前に出てきて進言する。
「椿木さん、あいつは多分、戦う意志なくここに来ています。この前も、一人で来ることで戦う意志がないことを証明しました。だから今回も、そう考えていいと思います」
イズミの言葉に、椿木は「ふむっ」と腕を組んで考え始めた。
そのあいだに、赤星と桜が話をしだす。
「まあ、これだけの霊能者が揃ってるとこに、一人で戦いを仕掛けてくる身の程知らずはいねえわな。でもムカついてるから、ちょっとワンパンくれてきていいか?」
「ダメに決まってるでしょ、バーカ」
白玖の登場に驚きはしたものの、赤星も桜も全く萎縮していない。
二人がそんな会話をしていると、考え終えた椿木が口を開いた。
「分かった。ここに通してくれ、佐治」
「ここですか? 部長室でなくて宜しいので?」
「ああ。どんな話になるしても、皆がありのままを聞いておいたほうがいいだろう。それに、ここにいる者たちは一人一人が状況判断に長けている者たちだ。何が起きても必ず最善の行動が取れると、私は信じている」
佐治の質問に対し、椿木が皆を見ながら答える。
そんな椿木に対し、会議室にいた者全員が笑みを向けた。
「承知しました」
佐治も笑みを見せ、部屋を出ていく。
――トントンッ――
それから数分後、佐治に案内され、白玖が会議室に入ってきた。
白玖は、魂力を完全に抑えているため、全く威圧感はない。隊員たちが刺すような視線を向ける中、足を止めると、皆に向けて堂々と挨拶をした。
「イズミさん以外は初めましてですね。創世会の白玖と申します。今の状況を大変心苦しく思っていますが、名高い皆さんに会えたことは、本当に嬉しく思います」
敵地にいるというのに、白玖は全く物怖じしていない。それよりも、強い意志を持ってここにいることが、その瞳から感じられた。
挨拶が終わると、すぐに椿木のもとに向かい、落ち着いた口調で話し始める。
「本部長の椿木さんですね? 突然の訪問、本当に申し訳ありません。しかし、事態が急速に進んでいるので、もたもたしていられませんでした」
「ふっ、他人事のように言うじゃないか。事態を急展開させている張本人が」
椿木は、軽く鼻で笑って答えた。
「……それについては、今から説明させてください。これだけの方々が集まっているのなら、こちらとしても都合がいい」
椿木の僅かな攻撃的発言にも、白玖は動じない。
「では、本当に話をしに来たと判断してもいいんだな?」
「ええ。もし少しでも疑っておられるなら、この場で私を縛り上げてくれても結構です。そんなことで信じてもらえるなら」
椿木の言葉に対し、白玖は椿木の目を見つめて答える。
「……いや、その必要はないだろう。一人でここに来たことが、すでに君の敵意のなさを証明している」
そう言うと、椿木は隊員たちと同じように椅子に腰掛け、どうぞというように右手を差し出した。
白玖は「有難うございます」と礼を言うと、深々と頭を下げ、皆に向かって話を始める。
「まず、ここ数週間の創世会の襲撃について、深くお詫び申し上げます。こんなことが起きてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
ここで白玖は、再度頭を下げた。
白玖のこの謝罪に、会議室にいた者全てが違和感を感じる。それを最初に言葉にしたのは、赤星だった。
「おいおい、その言い方だとお前が知らねえとこで起きたみてえじゃねえか。お前が命令したんじゃねえのかよ?」
「私は、何も命令していません。一部の幹部が、信者たちを先導して行ったことです」
「っ!!」
「マジかよ……」
これには赤星だけでなく、他の者も驚いている様子だった。
「それが本当なら、今からでも君が動けば、事態を収拾できるんじゃないのか? 信者たちに、この襲撃が間違いだったと伝えればいいだけのことだ」
京園寺が訊くと、白玖は首を横に振って「それで解決できるなら、わざわざここまで来たりしません」と答えた。
「幹部たちの先導により、今までじっと幻宝の獲得を待っていた者たちが、次々と行動に出始めました。その流れはどんどん広がり、今や創世会の半数以上が強行に賛成しています。ここで私が何を言っても、事態はさほど変わりません」
「しかし、このままいけば、彼らは全員が逮捕対象となるんだぞ」
「分かっています。しかし、彼らの故人に会いたいという気持ちは、そんなことを上回ってしまってるんです。ご存じのとおり、亡くなった者が生まれ変わってしまったら、もう二度と前世の状態では会えません。ですから、それまでに何とか会いたいと必死なんですよ」
「……そういうことか」
京園寺が黙ると、ここで椿木が会話に割って入る。
「では、どうするつもりなんだ? 何か策があるからここに来たのだろう? ただ謝罪に来たというわけではあるまい」
「はい。少し突拍子もない話になりますが、聞いていただけますか?」
椿木は「勿論だ。こちらも思案に暮れていたところだからな」と言うと、足を組んだ。
白玖が礼を言うように頷き、皆に視線を移す。
「では提案なのですが、創世会の信者の前で、MISTと創世会による正式な代表戦を行いませんか?」
白玖は、目の前にあるテーブルに両手をついて、力強く問いかけた。




