リアルフレンズ
「なぁ、ホッシー。ホッシーは私がホッシーを殺したら、どう思う?」
正直、はぁ?っと思った。
んでもって、即返答。
「どしたのツッキー?変な毒キノコでも食った?」
「毒キノコ基準だったら変もクソもヘッタクレもないんじゃないの?」
とりあえず、いつもの他愛やりとり。オレがボケて、ツッキーこと月沢稀羅が突っ込む。ちなみに背景描写を説明すると、辺りはすっかり夜。時間は…あー、ま、いっか。時間なんてそれほど大切じゃないし。時間を意識するのなんて社会デビューしてからでいい。少なくとも高一になりたてホカホカのオレ達にゃあ関係ない。まぁ、このまま大学にも上がらず、ニートになるんなら関係ないけど。
「コラ星川!星川流!自分の世界に浸るな!なんか色々考えるな!そして私の質問を無視するな!」
「あー、クソ。上手く話逸らせると思ったのに…てか大体なんだよその鶏糞並にくだらないレベルの質問は」
「くだらなくない!それに鶏糞って失礼だな!せめて肥料に出来る馬糞にしろ!」
「糞であることは別に良いんだ?」
「うぅ、もーいだろ糞の話は!大体女の子に向かってする話か!?」
「じゃあ、最初に君がした質問は友人にする話なのかい?」
「…う。いや、えーっと………」
あ、黙った。この女、押し負けた時が一番可愛いな。あー、でもちょっと空気気まずいかな。お互い住む団地までの距離と時間を考えると、あと15分ぐらいこんなカンジになる。仕方ない。
「そうだなぁ。ツッキーに殺されるかぁ。うーん、別にいいかな。ツッキーに殺されるんなら」
「えぇ!!ほ、ほ、本気で言ってんのぉぉ!?」
そんなオーバーリアクションとらなくても。芸人じゃあるまいし…っと言おうとしたが、その格好がとてつもなく可愛いかったので良しとしよう。
「死ぬの、怖くないの?」
「いやー、そりゃ生きたいよ。少なくともあと20年くらい」
「それって少なすぎない?」え、そう?オレ的に妥当な数値だと思うけど。まー、オレから言わせりゃ世の中が高齢化しすぎだと思うのだが。
「ま、あくまでツッキーに殺されるってのが前提の話だね」
「他の人じゃ嫌なの?」
「うむ、絶対嫌だね。全く知らない人に殺されるなんて屈辱的すぎる。あー、親族も嫌だね。てか一番嫌かも。オレは一人っ子だから尚更。親がオレを殺そうとしたら、『じゃあなんでオレを生みやがったんだクソ野郎!だったら始めから子作りなんかすんじゃねー!』ってブチキレる。まぁ、だったら唯一の親友であるツッキーが良いってなるよ」
「でも親友に殺されても屈辱的じゃない?」
「いんや、全然。だってツッキーとオレってドングリ仲間だし」
「え?なにそれ。ドングリ仲間?団子三兄弟の派生ソング?」
残念。そのボケはあんまりオレのツボを刺激しない。無理矢理すぎる。
「ツッキーってボケ担当なのかツッコミ担当なのかどっちなの?」
「私は中立よ」
はいはい、そうですかー。もう好きなだけやって。
「まぁ、ドングリ仲間ってのは『どんぐりの背くらべ』ってことわざあるだろ?つまりあれのこと」
「どっこいどっこいってこと?」
「んー、まぁ正解にしておこう。オレ達ってお互いさらけ出してるし、あんま隠し事しないだろ。ヘタすりゃ自分達の親以上にお互いを知ってる。それに一緒に過ごした時間も長いから、知りすぎてるぐらいだ」
「確かにね。小学生一年から一緒に遊んでんだもん。恋に発展してもいいぐらいよ」
あれ?小一だっけか?てっきり小三からだと。
「あのー、考え込む前に恋の発展へのツッコミとかしてくれませんかー!?」
「そうだな。残念ながらツッキーを恋愛対象においたことはないな。親友は親友としてしかみれない」
「真面目に言われたらボケようないじゃない。ま、私もホッシーを恋愛対象にしちゃったら人生終わりだと思うわ。アルマゲドーン!」
またまた意味不名なボケ。ちなみにツッキーは映画のアルマゲドンを題材にしたつもりだが、残念ながらアレは最期ハッピーエンドだ。
「話が大分逸れた。要するに信頼性が最終的に大事ってことだよ。信頼しきった上で殺されるなら、それはそれで良い」
「…むぅ。なんか納得いかないな。それって裏切りって形じゃないの?」
「世間一般的には。でもあくまでオレ個人の考えだから良いものは良いんだよ」
「なるほどー。そっかそっか。いや〜さすがホッシー。私が見込んだだけの事はある。てなると、私らはルパンと次元ってところだねー」
おそらくルパンはツッキーで次元はオレ…かな?ツッキー主人公好きだし。
「不二子とルパンって選択肢はないの?」
「だったらホッシーが不二子になるけどいい?」
「…いや、ルパンと次元にしといて」
なんやかんやで、もう家の前だ。こんなやり取りで毎日下校出来るなんて最高。最高すぎて、楽しすぎて、これ以上の幸せなんていらない…てのは大袈裟だな。あ、こんなに生に感謝してちゃツッキーに殺されられないじゃないか。
「はぁ、結局ダメだな。オレは」
「ん?なんか言った?」
そう言ってあどけないツッキーの瞳がオレを覗いてくる。
「いや、ただの独り言」
あとはお互いのそれぞれの家を目指す。ツッキーがB塔の3階でオレは2階だ。ツッキーが階段を上ってドアの前にたつ。
「じゃあ、また明日ねー。シーユーネクスト!」
ドアを開けようとするツッキーにオレは言う。
「なぁ、ツッキー」
「ん?」
ツッキーが振り向き、オレと目が合う。
「ツッキーはオレに殺されたら、どう思う?」
「………」
しばらく沈黙が流れてツッキーは難しい顔したが、笑顔になってこう言った。
「別になんとも思わなーい。だって死んだらなんも思えないし、考えられないじゃん」
あ、確かに。え、いや、ちょっと待て。その答えが通ると真面目に考えたオレが馬鹿みたいじゃないか。
「『み・た・い』じゃなくて、バカなんだよ〜。じゃーね、マイ・フレンズ」
ドアが閉まる。あー、なんだろう。最後の最後にあの鶏糞女め。もーいーや、さっさと家に入って、飯食お。だが、あの笑顔。可愛いすぎる。明日も楽しみだ!