檻に見えたベランダ〜緊急Mission 恋の囚人に応答せよ〜
夕暮れ時、女子高生の市津七湖はルーティンをこなす。ベランダから眺める事を。それには目的がある。
柵の上に両腕を乗せ手の甲に顎を置き眺めていると、目当ての男子高生が歩いてくる。彼の名は凄雲輝。彼女の幼馴染みだ。
彼が気付き手を上げ軽く手を振る。彼女は柵に肘を付き振り返す。このやり取りが彼女の日課だ。
実のところ、彼女は彼が好きだ。深く後悔してる事がある。中学の卒業式に告白しそびれた事だ。
あの日、彼は同級生をとわず記念写真を頼まれてた。列が出来るほど。そんな彼を見て自分が惨めで告白する勇気が萎えた。
撮影を終えた彼が彼女に気付いた。彼女は全力で走り逃げ出したのだった。今でも彼女は思う。あの時、なぜ諦めたんだろうと。
日課を継続中だ。今日も彼を待つ。暫くして姿が見えてきた。彼女は激しく動揺し体が硬直する。なんと彼が女子と歩いてるのだ。
女子を注視する。綺麗な顔立ちだ。彼女の制服に目が留まる。お嬢様女子校のだ。しかも偏差値の高い。
二人は互いを見つめ楽しそうに家の前に迫る。彼が普段通り合図する。
彼女の視線は相手に向いている。すると、目が合った女子高生が軽く会釈する。気まずい彼女はしゃがみ込み柵を両手で握り俯いた。暫くそこで放心していた。
あの日以来、彼女は日課を辞めた。暫く傷心を引きずっていた。現在は立ち直り、キッパリ断ち切れそうだ。
学校の帰りに消しゴムを買い忘れていた事に気づく。それで近くのコンビニまで買いに行く事にする。門を出ると彼が壁にもたれ掛かってるのに気づく。
「やっと出て来たか? 囚人」
「囚人って何よ!」
「この間、ベランダの柵を掴んでしゃがみ込んでたじゃん。あれ、檻の鉄格子を掴んで出してくれと叫んでる囚人に見えたぞ」
「馬鹿にしないでよ!」
「そう見えたんだ俺が」
「何しに来たのよ!」
「なんか手を振らないと調子狂ってさ。なんで辞めたんだ?」
「私から言わせる気? 人間性を疑うわ!」
「ひでぇ。言う事あって待ってたんだけどな、ここ最近」
「自慢? 彼女出来た事!」
「いねぇよ」
「……だってこの間」
「あれは従姉妹だ」
「あぁっ」
「さっきはごめん」
「何が?」
「さっきの囚人」
「いいよ別に」
「檻にいたの俺だ」
「どういう事?」
「気付いたんだよ」
「何?」
「七湖が好きなこと」
「えっ!」
「七湖は、どっ、どうかなっ?」
「ずっと前から好きだよ」
「ふう〜っ、やっと解放された」
「私もだよっ!」
その瞬間、街灯が付き二人を照らす。