3-04 勇者パーティを解雇された最強防御の加護持ち雑用係、通りすがりの魔王様に拾われる
魔王城が聳え立つ森で、突然勇者パーティの解雇を言い渡されたルルカ。
その理由が、雑用係で地味眼鏡で勇者パーティに相応しくない、という理不尽なものだった!
ただ、中にはルルカを引き留めようとした仲間もいたのだが、結局ルルカは勇者パーティを抜ける決意を固める。
しかし、いざ帰るために一人で森の中に入ると、極度の方向音痴ゆえに出口が分からない!
さらに、偶然森にいた魔王様とぶつかってしまい、隠された能力を見抜かれてしまい!?
「貴様、最強防御の加護を持っておるな?丁度いい。俺を守れ」
「ま、まま魔王様だあああ!!」
果たして、魔王様の思惑は何なのか?そして、ルルカの運命はどうなってしまうのか!?
「ルルカ・アンクワイアット!今日付けでお前は、この勇者パーティから抜けて貰う!」
「……はぁ」
あらら。なんということでしょう。
私、ルルカ・アンクワイアットは、魔王城が聳え立つ森の中で突然、勇者パーティを解雇されてしまいました。
一応雑用係ではありますが、足を引っ張る事は一切してませんし、ここまで多くの魔物と戦っても全員無傷だったんですよ?
はてさて、なぜでしょう?
「えっと、どうして抜けないといけないんですか?ちゃんと炊事や宿の手配、掃除洗濯もしていたのに……」
「はぁ!?あ〜んなちっちゃな仕事で、この勇者パーティの一員にでもなったつもりか?そんな訳ねぇんだよ!ギャハハハ!」
そう言って私を嘲り笑ったのは、この勇者パーティの勇者であるタロウ様。
黒髪にノッペリとした顔ではありますが、これでも重い剣を振り回して魔物を倒す、なんか凄い人です。
でも、私をパーティに迎え入れた時は「一緒に頑張ろうな!」と言ってくれる程優しかったはずなんですが、この変わりようは驚きですね。
「そうよそうよ。ここまで仕方な〜く連れて行ったけど、もうすぐ魔王戦なのよ?地味眼鏡でダッサイボサボサ髪のあんたが勇者パーティに居続けたら、私達の株が落ちちゃうわ。勇者パーティは、美男美女がモットーなの。だから、あんたにはここを抜けて貰うわ」
そう言ったのは、魔女のエルン様。
超絶美人でボンキュッボンの身体の持ち主。そして、この身体で世の男性陣を虜にしてるらしいです。
エルン様曰く、魔力がめちゃくちゃ高いそうだけど、そういや私はまだ大掛かりな魔法を見ていない気がします。
まぁ、そんな事は全く関係ない話ですね。
それにしても、もうすぐ『魔王戦』なんですねぇ。
ここまで皆のために働いてきましたが、雑用係はもう終わりかもしれません。
私はここで短いため息をつき、タロウ様とエルン様の提案を呑もうとしたその時
「まっ待ってええ!!」
と突然、誰かが私にタックルしてきました。あ〜れ〜。
「タロウ様!エルン様!ここで、ルルカを勇者パーティから解雇するのはやめて下さい!」
「オ、オリヴィア」
どうやらタックルしてきたのは、可愛らしい容姿をした聖女で、私の友達であるオリヴィアでした。
そんな彼女が、涙目で抗議をしてくれるだなんて、なんだか少し嬉しいですね。
でも、次の瞬間
「どうせ帰る時も、ルルカは必要になってくるんです!貴方達がそう言うんだったら、むしろ凱旋パレードとか慰労会にはルルカを出さない方向でもいいじゃないですか!むしろそうするべきですよ!」
と言いながら、本音を盛大にぶちまけて熱弁していたのには、少し引いてしまいましたけど。
はい。今回も清々しいディスりをありがとうございます。
けれど、彼女の言う事は正しいですし、むしろ私自身最初から目立たない方が嬉しいんですけどね。
「おい。それ、本気で言ってるのか?ここまで一緒に危ないダンジョンにも進んだし、険しかったんだ。ルルカを一人で帰らせるのは危険すぎる!俺ならもっと、早くからルルカを安全な場所に送ってから言い渡すぞ?なのに、こんな魔王城の近くで彼女一人置き去りにするだなんて、頭おかしいんじゃないのか!?」
そう抗議したのは、剣士で元冒険者のディルクさん。
大きくてガタイのいい見た目をしていて、大剣で魔物を薙ぎ倒すとっても強い人です。
その上、私の仕事である洗濯や掃除も助けてくれた、めちゃくちゃ良い人なのです!
しかし、ディルクさんがそう反論した途端、タロウ様とエルン様はニヤリと口角をあげ、いきなり高笑いし始めました。
「ぶあっははは!だからだ、ディルク!この娘は、このままここに放置させるんだ!どうせ雑用以外何も出来ない小娘だ!いる価値などない!」
「そうよそうよ!あと、冒険者だったディルクは知らないようだけど、魔王を倒したら私達勇者パーティは、転移魔法で王都に戻れるの。けれど、この小娘は勇者パーティのお荷物。どうなろうと知った事ではないわ!」
「なっ、何だって!?」
「酷いわよ、そんな事!」
「ま、まあまあ落ち着いて、オリヴィア。ディルクさんも。私は大丈夫だから」
とりあえず、タロウ様達の言葉に激昂するオリヴィアとディルクさんを一旦なだめたあと、私は全員に見えるようにハッキリと首肯しました。
「タロウ様。貴方が本当にそうしたいのであれば、私は構いません。ここで抜けても大丈夫です」
「えっ、ルルカ!?」
「本気で言ってるのか!?帰りは、とっても危ないんだぞ?」
「大丈夫ですって。私はこう見えても、パーティの一員だったんですよ?ちゃんと帰れます!」
「だ、だが……」
私の言葉で泣きそうになっているオリヴィアと、心配しているディルクさんの顔を見ると、何だか『自分を大切に思ってくれてる人達がいたんだな』って心が暖かくなってきました。
ですが、このパーティには、私をよく思っていないタロウ様とエルン様がいます。
しかもタロウ様は、この勇者パーティのリーダーです。
従った方が、きっと魔王退治も楽になるでしょう。……多分。
とりあえず私は、悲しそうな顔を作りながら、タロウ様に向けてこのようなお願いをしてみました。
「さて。私はこれからここを去りますが、その前にタロウ様に二つ程お願いがあります。まず始めに、私にパンと牛乳瓶を一つずつ譲って下さいますか?」
「……ほう?そんなのが欲しいのか?」
「はい。一応飢えを凌ぐためですので、これだけで充分です」
「分かった。では1番大きいパンと牛乳瓶をやろう」
「ありがとうございます!」
ああ、良かったです!タロウ様は本当に物分かりがいい人ですね!
でも、そのやり取りを見ていたエルン様がものすごく怖い顔をしてて、少し心臓止まったのは仕方ないんですけどね。
そして次に、私はタロウ様に向かって最後のお願いをしました。
「そして最後ですが、少しの間だけでいいので、オリヴィアとディルクさんと、話をさせて下さい」
「ほうほう。そんなのでいいのか?」
「はい。遠くの方で話してから家に帰るので、今すぐパンと牛乳瓶を渡して頂けると嬉しいのですが」
「なるほど。だが、彼ら二人を失うのは、魔王討伐で死ぬことよりも怖いからな。エルン、この三人に短時間の追跡魔法をかけてくれ」
「えっ!?わ、分かりました」
おおっ!やっぱりタロウ様は機転が効きますね!
私は安堵の息を漏らしたあと、渡されたパンと牛乳瓶を持ってオリヴィアとディルクさんを連れ、少し遠い場所まで歩きました。
「ふぅ、これで大丈夫!タロウ様もエルン様も来ていませんよね?」
「ええ。でもルルカ、なんでこんな無謀なことを!」
勇者パーティを抜ける事が確定し、その事で既に涙を流しているオリヴィアに、私は優しい声をかけました。
「大丈夫だよ、オリヴィア。とりあえず、今ここに防音魔法をかけることは出来る?エルン様にも破る事のできないもの」
「え?や、やってみる」
そして、オリヴィアは半信半疑のまま両手を組み、私達の周りにしっかりと防音魔法をかけました。
さすがは魔術師の娘です!聖女ではありますが、しっかりドーム状の分厚い膜で覆ってくれました!
「ありがとう、オリヴィア!これで邪魔されません!」
「そ、そう?でも追跡魔法は付いたままよ?これでバッチリかしら?」
「エクセレント!さすが親友!私の気持ち分かってるぅ!」
つい嬉しくなって、私は照れているオリヴィアの腕を肘で軽くつつきます。
けれどその時、ここに来るまで沈黙を続けていたディルクさんが、不安そうに声をかけてきました。
「なぁ、ルルカ。本当にいいのか?帰りも魔物ばかりで、危険なんだぞ?最悪の場合、死ぬかもしれない。だったら俺もパーティから抜けて、最後まで守ろうか?」
「ディルクさん……。何度も言いますが、私は大丈夫です。むしろ、貴方は勇者パーティになくてはならない存在なのです。だから、せめて今は、貴方達の無事をここで祈りたいのです」
そう言って、私は鞄から、緑のガラス玉が付けられたネックレスを二つ用意します。
そして、それらを両手で包んで祈りを込めると、手から白い光が溢れ、次の瞬間ガラス玉が白く染まりました。
「……ルルカ、それは?」
「ああ、気にしないで、オリヴィア。ただ祈っただけよ。きっとこのガラス玉が貴女やディルクさんを守ってくれるわ。だから、決して外には出さずに、服の中に入れて隠しておいて。それじゃあ二人とも、お元気で」
「えっ?ま、待ってくれ、ルルカ!ルルカアァァ!!」
私は二つのネックレスをオリヴィアに渡したあと、ディルクさんの静止も聞かずに、分厚い膜を突き破って森の中を走りました。
やはり、ここは薄暗くて気味が悪いですね。果たして無事に家に帰れるのでしょうか?
あ。そういえば自分、極度の方向音痴しでした!さて、どこに向かえば良いんでしょう?
私はしばらく走りながら、左右を見渡しつつ出口を探します。
すると、いきなり何かにぶつかってしまい、思いっきり尻もちをついてしまいました。
「いってて……」
「む?貴様は、勇者パーティの仲間か?」
「はい?」
いきなり頭上から、とても低い声がしたため、私は顔をあげます。
するとそこには、黒い服と大きな角をした男性が立っていました。
「ほう?貴様、最強防御の加護を持っておるな?丁度いい、俺の城に来い。そして俺を守れ」
「ま、まま魔王様だあああ!!」
な、なぜここに魔王がいるのでしょう!?こ、これは、絶対絶滅の大ピンチです!