表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/27

3-21 試験に出る! 陰キョンシーのオタ活サバイバル(もう死んでるけど)

あのね。


このお話はね。


人見知りのキョンシーの子が、

すンごいお札を集めたくて

がんばって人を襲ったり

復讐したりするお話です。


がんばるから応援してね。

「しゃァッ、仆腿(ぼくたい)旋風脚っ」

 飛び回し蹴りで、カエル頭の中年男が吹っ飛び、漆喰塗りの壁に激突した。

 あのTシャツ姿、たしかイカ焼き屋のジョイさんだな。

「アキちゃん、大丈夫か?」

 フェンスによりかかって座り込む満州服の子どもに駆け寄る。

「たあんき、ぽおんき、たんころりん……」

「もどってこーい」

 ぶつぶつ呟いてるので、大きな官帽をゆさぶる。

「ふえっ? ゴットさん~もう帰りたい~」

 しがみついてきて、ミルクのような甘い香りが鼻をくすぐる。

 なんで道士の俺が、キョンシーのお守りをしてるんだ。

「ほら、今週中にカードを集めるんだろ。ぜんぶで五十八枚だっけ?」

「あと七十二枚ですぅ~」

「多い方かよ! しかも一枚も集まってねえ!」

 フゥ~。ちょっと呼吸を整えさせてくれ。

 このド暑い夜に、長袖の道士服での連戦はつらい。

「ず、ずみません。私、知らない人と話すの苦手で」

「いや、あんな形相で肉をかじりにきたら、俺でもビビったわ」


 ネトゲで知り合った海外在住のオタクの子。

 カードコレクターと聞いて相談にのってたら、探してるのが道教の霊符、しかも霊験あらたかな鎮宅霊符だったというガチ勢だ。

 荷物を送るってんで職場の住所を教えたら、昨日、大きめのスーツケースが航空便で届いた。

 この重さはマンゴーかなと期待して開けてみたら、死体が入っててビックリだよ。


「まあ、アンタの匂いも悪いのか」

「死臭には気をつかって――毎日乳香で沐浴してたんですが」

「どうりで乳臭いわけだ」

 布靴が、俺のスネを蹴飛ばす。ちっとも痛くねえ。

「これでも私のほうが歳上なんです。少しは敬意というものを」

「はいはい、不老不死を求めてキョンシーになるって発想が、もう平伏レベル」

「あれは事故なんです。当時いちばんの仙人受験の雑誌で、寝てるだけで羽化登仙できるって広告が」

 中途半端に効果のある棺桶のせいで、死者だか生者だか区別のつかない、ふつうに歩いて会話もできる奇行種のキョンシーが爆誕したわけだ。

「しかし、人間の俺でも喰い付きたくなる肉質だな。最上等級のA5ランク。死後硬直がほとんどなく、血色も悪くない上物キョンシー。唐の玄奘三蔵以来の出来映えとみたね」

 むっちりした小顔を両手ではさみこむ。

「たまたま今、中華街じゃ月桂樹(ローレル)の葉っぱが品薄でな。そのせいで月の女神様が、地上に降りてこられねぇんだ」

 イライラした月の光に当てられてか、いつもは理性的な妖怪たちが、ひどいもんだ。

「虫除けのつもりで月桂樹のアメちゃんならありますが……」

 幼キョンシーは、串に刺さった菓子を(そで)から取り出す。中華街でも人気のフルーツあめ、すなわち糖葫蘆(タンフールー)だ。

「さっきから何でも出てくるな」

「お気に入りキャラが暗器使いなので」

 このキョンシーはさっきから門を通るたび、関帝廟の線香のように、この串アメを差しては恭しく礼拝している。

 もしかして無限収納スキルとか持っているのか?

 ゲームやラノベをリアルに持ち込むなよ。


「あんたの捜してる符術師の(チャン)って、カードマスターの(チャン)か?」

「そういう自称もあるようですが」

「事業に成功したとたん無尽講を勝手に抜けたとかで、新築のビルを燃やされて逃げたらしいぞ」

「でも占いでは、まだ中華街にいると出ています」

 算木を袖から取り出し、重ねてみせる。

 チャットでこいつの筮竹をみたことがあるが、占いスキルは本物だ。

地下明夷(ちかめいい)。地下の祠にでも潜っているのでしょうか」

 また算木を組み替える。

「その前に出たのが沢雷随(たくらいずい)。善きものの場所であり、悪しきものも来る雷の鳴り響く場所」

「それで警察署か」

 いま向かっているのは、中華街の端にある、県下で最も歴史ある警察署だ。

 占いには霊感や直感が大切なんだが、こういう解釈は斬新すぎないか。

「さらに絞り込むなら、街の中の『沢』といえば下水道。ちょうど警察署の裏手には、最古の公衆トイレがあるんです」

 よく知ってるなあ。

「中華街を歩けるゲームがありますので」


 警察署のわきのガタガタする古いレンガの歩道を、このキョンシーはよたよたと歩き、なんとかその先の男子トイレに入り込んだ。

「地下室に通じる、秘密の扉を探してください」

「そういうの大好き。ここ壁っぽいけど、扉だな」

 ゲームで鍛えた察知スキルをいかんなく発揮する俺。

 扉の最上部と最下部を同時に押すと、あっさり手前に動いた。これは扉だと知らないと開けないな。

 扉の内側には、うっすらウサギの転んでいる絵が描かれていた。

 そして「禹歩触門」の四文字。

「あはは、これは『守株(しゅかぶ)』をもじったフレーズです。ほら、満州唱歌の『待ちぼうけ』で有名な」

「元は『兎歩触株』、『ウサギが歩いて株に触れ』か」

「こちらはよく見ると、ウサギではなく『禹が歩いて門に触れ』ですね。禹とは治水で名を残した古代の皇帝。となれば、この門というのは水門のことでしょう。中華街の龍脈の流れを御する五門といえば、朱雀門、天長門、市場(いちば)通り門の南、善隣門、玄武門ですね」

 俺たちが歩いてきた場所じゃねえか。

「龍脈にアクセスする仕組みが、この中華街にはあったんです」

 扉の奥の階段には、わりと新しい足跡が残っている。

「戦前、中華街で誰かを匿いたいときや、誰かの運気を支援したいとき、警察署とグルになってこの仕組みを作動させていたそうです」

「じゃあアキちゃんが道中の門で、お供えしてたのも」

「不自然だった龍脈の流れを、もとに戻してたんです」

「さっきレンガの歩道で変な歩き方だったのも」

禹歩(うほ)ですね。カラダが硬いんで不格好でしたけど、ちゃんと決められた順番にレンガを踏めたはずです」

「マジか、全然気づけなかった」

「動くレンガには仕掛けがある……というのはゲームの基本ですよ。さあこの先、龍脈を勝手にいじった不届き者がいるはずです」


 俺たちは、白レンガの階段を降りていった。

「耐火レンガですね。ところどころ焼け焦げているのが、まさに龍が通った証拠です」

 そして通路の先には、小さな部屋。

 調度品は古く、冷暖房もない戦前の施設だ。

「若造、ここは墓所ではないぞ」

 イスに座った老人が、両足を水ダライに沈めていた。

 かたわらのテーブルには、大量の宝くじが積み上げられている。

「さっさと、そのキョンシーを連れて帰れ」

「張。おまえのインチキ通販のせいで、こいつがこんなステータス異常になってしまったぞ」

 俺は、背後からの小声を翻訳して男に伝える。

「とっておきの符を全種類くれたら許してやる。最強万能の符なら、一枚でも勘弁してやる……て図々しいな」

「はっはっは、若輩の道士ふぜいが、このワシを脅迫とは。貴様にくれてやるものなど、これ一枚で十分じゃ」


 道士殺しの呪符《笑符》!


「うひゃひゃ、げへらへら」

 俺の腹がケイレンし、いびつな笑い声があふれだす。

 呼吸を乱すことで、丹田の燃焼を妨げる術だ。


「いひひ、うひ、アキちゃん、タッチ、交代」

「え、ま、まかされました」

 コミュ障キョンシーがおずおず前に出る。

「この人は初対面じゃない。この人は初対面じゃない。たーんき、ぽんき、たんころりん」

 がんばって自分に言い聞かせているな。

「なるほどキョンシーには呼吸は不要。しかもキョンシー封じの符も効かぬ自立型ときたか。ならば、いかなる道士も逆らえぬ方の符じゃ」


 道士屈服の符《玄天上帝八卦符》!


 効かない。効かないんだって、コイツには。

 名のある道士に修行つけてもらってたけど、こいつは道士じゃねえもん。

「たーんき、ぽんき、たんころりん」

 突如、爆竹がはぜて、煙の中から大量のウサギが現れた。

「おいおい、よりによって、ストレスマッハな月の女神……嫦娥(じょうが)様を降ろしちまったのか。殺すなよ、殺すなよ」

 牙をむいたウサギたちが、符術師に襲いかかる。

「だってコイツ、神様にだってなれる童乩(タンキー)だもんな」


「なんで中華街から姿を消したんだ」

 窒息寸前だった張を掘り起こし、いまは《笑符》で無力化している。

「ひゃひゃビルの建築におそろしく金がかかったんじゃ」

「見積もりくらいとったろう」

「ひひひ基礎工事がとんでもない金額じゃった。このワシからボッタくるとはいい度胸だと、別の設計士を雇って杭を半分にさせた」

 あちゃー。

「この街は、もとは沼地の軟弱地盤だぜ? そのうえ大震災と大空襲で、ガレキの上に街があるってもんだ。ビルを建てるのに、よそと同じ予算ですむわけがねえだろう」

「ひひひ、それを知ったのぁ工事が始まってからじゃあ。費用が足りない。払えなかったら命があやうい。それでワシは満願成就の符に手を出しちまったんだなひひひひ」

「その霊符は(しるし)を見せなかったのですか」

「うへへ……その符は、一千万願して千二百人の仲間に託さにゃならんかった。講を抜けたワシにゃあ、もう同志がいなかったんじゃ、げひゃひゃ」

 それで今度は、龍脈をいじって宝くじを当てようと。

「俺なら千二百人くらい何とかできる。その符はよこせ」

「探してみいwww 保管場所は13579じゃよlol」

「わかりました。ゴットさん、スマートフォンを貸してください」

 キョンシーが小さな手を俺にのばした。

「えっ、今ので何かわかったの?」


第1問(10点)

 ありがたい御秘符の安置場所がこの物語中に隠されているぞ!

 見つけてみんなに自慢しよう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 第22回書き出し祭り 第3会場の投票はこちらから ▼▼▼ 
投票は9月28日まで!
表紙絵
― 新着の感想 ―
[一言] ゲーム感覚で進む二人の会話がすごく楽しかったです。コミュ障キョンシーが可愛すぎる。 そして聞き慣れない単語のオンパレードで謎の中毒性がありました。独特の世界観がきっちり確立されていて作中にも…
[一言] タイトル: サバイバルなのに死んでる(確かにwキョンシーだもん) あらすじ: あらすじが可愛い。応援したくなる ひと言感想: ちょっと待って問題が出たよ!? この中に隠れているってこと?…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ