3-01 e-Sports Failnaught
eスポーツ、それはゲームを競技として行い、対戦すること。かつてはスポーツとして分類しても良いのかと議論を巻き起こしたが、現代では立派なスポーツとして認められている。2048年のオリンピックに種目として認められた時は時代が動いたと言っても過言ではないだろう。
そしてRVRシステムによってフルダイブが可能となった今、また時代が動こうとしていた。そんな時、雑賀秀一はとあるゲームと出会った。
かつて、天才と呼ばれた高校生がいた。
曰く、『生まれる時代を間違えた』。
曰く、『来季のオリンピックの優勝は決まった』。
曰く、『彼は銃を撃つために生まれてきた』。
曰く、『彼は銃に愛されている。銃の王だ』。
しかし、インターハイ三連覇を期待されていた彼だったが、2年の大会を最後に射撃の世界から姿を消してしまった。そしていつしかそんな話は人々の記憶から忘れ去られていった。
そして彼が人々の記憶からいなくなってから7年後、世の人々は彼を意外な形で知ることとなる。それは本来期待されていた競技ではなく、eスポーツの世界であった。
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「はあ…………」
職場の同僚に誘われた合コンの翌日、昨日女の子に言われた言葉が俺の頭の中でループしていた。
『雑賀さんってどんなことが趣味なんですか?』
俺はその質問に答えることができず、曖昧に濁すことしかできなかった。高校卒業後家庭の事情で大学には進学せず、そのまま就職してからの6年間、仕事以外にはこれと言ってしてきたことがないからだ。
週一日しかない休日、しかも連日の残業で疲れが溜まっていたので家から出る気にもなれない。その分給料は出るし、大会社の孫会社で福利厚生もそれなりにちゃんとしているためそのことに不満はない。しかし特にやりたいこともなく休日は昼まで寝てゲームをするくらいしかしていない。そのゲームだってメジャーなタイトルを少しやっただけで深い話をできるのかと言われればそんなことは全くない。学生時代には射撃部の活動に打ち込んでいたが、日本では銃を撃つことは簡単なことではない。少なくとも普通の会社員の俺が気軽にできることではないだろう。
そんなことを考えながらスマホでネット記事を見ていると一つのネットニュースが目に止まった。
“ついにRVRシステム対応タイトルにFPSが実装!本日発売のBrave War4に注目集まる”
Realize Virtual Reality、通称RVRは今までにない新しいゲームシステムで、今までのコントロール入力とは違い完全な思考入力を可能にした新システムだ。既存の思考入力は思考でコマンドを入力していたがこのシステムにより、まるで本当にゲームの中に入っているような没入感が売りだと言われていた。
今まではその機能を存分に活かせるタイトルは対戦型格闘ゲームのような狭い空間内のゲームだけだった。しかし今回、人気FPSシリーズのBrave Warシリーズ、通称BWシリーズの最新作がRVRシステムで実装された。
また、Z(旧Tweetter)では既にプレイした感想が投稿されている。過去シリーズのファンの中には「没入感によって今までとゲーム性が変わってしまった気がする」との声も上がっていた。実際過去には格闘ゲームの世界においても単純なコマンド入力ではなくなったことによりプロゲーマー達はVRゲーム内にて格闘術を学ぶこととなった実例がある。
そのことから今後プレイヤーは既存のFPSとは違いサバイバルゲームのような技術も必要になるのかもしれない。実際に一部のプロゲーミングチームではサバイバルゲームのチームによる指導を検討しているようだ。
この記事を見る限り、極めて現実に近い感覚ということだがどの程度なのだろうか。俺はゲームは好きだが格闘ゲームはやらないためRVRシステムのゲームをプレイしたことがない。もし本当に限りなく近いのであれば、久しぶりに銃を撃つ感覚を楽しめるかもしれない。それに、元々ゲームは好きなので射撃の感覚が違っていてもゲームとしては楽しめるだろう。そう思いながらゲーム機とニュースに上がっていたBrave War4をインターネットで購入する。
その一週間後の日曜日、俺はゲーム機と対面していた。毎日仕事終わりの疲れた体でゲームをやる気にはどうにもなれなかったのだ。
俺はインターネットと見比べながら、セットアップをする。これがRPGやストラテジーゲームならDLCなどの方法で課金により強いアイテムやキャラクターを得られることもあるがこのゲームはパッケージ販売のFPSのためアバターの容姿以外に課金要素はない。
また、このゲームには育成要素がなく、買った時点からいきなりプレイすることが可能だ。俺が子供の頃には認知こそされていたがマイナーな職業だったプロゲーマーが野球やサッカーのプロと同じように扱われるようになってからはこういったFPSが増えてきたようだ。それだけ早く遊びたいというニーズが多かっただろう。俺はセットアップを終わると早速ゲームの世界に飛び込んだ。
◇
さて、このBW4というゲーム、どうやら武器やアビリティと言われる特殊能力などを10個まで設定できるらしい。また、武器ごとにポイントが設定されており射程や威力などに割り振れるようだ。
(とりあえず、遠近両方揃っていた方が強いかな)
そんなことを考えながらとりあえずと言わんばかりに武器を選んでいく。武器は射程が短くポイントが少なめのハンドガンと射程が長い対人ライフル、そして中距離で戦えるサブマシンガンの三種類、
どうやら割り振られるポイントはそのまま武器の強さを示しているようで、それぞれ射程、威力、連射性、命中精度、反動で決められているようだ。サブマシンガンと狙撃銃は射程や連射性の項目からかなり高くなってしまいそうだったので他の項目を削ることにした。
反動は大きいと使い辛いため必要な項目と反動を重視する。サブマシンガンの場合連射性、狙撃銃の場合射程距離といった様子だ。
自分の装備を決めたところで銃の撃ち方を確認しておこうとチュートリアルメニューに移動する。
(すごいな。まるで本物の銃を撃っているようなリアリティだ)
本物の銃を撃ったことがあるからこそわかるこのゲームの現実感に驚かされる。そのお陰か過去に銃を触っていた時とほぼ同じ感覚で銃を扱うことができた。
(ああ、懐かしい感覚だ)
過去に銃を触っていた時の記憶が蘇ってくる。最近では全く触ることもなかった銃だが、久しぶりに触るとやはり良いものだ。
しかし、いつまでも感傷に耽っている場合ではない。このゲームのメインはあくまでFPSだ。ならばそれを楽しむのが本道だ。そう考えると俺はオンラインでオートマッチを開始した。
ゲームが始まるとそこは廃墟の中だった。どうやら今回のステージは『廃れた街』になったようだ。マップの特徴としてはこのゲームの中でもかなり狭いステージで、会敵が多くデス数、キル数共に伸びやすいステージだ。
今回はバトルロイヤルルールのため味方はいない。12人が一つのステージに入り殺しあうシンプルなルールだ。
(しかしどうにも難しいな)
先ほどからどうにもうまくいかない。バトルロイヤルルールでは1試合15分とそれほど長くはない。しかし10分ほどですでに5回も殺されていた。しかし、自分自身でも10回は敵を倒しているのでそういうものなのだろう。元々ゲームを始める時に楽しめればそれで良いと思って買っているから殺されてもそれはそれで良かったのだ。
3時間ほどゲームを楽しんだがやはり発売から間もないせいか強い人や弱い人が最初のレーティング帯に集まっていた。二人ほど明らかにレベルが違うほど強い人がいたがまあ始めたばかりならこういうこともあるだろう。そう思ってゲームを終了した。なかなかに楽しめたし、休日ぐらいはこのゲームをやりこんでみるのもいいかもしれない。そんなことを考えていた。
しかし一ヶ月後、俺を取り巻く環境は大きく変化することになる。如月雫という1人のプロゲーマーの少女によって。