あと一日
朝起きてコーヒーを飲む。朝食は取らずに画面に釘付けになって、気が付くと正午。時計を見てようやく空腹に気が付き冷蔵庫を漁ると、恋人の残した唐揚げがタッパーに詰められていた。私はそれと冷凍のご飯を一緒に電子レンジに入れて、電気ケトルのスイッチを入れる。
ふとタバコが吸いたくなり、くすんだ上着を着て外に出る。路上で済ませるつもりだったが、少しでも良い行いをしたい気分になり、近場のコンビニエンスストアに向かう。恋人はまだ眠っている。なにか甘いものを探そうと店内を一周し、トイレに向かう。結局炭酸水だけ買って店を出て、店先の灰皿の前でタバコを吸う。
空はやけに白っぽく、遠くから猫の鳴き声が聞こえる。私はその声の方へ歩き、気が付くと小さな橋の上にいた。眼前には古めかしい民家があり、周りで木が鬱蒼としている。橋の下から声がするので覗き込むと崖の間を小川が音を立てて流れ、崖の表面には今にも折れそうな木が枝を垂らしている。頭上でフクロウが鳴いて、下にあったはずの鳴き声は民家の奥から発情期を訴えている。私は奇妙な気分になって踵を返し、ガードレールに腰掛けてタバコを吸い始める。上手く吸えず、目を凝らすとタバコの下半分に火がついておらず、何度吸っても息が詰まるような臭い煙しか入らない。私は不快になり靴の裏で火を消すと、それを電信柱へと投げかける。
ようやく頭がさえ、顔を洗っていないことを思い出し、彼女の眠る部屋へと歩く。やけに猫が鳴くので振り向くが、そこには何もいない。私は大きく落胆の息を吐き、憂鬱に部屋に入る。
洗面所で顔を洗い、電子レンジの中で冷めた唐揚げをベッドに運び、人形の横で食べる。妙に虚しくなり彼女を探すがどこにもいない。胸に大きな穴が開いたような気持ちになり、目頭が熱くなる。食べかけの皿を流しにおいて私はそのまま眠ろうと思ったのだが、体に染みついた不快な臭いが気になり眠れそうにない。仕方がないので瓶に口をつけてウイスキーを飲み、そのままキッチンで眠りにつく。明日はきっと来ない。頭の中を情報が入り乱れて熱くなる。炭酸水を買っていたことを思い出し、頭にかけるが熱は冷めない。私は耐え切れなくなりIHに置いたままの缶コーヒーを飲み干す。急激な嘔吐感を必死に抑え、便所へ向かおうとするが、重心がずれてしまったように体はゆれゆれして倒れ込む。そこでようやく熱が冷めて私は眠りにつく。かつて脱水になった時と同じように彼女が助けてくれるだろう。