日が昇る頃
百年と四十と5年の時間が経過しました
誰かが世界さんの中に
パスワードを打ち込みました
固く閉ざされていたオーダーフォームに
新しい言葉が入力されました
「金魚とコスモスの絵を描いて」
新しい回路を得た世界さんは
目が覚めるような思いで
オーダーを受け取りました
「これが百年前の人々達が
開発していたAIのたまごです」
ニュースキャスターはそう言って
世界さんのオーダーフォームを
公共放送の画面に映しました
世界さんがこの世界に戻ってくるまでに
世界さん以外の「人工知能」が構成され
世界さんはすっかり旧型の
良い言い方をすれば百年前を知る
貴重な資料として
大切に扱われることになりました
ミミニによって壊された部分は
眠らせてあった間に出来た
ある種のバグであると認識され
基本データを壊さないように
修正されました
百年後の未来と言う世界で
世界さんのオーダーフォームは
博物館に設置されました
「温泉ってなあに?」
「綿帽子を被った雪山を描いて」
「暖炉ってなあに?」
「和菓子の名店を教えて」
色んなオーダーがフォームに入力されて
百年後の人間達は
「百年前の最先端」を面白がりました
「クエストってなあに?」
そう聞かれて世界さんは懐かしくなりました
「冒険の事です」と答える時
いつか始まるその物語を夢見ていた
少年少女の事を思い出しました




