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「っっ……!?」


 部屋に入ったとたんにまばゆい光に包まれ、びっくりして手を両手の前に掲げて防ぐ。

 気のせいかもしれないが、やっとこの時が来た、という声が聞こえてきたような気がした。


「セルン!?」


 俺の部屋から漏れる異様な光にきづいたのか、母さんが素っ頓狂な声を上げながら階段を上がって俺の部屋に向かってきているのが分かる。


「セルン、目覚めし勇者よ。今わが地に来たりて、かの魔王を討伐せよ」


 光の中から恐らく男と思われる声が聞こえてきて後ろに二・三歩のけぞる。

 俺は尻餅をつきながらも、その声に叫び返す。


「な、なんだよ! 魔王……? 一体お前は誰なんだよ!」

「やめて! お願い! うちのセルンを取っていかないで!」


 ドアをすごい勢いで開けながら入ってきた母さんも、その声に対して反抗的な態度を見せる。

 しかし、光の中から聞こえてくる声は、一切動じる様子もなく、淡々とただ答えるのみである。


「お前の意志など関係ない。お前が生まれた時から、このことは分かっていたはずだ。お前の母から何も聞いていなかったのか?」


 いきなり母さんの話が出てきて戸惑う。

 俺がとっさに母さんのほうを振り返ると、母さんは足を内股にして床に崩れ落ち、言葉を失っているようだった。


「あ、あ、あぁ……」


 俺はそんな母さんに走って近づくと、母さんの両肩を持って前後に大きく揺らしながら大きく問いかける。


「どういうことだよ母さん! 俺まだ何も教えてもらってないよ!」


 何回呼びかけなおしても何も返事は返ってこない。

 どういうわけかは分からないが、母さんが何か行動を起こせるような状況でないことだけは確かだ。


「うおっ!?」


 ずっと母さんの両肩を揺らしていた体が宙に浮いて、例の声が聞こえてくる。


「何も伝えられていないなんて可哀想なことよ。だが、だからといってこの家の使命が途切れるわけではない。気の毒だが、最後のお別れだ」


 俺は浮かんでいる空中でジタバタと足を動かすが何の意味もなさない。


「ちくっしょぉ!! なんなんだよこれ!」

「セルン!」


 さっきまで何をしても反応しなかった母さんが、突然動き出し、びっくりして動きを一瞬止める。

 動き出した母さんの方を見ると、俺の方に手を向けながら号泣していた。


「母さん! 何!?」

「今まで伝えてこなくてごめんなさい! あなたは実は……!!」


 何かを母さんは喋っているようだったが、声が小さいのか、謎の光にやられたのか、大事な部分だけ聞き取れない。


「なんなんだよもう……!」


 俺はそう叫んだが届かなかったみたいで、母はその後も何か喋っていた。


「準備は整った。行くぞセルン」


 謎の声がそういった瞬間、目の前に大きな黒い空洞が開き、周りの音が全て消えさる。


「必ず戻ってきて! セルン! 母さんはいつでもあなたのことを見守ってるわ!」


 母さんが俺の方に手を伸ばしながらそう叫んだ。俺も母さんに手を伸ばすが、届くことはない。

俺が母さんから聞いた最後の言葉はそれであった。

 その瞬間、空洞に吸い込まれ、徐々に意識が飛んでいく……








 少しずつ意識が戻ってくる……。


「勇者様だ!」

「勇者様が来てくださったのね!」


 そんな声が聞こえ、目を開ける。


「うん……? 勇者……? えええええええええええ!?!?」


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