近いようで遠い
委員会というのは主に雑用だ、学校として”やりました”が欲しいのだろう、それにしても上辺だけをそろえればいいというのは日本らしいというかなんというか・・。
俺は大神と部活動を見学し、その報告書を提出するという雑用を任されたのだ。
報告書のために部活動を見るというのが分かりやすいのにその逆で表面を固めていくことがなんとも非生産的な作業だ、先生も面倒なのだろうが代々やっているものを急に辞めるととばっちりがきて面倒なのだろう。
「あなた、面倒そうね」
「いや、だってさ、俺らが見学したって入部するわけじゃないし報告書の意味ってなんなんだよ」
「仕方ないわ、私たちが決められることじゃないもの」
「そうだけどさ」
大神も不満はあるのだろう、あいつも非生産的な作業は好まないタイプだ。
「俺ら、委員会に向かなかったんじゃね?」
「まあ、でも内申点はあがるから問題ないわ」
「あーまー、そうだな」
なんとなく納得した。
どんなものでも内申点のためといえば生産的になる。
「あら、佐野君どうされました?」
家庭科部へ見学に行くと白鳥さんが話しかけてきた、彼女は声から清楚さがにじみ出ている。
あの一件から少し気まずいが彼女はそんなことはないようだ。
「委員会の仕事で見学に来たんだ、報告書書かなきゃなんだよ」
「あら、大変ですわね、よかったらお茶でも飲んでいってくださいな、お茶菓子もありますよ」
調理室でクッキーを焼いていたようだ、いいにおいがする・・・もうここで終了して報告書は適当に書いて済ませたいと思えてきた。
「あ、じゃあ・・・」
「だめよ、ちゃんと全部見ないとよくないわ」
大神はきっちりしている、まあ、確かに見ないと後で責められても面倒だ、内申点も逆に下がってしまう。
「あら、残念、ではお菓子持って行ってくださいな」
「でも、不思議ね、あなた1年生でしょ?そんなに出しゃばって大丈夫なの?」
確かに、ここを仕切るのは3年生だろう、勝手に俺たちに話しかけて何か言われても俺も困る。
「ええ、大丈夫ですよ、ここには1年生しかおりませんの、上下関係が苦手な人同士で新しい部活を作りたいと先生に相談したら許可を頂けましたから問題ございませんよ、上級生も見学にいらしてくださいましたが皆さん上下関係が苦手な方ばかりですから、いわゆる、似た者同士が集まるものです」
なるほど、居心地の良い環境を作る上では理にかなっている、上級生というのは1・2歳違うだけで偉そうだ、俺も上級生になればそうなるのか、もしくは下級生がおびえすぎなのか謎の年功序列が発生している。
この学校の部活は2名以上で作ることが可能だ、責任者が必要なため担当してくれる先生が見つかれば部活は創設することができる、そのため、作るときは学校側の許可が必要だ。
逆に『廃部希望』が出た場合は委員会の審議にかけられ解体される、生徒主体で決めることができる。
これはいじめや体罰など学校が隠蔽しないための学校側の対策らしい、一定条件がクリアされれば廃部した部活の復活も可能だ。
よって、白鳥が部活を作ることは容易である、さらに家庭科という教師の負担が明らかに低い事で教師の人気が高くなる、さすがといえる。
「なるほど、いいわね、私も入部したいわ」
「ええ、ぜひともいらしてください」
「ありがとう、まだすべての部活を見ていないので、後ほどお伺いするわ」
「お待ちしておりましてよ」
白鳥と大神が揃うと美女オーラがすさまじい、通りすがる男子も女子も見ていた、この2人が部活に入ったら男子も増えるのでは・・・と思ったが家庭科は男子は苦手だ、そこも視野に入れているとしたら白鳥はぬかりない。
***
「あとは運動部の外ね、疲れたわ、こんなの2人で報告書ってこの学校どうなってるのよ」
「あはは、提出は一週間後だっけ?分担しよっか」
「そうね、それがいいわ」
「ところで、あなたは部活に入らないの?」
”俺は・・・”と言い出したところで、陸上部に意識を持っていかれた。
また、あの子だ、入学初日に目を奪われた彼女は今日も校庭を走っていた。
「陸上部にはいりたいの?」
「いや、そうゆうわけじゃないけど、陸上は才能の差がはっきりでるから好きじゃないな」
「あらそう、じゃあ、あの子は才能のある子なのね」
大神が俺が見ていた女子を指さした。
「でも、ここの陸上部の監督は体罰のうわさがあるわよ、私が見る限りあの子は部になじめていないわね」
「そうなの?よくわかるね」
「ええ、あの子特待生よ、水口維月、全国レベルの記録があるのよ」
確かに他とは群を抜いて速い、嫉妬だろうか、どうして応援ができないのだろう、一緒に楽しくやればいいだけなのに・・・と、思うが才能は出る杭なのだろう、俺に何かできることはあるだろうか。
どこに住んでいるのか、どのこの中学校だったのか、家族構成は、好きな食べ物は、嫌いな食べ物は、聞きたいけどそんな距離にいはいない、同じ1年生なのに彼女は特待生という学校が選んだ逸材なのだ、俺とは程遠い。
「俺も家庭科部にはいろうかな」
「あらいいじゃない、委員会と掛け持ちもかのうよ」
「はは、料理できた方がいいしね」
「なぜ?」
「両親は海外にいるから自炊なんだよね、まあ主にコンビニ弁当だけど」
「そうだったの、それは大変ね、じゃあ教室に戻りましょう、報告書分担してから解散ね」
「はいはい」
俺たちは教室に戻っていった。