劣等感
高校へ入学して気ずいた事がある、俺は面だけで得ができるほどイケメンではないが女子が避けるほどの面はしていないということだ。
人気なのは・・・ほらあそこにいる男子みたいな女子と普通に会話できる奴らの事だ、俺は女子と会話する時は心臓が震えて挙動不審になる程度にイケてない。
席から立つ予定がなく、ただひたすら時間が過ぎるのを待つ学年トップの学力を持つ男は、クラスの真ん中で女子と仲良く会話している男子を見て皮肉を脳内の誰かと会話する。
本当は漫画の主人公みたいにスマートに女子と会話ができると確信しているのに、実際は散々なものだ。
実は秘めた力があって、いざという時に彼女を守れるとか思ったりしているが現実にそんなものはないことくらいは理解している、が、あると思っている理解しがたい生き物だ。
だが、女子しかいない勉強会へ行ったのは俺だ、自信はないが自信は持てと脳内で思考回路を強制修正する。
まあ、1人でも勉強さえできれば学校は怖くはない、小学校の頃は勉強ができないし、勘違いで思った行動と違う行動や暴言を吐いたことだってある、先生に怒鳴られるしいい思い出なんか全くだ。
しかし、勉強ができると自分の評価というものは変わるとしみじみ感じる。
先生が俺に疑いの目を向けない、むしろ記憶にも残らない程度に普通に扱ってくれる。
まあ、先生も仕事で金をもらうためにやっているようなものだ、だから俺は”面倒な生徒”ではないのだろう。教育委員会やら親やら世間の目も気にしなければいけない教師も何事もなく過ごしたいのだろう。
おかげさまで、授業は困ることなく淡々とこなしていく。
帰りのHR、俺は生徒会に行けとお達しを受けて生徒会のある教室へと足を運んだ。
生徒会は各学年2人ずつ、性別は関係なくトップ2が生徒会を担っている。
3年生は男女1名ずつだが、2年生だけは女子2人だ。これがこの高校での実力社会なのだろう。世間は順番を付けるなと文句を垂れるが、努力が結果として現れる事は隠す必要はないという高校のスタンスなのだろう。
生徒会は普通の教室に余の机と椅子や長テーブルなど作業には困らない程度に物はそろっている
基本的には先生は関わらずに生徒だけで運営するようだが、気合を入れて何かをするというよりは取りまとめのようなものだけのようだ。
とはいえイベントの企画立案などはここからはじまる。
「いたっ・・・」
「あら、いたの」
この声は忘れもしない大神織姫だ。
なぜこの女は俺を見下す、そもそも他の奴も見下しているのか?その容姿があっても性格がこれじゃ友達出来ないぞ・・・まあ俺はこいつとは違うのに友人が作れていないのだがな・・・だめだ、虚しくなってきた。
「存在してすいません」
なんだか自分が情けなくなり自虐的な言葉しか返せなかった。
「なっ、別にそういう意味で言ったんじゃないわよ!暗い男ねまったく。」
じゃあどんな意味だったんだよ、文字に悪意しか感じねーよ。
「今日は新入生歓迎会の話でしょ、案の募集と方法、今までと同じものをやるだけね。」
「あ、そうなの?よく知ってるね。」
「いや、別に・・・たまたまよ。」
大神は怪訝な顔をして黙った。なぜそこで顔をそらす?俺には理解ができなかったが、俺に惚れていない事だけは確かだろう。
先に何を話すのか分かっているとストレスも減るものだ、何を言われるか分からないまま部屋に呼びだされるのは嫌いだ、だから教えてくれた大神には感謝をする。
「教えてくれてありがとう。」
「はっ!?べ、別にあんたの為にいったんじゃないわよ。」
「あ、そうなの? まあ、でも今日何するか知らなかったし、教えてくれて助かったよ。」
「な、なら、よかったわ」
彼女は真面目に返事をする方が慌てるらしい、変わった奴だな。
皮肉な言葉にも悪意はなく、彼女なりのコミュニケーションなのだろうか。と少しだけ彼女を理解した気になってみた。
「はい、じゃあ委員会はじめます。今日は早速本題にはいります。まあ、恒例行事の『新入生歓迎会』です。目的は『親睦を深める』という趣旨で動きますが、学校側としては『楽しくやってます』という行事が欲しいがために決まった行事を減らすと困るらしいのでとりあえず淡々とこなしていきましょう。」
芸能人かと思うほどの美人がしゃべっていて何を言っているのか頭に入らないと思いきや、全部脳内にインプットされた。
つまり学校の為にやりたくもないイベントをやるんですって言っちゃってるよねこの人。
面倒って言ってるよね?あれ?学年トップの人かなこの人・・・。
「1年生は歓迎される側なので、何をするかについては2年生に案を出していただきます。クラス会議で、1クラス2案程度出していただき、その後投票しましょう。3年生は投票箱の用意等のサポートにまわります。実行委員は2.3年の各クラス1人ずつ選出お願いします。なるべくイベント好きなバカでよろしくお願いします。1年生はパンフレットができたら配ってくれればOKです。」
淡々と歓迎会を進行していくこの人は、美的オーラが凄い、なんかキラキラが舞ってる。オーラに充てられて誰もが納得して疑わずに会議が進んでいく・・・というかそれを疑問に思う俺はおかしいのか?
40分くらい打ち合わせをして、各自作業後に解散となった。
今回は2.3年が何をするかを見ておくだけで、役割がほぼない。帰りたいが上級生が帰らないのに先に出る事は出来ないので過去の歓迎会の報告書にでも目を通しておく。
「あら、勤勉君ね」
「うわっ」
急に俺の視界にキラキラ美人が舞い込んできた。
びっくりした俺は報告書を落としてしまった。
「あ、すいません。」
慌てて拾おうとしゃがむと、俺よりも少し早く彼女がしゃがんで落とした報告書を拾ってくれた。
「はい、どうぞ、佐野八羽君。」
「あ、ありがとうございます。」
緊張して声が震える。
「君、入試満点だったんでしょ? 凄いね。今度私に勉強教えてよ。」
彼女はサラサラな髪をなびかせて、教室に入り込む太陽光さえ味方につけてキラキラと輝いて見えた。
「あの、えっと、俺・・・」
3年のトップの人に教える事ができる自信がないが、こんな美人の誘いを断る事なんか俺にはできない、がイエスも言えない、挙動不審な上に優柔不断、俺のアホ!
「んふふ、困らせちゃったかな、でも、私、本気だよ?」
「へっ!?」
何が!?何が本気なの?俺に一目ぼれ・・・じゃないよね、え、そうなの?いや勘違いしないで俺の脳内!!!!
必死に勘違いする俺と戦う脳内で彼女への返事ができずにパニックになる。
「ちょっと、1年で遊ぶのやめてよね淫乱女」
俺がパニックになっているのを見かねたのか大神が助けに入ってくれた・・・のか?とりあえず助かった。
「あら、私は本当に彼が素敵だから口説いていたのよ?あなたには関係ないでしょ?それとも、彼氏なの?」
大神を見てスッと立ち上がると、大神を見下ろして俺に対しての口調とは異なる強い口調で言い放った。
「なつ・・・んなわけないでしょ!」
大神は顔を赤らめて拒否をした、そこまで拒否しなくてもいいだろと、少し傷ついたが、助けてくれたから俺は何も言わん、心が広いんだ。感謝しろ。
「あら、じゃあ彼は私が狙ってもいいって事ね、素直じゃない女は不幸なだけよ、またね八羽君」
俺にウインクをして去って行ったが、隣にいる大神を俺に押し付けないでくれ、どうしていいかわからない。
「美人怖い(涙)」
気が緩んで本音が漏れた。
「あっそ、美人に口説かれてるところ邪魔して悪かったわね。」
なぜ皮肉・・。
「いや、助かったよ、ありがとう。」
「はっ、べっ、別にあんたの為に行ったんじゃないんだってば!勘違い男ね」
「うっ」
勘違い男のフレーズは俺に投げないでくれ、過去の失敗の傷が開くだろ・・。
「え、なによ、大丈夫?」
「う、うん、ていうか、あの生徒会長凄いね、美人すぎて震えたよ。」
「あっそ」
「よくあんなに言えるね、俺には無理だよ、美人って言うか、なか圧が凄くて。」
「大神可憐、姉よ、私はあの人に何一つ勝てない、だから嫌いよ。見下されるのは悔しいわ・・・。」
彼女は悔しそうに大神姉が去った先を見ていた。
きっと彼女は姉に劣等感を抱いているのだろう、生徒会長ということは学年トップの成績、それであの美貌、それに対して、学年2位で美人ではあるがどちらかというと美人とかわいいの間、そもそも違う次元の美人だと思うのだが、俺には到底理解できない領域で戦っているのだろう。
俺もよく妹から”兄だけずるい”と言ってた、上の人間だけが優遇されているように見えてしまうのだろう。俺も妹より劣っているとは思わないからな、妹は辛いな。
「え、お姉さん!?どうりで・・・」
美人・・・とは言えずに口ごもった。
「なによ」
「いえ・・・」
「変な人ね、気を付けなさい、あの人は気に入った人にはしつこいわよ。」
「あはは、まいったな・・・えっ、俺の事好きなの!?」
「はあ、好きじゃないわよ!!」
「いや、違うよ、お姉さんがだよ。」
「なっ・・・知らないわよ、鈍感な男ね!」
「ふっ・・・まあ頑張れよ妹、俺も妹がいる兄として応援してやる。」
俺は強気だった大神織姫が小さく見えた、なんだか本当に妹のように思えてきてしまい、頭を撫でたら、手で跳ね返されてしまった。
姉妹って姉の方が強そうなイメージなんだよね