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ブランコと女の子

俺は小学校の頃から頭では無限に考えるのに実際の行動や発言は場違いな事が多い。

気に入らない事があれば癇癪を起して迷惑をかけ、友人が話しかけてくれても自分中心になってしまう、それじゃだめだと交流について試行錯誤しているうちに、自分の殻に閉じこもり、誰とも会話しなければ何も起きないという方向に行きついたのだ。

人は幼少から完璧なコミュニケーションを続けてきているわけではない、失敗を繰り返して正解を導き出している、その過程で傷つけてしまった人や、傷ついたこともあるだろう。

それでも人は前に進んで行かなければ生きていけない。

が、俺は徐々に逆へと進んでいった。

今でも急に質問をされると何を答えていいのか分からない、どうやって友人になっているのかきっかけや言葉遣いに不安を感じて結局一人で殻に閉じこもって楽な方へと進んで、『クラスに存在しない名前も知らない誰か』が完成した。


公園でも1人で遊ぶことが多かった、ゲームを持って行って一緒に遊んだり、サッカーや野球したりなんかもしない、羨ましいと思うだけで輪に入る努力はしていない。


友人をつくらない・・といかできない俺は、陰口も陰で言われるというよりは聞こえるように言われることの方が多かった。


そんな事もあり、あまり外で知っている奴に会いたくなくて高学年にもなれば夕方に公園に行く事が多かった。

誰もいないブランコで少しだけ揺れて無心になるだけの無気力な子供。

それは世間の大人たちが綺麗事レンズで見ている”友達100人できるかな”的なそれとは程遠い現実だ。

学校という無限の世界がいつ終わるのか、永遠と続くのか、先が分からない無知な子供には現実がなんなのか理解しきれなかった、まあ、つまり、俺は小学生にして人生に疲れていた。

別にマセガキとかアダルトチルドレンとかじゃない、普通に気力がないのだ。

このまま大人になって、なんとなくお金稼いで、なんとなく年老いて、あれ?俺死んだら誰が気づくんだ?



「俺、もう、消えても、いいんじゃね?」



夕日が沈んだ薄暗い空を見上げて本音が漏れる。



「じゃあ、私も消えようかな?」



小さくか細い声で俺の独り言に返事が返ってきた。

俺は、一瞬何かに共感してもらえたはじめての感情だった、気持ちを受け入れてもらえたような感覚を知った。


「えっ」


声がした方へ振り向くと、俺と同じくらいの歳の女の子が俺の方を見ながら、もう一つのブランコに揺れていた。


無言の時間はブランコの金属がこすれる音だけが鳴り響いた。


「・・・・・」


その時は何も考えないでただ、ブランコに少しだけ揺れていた、2人とも喋らない無言の時が過ぎた。

それは決まづいでもなく、”心地いい”に近い感覚だった。

もちろん、相手はそれがどうだったかは分からない。



俺はその日から毎日ブランコで彼女を待った。


彼女はたまにやってきてブランコに乗って無言で過ごして帰っていく。


なんだか気持ちの共有者になった気がした。

人が変われるタイミングというのはこういう時なのだろう、俺はもう彼女の事が好きになっていた。

会話もほとんどしないのに、男が単純なのか、友達が欲しかったのか、とにかく寂しい俺の心を埋めたのが彼女だったのは間違いない。


中学生になると授業が長くなるだろうし、もしかしたら公園に行けるか分からない、俺は彼女にプレゼントをすることを思いついた。

金ならある。

ただ貯まるだけだった親からのお小遣い、主に飯代でもらっていたやつだ。

両親は共働きで殆ど家にいない、妹は祖母の家に預けられていたが、俺は一人がよかったから家の留守番を選んでいた。

そこそこの物が買える金額は貯まっていた。


休みの日に両親が珍しく出かけるというので一緒についていった、とりあえず持ち出した金額で買えるものと考えていたら、両親は宝石店に入った、どうやらアクセサリーを購入するらしい。

何かの記念日なのだろう、俺の両親はイベントの記念より思い出の日を大切にするらしいので今日が何の記念日なのかは2人しかわからない。

しかし、0が多すぎて、俺には買える額ではないと諦めようと思った。

外で待とうと店から出口へ向かおうとしたら店員が何故か俺に話しかけてきた。


「好きな子にプレゼントしたいの?」

何故分かった?俺は動揺しながら顔が真っ赤になる。

店員のお姉さんの圧に根負けしたような気分だが黙って頷いた。

「じゃあ、お姉さんが手伝っちゃうよ!」

小声で俺に話しかけたお姉さんがネックレスをいくつか持ってきてくれた。

俺にも買えそうな金額の物だった、これも女の感なのだろうか、嗅覚が凄すぎる。

両親に気づかれないように配慮してくれたのだろう、箱と包装はサービスと言って手際よく手に入れる事が出来た。

「頑張ってね!」

小声で応援してくれたお姉さんは次の客の元へ行った。



***


「やるよ」


告白でもなく、感謝の言葉でもなく、投げやりな言葉だけがでた。

俺の本心はこんなんじゃないのに、結局俺は変わらない人間だと気持ちを下げて諦めて気持ちからにげて楽な方へと行こうとした。


要らないって言われるかもしれないと、彼女を恐る恐る見ると、彼女は驚いたも、嬉しいもなく、ただ俺の渡した袋を握りしめて動かなかった。

感情が分からないから余計に不安になる。


また、無言で時間が過ぎて、一言も会話することなく解散した。

ありがとうが欲しっかったんじゃない、拒否されたなら受け取ってもらえなかっただろう、脈あり?複雑な気持ちだけが残った。


次にあった時に聞いてみよう。


が、俺はタイミングを逃し続け、そのまま海外へ行ってしまった。


中途半端に終わってしまった彼女との思い出は白鳥七花のネックレスで思い出されることとなった。

失恋してないのに失恋した気持ちはそのままに、美化された彼女との思い出は現実を呼び戻されてしまった。

恋はいつでも不完全燃焼

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