はじめての勉強会
勉強会はクラスメイトの家でやるという事で俺は住所を頼りに目的の場所へ行った。
しかし、顔も知らないクラスメイトの家に行っていいのだろうか、俺はまだ顔と名前を憶えていない。
菓子折りを持って行く必要があっただろうか、親が持たせたりするものだろうか、まずいな、何も持ってきていない。
インターホンを押していいのか躊躇する。
不審者がうろついているとでも言うのだろうか。
そもそも、こんなバカでかい家なんて聞いてないぞ。
見上げたらいいのか見まわしたらいいのか分からない豪邸、綺麗に整った庭の先に大きなお城のような家が建っている、ギリシャ・サントリーニ島を連想させる白基調の建物、とはいえ見渡す限り高級住宅が並んでいるのだからそのような土地なのだろう。
俺の家も小さくはないはずだが、この家には完全に劣る、負けを認めるのは心苦しいものだがこの家を前にするとすがすがしいほど敗北感を受け入れている。
「あ、佐野君!」
インターホンも押さずにもたついていると後ろから声をかけられた。
夏目さんだ、優しい人第一号、気さくに話しかけてくれる人だ。
こんな人が彼女だったらいいななどど考えてみたりもする。
「早いね!ってか、入らないの?」
「あ、ああ、うん入る入る」
余計な事を考えて変な奴だと認知されないようにしていたのに、変な妄想始めた自分自身を脳内で叩きのめす。
インターホンを押すと上品そうな女性の声がした、と、同時にでかい扉の鍵が解除される音がした。
夏目さんはその扉の事情を既に知っているかのように開けて俺を勉強会の会場へと連れて行った。
「いらっしゃいませ、佐野くんははじめましてかしら、私は白鳥七花と申します。よろしくね。」
両手を前に添えてスッとした姿勢、それでいて女性らしいしおらしさを感じさせる、更に可憐で無邪気な笑顔、これは好きにならない男子はいないだろう?と言わんばかりの完璧な美少女が俺の目の前に現れた。
「あ、えっと、よろしく白鳥さん。っと、あのごめん手ぶらで何も持ってきてなくて・・・」
俺は何を自分から醜態をさらしているんだ、わざわざ言わなくてもいいだろうクソが脳みそ回せ!!
「いいえ、おかまいなく、お茶菓子は用意してますから。」
優しい・・・俺が動揺しているのにも見下さず丁寧に帰す完璧な美少女、優しさに安心してしまう。
「緊張しなくていいですよ、勉強会に来ていただきありがとうございます。何かあれば遠慮なく行ってくださいね。」
立ち振る舞いに、発言も全て完璧にこなすこの子はもう完璧なコミュニケーション能力を身に着けている、俺もこれ以上ボロを出すわけにはいかない。
「あ、あ、ありがとう・・・うわあ」
「ああ、大丈夫ですか」
情けない、家に上がろうとしたら段差で転んでしまった。
「佐野君大丈夫?」
いつの間にか家にあがっていた夏目さんが階段から降りてきた。
「まだそんなとこにいたの?早くおいでよ」
いや、君はどんなスピードでこの家を駆けあがって荷物を置いて戻ってきたんだよ!と突っ込みたくなったが、彼女が来てくれたおかげて俺の精神が冷静さを取り戻させてくれた。
「あはは、ごめん、大丈夫。」
「じゃあ行こう、私七花と同じ中学だったの、でも初めて来たときはびっくりしたよ。佐野君も早く慣れてね。」
いやこれは慣れるのか?こんな豪邸によく住んでられるな迷子になるぞ。
応接室だろうか、テーブルを囲んで数人の女子が集まっていた。
俺は女子の部屋を少し期待してしまった事は隠しておこう。
というか・・・男子がいない・・・。
この空気に耐えられるだろうか。
いささか不安だが勉強を開始するとしよう。
嫌われてないって確信できる空間は無敵