第一印象
俺はいつも通りの朝を迎え、淡々と学校に行き、席について外を見る。
グラウンドも見えるが、正門も見える。
まだエアコンをつける季節ではないから窓が開いている心地いい風が吹いてくる。
少し前髪が揺れてきもちいい。
- いい席だな -
黄昏ながら外を眺める。
登校中の生徒を上から見下ろしながら、お前等どうやって一緒に登校するような仲になったんだよすげーな。なんて皮肉交じりに羨んだりもする。
「佐野君、おはよう」
そうか、俺のクラスには同じ苗字のやつがいるんだな、そりゃ全国指折りに入る名字だし、問題ない。俺が勘違いしないで振り向かなければいいだけ。
「佐野君?ねえ、佐野君ってば」
近いな、早く返事してやれよ佐野君
視線を少しずつ声の方へとずらしていく、わからないように、勘違いと思われないように・・。
「うわっ」
少しずつ振り向くと、自分の顔の近くに声の主はいた。
「あー・・えと、お、俺?」
視線の逃げ場を失った俺が出した言葉はこの嫌味もなく、自意識過剰でもない可もなく不可もない答えだ。
「そうだよ、他に佐野君いないじゃん」
そうか、このクラスに佐野は俺一人か。
「すっごいね、学年トップだったんだね、私は夏目ひかる、よろしくね。」
見たからに明るいと分かる容姿、運動部に所属していそうな健康そうな足・・・視線に気づかれたらまずい。
ボブヘアーの可愛い女の子に話しかけられてしまった。
混乱するな、見栄も張るな、嘘もつくな、俺落ち着け。
「あ、ああ、よろしく夏目さん。」
精いっぱいの普通の挨拶をかえす、これなら目立たない、気にもとまらない。
「でさー、お願いがあるんだけど・・・いいかな?」
まじかよ、デートのお誘いか?俺の事が気になったとか?・・・・・いや、だめだ、冷静になれ俺、女の子に話しかけられたからって俺のこと好きだと勘違いしちゃだめだ。
昔の思考回路は捨てろ、もう勘違いして生きていくんじゃない。
「今週の土曜日に来週の学力テストの勉強会をしようって話なんだけど、佐野君もどうかな?みんなも来てほしいって思ってるんだけど。」
「あー、えと」
おっと、落ち込みすぎるな俺、女の子が俺の事が気になってないとはいっていない、恐らく学力がある人間が勉強会に来てほしいということだ。
俺はその学力という武器が使えるはずと鍛えていたんだ、ここで参加しないわけがないだろ・・・いやまて、俺がつまらない人間だとバレたらどうする?
いやいやだめだ、そんな事を考えていたらいつまでも”名無しの誰か”だぞ、ここで交流しなければ高校生活は葬式だぞ。
「あ、うんいいよ、でも、俺参加しちゃっていいの?」
「え、なんで?」
「えっと、まだあまりクラスのみんなと会話してなくて」
苦い笑みをうかべ俺はいても問題ないのかやんわり確認をしてみる。
「大丈夫だよ!だってみんな佐野君のこと知ってるよ、学年集会で代表だったなんてびっくりだったけど、すごい人がクラスメイトだーってみんな大騒ぎだったよ、佐野君も教えてよね!」
彼女のコミュニケーション能力は紛れもなく最高レベルだろう、明るく、しかも嫌味を感じさせないさりげない不満のアタック、これは俺の方にもっとみんなと仲良くしやがれと言っているようなもの。
要求はしっかりするが嫌味がない、いい人だ、しかも俺の名前を憶えてくれた人だ、感謝せねば。
とりあえず、成績優秀者という認識がクラスメイトには浸透していることは確実のようだ。
突発的な何かがないと会話できないよ