高材疾足
”チチチチ.....”
6:00朝の目覚ましが鳴る。
一度で止めてすぐに起きる。
朝ごはんは用意されていない、適当に食パンにジャムを塗ってを食べる。
俺の両親は海外にいる、俺の我儘で日本の高校に行かせてもらったから、自分の事は自分でやらなければならない。
親が購入した家はそのままにしてあったから俺は不自由のない家で過ごすことができる。
牛乳を飲んだから少し授業の予習をしておこう。
初日から授業があり、クラスメイトと話す機会は少ない、今日は隣の席の人には話しかけないと、よっ友すらできないぞ。
「お兄ちゃん、あたしの朝ごはんは?」
眠そうに目をこすり俺に飯を要求するのは、妹の”きらら”だ。
俺が日本の高校に行くと決めると、妹もついてきてしまった、俺が心配だかららしい。
何が心配なんだよ、自分で飯くらい用意しろよ。
「その辺のパン食えよ、俺はおまえの分なんか用意しないぞ」
「えー、いいよ、昨日焼いたクッキー食べるから」
「は?それ飯じゃないだろ」
「あーおいしい!」
「お前、栄養失調だな」
「うっさい、ちゃんと発育してるからいいんですぅ~」
それを言われると兄としては心配な点がある、妹は中学生にしては胸部の発育がいい、思春期男子がみる事は許可しないぞ俺が。
「何?朝から勉強してんの?高校生になってそれじゃモテないよ?」
「彼女欲しいんでしょ?勉強じゃなくて部活とか運動して輝きなよ」
「もぉ!うるっさいな、いいんだよ、俺には俺のペースってのがあるの!」
もう、ほっといてくれ。
俺は俺の尊厳を守りつつ外部に手出しするくらいしか心の余裕はない、そもそもまだ友人と呼べる人間1人すらできてないんだぞ、追い込むな!
とはいえ、妹は受験ではないので転入試験を受けている、俺より早く転入している。
初日から友人もできてそれなりに楽しんでいるらしい、くそっ女子はどうして早々に群がることができるんだ、そのコミュニケーション能力を少し分けてくれ。
「じゃあね、私朝練あるから!いってきますーす」
昨晩作った手作りのクッキーを鞄に詰めて妹は早々に家を出て行った。
陸上部に入ったらしい。
菓子作りが好きで調理部も兼任しているらしい、どんだけ学園生活を謳歌するつもりだあいつは。
勉強だろやっぱり。
将来どんだけ役に立つか知らないんだあいつは。
俺も学校へ行くとするか。
:::
15分前に教室へと入り席に着く。
みんな友達できたのか、俺は出遅れたのか、名前すら覚えられない人間のままなのか、あー辛いコミュニケーションは生まれながらに備わっていてくれないと困る、もうここにいるの嫌になってきた、成績の優劣なんかコミュニケーション能力に関係ないじゃねーか。
俺は失敗したんだな、このまま、名前も覚えてもらえない奴で3年間過ごすのか。
大学は通信か、営業は無理だ、手に職を付けないと飢え死にする。
今日はだめだ、卑屈に生きる事しか思考が回らない最悪な日だ。
朝のざわめきが一緒どよめきにかわった、何だ?先生が風邪でもひいて自由時間にでもなったのか?
肘をついた右腕はそのまま視線だけ教室をちらりと見た。
「 え 」
ちらりとみた俺の目の前に昨日の勘違い女が腕を組んで立っていた。
「 は 」
「あなたは、”え”とか”は”しか言えないの?佐野八羽くん」
目の前のこの女子は生意気ではあるが本能が美人と言っている。
紛れもない美少女だ、それはわかる、周りの視線とかなんかそうゆうので。
「えっと、何か?」
「は?何言ってんのよ、今放送で呼ばれたでしょ、行くわよ」
「は?」
「聞いてなかったの?あなたと私が呼ばれたの、校内放送で、先生に」
俺がなぜ呼ばれたのか理解不能なまま彼女に連れられ職員室へと向かった。
職員室は広すぎて先生の名前すら記憶することが難しい俺には街の人込みの様だった。
「先生、参りました、ご用件は?」
彼女の後ろをついて行って合わせて立ち止まる俺、情けないがそこは何事もなかったかのように立っておく。
「うちの学校は毎年成績上位の男女に委員会を頼んでいるんだ、頼んでいいか?」
「もちろん、家庭の事情や、本人の意志が優先になるから、難しい場合は次の成績の子にお願いを順にしていくようになっている。」
学校も人間性がある、生徒の意志を尊重するということか。
それは、学業や日頃の行いができているという校風の影響もあるだろう、規律を守れる人間が多い学校というのは俺にもあっている、クラスメイトの名前くらい覚えてくれそうだしな。
「はい、問題ありません。」
俺がうだうだ考えている間に、生意気な女は返事をする。
名前を覚えてもらう程度には存在感を出したいところだが、目立つことは避けたい精神が脳内で打開策を探す。しかし、隣で「いやーちょっと」と言える勇気なんか俺には無い、むしろ初めて話した学校の人間がまだこいつだというのは悲しいところ。
「佐野はどうする?」
「あ、はい、大丈夫です、よろしくお願いします。」
「よかった、じゃあよろしくな。」
まあ、1年だしやることもそこまで多くないだろう、書記か何かやればいいだけだろう。
「じゃあ、まず学年集会で演説があるから、そこで挨拶もかねてよろしくな。」
「・・・」
はいいいい???
聞いてない聞いてない、未だボッチの俺が学年全員に挨拶とか無理だろ、まだ隣の奴だって挨拶できてないんだぞ。
「わかりました、では私は短く挨拶をさせて頂き、あとは彼のサポートに回らせて頂きます、2人も長々と話しても皆さん疲れてしまわれると思いますので。」
「さすがだな、それで頼むよ。」
気が付くと職員室から出ていた。
「何をそんなに緊張しているの? あなた、もしかしてこうゆう役割は初めてなの?」
怪訝な顔をしながら話すこの女は自信たっぷりに俺を見下そうとしている。
力では俺の方が上だぞ、まあ今の世の中そんな発言したら火に油、炎上も炎上、大炎上だ。
「まあ、わざわざ俺がやる必要はなかっただけだ。」
「何よそれ、変な強がりしてないでさっさと演説の内容考えなさい。」
「はあ?なんで俺が?」
「何を言ってるのよ、あなたが学年の代表、私はそのサポート役よ。」
「いや、ちょっと待てよ、あんたが代表でいいだろ?女だからサポートなのかよ、俺がサポートでいいよ、あんたの方がよっぽど代表にあってるだろ(態度とか)」
「無理よ、あなたの方が成績が上だもの」
「は?」
「”は?”じゃないわよ、先生が言ってたじゃない、学年順だって。あなたは入学試験で学年1位で合格しているの、私は2番よ、言わせないでよ。」
「2番の私がトップをやるなんてただの屈辱だわ。」
俺が?学年トップで合格していただと・・・。
あの時はまだ海外に住んでいたから学校側から成績表は・・・貰ってる、あれだ、合格したから見てないあれだ・・・。
合格したからいいやと机に放置していた成績表の紙を思い出した。
落ち着こう・・・。
大きなため息をつきながら廊下と自分の足を見て精神統一
「あんた、名前は?」
「は?放送で言ってたじゃない、大神織姫よ。」
「大神さんね、よ、よろしく。」
「そうね、あなたとは委員会で関わることもありそうね、でもそれだけよ、勘違いなんか許さないわよ。」
「あ、うん、わかった、それでね、早速お願いがあるんだけど・・・。」
「はあ、ずうずうしいわね、内容によるわよ。」
俺は必死に演説をしてくれと頼みこんで、大神の頼みも聞く代わりに演説を変わってもらった。
彼女の頼みはまだ知らないがとりあえず助かった。
学年集会当日、彼女は見事に演説をやり切り、学年の信頼を得たようだ。
海外の高校の方がプロムがあるからぼっちは辛そう