コンビニ弁当もわるくない
横断歩道の信号は渡れと青の色が俺に圧をかけてくるように見えたが、俺は渡らなかった。
特に意味はない、ただ、気力がない。
俺自身が何をしたいのか理解できなくなっていた。
一度脳内を整理して、俺は今何をすべきで、どう生きていけばいいのか立て直す必要があると考えている。
しかし、気力がわかない時点でそれができないことも理解している、こんな時でも俺の脳はフル回転している、めんどくさい奴だ。
ようやく横断歩道を渡ることのできた俺は近くの公園に立ち寄った。
結局、水口維月を追いかけることはしなかった、追いかけても結局俺は変な奴で、知らないやつで、追いかけてきた気持ち悪い奴になってしまう。
それだけなのになぜか体に力が入らない。
子供の頃に遊んだブランコに腰かけて小さく揺れる。
力が入らない俺の足の裏は地面から離れない程度にしか揺らせない。
「まるで失恋したみたいだ」
自分で自分のことをボソリとつぶやくと、下を向いた自分の足元に水滴がぽたぽた垂れてくる、それは自分から出ているものだという事は認識できているが止めることは不可能だ。
別に彼女が俺にひどいことを言ったわけじゃないし、ただ話しかけて、無視されただけだ、俺のことをどうと思っていることはない。
ネックレスが気になったが、白鳥も同じものを持っていた、きっと彼女もたまたま同じだっただけだ。
じゃあなんで、俺はこんなに心が痛いんだろうか。
彼女に笑いかけてもらいたかった?
彼女と仲良くなりたかった?
俺は彼女に何を求めたのだろう、いつも遠くから走っている姿だけを見て、近くで見たこともなかった、同じ高校に通っているのだから彼女とすれ違うことがあるなんて珍しい事じゃない。
「はぁ・・・・消えたい」
”穴があったら入りたい”じゃなくて、俺を認識している奴や俺の存在を記憶している奴から俺という存在を抹消するだけだ、俺が新しく存在していきたいただの願望だが。
何か大事になったわけじゃないのに謎の四面楚歌状態
「明日、学校やすんじゃおうかな・・・」
「私も休もうかな」
俺のボソリとつぶやいた声に返事が返ってきた。
外は、いつの間にか夕暮れを過ぎて薄暗くなっていた。
少し残った夕暮れの光で映し出されたのは水口維月だった。
「なみだ」
彼女のひところでハッとした俺は慌てて涙をぬぐった。
彼女は俺の隣のブランコに座ると、前方少し下を見たまま表情は無理に普通の表情をしようとしているようだった。
俺は彼女を見たとたんに心臓が苦しくなり、言葉を発することが不可能だった。
こんな時に情けない。
夕暮れから暗闇に包まれかけているといううのに彼女の周りには無数の星がきらめいているように見えた。
彼女の長い髪は風がなびかせるたびに鱗粉がキラキラと零れ落ちるような輝きをみせていた。
もちろん幻想なのは理解しているが、どうしても俺にはそうみえてしまう。
『好きです』
俺は声が漏れたかと思い慌てて顔を上げた。
どうやら心の叫びで口からは漏れていなかったようだ。
危なかったと胸に手を当てて全速疾走したあとの表情で心臓を抑えた。
「また、会えたね」
彼女の一言で俺は女神を上げめるような勢いで顔を上げた。
彼女はブランコから立ち上がって空を見上げてから俺の方を見た。
「わかるの?」
「うん」
「じゃあ、そのネックレスは俺があげたのだよね、つけてくれてたんだね」
彼女は一緒疑問な顔をして、空を見上げて考えてから俺の方を見て微笑んでくれた。
俺はもやもやした気持ちが一緒んで消え去った。
「佐野くんは、いつも消えたいの?」
「俺は考えすぎるから、自問自答してると結局俺消えればいいじゃんみたいになるんだよね、はは、情けないよな」
「ううん、そんなことないよ」
「水口さんは、なんで消えたいの?」
「うーん、わかんない、でも消えたい同士だね、明日学校サボっちゃおうか」
彼女の理由はぼかされてしまったがそれを深追いすることは彼女の心を傷つけることになるだろうからしなかった。
無理に答えさせることは人間の心を殺してしまう事を俺は知っている。
無神経な人間を何人も見てきたし、俺自身も何度も心を殺された。
「もう帰らなきゃ、じゃあね」
「あ、うん、また」
彼女にいろいろ聞きたいことはあったが話すことができる余裕はなかったからこれで十分だ。
なにより、俺が変質者扱いされていなかったことが一番良かった、なんだかよくわからないが助かった。
俺も帰ることにした。
『今日もコンビニ弁当だな』