番外編③(3)
楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。
猫が出て行って残念そうにしている明兎だったが、俺が文を消したということを察したのか、頬を膨らませて、すねたように殴ってきた。
俺は腕でガードしているが、ポカポカなんていう生易しいものではなく、ガンガンという擬音の方が正しい。何が言いたいかというと、かなり痛い。
それはそうと、まだこれを確かめた目的を確かめていない。
明兎に殴られながらも、明兎に提案する。
「とりあえず殴るのやめて、スマホに俺がスキルをうまく使えるようになるって打ってくれないか?」
一通り殴り終えて満足したのか、俺を蹴っ飛ばしてから、スマホに打ち込んだ。猫の恨みこえ~な。
「はい、どーぞ!!」
その画面には言ったとおりの文章が打ち込まれていた。使い方も分かる。と後に書き添えられて。
俺に携帯を押し付けるようにして、窓から再び入ってきた猫をなでていた。
上に少しスクロールすると、猫がここに来るように書かれていた。
とりあえずスルーしておいて、俺が本当に使えるようになったのかを試そうとした。
両手の親指と人差し指を合わせて、手で長方形を作る。
一旦明兎と猫に向けてその長方形で標準を合わし、それを覗き込む。
その指の長方形をカメラに見立てるということだと思うが、そこからその指を話すと、さっき覗いた光景がそのまま液晶のようなものに映し出され、再生マークや、リプレイマークなどが描かれていた。
早送りもできるようになっているのか、そういったマークもあった。
そして、一番の変化が、明兎と猫の動きが完全に止まっていたのだ。
まさかと思い、再生マークを押してみる。すると、何事もなかったかのように明兎は猫とイチャイチャしている。
そして、一時停止のマークを押すと、動きが再び止まる。
次に巻き戻しのマークをタップしてみる。すると、猫がしばらく明兎の周りを後ろ向きに歩き回った後、窓から出ていった。
明兎もそれに合わせるように行動を巻き戻している。
逆に早送りを押してみると、猫がまた戻ってきて、猫と明兎はさっきの行動を高速で行っていた。
右上の妙に押しにくいバツボタンをタップすれば、明兎はいつも通りの動きになった。俺が色々と試していたことは気づいていなかったようだ。
ってことは......やっぱ、これが能力ってことか。他にもハサミの形とか、写真のマークとか、カッコがあったのが気になったけど......まぁ慌てて調べても見落とすだけだしな。
少しずつ検証してみて、把握する。それから細かいところを調べていこう。マークがでかいし、基本的なスキルの操作方法がさっきのだろうしな。
とはいっても、このマークがどんな効果があるのかは知識としてあるんだけどな。
まあ、知識があるだけで、実際に使ってみるのが一番ではあるが。
今は一旦いいかな。頭の整理をしたい。いきなり入ってきた情報量で、頭がパンクしかけてる。
ベッドに寝ころび、このスキルの使う手順や、その使用例を考えておいて、どこかにメモしとこ。俺の記憶力と発想力じゃ、まともな使い方なんて思いつかないんだけど。
寝ころびながら、右腕を左へスライドさせて、さっきの画面を開く。
しばらく頭の中を整理しながら巻き戻したり、早送りしたりして、明兎で遊んでいたが、やはり、明兎も黒猫も気が付いていないようだった。
少し起き上がり、部屋から出て、各部屋のドアと階段の風景を切り取る。
部屋の中に戻り、最初に切り取ったものをタップする。そしてハサミマークをタップしてから、明兎と黒猫をタップし、さっき切り取ったところにドラッグする。
すると、この部屋から明兎と黒猫の姿が消えた。
廊下に出て、少し見渡すと、何が起こったか分からずといった様子で、その黒猫と明兎がキョロキョロしていた。
さっきの手順で、廊下にいた明兎と猫を部屋に戻した。
何が何だかわかっていないという様子で、目を白黒させている。そして、この状況が怖いのか、猫を大事そうに抱えている。猫もされるがままだ。
しかし、俺がニヤニヤしているのに気が付いた。
「ねえ、なんで笑ってるの?もしかして、空兎がこうしてる?」
バレるかさすがに。俺に攻撃しにこっちに向かってきたので、廊下に出す前まで巻き戻す。
「もう本っ当に可愛いっっ!!決めた!!あなたの名前は、『ミルク』ね!!」
さっきの怒り出しそうな雰囲気はどこへやら。機嫌は元に戻り、かわいいと連呼しつつ、名前を決めていた。
「ちょっと待て。なんで、黒の要素も一切ないミルクって名前なんだ?」
明兎の独り言を聞いて、気になってしまった。
「え?黒い猫のミルクでしょ?空兎になつかないように、黒いミルクってことにしたの。」
まだあのこと根に持ってんのか。いつまで恨んでんだよ。まあ、食い物の恨みというのは恐ろしいしな。
そう、あれは俺が中学生のころだ。とある寒い冬の日、明兎にホットミルクを作ってやると、鍋で牛乳を沸かしていたのだ。
しかし、沸騰手前ぐらいで、そのころは寝不足だったこともあり、温まってきた牛乳の熱気が肌にちょうどよく、ついつい眠ってしまったのだ。それで、起きたのが焦げて煙があがっていたころ。
慌てて水をかけて、焦げを取ろうと重曹を入れて沸騰させてもそのこびりついた焦げは中々取れなかった。
しかも、牛乳も焦がす前の奴で最後であり、結局、ホットミルクを作ることができなかったので、大きめの焦げの破片を作れなかったという証拠として、明兎に見せたのだ。
すると、ものすごい残念がり、結局、紅茶にはちみつを入れてチビチビと飲んでいた。
とまあ、ほんとはもっとひどい状況だったんだけど、そこまで事細かく話すと、俺のメンタルに響くので、こんな感じにしておこう。
あれから5年ほど経った今でも根に持っているという......家族全員小動物好きだけど、どうしても自分だけに甘えてきてほしいと、考えるタイプだからな。つまりは、色々と理由をつけて、独占をしたいだけと。
こうなると、何を言おうが、明兎は名前を変えることはないので、とりあえず、ミルクという名前にしておくことにした。
「はぁ。まあいいや。猫は気まぐれだし、たまには俺に甘えてくるときもあるだろ。」
ボソリと、独り言としてつぶやいた言葉だったが、明兎の耳に届いていたようだった。
「ミルクって名前にしたし、空兎には懐かないと思うよ~?」
口元に弧を描き、フフンと誇らしそうにしている。さすが、顔面偏差値は同年代のどの子よりも高いともっぱらの噂になっている明兎だ。たった今捏造したが。
でもね、これは嘘ってわけでもないんだよ。頑張って隠そうとしていたが、明兎は実は、結構告白されている。
俺に隠し通すなんて無理だって話なんだけど、別にストーカーして知ったわけでもなく、俺のクラスメイトの弟が玉砕したと、馬鹿笑いで話してきたのだ。そいつによると、当時10人ほどは突撃玉砕していたらしい。
そもそも明兎は好きなやつ他にいるしな。まあ、突然の鉢合わせのせいでパニクることはあったけど。
って、今は妹の恋路なんて別にいいんだよ。なぜか気づいたみたいで、俺の方を見てきたし。
さすがにこれ以上明兎で実験するのは気が引けるし、窓の外から町で試してみ......
あれっ?廊下から......確か、クラムちゃんだっけ?が向かってきてるんだが......掃除でもする時間なのかな?
ん?俺らの部屋の前に......
すると、ドアがコンコンっとノックされる。ドアが開きクラムが入ってくる。
「お客様。昼食のじかんで......」
クラムの目の焦点が絞られる。その目は猫......黒猫のミルクさんにロックオンされた。
しかし、クラムはすぐに我に返ったようにフルフルと首を横に振る。
「あのっ、すみませんが......許可なく動物を連れ込まれると......」
「あっ、クラムちゃん。この子窓から入ってきて、人懐っこいよ!!なでてみる?」
このままだとミルクを追い出されると咄嗟に判断した明兎は、クラムを巻き込むことにしたようだ。
しかも、ミルクまで「ンミャ~ン」と甘えるように鳴き、クラムの足元をうろついている。明兎に協力する体制バッチリのようだ。この猫.....やけに察しがいい。
数秒ほどプルプルと何かをこらえるかのように震えていたが、甘えてくるミルクにデレッと表情を崩した。陥落は早かった。子猫の魔力はやはり恐ろしいものがあるな。
モフッてくれているクラムに対し、子猫はここまで聞こえてくるような大きな音でクルクルとのどを鳴らしている。
あれっ?俺空気じゃん。部屋から出た方がいいな。うん。
そっと窓際に行き、切り取った画面に表示された自分をタップして、廊下へとドラッグする。
よし、部屋をバレずに出られたな。あの空間に俺という不純物が混じってはいけない。あれはそんな神聖な空間であるっっっ!!
誰かが言った。男は女子に人数差で負けていればその場を離れるほかない、と。あ、そこにいると俺が気まずくなるから、その言い訳として高校の時に言っただけだけどね。
というか、ちゃんとリアルタイムで表示されるみたいだな。これをうまく使えば、監視カメラみたいに使うことができる......あれ?撮るのと編集を同時にしてる?
しかも、俺の頭の中のこのスキルの使い方ガイドによれば、複数の切り取ったものを......いちいち言うのめんどくさいし、素材って呼ぼう。この素材を組み合わせることで、情報量が増えれば増えるほど、この画面上でも360度見渡せるようになるらしい。
その場合、元々の素材で映っていない所まで見渡せるようだ。その範囲によって必要な素材の量は多くなるが。
しかも、その途中で中にあるものを好きに動かせるってことでしょ?これさあ、町の風景を素材として切り取ったらさ、家ごと影響を与えられるってことなんだよ。
ふつうにチートやないか。なんやこのスキル。
ってか、廊下で、こんなニヤニヤしてるのシンプル不審者だな。昼飯の時間って言ってたし、昼飯食いにでも......待って、財布ないじゃん。部屋に戻るか。
俺は部屋に戻ろうと、部屋を探す。しかし、どこか全く分からなくなってしまった。
そこで、廊下から撮ったアングルからどの部屋かを思い出すことにした。
部屋がわかり、中に入る。
すると、足元から猫が、部屋に飛び出していった。
「待って、そっち言っちゃダメ!!」
と、部屋から飛び出してきたクラムとぶつかってしまった。
クラムは尻もちをつき、俺に謝罪しつつ、俺の後ろを気にしている。俺も俺で画面に集中していたせいで、ぶつかってしまった。というか、ちゃんと俺以外にはこの画面は見えないのな。
そこで、廊下の端でちょこんと座って俺たちの方を見ている猫を部屋の中に戻した。
突然猫が戻ってきたことに、まず明兎が驚き、その声でクラムが振り返って驚きの声を上げる。
「えっ?あれっ?さっき確かにあっちに......もしかして、ソータさんと同じ感じの力を使っているんですか!?」
どうやら、驚きとは俺に対するものだったようだ。はたから見たら、突然空中で指を何かになぞってるようにしか見えないしな。
「先に聞かせてくれ。蒼汰も同じようなことをしてたのか?」
そう、この言い方だと、どう考えたとしても、蒼汰も何かしらのスキルを持ってるってことじゃん。
俺が訊いたことに対して、クラムは少し申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「私もはっきり見たわけではないので、分からないんですけど......私が連れ込まれた部屋にいつの間にかソータさんがいたようで......気が付けばソータさんたちの泊まっている部屋にいたんですよ。あれは、今のミルクみたいな感じで、一瞬で別の所に移動したって感じでしたね。」
なるほど......もしかしたら、俺と似たようなスキルか......もしくはワープ系のスキルを持っているのかもな。いやでも、気づいたら部屋に「いたよう」ということは、そのときクラムは蒼汰の姿を見れていない。
ってことは、何か隠密というか、気配系のスキルでもあるのかな?つまり、最低でも二つはもってるってことか。
待て、さっきソータ『たち』って言ってたな。仲間がいるってことか?つまり、何かを目的として動いてる?あいつがまともに人と......いや決めつけちゃいかんな。異世界だからって気を張ってるか、今まで周囲に見せてきた姿が逆に嘘だった可能性があるのか?
いや、深読みするまでもなく、あれから二年は経過してるんだ。仲間ができてても別におかしくはないか。
そして、ここに宿泊したってことは......
「おいこら空兎!昼飯食べないならさっさと金よこして!」
急に明兎に胸倉をつかみあげられてしまった。しかも、明兎がこの口調になってるってことは、結構キレてんな。......なんで俺は妹にカツアゲされてるのだろうか。
「待て待て待て。なんでそんなキレてんだよ。」
俺は全く原因が分からず、明兎に理由を聞く。
「何十回呼んだと思ってんの?昼飯食いに下に行くぞって何度言ったと思ってんの?急に耳だけ遠くなったの?飯食べないなら、金だけよこして。」
おっと、考えている間にいつのまにか明兎をスルーしていたみたいだ。
俺はごめんと謝り、お金をテーブルから取る。
「一旦落ち着いてくれ。昼飯食いに行くから。俺が悪いのは理解してるけど、そんなキレてたらうまいもんもうまくねえぞ?」
こう言って明兎を落ち着かせる。クラムがドアの前にいたのだが、少し引いているように見える。
「そ、それでは、私は他のお客様に昼食の時間だと伝えに行きますね!!」
クラムはどことなく早口でその場を離れていった。それを見送った後、ムスッとした表情の明兎を連れて、食道へ行く。
これからは深く考えすぎずに、しっかり検証して確かめるか、自分の世界だけに入りすぎないようにしておこ。
いかがでしたでしょうか?今回は、空兎がスキルを使いましたね。何やらとても強力そうなもののようでしたが......使い方も複雑ではありそうですね。
そして、どんどん番外編を書くにつれてエピソード数が増えてきてしまっていますが、次回からまた本編に戻りますので、ぜひ読んでいってください。
次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。
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それでは、また次回お会いしましょう。




