番外編③(1)
楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。
俺、空兎と愛しき我が妹、明兎は刑務所に入れられていた。特にこれといった悪いことはしていない。ただ、少しムカついて貴族を名乗る連中をぶん殴っただけだ。そのせいで、死刑判決とか言う頭のおかしい判決になった。
なので、今はどうやってここから抜け出すかを考えている途中だ。
色々試してみた。定番のスプーンで壁を掘る。これはうまくいかなかった。スプーンの方が折れてしまった。
次に床を掘るという方法。窓から見た限り、ここは一回で、下にも地下室があるという情報がなかった。つまり、無理と。
他に使えるものがないか、持ち物を確認してみたが、親切な人から教えてもらった、『冒険者証明書』というのが俺と明兎の分それぞれある。スマホと間違えて取り出しそうだ。話し方はうさん臭い感じだったんだけどな。
そこにはゲームのステータス画面のようなものが書かれていて、俺はレベル14、明兎はレベル11だった。これの基準がどれくらいかは分からないが、低いのは確かだろう。
しかし、スキルというものを俺と明兎はそれぞれ持っていた。
俺は、『編集』。説明を見る限り、何かを切り取ったり、物の時間を経過......いや、早送りか。それができるらしい。何度か使おうとしたが、使い方が分からず、使うことができなかった。使えるようになるかは分からん。
明兎は、『紡ぐ物語』。説明を見た限りだと、普通にチートスキルだった。自分や相手の運命を書き換えることができるらしい。どんな相手に有効かは分からないが、何か書くものさえあれば発動できるそう。
しかし、根本的に不可能なことはできないという。都合のいい環境を創り出せると考えた方がいいのか?
しかし、書くもの自体ないので、今は使うことができない。
聞いた話によると、刑が執行されるのは3日後らしい。
ということは、それまでにここを出なければ早速ゲームオーバーというわけだ。
今は明兎は夕方なのに寝ていて、理由が、俺と言い争いになったからである。
命の危険が迫ってきていると実感したのか、今更俺にあの時なんであいつを殴ったのかを責めてきた。
そんなこと言われても、あれは明兎を守るためだった。
街中で貴族とやらに絡まれた俺たちは、明兎の身柄を引き渡すように言ってきた。理由が、明兎を気に入ったからだと。
確かに街中で黒髪の女性は見なかったし、俺たちが不安そうにしている様子からもイケると思ったのだろう。俺も明兎も断ると、無理やり連れて行こうと明兎の腕を引っ張ったのだ。
俺はさすがにブチ切れてそいつらをぶん殴った。そして、明兎はそいつらの股間を蹴った。
結果、俺たちがここに入れられたのだ。
さっきは半パニック状態で、俺を責めてきたものだから、どうすればいいかわからなくなった。ついには、「死にたくない......」と、膝を抱えて泣き出し、しばらくすると、泣きつかれたのか、寝息を立て始めた。
なので、看守さんに言って毛布をもらう。
この前こっそり話してもらったが、ここの看守はほとんどがこの国のトップたちが嫌いらしく、ちゃんとした罪状......窃盗や殺人などをしていない囚人には、できうる限り親切にしているという。脱獄しようとするなら、止めないし、言えば水や毛布、本など、様々なものを貸すとのこと。なお、帝国のトップ層を嫌っていない連中は別の場所に配属されていらしい。
しかし、看守がカギを開けて脱獄させることはできず、己の力で脱獄してみろということだ。そして、看守は自分の名前を教えることができない決まりがあるらしい。
今までに脱獄してきた囚人の話を聞いてみたが、どれも少なくとも2か月、長くて1年かかっているという。
つまり、この短期間ではどうしても脱獄はできない。しかも、俺たちのような年齢で死刑になるのは初らしく、特に親切にされている。
とは言っても、抜け出す方法を見つけないと、どうしようもなく、死ぬことになる。
だから、探さねばいけないが、明兎が寝ている間、俺が何かを見つけるしかない。
せめて明兎のスキルが使えれば、俺もスキルを使うことができる......と思う。実際に使ってみないと、どれぐらいの効果があるのかは分からないが、使ってみたいという気持ちの方が上回っている。
書くものか......せめてマーカーペンがあれば服にでも書けるのになぁ......
他に書くものなんてないしな......一応看守さんにペンがないか聞いたんだけど、ペンの材料が制限されているらしく、ペンはもらうことができなかった。
書くものといっても、色が付けばいいのだろうか。色水があれば書けるかもしれないが......
しかたない。今日はもう寝るか。あまり悩んでいても思いつくものも思いつかない。
横になり、目を瞑る。話し声が別の牢屋から聞こえ、隣では明兎の寝息が聞こえる。
別に寝つきが悪いとか言うわけではない。それなのに、今日はなぜだか眠れなかった。いや、寝る時間が早すぎるのか。
それでも目を瞑り続ける。体感的に三十分だろうか。その時点で意識はなくなった。
周りの喧騒で目が覚めた。何やら慌ただしくしている。目を開けると、いつの間に転がったのか、壁が目の前にあった。
後ろを振り向くと、足を突き出すような形で明兎が寝ている。どうやら寝相の悪さゆえに蹴飛ばされてここまで転がってきたようだった。
俺は起き上がり、近くを通りかかった看守さんに何があったかを聞く。
すると、外で大暴れしていた化け物がいて、その後片付けで全員動いているようだ。
しかも、その化け物は謎の黒髪の青年が何とかしてくれたようで、看守さんに、残りをよろしくとだけ言ってどこかに行ったという。
こういう異世界に来ると思うけど、他にも異世界人......地球人がいてもおかしくないよなと思う。同郷の人がいれば特に安心できるしな。
「俺もその後片付け協力しますよ。」
俺は、何かその黒髪の青年についての情報が何かつかめないかと思い、そう提案した。
しかし、その看守さんは少し悩んでから、断る。
「ごめん。今、あそこはとんでもなく高温になってるんだって。だから、危険だから行かせられな......」
そこで看守さんの言葉が途切れる。
「そうだ!!クートくん、君、ここから出たいよね?」
突然何を言い出してるんだ。そりゃもちろん出たいに決まっている。
「そりゃそうですけど......突然訊いてきてどうしたんですか?」
「いやぁ、この後片付けにはね?他の大量の囚人が動員されてるんだよ。その一人二人ぐらいいなくなっても気が付かないな~。それに、君たちは一番命の危険があって、他の人たちからも好かれてるみたいだからな~ってね。」
なるほど。その隙に逃げろってことか。
「ま、足かせはつける必要があるんだけど。鍵の閉め忘れはいくらでもあるしね~。」
俺は早速明兎を起こす。
何十回数揺らしたのち、めちゃくちゃ不機嫌そうな様子でノロッと起き上がった。
「空兎~、寝てるときはいつも起こさないでって言ってるじゃん!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないって!ここから出れるぞ。」
「どういうこと?」
「この看守さんが出してくれるって。」
俺が看守さんを指さすと、その看守さんはわざとらしく視線を逸らしながら、あくまでも独り言ですよ~とでも言うように、つぶやいた。
「その時は、監視の目が行き届かないだけだからな~。仕方ないな~。」
それを聞いて外に出れることは察せたのか、明兎は分かりやすく目を輝かせる。
「空兎、早く行こ!!看守さんありがとうございます。」
明兎がお礼を言うと、あからさまに看守さんは照れながら、今度町であった時には飯でも奢ってくれよ?と、俺に耳打ちした。
本当に心温かい人たちでよかった。いやでもまだ早い。ここから抜け出してから感謝をしよう。
看守さんがカギを開け、俺たちの足に何かをつける。
足かせだ。この施設から一定距離離れると、電撃が流れて気絶させる仕組みらしい。その上で、看守に知らせがいくらしい。
俺たちの足に着けられたものは、見て分かる通り、着けられてるのかも怪しいぐらい、ガタガタな動きをしていた。少し力を加えれば取れそうだ。その際、何かを看守さんに渡された。
「持っておけ。俺の1か月分の給料だが、こんなクソみてぇな国じゃ使うところがねえ。どうせ使わないし、親が宿を経営してんだ。生活には困ってないから持っていきな。かわりに、必ずここから出ろよ?」
その1か月分の給料を無理やり手に握らされた。さすがに少し気が引けるが、ありがたく受け取ろう。
そのまま看守さんに連れられ、外へと出る。ものすごい熱気が体に襲い掛かる。
「いいか?いくら見逃すとは言っても、なるべくバレないように抜け出せよ?さすがにわざとらしかったら俺も言い訳できないしな。」
ってことは、コソコソ行けってことね。
看守さんが俺たちから離れ、他の看守の所へと向かう。
明兎とはぐれないように気をつけながら、少し離れたところの他の看守さんに話を聞きに行く。
「すみません、どこをどう後片付けを手伝えばいいですか?」
俺が話しかけてやっと気づいたとでもいうように、大げさに驚いて、その看守さんは少し離れたところを指さす。
「それなら、あっちを手伝ってくれ。特に暑いから、人が足りてないんだ。」
と、人の数が明らかに少ないところを提案していた。この看守さんもいつもよくしてくれてる看守さんだ。
多分、俺たちが出てきたことで色々と察してくれたのだろう。そう考えておこう。
俺たちは指さされたところへ向かう。言われた通り、さっきより暑くなり、地面を見てみると、赤熱したところや、所々溶けたのか、ガラスのようにキラキラとした物質も混じっている。
相当な高温だったのか。そりゃ、だれも近づきたがらないわけだ。
俺たちは、熱気による空気のゆがみで見えにくいなか、他の人間が見ていないのを確認して、こっそり近くの物陰へと隠れる。
そこで、俺と明兎は足かせを外し、その場に捨てていく。
明兎と目くばせをし、走って別の建物の陰に向かう。路地裏に入り、誰も追ってとかが来てないかを一応確認しておく。
よし、大丈夫だな。あまりにもスムーズに抜け出せたので、思わず、何か仕組まれているんじゃないかと疑ってしまいそうになるが、多分、あの看守さんの言うとおり、あそこにいた全員、見て見ぬふりしてくれてたんだろうな。
さて、今晩泊まる場所を見つけたいのだが、あいにく、この世界の文字が読めない。だから、どこが宿かすらもわからない。
仕方がないので、今日は路地裏で寝るしかなさそうだ。
一応、明兎が肩に布団をかけていたので、明兎が地面に直接座ることはなさそうだ。まぁ、俺は別に地面で寝ればいいし。なんなら、寝なくても大丈夫だ。さっき寝てたし。
明兎が布団にくるまって寝息を立て始めたころ、久しぶりに携帯を起動する。この星空。それがあまりにも綺麗だったから、写真に残しておきたいと思ったからだ。
久しぶりに起動した携帯のバッテリーは残り83パーセント。いざというときのために電源を切っておいたのが功を奏した。もちろんネットは使えない。
ちなみに、一応明兎の携帯も電源を切らせてある。使う時が来るかもしれないからだ。かくいう俺は、風景を収めようと起動しているわけだが。
写真を撮ってふと気が付く。これって、もしかしたら携帯のメモ機能でも書くってことになるんじゃね?確かめる術としては......明日明兎が起きてからじゃないと分からないが、試してみる価値はある。
きれいに撮れてるか気になり、写真を見てみた。うん。とてもきれいな夜空だ。見たことのない星座しかないが。
俺はここに来る前の写真のフォルダを見てみる。最新のものでさえ、遠い昔の写真のように感じる。基本的に明兎がなぜか俺の携帯で自撮りした写真が多いが。自分の携帯使えよ。ホントに。
10分ほど見たところで、電源を切り、少し目を瞑る。疲れなのか安心感かは分からない。しかし、眠くなってしまう。
気が付けば夜が明けていた。街中のざわざわとした喧騒とともに。
表に出てみてみると、男が連行されていた。ものすごい悪態をつきながら、衛兵に無理やり引っ張られるようにして連れられている。
気づいたら、明兎が起きてきていて、眠たそうな目をこすっている。
「ねぇ、空兎~。お腹空いた~。」
「はいはい。朝飯ね。看守さんにもらったお金をありがたく使わせてもらおうか。その前に試してほしいことがあるんだけど。」
「ご飯食べたらやってみる~。」
その時、前を向くと、見覚えのある後ろ姿が。俺は走って追いかけ、その後ろ姿に付いていく。
しかし、すぐに見失い、その青年が路地裏へはいると、姿を消していた。
あれは確実に見たことのある影だ。間違えるはずがない。
「蒼汰......だよな?」
確信した俺の後ろから不思議そうな様子で、明兎が付いてきていた。
いかがでしたでしょうか?今回は、番外編ということで、空兎たちの様子を描きました。前回の番外編同様、来週にも続きますので、ぜひ読んでいってください。
帝国に入ってからの詳しい様子は描かれていませんが、今後タイミングがあれば描写しようと思います。
次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。
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それでは、また次回お会いしましょう。