発想の向きを考えるか……
楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。
一生懸命階段のある方へ進もうとするが、やはり無理だった。
すると、階段の方から誰かが降りてくる音が聞こえた。
そこに懐中電灯を向けると、そこにはなぜか、昔に俺をいじめてきたあいつらだった。
もしかすると、この暗さは俺の心の闇でも映しているのだろうか。割り切ってるつもりだったが、ほんの少しだけひっかかりがあったんだろうか。
『蒼汰クンじゃん。こんなところでどうしたの~?』
『どうせ、ダンゴムシみたいに暗いところで丸まってるだけだろ。』
『おい、言ってやるなって。それはダンゴムシがかわいそうだろw』
一々、ニヤニヤゲラゲラ笑いながら、あの時のようにあいつらは話す。耳障りな声が俺の耳へまとわりつく。しかし、エコーのようなものがかかっていて、どこか現実味がない声だ。
そのせいで、むしろ俺の心が鎮まり、あの時のように落ち込むだけのようなことも一切ない。
俺が明らかに興味がないという反応をしているのを見たのか、あからさまに面白くなさそうな顔をした。
『ちっ、つまんねえな。なあ、こいつに効くネタとかねえか?』
『ん~、こいつの弟のことを代わりにしようぜ。どうせ、こいつは引きこもって出てこねえんだから、何も出来ねえよ。こいつの弟なら、ちょっとつつくだけでギャン泣きするだろ。』
『ってことで、蒼汰クン、お前のせいで弟くんが泣くことになっちゃうね~。どんな気持ちか教えて?』
大丈夫だ。言動はそのまんまだが、こいつらはあくまでも本物じゃない。そもそもこいつらは俺に弟がいることを知らなかったはず......いや、弟はたまに試合を見に来てたから、知ってる可能性はあるか。
だが、それでもこいつらの挑発なんかに乗る必要はない。
『また反応がないよ。なあ、こんなやつほっといて、別の奴のところ行こうぜ。』
『そうだな。こいつの弟なんて、どうせクソみてえに頭が悪いし、そこら辺の吐き捨てられたガムと似たようなもんだろ。だって、こいつが道端に吐き捨てた唾と同じ価値だしなw』
俺の中で何かが切れた。俺のことは別に何を言われても、もう気にしない。だが、いくら、あいつらの幻像であっても、そんなセリフを吐いたことに、弟を貶したことにどうしようもない怒りがわいてきた。
何より、あいつらが言うってことは、言いそうだというセリフを思い浮かべてしまった俺がいるということだ。そのことに一番怒りを感じている。
「うるせえ。いい加減黙れ。二度と喋るな。」
いまだ騒ぎはやし立てる奴らに向かって、俺はつい切れてしまった。
すると、彼らは目を丸くして、何がおもいろいのか、ニヤリと笑った。
『そうかそうか。蒼汰クンは俺らに黙っててほしいわけですね~。ハイハイ分かりましたとも。調子こいてんじゃねえよクソが。一生動けない体にしてやろうか?』
『さすがにそこまでするなってw単細胞生物だから、感情が一つしか出せねえんだよ。まともに取り合う方が馬鹿だっての。』
それでも態度を変えずヘラヘラしている奴らを殴ってやりたい気持ちが湧き上がってきた。だがしかし、前に進むことができず、俺はずっとその場にとどまったままだった。
『おいおい、まっすぐすぎだろ。俺らを殴りたいのなら、まっすぐ来ても勝てねえぜ?』
『強烈なカウンターを食らわせるってか?かっくいい~。』
『そんな褒めんなって。カウンターも何も、あいつは何も出来ねえんだから、無視していいだろ。』
『ま、後ろから不意打ちでもされたらカウンターを食らわせるまでもなくやられちまいそうだけどな。』
『お前はバカか。弱点でも突かねえ限り、びくともしねえよ。しかも、弱かったら意味がねえ。この意味が分からないほど馬鹿じゃねえよな?さすがに。』
『いや俺、お前みたいに喧嘩好きじゃねえから分かんねえっての。』
あいつらがまた何か喋っている。いい加減に黙れや。前に進む方法を考えているんだからな......
だが、少し引っかかるな。あいつらは素でお互いあんな話す奴らじゃなかったはずだ。「楽しい」という共通のものがあったからこそ、気があっていたにすぎない。
少し考え方を変えてみよう。
前に進めないのなら、後ろや横に動く。だが、俺は一度もそれを試していない。まっすぐに物事を見すぎていて、他の方法を考えなかった。
それをやってみれば......試しに、横、後ろに歩いてみる。すると、さっきまでが嘘のように歩けるようになった。もっと言えば、あえて斜めに動くことで前にも進むことができた。
......そりゃそうだな。俺はいい標的だったわけだ。どんな言葉も行動もまっすぐに受け止めるせいで、抱える必要のないものまで抱えていた。自分のこともまともにできないくせに、なにがアリサを元に戻すだ。まっすぐに考えすぎた結果、失敗した。
だったら、脱線して考えればいいんじゃないか?脱線する道がないなら、つくるかつくってもらう。一人で抱え込む必要なんてない。発散したければしろってことか。
俺は夢中で談笑している彼らに一発ずつ殴りを入れ、自分の頬を叩いた。
『目が覚めたみたいだな。心の闇も少しは晴らすことができたかの?』
目の前にいる奴らが、しかし、ここに居ない誰かの声で俺に優しく語り掛けてくる。
自然とその声に頷き、俺は前に進むようになった足で階段を上る。また何かを抱え込めば、こんなことが起きるかもしれない。だが、それは俺を成長させてくれるってことか。
早く行こう。アリサを助け出すために。セクやモルとともに。
階段の見えている最後の一段を上りきったところで、俺の視界は真っ白に包まれた。
目を開けると、火の球をあちこちに放っている暴走アリサの姿があった。そのうちの一つが俺の目の前まで飛んできており、俺は慌てて、水魔法を当て、それごと空間魔法で包み込む。......さっきの体の不調が嘘のように消えている。
『ソータ君!目を覚ましたのか!』
えっと、まあうん。なんか、自分の心の内と向き合わされたけど。
『......何があった?一日に使える魔法の回数が五回だけ増えているぞ?』
俺に聞かれても。回数が増えている理由なんて知らね。
『......もしかすると......いや、そう言い切るのは安直か......』
なんかセクが一人でぶつぶつ呟き始めたので、俺はアリサの所に歩いて行って......って、ダメだ。さっきと同じだ。何も変わらないじゃねえか。
モル、一時的に暴走アリサの動きを止めることはできるか?
モルならできるかも、と、考えてモルに伝えたはずなのだが、応答がない。
『すまんソータ君。モルさんはさっき街に向かうのを足止めして、力を使いすぎて眠っている。足止めぐらいなら、俺もできるが、攻撃してくる腕を止めるぐらいしかできないぞ?』
十分。1秒も出来たら、作戦通りのことができる。
俺は即刻暴走アリサへ近づく。俺に気付いたアリサが、手を振るうが、セクの支援によって、その腕は固定されたかのように動かなくなる。
3秒経ったところで、俺はアリサに空間魔法を食らわせ、セクが作ったような空間へと転移させる。
「後片付けはよろしくお願いします!!」
満身創痍ながらも応援を呼ぼうとしている衛兵に向けて、俺は伝えた。その衛兵親指をグッと立て、任せたとでもいうように地面に大の字になって倒れた。
俺はゲートを作り、アリサを送った空間とつなげる。ここをくぐった先からが本番だ。あの石を破壊して、何とかアリサを大人しくさせる。今日......いや、過去一番の難題だ。
だが、セクにも頼りつつ、俺はアリサを元に戻す。そうすることに決めた。
そして、俺はゲートをくぐり、すぐに閉じる。
暴走アリサが耳をつんざくような、さっきまでとは違う咆哮をするが、それにひるまずに俺は暴走アリサを見やる。
普通なら、炎が出ているときは音が出る場合もあるが、暴走アリサの炎は完全に無音になっている。そして、透き通るほどの蒼色になっていて、地面が溶融しかけていなければ、炎があることすらもわかりづらい。
しかも、地面を砂にしたせいで、少しだけキラキラとしたものが混じっている。ガラスみたいになっているのだろう。
......えっと、これね、地面の素材ミスったね。あっちが動くと、赤い砂がこっちに飛んでくるの。うん。水魔法で俺の体を保護してるけど、目の前でガラス片が浮いてるからね。怖いよほんと。
でも、そのおかげであちこちに穴が開いて、暴走アリサが足を取られるぐらいにはなっていた。
それでも俺に火球を飛ばしたり、腕を振るってきたりする。
俺は避けながら、時々砂や水分を含ませた砂をかけたりするのだが、特に効果はない。いや、効果がないということはない。数秒の間だが、暴走アリサの体についている。しかも、その部分が若干ではあるが、炎が弱くなっている。
『ソータ。お前、俺と同じこと考えてるな?』
ああ。セクは地面の砂を空間魔法を使って切り取っておいてくれ。俺はそれに水を含ませるから。
『なるべく多めにだな?分かった。』
分かってんじゃ~ん。いいね。周りを気にしないでいいと、心に余裕も生まれるもんだな。案外。
ここから少し離れたところに大量の砂が切り抜かれたかのように、直方体のようになって浮いている。
それに滝のような水をかける。すると、熱が出た時のような体のだるさと頭痛が襲ってきた。タイミング的に水魔法を使いすぎたのだろう。
次、もう一回使ったらどうなるかわからない。少なくともろくでもないことになることは目に見えている。
やはりと言うべきか、一日の使用回数を超える、または超えそうになると、体調に何かしらの影響が出るということか。
さてさて、この頭痛は少々きついが、気になるほどじゃない。そして、使えるのは、空間魔法があと2回か。そして、ここでは時間の流れが遅くなってるから、帰還用に1回は残しておかないといけない。ってことは......うん。1回しかチャンスねえわ。
あれだな。ガチャが切り替わる直前の、最後の1回にキャラが出るかどうかを賭けるのと同じってことでいいかもしれん。......自分で言っておいてなんだが、この例えはよくわかんなかったな。
とりあえず砂に水は含ませたから、あとはこれをアリサにぶつけてもらうだけなんだけど、これはセクにお願いするしかない。水分がすぐ抜けると思うけど、多少の足止めぐらいにはなるな。
足止めさえできれば、あの石が見つかるかもしれない。
さすがに魔法といえど、重量に限界でもあるのか、カメのごとく、トロトロとしかこちらへと進んでこない。時々脳内に聞こえるセクのものすごい力のこもった声があるため、必死に頑張っているのは分かるが。
俺も暴走アリサを、セクの操作する水を含む砂の方へと誘導する。
大体、後ろからぶつけてもらえるような位置へと誘導した。
俺は暴走アリサと相対して、一瞬睨み合うような時間が生まれた。しかし、すぐにアリサが動き出そうとした。
だが、それを止めるのがセクの操作する砂だ。
見た目よりも重く、ドスっという水を含んでいるだけの砂とは思えない大きな音をたててアリサにぶつかった。
突然の衝撃に咆哮を上げる暴走アリサ。しかし、砂が水を吸っているせいで、中々に重く、動けないようだ。
そして、どこに石があるのかを探すのだが、それはすぐに見つかった。
肩甲骨の部分……右側の方に石が緑色の光を発して引っ付いていた。
なぜそこについてるのかはわからないが、それを破壊するだけだ。
俺はなるべく慎重に空間魔法でその石を取り、内部にトゲを作り、そのままその空間を圧縮した。
石にヒビが入り始め、そこから強い光が洩れ始める。
もう少し圧縮するイメージをすると、石は粉々に砕け散り、切り取った空間が膨張し始めた。
さすがになるべく遠くに投げ、ギリギリまで圧縮するイメージをした。
ここから目に見えないぐらいまで飛ばしたところで、遠くで緑色の光が見えた。
…………なんともないな。
俺はしばらく待ってみて、特になんともなかったため、ホッと一息をつく。
ふと、アリサの様子を見てみようと後ろを振り向いた。
すると、そこには咆哮を上げる暴走アリサの姿が。その周囲にはカラッカラに乾いた砂。
なるほど。まだアリサは元に戻らないようだな。
いくらか炎の勢いは弱まっているが、暴走アリサの目はギラギラしていて、まだ闘争本能が残っているようだった。
しかし、さっきのように火球を飛ばしてきたり、突っ込んだりしたりせずに俺の出方を窺っているようだった。
アリサやサラとは別の眼光だ。もしかすると、この状態での自我が芽生えてしまったのかもしれない。
もしくは、炎が弱まったことで思考できるようになったのか。
どちらかは分からないが、理性的な瞳ではある。まだ少し本能の方が強そうだが。
これは……迂闊に動けないな。迂闊に動いてしまえば、攻撃される可能性が高い。
だけどなぁ、これがまだスキルの暴走によるものだとしたら、何とかして元に戻さねばならない。
うーんどうすりゃいいんだろうか。ゆっくり考える時間はあまりなさそうだが。
いかがでしたでしょうか?今回は、蒼太が謎の空間から抜け出して、モルとセクと考えた作戦を行えましたね。
蒼太が謎の空間にいたのは魔法と何か関係があるのかもしれませんね。どう言う条件で出てくるのかは謎ですが。
次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。
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それでは、また次回お会いしましょう。




