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どうするべきか、どうしたものか……

 楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。


 マズいのう......慌ててこやつが「回復粉」といっているものをかけたんじゃが......目を覚まさぬな。火傷や裂傷、打撲の跡などは全部消えておるが、ソータが目を覚まさぬ限りは動くことができん。


 しかも厄介なことに、こやつの意識はかなり深いところまでいっておる。ソータ自身がなるべくはやく目を覚ますことを祈ることしかできんの。


 幸い、暴走状態のアリサはこちらに気づいておらなんだしの。しばらくは持つだろうが、街の方に向かっていったら大変じゃ。


 何としてでもソータを起こす方法を考えねば。


「セク、ソータは意識を完全に失っているようじゃ。起こすための策はあるか?」


 セクは視線を上に向け、考える素振りを見せる。


「ないっすね、モルさん。こればかりは本人にしかどうすることもできない問題ですから。」


 ふむ。つまり、今の妾たちにはソータの身を守ることしかできぬようじゃな。


「それと、モルさん、一つ言いたいことがあるんですけど......」


「なんじゃ?」


「ソータ君が途中で急にふらついたじゃないですか?」


 む?確かにそうだったの。熱にでもやられたのかと思っておるが......


「それの原因がわかったんですよ。」


 原因とな。たしかにあそこまでなんの前ぶりもなく、体調を崩すことはなかろうて。


 そうじゃなぁ。一つ思い当たる節があるとするなら......


「やっぱり、魔法の使いすぎかの?」


 今日、ソータはかなり魔法を使っていた。中でも空間魔法を活用しておったし、一日あたりの使用制限回数でも超えたのじゃろう。


 どうやら、妾の予測は間違っていないようじゃ。セクは頷き、その原因についての詳しい説明をする。


「ソータ君は今日、空間魔法を連発していました。すると、一日の使用上限回数まで達し、その反動が体へと降りかかったのでしょう。さっきのソータ君の記憶から調べてみた限り、頭痛、耳鳴り、立ち眩み、吐き気、若干の呼吸困難などを引き起こしていたようです。」


「"など”ということは、他にも体への不調があったのじゃな?」


「はい。他にも目の充血や口内の出血など、全て内側からのものでした。」


 妾は一日の使用制限などはないが、まさかここまで反動が酷いとはのう......水魔法の使用制限の回数を超えたなら、高熱か、脱水症状にでもなるということなんじゃろうか。


 それだけ、この魔法というものは危険であり、妾たちのような強靭な肉体がないと使いこなせないというわけか。


 だとすると、妾たちがソータの内側から支援するとき、どうやって代償を払っておるのじゃ?


 ソータは使用制限回数を支払っておるのは分かる。しかし、妾たちは、代償を払っておらんぞ。


 いや、受け継がれてきたものとはいえ、妾たちのスキルそのものじゃ。体の一部と表現するのがよいか?つまり、ソータが使う場合は、借り物であり、何かを借りるときには何かを代償にせねばならぬと。


 そして、妾自身で使うのなら、なにもデメリットは発生せぬというわけじゃな。いや、妾の場合は眠気が一気に押し寄せてくるの。


「......ソータ君、反応はあるから大丈夫なんでしょうけれど、中々抜け出せてこれてませんね。そもそも、眠っているような状態ではあるんですけれども。」


 何やらセクが気になることを言った。


「抜け出てこれないというのはどういうことじゃ?」


 なにかに囚われているみたいな言い方をしよる。セクには何が見えているのじゃ?


「いや、説明すると難しくなるんですけど、ソータ君の意識はとても深いところにあるんですよ。これを奈落としましょう。

 奈落から抜け出すためには、2つの方法しかなくてですね。まず、上へと登れる道を探す。まあ迷路みたいなかんじです。

 2つ目が誰かに引っ張り上げてもらう。この二つしかないわけですよ。」


「なるほどのう。つまり、今ソータはその迷路のようなところで迷っておるのか?」


 迷路が得意とかほざいておったの。嘘だったのかの。


「迷うと言うよりも、四方八方塞がれてるって感じですね。

 心の奥深くにある恐怖、策が上手くいかなかったときの、自分に対する失望、どうすることもできないという絶望、そして、寂しさ...ですかね?

 元の世界が、というより、とある誰かと会いたいのでしょう。そんな感情で塞がれていますね。」


 むぅ。やはり、普段は抑えておったのか。時折、ポロッと本音のようにこぼしていたが、そこに影響があったとは。


 では、後者の誰かに引っ張り上げてもらうというところしかないではないか。


「引っ張り上げるというのはどういう風にするのじゃ?」


「この空間だと比較的簡単なんですけど、ロープでも作って引き上げればいいと思いますよ。」


「じゃが、そもそも気づかない可能性のほうがあるだろうな。」


「そうなんですよねぇ。そこをどうするべきか......」


「そもそも意識の中のソータを捉えることはできるのか?」


 こちらからは姿が見えぬが、セクには意外と見えてるのかもしれん。


「あっ。」


 セクが間抜けな声を出しおった。そこまでは考えていなかったらしい。


 セクをどうしてやろうか考えていると、視界の端に青く光る何かが飛んできているのが見えた。


 慌ててそれを防ぐが、ソータの体の後ろの壁が溶解し、半マグマ化しておる。


 どうして飛んできたのかと思ったが、すでに0時をまわっているようじゃな。日付が変わったことでまた使えるようになったか。


 となると、少なくとも今のようなものをあと20回ほどは使えるのじゃろう。少し厄介じゃな。


「セク、万が一に備えて防御をしっかりとしておくのじゃ。次に火球が飛んでくれば治しようのない怪我になるやも知れぬ。」


 そう言いつつ、セクの方を見てみると、何故か驚いたかのように固まっておった。


「モルさん、まだ0時まわってないですよ。証拠にソータ君のはまだできないですよ。」


 ならば、少し違和感があるのう。なぜ今更奴が火球を放ったのか......よもやサラがやっているわけではあるまいな?


 流石にないかの。あるとすれば、暴走状態で自我が生まれようとしていることじゃが、そんな話聞いたこともないわ。ふむ。もしかすると、近くに標的がいなくなったため、文字通り標的をあぶり出そうとしておるのではなかろうか。


 では、なおさらソータには早く目覚めてもらう必要があるな。いや、少なくとも0時を過ぎるまではさっきの作戦は使えん。


 足止め程度にしかならないと思うが、あやつを丸ごと凍らせてみようかの。


 炎を閉じ込めるなどやったことがないが、凍らせることができたら面白そうじゃ。


「モルさん、余裕ムーブカマしてるときじゃないですって。そろそろ本当に止めないと街がやばいですよ!!」


「わかっておる。ところでセク、炎の氷は見たくないか?」


「いきなり何ですか!凍らせられるんだったら、早くしてくださいよ。」


「やれやれ、この程度で慌てるとは......まだまだ未熟よのう。」


「逆に冷静すぎですよ。ソータ君の体が消えたらどうなるかわからないのに......」


 たしかに、な。一緒に道連れになるやも知れんな。なるべく抑え込めればよいのじゃが......


「絶対零度」


 やつに向けてこれを放つ。これは維持が難しいが、対象を必ず凍らせるというものじゃ。今までに炎に向けてやったことがなかったからの。少々不安じゃったが、上手くいってよかったの。


 やつは瞬時に凍りついた。あと持って数分といったところか。今の時点でも、かなり睡魔が襲ってきよる。


 それにしても中々に芸術的ではなかろうか。ソータの記憶で燃える氷は見れたが、凍る炎は見れなかったからの。なんともいえない良さがあるの。


 ......今度、しっかりとこの眠気に抗う方法を考えねばな。なにか考えていないとつい眠りそうになる。


 妾はなんとかソータを起こそうと執行錯誤しているセクを横目に、睡魔に抗いきれず、ついにまぶたが下りてしまった。


 氷がバキバキっと割れる音が聞こえた気がするが、気にする間はなかった。




 ......暗いな。明かりはなにかないだろうか。


 俺は起き上がって周囲を見渡してみる。しかし、そこらじゅう闇に包まれていて、わずかに光があるなんてこともなく、自分が動けていないと錯覚してしまうほどだ。


 実際、顔の近くに手を持ってきても、手の形どころか、そこに手があるのかさえわからない。


 とりあえず、前に向かって進むが、気がつけば倒れていた。めまいとかいうレベルじゃない。俺のいる場所自体が回って、俺が進むのを止めているようだった。


 そして、再び起き上がって歩こうとするが、やはりと言うべきか、前へ進めない。体がこれ以上前に行くのを拒んでいるようにも感じてきた。


 この感覚は今までにない。というか今更だが、ここはどこだ?さっきまで俺は......俺は確か......


 そうだ。俺はなんとかして、モルとセクと考えた作戦を行おうとして、失敗したんだった。


 そして、俺はタックルされて......え、もしかして死んだあとの世界?いやそれだったら、エルスさんがいてくれてもおかしくないから、違うな。というか、違っていてほしい。会いたくないとかそういう意味ではなく、俺が死んだあとで会うことができないという意味だ。


 せめて、今度はちゃんと生きている状態で会ってみたい。顔を合わせたときは転生前だったし。


 というか、本当に死んでないよな?水魔法も空間魔法も使える感じがしないのだが。


 せめて明かりぐらいは用意してくれ。ここまで暗いのはどうしようもないんだけど。


 まあこんなこと言っても何も起こらないか。なにか来てくれねえかな。


 前に進めるように明かりぐらいは。


『では.....ソータ.....びいてやろう。』


 この空間に声が響いた。誰の声だ?と考えるまでもなく、光を発する何かが降ってきた。懐中電灯だ。


 それを拾い上げ、前を照らす。すると、上へと続く階段が光に照らされ、現れた。 


 待てよ?というか、さっきの声、聞いたことがあるぞ?いつだったか、夢の中で同じ声を聞いた。ノイズ混じりの妙に落ち着く声。


 ……やばい。もはや夢か現実かすらもわからなくなってきたぞ。さっきまでのことをはっきり思い出せるから、夢じゃない可能性があるが。


 そういえば、前に言っていたときも夢の中で何かを伝えようとしていたな。


 ......ん〜。なんて言ってたか覚えてねえし、考えていてもしゃあない。とりあえずこの階段を登ってみよう。


 俺は前へと足を出す。しかし、目標が見えているのにも関わらず、さっきと同様、勝手に体が地面に向けて倒れるのみだった。


 しかも何故か目が回る。回ったりもしていないし、回っているものを見たりしていないのにだ。


 一瞬、貧血かと思ったが、状況的にそうではないだろう。やはり体がこの先に行くのを拒絶しているようだ。いや、ここ自体が違和感ない程度に回ってるって可能性も捨てきれないけど、階段の向きを見ると、そうではないんだよなあ。


 ......閉じこもってた部屋が頭に浮かぶ。あのときも家から出ただけで体調が悪くなった。それだけ塞ぎ込んでいた時があった。もしかすると、これも似たようなものなのかもしれない。


 あのときは悔しさと悲しさだったけど、今、心に手を当ててみると、氷のように冷たいものが引っかかっている。自分の中で押し殺していた感情たちだ。


 まずは、あいつらと別れも言えず、会えない寂しさ。三人で考えた策なのにミスったこと。未知のものへの恐怖。

そして、それら全てをどうするべきかというこの気持ち。


俺は今、迷いなく迷っている。そして、それが前へと進めない原因だと示唆しているのではないだろうか。


 あのときの感情を思い出したからだろうか。こんな風に考えてしまう。


 そう考えてみれば、あの時と変わっていないな。俺は。ずっと閉じこもって自分の中だけに閉じ込めて。口では色々言いながら......


 って、前もした自問自答をしてもしゃあないな。


 というか、すぐにしゃあないとか言って、思考を放棄するの、よくないな。これから直していこ。


 それにしても、どうやったら前に進めるんだろ......あ、歩いてコケるなら、こけたまま進めばいいんだ。


 要はほふく前進ね。これで進めば......


 俺は地面にうつ伏せになり、懐中電灯を握りながらほふく前進をする。しかし、階段との距離は縮まらないため、前進できていない。


 やはり、なにか条件でもあるのだろうか。



 いかがでしたでしょうか?今回は、蒼太の様子を見たモルの視点からでしたね。最近、蒼太以外の視点で書いていますが、蒼太以外はどういう風に思って行動しているのかが気になって書いたというところがあります。


 それと同時に蒼太の身の回りで起こっていることを書いておきたいという意味もありますね。


 次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。


 面白いと感じたら、ブックマークや評価をぜひ、よろしく願いします!モチベーションや、物語の流れにもにつながるので!


 それでは、また次回お会いしましょう。


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