一応、これで大丈夫だな。
楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。
アリサと別れた俺は読み取った記憶があった場所へと向かう。その時、監視塔のような場所から光が出ていて動いているため、そこに当たらないように気をつける。もしかすると、見つかった判定になるかもしれないからな。
そして、監視塔の入口へとたどり着いた俺は、一度ドアの隙間から水を流し、空間魔法を使って、見えない鏡のようなものを流す。こうすることによって、俺の手元の対となる鏡にその様子が映し出されるというものだ。
ちなみに、俺が案を出し、レサの通信機の仕組みを利用して、セクが作ったものだ。空間魔法に近いものが使われているため、応用するのが案外簡単だったそうだ。
手元に映る中の様子を見る。階段を降りた先に奥まで続く通路がある。その道中、数多くの兵士の姿も。
......そう、兵士である。ここ以外では囚人が警備をしていたのに、ここでは兵士が警備をしている。だがしかし、時折部屋のドアが見えることから、兵士の泊まる場所でもあることが分かる。
実際、少しだけドアが空いていたところから見えたが、お酒を一緒に飲んだり、食事をして馬鹿騒ぎをしている。また、床を流れる水に誰も気が付かないようだった。時々気づく兵士もいたが、いつものことか。みたいな顔をして最終的にはスルーをする。
一番奥まで進むと、厳重な鉄のドアがあり、その近くには見張りが2名ドアの両脇に立っていた。
直感的にそこにルーナがいることがわかり、流した鏡を俺のところまで戻す。
このドアの向こうには誰もいないことが確認できたため、俺は極力ドアが開かないようにして、中へと入る。
よかった。気づかれなかったようだ。
とりあえず階段を下る。そして、途中途中で自室からだろうか。お酒の瓶とおつまみ......いや、うん。見なかったことにしよう!うん。絶対その方がいい。
兵士が手に、こんがり焼けたネズミのようなものを持っていたとしてもだ。
そして、信じられないほどあっさりと鉄扉の前にたどり着いた。一旦物陰に隠れる。本当にズルいなこのスキル。
さて、この兵士たちをどうするかだが......
都合よくこいつらが一緒に仲間と飲みにでも行ってくれればいいんだけど......
まあしばらく様子を見とくか。
そして、数分した頃にことは起こった。
「なあ、さっき飲みすぎちまってよ、実は限界なんだ。少し付いてきてくれねえか?」
おっと、やっと都合の良いことが起こってしまった。どうやら飲んだあとだったようだ。
「嫌だよ!お前ひとりでいけや。」
「すまん。本当にお願いだ。あそこ、夜は本当に怖えんだよ。辿り着く前に床を汚したくないじゃんか」
「はあ。だったらいっそのことサボっちまおうぜ。ここにずっと立ちっぱなんて暇ったらありゃしねえぜ。」
「いいな。それ。じゃあ早速付いてきてくれよ?」
「わーった。わーった。って、うおっ!?びっくりした。ネズミだと思ったら、ただの酒瓶だったぜ。」
「どんな見間違いしてんだお前。調子に乗って飲みすぎたか?」
「そんなところかもしれねえな。なにせ、飲めるのは今日と明日が最後だろうしな。」
「......ああ、そうだな。」
そして、見張り二人がドアから離れていく。そして、俺のすぐ脇を通り、そのままどこかへ行った。最後、陰鬱とした雰囲気があったんだが、見間違いじゃないよな?
ここに入る必要があるわけだが、一応光源として、壁にかけてあったランタンを持っていくことにする。
俺はさっきの鏡を更に薄くし、中の様子を少し確かめ、帝国に入ったときに使った方法を使って中に入る。
視線を感じたので、急いで中に入り、空間魔法を消す。
ランタンがなければ危ないところだった。鉄扉の外から漏れ出る光しか光源がなくなるところだった。
しかもこの部屋はかなり広いのか、奥まで照らすことができない。奥は完全に真っ暗な闇だ。
おそるおそる奥へとゆっくり歩いていく。
壁越しに奥まで歩くと反対側になにかの気配があった。もっというと、鎖どうしがぶつかり合い、ジャラジャラと音が聞こえる。
聞こえた方に向かうと、誰かの足が見えた。しかも、その足にきつすぎるのでは?と思うほどの足枷、がつけられており、地面からの鎖と繋がれていた。また、その足は血の気が引いており、下手をすると壊死している可能性もある。
そして、ランタンを顔の位置まで持ち上げると、くすんだ黄色の長い髪とともに子ども特有の幼い体が現れた。しかも、服は全て脱がされているらしい。一糸もまとわぬ裸であった。そして、体中には傷跡が多く残っている。
更にランタンを持ち上げると、そこには、腕を上から伸びた鎖と手枷で吊るされた少女がおり、感情が何もこもっていない、焦点があるのかさえも分からない表情をしていた。
まるで実物大の人形だと錯覚してしまうほどだった。
俺は感じた。ここに入るのがルーナだと。髪の色もくすんではいるが、固有スキルを使ったときのロサと似ているし、何より目だ。目にほとんど光を灯していないが、ロサやレサと同じ目をしている。そして、この目もまた、固有スキルを使ったときのロサと同じく、紅色だ。
俺はベストを脱ぎ、ルーナにかけてから、足枷と腕枷を一度掴み、分断するイメージをする。あとは数分待つだけでいい。
俺は「フェーズ3」と唱えた。
すると、ルーナであろう人物が口を開いた。
「も...やめ...て......ルー...ナ...いうこと......きく、から...」
弱々しくかすれた声で言う姿は悲痛そのものだった。今の発言だけでも、どれほどの目に遭わされてきたのか、目に浮かんでくる。また、一人称が『ルーナ』であったことから、ルーナ本人であることがわかった。
「落ち着け。俺は味方だ。ほら、お前たちのお姉ちゃん、ロサとレサに頼まれて助けに来たんだ。」
一瞬何を言っているかわからないという様子だったが、混乱しているのか、否定した。
「ルー、ナ...お姉ちゃん......いない...うそ...つか、ないで......」
まずいぞ。想定外のことが起こってしまった。レサとロサのことを忘れてしまうという想定外が。
いや、まだだ。ウサギのぬいぐるみを見せれば......
「お前にはお姉ちゃんがいるはずだ。これを見てみろ。」
そう言って、ポーチから取り出したぬいぐるみをルーナにみせる。
そのときちょうど、カランカランカランッと音をたて、足枷が先に外れた。
ということはすぐに手枷も外れるわけで......
俺はポーチにぬいぐるみを一度戻し、ルーナを受け止める準備をする。
すぐにルーナが手枷から解放され、落ちてきた。俺はルーナが直接地面につかないように受け止めた。その後はゆっくり座らせる。跡がひどい。わずかに動くようだが、本当に壊死していなくてよかった。
回復粉を取り出し、ルーナにかけてあげる。すると、手首と足首にあった枷の跡が消え、手足に少しだけ血色が戻った。
しばらく何が起こったのか分からず、呆然としていた。
そして、俺の方を振り向いた。
「おにいさ、んが...たす...けて、く...れた...の?」
信じられないのだろう。驚きに目を見開きながら俺に尋ねてくる。
「ああ、そうだ。これで少しは信じてもらえたか?」
ルーナが頷く。どうやらちゃんと味方だと判断してくれたらしい。
俺は再びルーナにぬいぐるみを見せる。というか手渡した。
「このぬいぐるみに見覚えがないか?二人から聞いた話では、家族全員で作ったって言ってたぞ。」
弱々しい力で受け取ったルーナは、しばらくぬいぐるみと目を合わせていた。時折ぬいぐるみの匂いを嗅いだり、ぬいぐるみのお腹の部分を見たりしていた。
「おも、いだし...た。かえ...れる.....の?」
どうやら、記憶の混乱よりも家族との記憶の方が強かったらしい。瞳にいくらかの光を取り戻し、俺に尋ねてきた。
「ああ、もちろんだ。すぐにここから二人のところに連れて行ってやる。」
「ほ、んと......に?」
「こんな場面で嘘付くやつなんて、助けに来たとか言って、枷を外したり、ぬいぐるみを渡したりしないよ。」
表情に少しだけ喜びが見えた。よかった。心もちゃんと生きている。失った感情を取り戻せるなら、いいものだ。
俺はグローブに意識を集中し、そこからロームの森にある俺達の家を一度想像する。そして、目の前に空間魔法で扉を出し、その扉の向こうにイメージを付与する。
そう、グローブが光っていたのは空間魔法を保存しておいたからだ。言うなれば、そう、『ゲート』だな。ありがちな名前だけど。
ゲートを開け、ルーナにここを通るように言う。そして、ネックレス型の通信機にもルーナを玄関の前に送ることを伝える。
通信機の向こうから歓喜の声があがった。
しかし、そんな未知のものに簡単に飛び込めるはずもなく、ルーナの足が進まない。
すると、鉄扉の方からガチャリと鍵を開ける音が聞こえた。耳をすませると、こんな会話が。
「しっかしねえ、音がしたつっても、なにか物が落ちただけだろ?」
「わからんぞ。あのガキが抜け出そうとしているのかもしれねえしな。」
「もうあいつにそんな力は残ってないだろ。どうせ、酔っ払いの盲言だろ。ったく、上はそういうことに厳しいんだから。」
「間違いねえな。というか、上の騒ぎはどうする?囚人たちがボコボコにされてるって話だぜ。」
「あいつらが勝てねえなら、俺たちゃ一生勝てねえだろ。ここで馬鹿騒ぎして残りの時間を過ごした方が良いに決まってんだろ?」
「やり残したことしかないけどな。あ~あ、なんで上は欲張っちゃうのかねえ......」
「バカッ、誰かが聞いてたらどうするんだ?反逆罪になりかねんぞ!」
「おっと、危ない。ありがとな。」
「どういたしまして。」
まずい、鉄扉のおかげで、ドアが開くのは遅いけど、時間の問題だ。
俺は声を潜めてルーナに早く向こうに行くように促す。しかし、やはりこの先に行くのを渋ったままだ。安全だと何度も声を掛けるが、聞こえていないようだ。
そして、ちょうどその時、ゲートの向こうにロサが現れた。ルーナにおいで。と、両手を広げている。
すると、ルーナはぬいぐるみを持ったままゲートの向こうへと、少しふらつきつつも駆け出していった。それも、完全に思い出したようで、満面の笑みを浮かべて。
ルーナが向こう側に完全に行ったのを確認すると、すぐにゲートを消し、フェーズ5を唱える。
そのまま物陰に隠れ、奴らの様子をうかがう。中に入ってきた兵士たちは中にあったランタンに気が付き、続いて、ルーナがいたであろう位置にルーナがいないのを見て、少し呆然とした。
しかし、すぐに再起動した。
「お前は、他の奴らに通達してこい!俺はこの中を探す。物陰にでも隠れているはずだ。」
「ああ、わかった。酔っぱらいでもなんでも連れて来るぜ。」
途端に騒がしくなってしまったため、俺はより一層物陰で息を潜める。しかし、動かないでいるのは時間の問題だ。
どうにかしてここから抜け出さないといけないわけだが、どうするか......さっきも思ってたけど、このスキルで見つかる条件がわからん。
まあつまり、見つかれば捕まるから、見つからないようにしなければいけない。だけど、見つかれば終わり。無理だ〜。もっと言えば、ゲートも目立つから作れねえ。
ルーナを逃がしても、俺が捕まれば意味ないしな。
待てよ?ワンチャン、スキルを使えばここから逃げれるかもしれねえぞ?
手のひらに握りこぶしほどの小さい立方体の空間を作り、手に持つ。そして、それを更に『証拠隠滅』のスキルで不可視化にし、それを操作して、グローブの力を使ってゲートにする。周りからは見られてないはずだ。
ゲートはどこでもいいから、とりあえずここの外壁の横側に。できるだけ音を立てないように、ゲートをくぐり、外へと出た。本当に見つかってしまう条件とはなんだろうか。
さて、早くアリサのところにいかないとな。
俺は刑務所の外壁の正面入口へと向かっていった。
しかし、近づくにつれ、嫌な予感がしてくる。なぜなら、炎があたり一面で燃え盛っていたからだ。
そのまま行き、少しだけ様子をうかがう。数十人もの囚人が逃げ惑っていた。しかもよく見ると、燃え尽きた跡があり、炭にまでなってしまったことが分かる。
一人、誰かが吹っ飛んできた。この際、アリサ以外であれば誰でもいいのだが、肝心のアリサはそいつが吹っ飛んできた方向にいるのだろう。今は建物の角が邪魔をして姿が見えないが。というか、少し暴れるっていうレベルじゃねえぞ!?これ。
炎を使う攻撃をするのはアリサしか見たことがない。もしも囚人で使える奴らがいるとしても、アリサの扱える炎には到底及ばない気がするけどな。
少し見えにくいため、近づいていく。姿が見えてきた。また一人、吹っ飛んでくる。
それを避け、アリサの姿が見えるであろう位置まで進んでいく。
すると、そこには化け物がいた。赤く燃え盛る炎に包まれた、2メートルほどの鬼のような姿が。正直、少しかっこいいと思ったが、今はそんなこと言っている場合じゃない。
化け物は咆哮を上げながら、囚人たちに突っ込んでいき、次々とふっとばしている。
アリサの無事を確認しないと。もしかすると、燃え盛っているということは、アリサが燃やしているのかもしれない。
しかし、いくら周囲を見ても、アリサがいる様子がない。
そこではたと気がつく。その化け物は炎に対して、一切熱を感じていないようだ。炎に耐性があるのか?いや、それでも一切効かないということはないはずだ。
片手にグローブを付けた鬼なんか聞いたことがない。
待てよ?グローブ?
今は燃え盛っている炎の影響で、グローブが茶色っぽく見えるが、アリサにつけさせたグローブによく似ている。
そして、アリサが話していた、自分が鬼とエルフのハーフであること、能力を見たときに謎の「暴走状態」とあったこと、それが突然に頭に浮かび、全てが当てはまった。
あれは、アリサだと。なんらかがあり、あの状態になってしまったとわかってしまった。
だが、当然のごとく、なんであんな風になってしまったのかが俺には分からない。一つ言えることとしては、アリサは今、我を失った状態で暴れているということだ。
いかがでしたでしょうか?今回は蒼汰がルーナを助け出しましたね。ちゃんと調べていたので、かなり順調にいっていたようですが、その後の方が大変そうな予感がしますね。そして、アリサはどうしてああなってしまったのか!?お楽しみに!!
次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。
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それでは、また次回お会いしましょう。