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そんじゃ、頑張りましょうか

 楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。


 フィルがつまらなそうに口を膨らませたので、スキルを使って、手品を見せて相手をする。楽しそうで何よりだ。


 というか思ったんだけど......


「まず勝手に泊まらせても大丈夫なのかな?さすがに迷子として宿主に引き渡すわけにも......いや無理か。」


 俺が結局迷っていたのを見てか、アリサが話しかけてきた。


「ここは王国とは違うわ。この国では絶対に、正体をバラしたらダメだと思っておくのがいいわ。最悪、捕まるぐらいにはね。匿っていてもよ。だから、この宿にいる間も、部屋から出るときはさっきのフードを、部屋にいてもしっかり鍵をかけることが大事ね。」


 確かにな。よくよく考えてみれば、ゼリージさんが特殊なだけで、実際は扱いがひどいんだろうな。ぜひ、王国には勝ってもらって、帝国になにかしらの影響を与えてほしいところだな。


『あ~、ソータ、怨念について話してもいいか?』


 オケ、いつでもどぞ。


『この世界における怨念というのは、先祖代々から受け継がれていく、その家系にしかない特徴のことだ。正確に言うと、見た目や能力で現れれば怨念、腕前で出れば遺恨、精神面で出てくれば積怨という風に分けられている。』


 だから、フィルの場合は怨念ってわけか。だけど、なんでそんなネガティブな言葉なんだ?


『それは、はるか昔には、先祖からもらったものという考えはなく、特異な性質であったから忌避されていた。そのためこんな名前になっていたと言われている。』


 あ~、じゃあ、もう少し遅ければ言葉も変わっていたのかな。


『なんならソータが変えてみるのはどうだ?』


 ん?何を言ってるのかが分からない。


『いや、あくまで仮説でしかないのだが、均衡守護者(バランスガーディアン)は8人いるだろう?その力をすべて集めると、世界を変えることができると言われている。だって、考えても見ろ。なぜ、俺たちはガーディアンと言っておきながら守るものが明確になっていない?

 なぜ、お互い誰かわからないほど気配が隠れる場所にちりばめられている?』


 確かに。アリサは意味不明な役職って言ってたけど、そう考えてみたら、納得がいく。


 世界を変えることができるとまではいかなくとも、かなり影響を及ぼすことのできる力になる可能性があるな。さっきは試した程度だったけど、疑似的な雷を起こせたぐらいだしな。


『そうだ。この辺りは「知識」にでも聞くといい。このスキルを持っているなら、気になって調べているはずだからな。』


  じゃあ、この問題は一旦放置ということで。答えの見えない課題を考えても時間の無駄だし。


 ......ちょっと待て、だとすると俺等は夜、どうすればいいんだ?もうこの部屋につれてきた以上、フィル追い出すわけにもいかないし、あいや、そもそもそんなことはしないけど。


 かといって、クラムとかに頼むのも良くないっぽいしな。


『こやつが寝たときに空間魔法か何かで、角を見えなくさせてやれ。ついでにドアの外から開けれないようにしておけば、扉を破壊でもされん限り、入ってくることはなかろうて。』


 あ~、確かにそうすりゃ問題はあんまないか。俺ができるかの問題だが。というより、今からでもかけてやればいいんじゃないか?


『別にタイミングはいつでもよかろうて。......それにしてもお主、最近妾が急に話しかけても驚かなくなってきたではないか。』


 ん?慣れたらダメだったか?


 モルが黙り込んでしまった。不満でもあるのだろうか。


 あの、モルさん?なにか悪いことでも言いましたかね?


『......おお、すまんすまん。今度からどうやってお主を驚かせようか考えていたのだ。』


 じゃあいいか。俺がその方法に驚かなければいい話だし。


 すると、その瞬間、首元に冷たい風が通った。背筋がゾクゾクして、体がこわばり、思わず口から悲鳴が漏れそうだったが、なんとかこらえることができた。


『ほらな。驚かすことができたじゃろ?』


 前言撤回。なにも良くない。今すぐ驚かす方法とやらを考えるのをやめていただきたい。


 この場合は驚いたというのか、生物的な反射行動というのが正しいのかどうか怪しいところではあるが。


 ほら、見てみ?俺がいきなり不審な動きをしたから、アリサとフィルがポカンとした表情で見てきてるよ。アリサはすぐに、その理由に気がついたようだったが。


 俺はフィルに、角が一時的に見えなくなることを伝え、その角のみを、向こう側が見えるような布で覆うことをイメージし、手をかざす。


 入射角?屈折角?わかるわけねえだろ。そんなもん。鏡の使い方なんて光を顔に当てるぐらいしか知らないんだよ。


 イメージさえしっかりしてれば、どうにかなるんだよ。それが、このスキルの常識というもの。OK?

 とまあ、以上が自分のわからないことは棚に上げたうえで、開き直る男の像です。皆さんは真似しないように。......促す必要ねえわ。


 フィルの角が見えなくなった。もちろん、それは視覚的なもので、触ってしまえばすぐに分かる。しかし、わざわざそこになにかあると見て、触りに行くやつなどいないので、これで良しとする。


 そして、さっきは俺がフィルの話を中断させてしまったようなものだったため、改めてフィルに話を聞いてみる。


 もちろん、フィルのお母さんについての情報だ。


「えっとね、我と同じく、呪われせし運命(さだめ)を背負ってて、我は母君に幼き頃に似ているって言われたことがあるよ。」


 呪われし運命(さだめ)って、やっぱ角のことだよな?


 まあ、似たような角を持っている人はいなそうだし、探せば見つかるか。まあでも、俺達に本命の目的がある以上、あまり時間を割くことができないんだよな。


 そのため、酷なことをするようで、フィルには特徴を聞いたが、助けられる保証はないことを伝えた。


「ゆるそう。我はお留守番を任されているのでな、帰ってくるまで気楽に待つとしよう。お前らには我に寝床へ入ることを許してくれただけでも有り難く思う。だから、大丈夫だからね!」


 本人は明るい様子だが、心のどこかではもう会えないと割り切っている部分があるのかもしれない。だが、どんな理由があるにしても、最優先事項は決まっている。しかも、タイムリミットを考えても確定だ。


 とりあえずまあ、色々と準備やら検証やら、できるうちにしておこうかね。


 ええと、回復粉でしょ?......今更気がついたが、これをもしも吸って、体の内側の負傷とかを治そうとしたら、絵面がかなり危なくなるな。まあいつもの使い方としては体へのふりかけだが。


「ほっぺたもちもちなのね!可愛いわね。」


 その声が聞こえ、反射的に振り返る。すると、フィルとアリサが交互にお互いのほっぺたをつまみ合ったり、つつきあったりしていた。


 それはあくまでも痛くしているわけではなく、じゃれ合いのようなものだ。


「ふふっ......我のほっぺはどんな好敵手(ライバル)さえも跳ね返してしまうものだ。存分に味わうが良い。」


 フィルがつつかれる番になったときに誇らしそうにそんな事を言っていた。


 なんとなくだが、自分はマシュマロほっぺだと言いたいのかな?まあ見てるだけでも、もちもちしてるのは分かる。


 俺は再び、持ち物の確認を再開する。


 すると、横から急に指で頬を突かれた。


「お前、我と違いほっぺたがハードなのだな。」


 フィルだ。アリサのほっぺたを堪能してきたあとだろうな。頬がかたいって言ってるし。


「まあ、子どものときはそうだったかもしれないけど、俺はもう頬はかたいよ?」


 俺の発言を聞いたフィルは腕を組み、顎に手を当て、考え込む仕草をした。そして、いとしきり軽く唸ると、俺に聞いてきた。


「つまり、子どもの『とっけん』と言うものなのだな!?」


 特権のイントネーションが違った気もするが、そこを指摘するのは流石にしない。


「そうだな。ほっぺたがもちもちなのは......絶対ではないけど、ほとんどの場合が子どもの事が多いね。」


 たまに大きくなっても、ほっぺたが柔らかいままの人もいるしな。


 俺も少し気になって、お返しとばかりにフィルのほっぺたを軽くつついた。


 フィルは少し驚いたようだが、嫌がっている様子はない。自分がやったのだから、され返されて当然と思っているところがあるようだ。それはそれで少し指摘する必要がありそうだな。


 ちなみに、マシュマロよりも柔らかいモチモチほっぺだった。



 それから程なくして、月がのぼり、眠る者を優しく照らす月明かりのもとで、静かに窓を開ける。キーっという、甲高い音とともに、冷たく湿った心地の良い風が全身を駆け抜ける。


 その窓を飛び出した、二人の手にはそれぞれ、右手、左手に黒いグローブがはめられており、月の明かりに照らされているせいか、不思議とうっすら光って見えた。


 音もなく走っていく姿はまるで忍者のよう。闇に紛れ目的の地へと足を運ぶ。


 遠くでわずかな光が漏れているのを横目に、ミッション達成へと向けて、二人は動き出した。




 ......なあんて、客観的に見たらこうなるかなって思って、語ったけど、別に上手くもねえな。じゃあやめよ。


 こうやってもう始まったわけだし、もう後戻りはできない。俺はルーナが囚われているという刑務所に向かう。フィルはもちろんグッスリだ。夜中だしな。


 アリサも眠いはずなのに頑張って付いてきている。眠気に逆らえなくなる前に終わらせないとな。


 俺?もちろん、二徹の経験あり。一回だけだけど。そりゃ、一徹でも夜が明けたら眠くなるけど、無理やり体を起こせばいいだけだしな。


 俺達は月明かりと酒場の光だけが照らす裏路地を走り、もらった地図を見て、目的地へと目指していく。


 それから約20分ほどして。アリサが息を切らせてしまったので、一度休憩を取ることにした。


 地図によると、あと100メートルほどなので、一度休憩しても大丈夫だろう。


「はぁっ...はぁっ...結構......きついわね...」


 俺はスキルがあって疲れないだけだから、それがないアリサ(サラ)には結構辛く感じるだろう。


「大丈夫か?結構息を切らしてるようだけど。」


 想定以上に息を切らしているアリサ(サラ)が心配になり、声を掛ける。


「ええっ......問題ないわ。久々に...これだけ、動いたものだからっ...」


 本人がそういうんだったらいいんだろうけども。


「本当にきつくて動けないときは言えよ?」


「ええ。わかってるわ。」


 とりあえず、あらかじめ洗浄しておいた木の棒を使って、簡易的なコップを作り、そこにきれいな水を注ぐ。これは、


「ほら飲め。水分は取れるうちに取っといたほうがいいぞ?自分の体のコンディションにも影響するからな。」


「ありがと。」


 俺から水を受け取ったサラは一気に飲んで、俺にコップを返した。コップを受け取った俺はまだいるかを確認した。すると、首を振ったので、木の棒に戻し、ポシェットの中へとしまった。


 俺は地面に座り込み、空を見上げる。満天の星空だ。


 ここから飛び出した先には、どんな景色が待っているのだろう。星を掴むことはできるのかな?なんて、小さいときはよく考えたものだ。


 そういう昔はキラキラしていて眩しかったものが、気がつけば色褪せ、心に蓋をしてしまったのはいつ頃からなのだろうか。昔は何にでも興味があったのに、今は滅多なときにしか興味が湧かない。自分は今、あの星たちのように輝くことができているのだろうか。


 無意識に考えてしまう。それほど、この星空は吸い込まれてしまいそうなほど壮大で、それぞれ星たちがのびのびと自分を魅せている素晴らしいものだった。いや、素晴らしいという言葉だけでは表現しきれないかもしれない。


 俺にはごく一部しか見えていない。なのにこんなに美しく感じるのは、生命の胎動がそこら中に渦巻いているからだろう。


 そんなことを考えつつ、しばらく休憩したところで、アリサ(サラ)が「行きましょう」と促したので、再び俺たちは目的地へと出発した。


 ......外壁が見えてきた。流石に刑務所と言うだけあって、見張りも厳重そうだな。......見張りの首に首枷のようなものが付いているのは何故なのだろうか。もしや、ここの囚人が警備をしているということだろうか。


 俺はルーナのいる具体的な位置を、この場所の記憶を読み取ることで、探る。


 この施設全体の記憶を探らなければいけないが、そこら辺はセクにも協力してもらった。


 そして、この施設の大部分の場所ではなく、監視塔の下にある地下へと進む階段の奥にルーナが閉じ込められている部屋があるようだ。


 そこで、俺達はそれぞれ作戦を開始する。


「できるだけ早くね。時間がかかればかかるほど、あたしだってバレる可能性が高まっちゃうからね?」


「ああ、10分から長くて30分ぐらいの見込みだが、大丈夫か?」


「ええ。暴れるなんてやったことないけど、ルーナを......ロサとレサの妹を助けるためですものね。やってやるわ。でも、万が一捕まりそうになったら逃げちゃうからね?」


「そのためのこれだもんな。」


 俺は手にはめてるグローブを指差した。これの説明は......今はいいかな。


 アリサ(サラ)は自分に偽装を。俺は『フェーズ5』を唱え、それぞれ闇夜に紛れた。自然と示し合わせたわけでもなく、俺達は同時に走り出した。


 ......今日はよく走るな。明日が疲れそう。



 いかがでしたでしょうか?今回は、前回出てきた『怨念』やその仲間についての話がありましたね。初めて出てきた概念でしたね。そして、蒼汰はルーナを助けることができるのでしょうか?次回をお楽しみに!


 次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。


 面白いと感じたら、ブックマークや評価をぜひ、よろしく願いします!モチベーションや、物語の流れにもにつながるので!


 それでは、また次回お会いしましょう。


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