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またかよ、もう!!

 楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。


 激高して俺につかみかかってこようとした男の腕をつかみ、無理やり止める。男自身の力自体はあまり強くはないようだ。スキルがなくても、余裕で抑えられる。


 男は少し俺の力が強かったことにひるんだようだが、そのままさらに力を入れようと、腕を必死に動かしている。


 俺も俺で離さないので、男の腕がだんだん赤く俺の手形が付いてきていた。


 男は力の入れすぎで顔が赤くなってきており、力が抜けてきそうなのか、プルプルと震え始めてきていた。とりあえずクラムが行くまでそのまま抑えようかと思ったのだが、クラムはクラムで、なぜか俺の後ろから動かない。


 俺の服の裾を掴んでいるため、見なくてもそこにいることが分かる。


 そのまま男の腕を捻り上げていくと、男から苦悶の様子のうめき声が聞こえた。


「も、もうやべてぐれ!オデがわるがっだ!もうはなじてぐれ!」


 男は痛みで泣きそうになりながら俺に必死にお願いをする。


「じゃあもう手を出さないと誓えるか?」


「ちがう!誓うからぁ......お前には(・・・・)手はだざない。」


 よし、じゃあ手を離してもよさそうだな。


 手を離して、クラムとともにそのまま少し距離を取る。


 腕をさすりながら男は俺をギロリと涙目で睨み、そのまま部屋へと引っ込んでいった。


 俺は後ろを振り向き、クラムの様子を見てみる。


 するとクラムはまだ少し怯えているようで、俺の服の裾をつまんで震えていた。


 仕方ないか。さっきまでは気丈にふるまってたけど、緊張が解けた瞬間に、そういう強い精神的なものが崩れるというのはあるあるな気がするし。しかも、まだ15も超えていないような年齢で襲われそうになったのなら尚更だ。


 おそらく、クラムにとって一生もののトラウマになる可能性もある。もしも俺がその立場なら確実にそうなるからな。


 俺はとりあえず落ち着かせるために、膝立ちでクラムの両肩に手を置き、できるだけ優しく言う。


「もう大丈夫だ。あいや、あの男がこの宿にいる限りは絶対ではないんだけど......それでも、よくあそこまで強くいられた。クラム、お前は強い。力じゃなく心の話だ。よく頑張った。」


 そこでついにクラムは泣き出してしまった。やっぱりまだ気を張っていたのだろう。色々と本当にいい子なんだなと思った。


 ちなみに、さっきのセリフはモル監修の模様。あとになって恥ずかしくなるセリフを言わすな。


 とりあえずクラムが泣き終わるまで、俺はクラムの背中をトントンと落ち着かせるように、優しくたたいた。


 しばらくして落ち着いたのか、クラムが俺から離れ、俺に見えないように顔を背けてエプロンで涙を拭く。そして、気を持ち直したのか、表情を精一杯つくって、こう言った。


「本当に申し訳ございません。お客様。ご迷惑をおかけしました。お料理も冷めてしまうので、冷めないうちに食堂に行ってくださいね。」


 強か(したたか)だ。実に強かだ。切り替えが早い。そして、さっきのことを一切彷彿とさせないような表情をしている。そのうえでちゃんと接客業もこなす。ある種の英才教育なのではなかろうか。


 クラムを見て気がついたが、さっきと変わらぬ、いやむしろ、さっきよりも周りを......笑ってる顔の中で、笑っていない目を俺の後ろに向けている彼女は、色々と警戒しているのだろう。さっきの男も。ましてや俺のことも。まあ別にタイミングバッチリだったし、共犯と思われても仕方ないところもあるかな。


 俺はもちろん共犯ではないと全否定するが。


 夜飯の時間だと教えてくれたクラムに礼を言い、そのまま食堂へ向かおうとした。


 しかし、向かおうとした瞬間にクラムに引き止められる。服を掴まれてだ。


 俺は振り返り、どうしたのだろうかと思った。


 だが、クラムは無意識のうちに服を掴んでいたらしく、俺が振り返ったことに気がつくと、バッと手を離した。


 やっぱりさっきのこともあってここで一人になるのは怖いんだろうな。


「クラム、一緒に下に降りるか?もしも他の客を呼ぶ必要があるっていうのなら、陰から見守るが。どうする?」


 発言的には少々問題があるかもしれんが、本人の前で言ってるため、ギリ問題はない。


 俺の提案を聞き、クラムは首を横に振った。


「残念ながら、もう他にお客様を呼ぶ必要はありません。食堂へと一緒に向かいましょう。」


 そう言われた俺はクラムの後ろをそのままついていき、一階へと降りる。さっきの男以外はもうすでに声をかけたのだろうか。だとすると、とんでもなく仕事が早いな。


 階段を降りている途中、唐突にモルから声をかけられた。


『お主、肩が小娘の涙で濡れているがどうするのだ?このまま水分だけを飛ばしても、涙の塩のあとが残るぞ?』


 だがしかし、俺はそこで初めて肩が濡れていることに気がついた。単なる俺の不注意だな。


 幸い、ベストのような服の上だったので、それを脱ぐだけで問題なかった。これは後で洗濯すればいい話だし。


 クラムはそれに気がついた様子もなく、そのまま階段を降りていった。そして、食堂へつくなり、厨房と思われるところへと走っていった。


 俺も食堂へと出ると、アリサの姿を探す。すると、店の奥の方にアリサの後頭部がちょこっと見えたので、そこへと向かう。


 するとそこでは、大きめのレインコートのようなフードを着た少女が、ひたすら皿を積み上げていた。正確に言うと、とんでもない量の食べ物を食べていた。一皿あたりがどれぐらいの量かはわからないが、フードファイターの比ではないだろう。


 俺の接近に気が付き、アリサは困った表情で俺へと視線を向けた。


「ソータ......助けて...この子が思った以上に食べて、そろそろ注目されまくっちゃってる。それと、店の材料が無くなりそうらしいわ。」


 いや俺に言われても......


『むむっ!?そやつ、普通の人間ではないぞ。気をつけよ。』


 もうやめてくれ......


 俺は確信した。モルの警告を聞いて。誰だよ厄介系テンプレ詰め込み欲張りセットを頼んだのは。これで今日だけで5回目ぞ?ええ加減にせえ。


 過去一で何かしらに巻き込まれてるぞ。流石に誰かの嫌がらせとしか思えない。まあまだ厄介事と決まったわけじゃあないが。


 まずはアリサにこの子にご飯を食べさせている経緯を聞いた。



 要約するとこうだ。アリサが俺を待っている間、料理をいくつか頼んで待っておくことにした。しかし、10分ほど待っても来ないので、先に食べ始めた。そして、窓の外からテーブルの上の料理に目が釘付けになっているこの子を見つけた。


 そこで、アリサは中へと招き入れ、ご飯を食べさせてあげることにした。と。


「聞いてもいいか?」


「何かしら?」


「なぜ、食べさせてあげようと?」


「今までにご飯が食べられなくて餓死しちゃう子を見てきたことがあるから。」


 なるほど。理由は真っ当といえば真っ当か。


「じゃあもう一個聞くが、ここまで食べていいと許可したのか?」


 なんか俺がケチなやつみたいに聞こえるかもしれんが、結局金を払うのは俺なので、聞いておく必要はある。


 すると、アリサは若干引きつった表情で、首を横に振った。......なんとなく想像付いていた!うん。あのアホみたいな量を食べさせるわけがないもん!


 俺はフードを被っている少女の前に座り、様子を観察する。


 特段、痩せているという様子もなく、ご飯が美味しいのか、口元は弧を描いている。だが、手にはいくつか傷跡があり、肌の色としても病人なのでは!?と思うほどに白かった。


 俺に気がついたのか、その少女は顔を上げ、俺を不思議そうに見つめる。そして、何かを言おうと口を開いた。


「ほはへははひほほへふは?」


「よし、口の中のものがなくなってから喋ろう。なんて言ってるのかがわからないから。」


 なに?もしかしてテンプレ消費ブームでもやってる?口の中の物が無くなる前に喋るのは、食いしん坊キャラのテンプレな気がするんだが。


 兎にも角にも少女は口の中のものを飲み込み、再びおそらく同じ質問をした。


「お前は何者ですか?」


 Oh……とても8歳ぐらいの子供が喋る話し方じゃねえ。なにかの影響を受けまくっている。


「俺はソータだ。冒険者をやっている...でいいんだよな?」


 俺がそういうと、少女は首を傾げた。


「己の言うことが分からぬ?」


 いや、わかる。だけど、名乗っても大丈夫なのかが気になっただけ。


「君はなんて名前?」


 食べ終わるのを見届けてから、俺はその子に聞く。


「我は、フィリズム・メランコー二・アーシュビッツル。我が母より継承せし名。お前たち、我のことはフィルと呼ぶが良いぞ。」


 確定だな。親から影響受けてるわ。というより、名前がどっかで聞き覚えがあるんだが、似た言葉だったか?まあいいとして。


 この可愛らしい声で、厨ニっぽいことを言っても、かわいいだけなんだな。初めてわかった。困惑するけども。


「それで......親は一緒にいないの?一人みたいだけど。」


 当然、アリサも質問したのだろう。アリサが気まずそうな顔をしているのが目に入った。


「我が母君はプリズンへフォールインナウだって。我も帝国兵から逃れてきたの。」


 ここでも出てくるのか。その刑務所とやらは。


「我が同胞たちは特異な見目をしている。それだけで奴らは強襲を仕掛けてきた。恐怖に震えた。」


 やっぱ虐げられてしまうんだな。見た目が違うとかいうしょうもない理由で。見た目が違うから何だ?人と少し違って何が悪い?そんなことをした奴らにそう言いたい。


 だが、ここで何もしなくても仕方がない。少しフィルから情報をもらおう。


「フィルのお母さんの顔はわかる?」


 訊いてみると、そのフィルは自分のお母さんを探してもらえると思ったのか、顔を輝かせた。


 しかし、すぐにその表情は消え、沈んだ表情を見せる。


「すまぬ。我が母君のフェイスは語りが許されん。だが我と同じく、古くより封じられし忌まわしきこの角を......」


 俺はすぐにフードを外そうとするフィルの手を掴み、口をふさぐ。だんだん声が大きくなっていたように感じたからだ。


 なるべく静かな声で、フィルにフードはここで脱がないようにと言う。


 フィルはうなずき、そのまま運ばれてきた料理を食べた。まだ食えるのかよ。




 とりあえず俺達は食事を済まし、部屋へと戻っていた。ちなみに、料理は唐揚げやフライドポテト、とんかつなどで、油ものが多かった。味もしっかりしていて、ちゃんと美味しかった。


 さっきフィルが話そうとしたことを話してもらうこととなった。


 ここで気が付いたが、フィルに信頼されているようだ。ほぼほぼ餌付けに近い感じなんだが......まあ10歳も行ってないような感じだし、仕方ないっちゃあ仕方ないな。食事で10万近くかかったが......


 情報をちゃんと聞いてみると、フィルはまずフードを外した。


 フードを外したフィルの額からは黒く長い、そして太い角があった。また、先端にいくにつれ、少し角にウェーブがかかっていて、なんとも邪悪な感じがある。


 モル、この角について何か知ってるか?


『お主もいいように妾を使うようになってきたのう......』


 いや、モルなら知ってるかなって思って聞いてみただけども。


『まあよい。そういうことなら妾に任せよ。この角は......見たことがないの。』


 途中まで自信満々だったのはどうしたんだよ。


『妾にもわからぬことはある。じゃが、あの力には何か禍々しいものを感じる。怨念が宿っておるようわ。』


 マジか。まさかの呪い系か。


『なぜそうなる。怨念とは言っても、お主の世界のようなものではない。』


 じゃあこの世界の怨念ってなんなんだよ。


『この世界での怨念については、妾には簡単な説明しかできん。そういう話はセクの方が向いておる。』


『ちょっ......モルさん、いきなり俺に振らないでくださいよ。』


『別にいいじゃろうに。むしろそういう話をしたくて、うずうずしておったのではないか?』


『まあ、自分の知ってることを教えるのは面白そうというのはありますけどね。』


『じゃあ、ソータに説明をしてやるのじゃ。』


 普段モルしか解説とか説明をしないから、セクにさせる機会をあげるの優しいな。モルさん。


「突然黙ってどうしたのだ。ソータと名乗りしお兄ちゃん。もしや深淵を覗いてるのではあるまいな?」


 あ、ちょっとフィルが退屈してきたようだから、相手するわ。相手しながらでいいから、この世界での怨念について話してくれ。


『あ、ああ、分かった。』


 なんか歯切れ悪い気がするけどいいや。


『ソータ、お主......いや何でもない。』


 今、モルが呆れたような声で言ってた気がするけど、なんのことについてかが分からんし、モルが言わない感じだから、気にする必要はないな。



 いかがでしたでしょうか?今回はクラムを助けることができましたね。そして、そのあとは何やら訳ありの様子の少女と会いましたね。色んな意味で濃いようですが......そして、モルの言っていた『怨念』の意味とは......?次回以降をお楽しみに!


 次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。


 面白いと感じたら、ブックマークや評価をぜひ、よろしく願いします!モチベーションや、物語の流れにもにつながるので!


 それでは、また次回お会いしましょう。


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