準備完了。出発しよう!(26日目)
楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。
あれから5日ほどたち、俺とアリサは帝国へと向かう準備をしていた。
あの後、数日かけて、レサとロサの妹......ルーナを助け出す計画を立て、それに向けてお互い使いそうな道具類を作った。
それらを持っていくのだが、バッグを持っていくと邪魔になるので、腰ベルトの部分につけられるタイプのポシェットで持っていくことにした。
ちなみに、レサとロサは見つかってしまった場合、確実に何らかの罪に問われるため、見守ることしかできない。その際、レサがいくつか、連絡を取り合うための道具などを作ってくれていた。
まず、ネックレス型の通信機のようなものだ。機能は大体トランシーバーと似ているが、手で触れる必要がなく、頭の中に直接声が響いてくる感じらしい。
案はかなり前からあったらしいが、後回しにしていたそうで、これを機に、二日で作り上げてくれた。材料から自分で調合して作っているのだから、驚いた。
実際、ロサをも含む全員が目を丸くしていた。なんでも、この世界の技術の数十年先を行っているらしいのだ。ってことは、これって、世界初の物ということか。
まあ不具合が起きて、爆発とかが起こらないといいんだけど......爆発してもそこまで痛くないってレサは笑いながら言ってたけど、ちょっと不安になるよな。爆発する可能性があるんだから。
次に、特定の人物以外は中身を見ることのできないメモ帳。これは中に今回の作戦のことが書かれており、レサが書き換えると、内容も書き換わる仕様になる。
また、それとは別に連絡を取れるように別ページがあり、このページは相互で書き換えることができるらしい。これを使えば、やりとりをすることができ、自分の言いたいことを伝えられる......要はメールのようなものだ。
さっきのネックレス型の通信機の技術を応用すれば簡単にできるらしい。今更だけど、ゼリージさんの、有能だけど問題児の意味が分かった気がした。
これは、万が一思考を読んでくるタイプのスキル持ちがいた場合を想定してのことだ。
他にもう2つ作ってくれたのだが、これは後にしよう。使う機会はかなり限られるだろうからな。
ちなみに、作戦の大まかな流れはこうだ。
まず、モルの言っている協力者......協力してくれるかはわからないが、助っ人となる存在に、協力を仰ぎに行く。
一日滞在しておき、街中を散策して、ルートを一応確認しておく。
そのまま夜になったら、ルーナの捕らわれてる建物まで行き、そこの目立つところでアリサが騒ぎを起こしてもらう。
その隙に、俺が『気配消滅』のフェーズ5で建物の中に侵入し、怪しまれる前に、ルーナが捕らわれてる独房をバレないように通れる程度に破壊し、ルーナと一緒に逃げる。
俺からの通信で、隙を見てアリサも一緒に逃亡するという算段だ。
ルーナを家まで送り届けた後のことは、またあとで。
しかし、一つ懸念点があった。それが、ルーナが俺を見てどう思うかだ。俺が助けに来てくれたと信じてくれればいいが、最悪のパターンは俺を信じずに、攻撃してきて、脱出が遅れるパターンだ。
そこで、レサとロサが小さいころに、家族全員の合作で作ったぬいぐるみを渡してくれた。真っ白な体に、真っ赤な目をした、ニンジンを大事そうに抱えている、手のひらサイズのウサギのぬいぐるみなのだが、そのお腹の部分には、レサとロサ、ルーナそして、三人の母親の名前が刺繍されている。
それを渡せば、自分たちが頼んでることにちゃんと気づくとのことだ。
これは、ルーナの数少ない思い出の一つだそうだ。
それを丁寧にカバンに入れて、持っていくことにした。
そのほかに俺の持っている荷物は、いつも通りの、ナイフと圧縮した木の棒、10万サルサほど、そして、今回から持っていく、「水従の腕輪」だ。
ちなみに、アリサが何を持っていくのかはわからない。ただ、地図をアリサに持たせておいた。理由は単純で、方角の表し方が、今まで見てきた地図とは違い、地図の上が南、下が北、右が西で、左が東となっている。
それなら地図を反対にすればいいと思うだろうが、そもそも方位磁石などもないため、方角が分からない。しかし、こっちの世界の人々は感覚で大体の方角が分かるらしい。
俺は、異世界に来て遠出することに若干ワクワクしてる反面、俺がしっかり頑張らないとなという、引き締めなければいけない気持ちがある。
今ちょうど家から出ようとしてるところだが、リーズたち子供組と、アドルたち三頭、ライアや、シルグ・ガルジェ、レサとロサの、ディガを除いた全員が見送りに来てくれた。ディガは昨日、何かずっと考えていたらしく、脳の使い過ぎでオーバーヒートを起こしたようだった。なので今は寝ており、さっき起こそうと声をかけても一切起きる気配がなかった。
「気をつけろよ?くれぐれもそれを盗まれるみたいなヘマはするなよ?」
多分、『それ』というのは、ぬいぐるみのことを指しているのだろう。
「そうそう。あそこは少し治安が悪くてね、スリとかカツアゲとかが多いんだからね?ルーナを助け出した後も、戻ってくるまで気を抜かないでよね。僕もあそこにいた時、何度かお金を抜かれちゃったよ。」
スリとか、カツアゲなんて経験がないけど、気をつけた方がよいところはあるんだろうな。目に見える位置に財布を持っておくとかか。......関係ないけど、カツアゲって聞いたら、揚げカツを食べたくなってきた。帰ってきたら作ろ。
「蒼汰くんがいない間、料理は任せといて。ロサさんと協力して作るから。」
そう、一昨日に知れたことだが、ロサは実は料理ができたらしい。確かに、レサは料理しそうな感じ一切しないしな。研究がしたいとか言って、レサに任せてるのが目に見えるわ。
まあ、料理とかは任せて大丈夫ってことだから、安心して出発できるな。
俺とアリサは、それぞれ荷物を持ち、家を離れていく。
後ろから、みんなの
『いってらっしゃい』
という声が聞こえ、俺とアリサは同時にこう言っていた。
「「いってきます!」」
と。
アリサがどう思ったかはわからないが、俺は晴れやかな気持ちになった。
『浮かれるでない。ここから離れた時点で作戦は始まっておるのだぞ?』
......いいじゃん別に!ああやって言われたのが懐かしく感じたからだよ。
『そういうことにしてやるとするかの。それと......』
ん?どうかした?
『いや、別になんでもない。別に今言う必要もないことだしの。ただ、全力を尽くせよ?』
何もないならいいんだけど、ずっと思ってたんだけど、モルってなんか乗り気じゃない?
『まあ、面白そうだしの。興味が沸かなければ協力するわけがなかろう。』
まあモルらしいと言えばモルらしいけども。
そこからしばらく歩き、俺はモルと交代していた。
久々にサラと話がしたかったらしい。俺も別につくまでは何もすることないし、変わったところで不自由とかもないからよかったんだけども。
そして、モルがアリサに話しかけた。
「久々に話すの。サラよ。」
しかし、いきなり何も言わずに交代したため、心底気味悪そうな顔をした。
「えっ、急に口調変わったけど、どうしちゃったの?」
ダメだ。これはちゃんと入れ替わったことを説明しないといけないやつだ。
俺がモルに伝えようとした瞬間、モルが若干悲しそうな目で、
「妾のことを忘れてしもたのか?」
というもんだから、ビックリした。こんなモルの不安そうな声は聞いたことなかったからな。まあ、俺の声で、だけども。
「冗談よ。入れ替わったことくらい、感覚で分かるわ。それに、モルもわざとらしいわよ?見た目と話し方の違いに驚いただけよ。」
「さすがにバレてしまうか。妾がお主に弱みを見せることはほとんどないことを覚えておったようじゃな。」
......どういう冗談?お互いなんか笑ってるけど、本人たちにとっては面白いやり取りだったのかな。親友同士のやり取りというか、挨拶みたいな感じかな。......最近そんな風に言い合える奴とのやり取りが懐かしく思えるわ。
「ねえ、気になってたことがあったんだけど、なんで『空間』が誰か分かってるみたいな口ぶりだっ......」
そこまで言いかけたところで、モルの手によって口を塞がれ、その言葉を遮らされた。
にしても、そこにいたのは空間かぁ......協力してくれなくて、逃げたりしてくれなければいいけど......
『内緒にしておこうと思ったのじゃがな......別にどうでもよかったか。』
まあでも、想像通りのスキルなら、大幅に時短することができるぞ。
『......お主のその様子なら、別に問題ないかの。ちとばかり、危険性があるが、それもあやつから説明があるじゃろうな。』
でも、どうせ回数制限みたいな感じでしょ?それなら別に問題ないけど......
『まあ似たようなものじゃな。......そうじゃったわ。』
「サラ、お前は妾に隠してたことがあった。」
「それって、一体何?」
サラが目を輝かせて、興味を持ってる。
「妾はとあるスキルを持っていることによって、『空間』のやつが誰か知っているかをな。」
サラの目が細められた。
「それで?結局、誰なの?」
そう聞いてきたサラに、モルは意外そうな顔をした。
「おや、どんなスキルかは聞いてこないのかえ?」
「モル、あなたのことだから、どんなスキルかなんて、教えてくれないでしょ?」
「それは......確かにそうじゃな。」
「だから、無駄な質問をするぐらいなら、本題に入ろうと思ったのよ。」
自分の思い通りにいかなかったことに不満を感じたのか、モルは、面白くなさそうな顔をした。
「まったく、お主も知性を付けおって。」
「知性がなかったのは、何年前のことだと思っているのよ。」
「まだ30数年前の話じゃろ?」
「そうよ。人の感覚でいくと、6年もたっているのよ?さすがに暇すぎて勉強もするに決まってるでしょ。」
「ふむ。では後でクイズでも出すとするかの。」
さっきは面白くなさそうな顔をしていたくせに、今は話すこと自体を楽しんでいる。なんだかんだ言って、昔馴染み......モルたちにとっては昔なのか.....?まあいいや。久しぶりに話せてうれしかったのだろう。
「それで、結局聞かなくてもよいのか?」
「そうよ!モルが話を逸らすから......結局『空間』は誰なの?」
話がひと段落付いたようで、思い出したようにサラが聞いていた。俺も名前ぐらいは知っておきたいな。
「セク。」
モルはその一言だけ言った。しかし、サラがよく聞こえなかったらしく、モルに聞き返していた。
「ん?今なんて言ったの?」
「じゃから、セクじゃ。あやつが『空間』の均衡守護者じゃ。」
その名前にやはり心当たりがあるのか、サラは驚いたように、目を見開いていた。
「あの子、本を読むのが好きだったから、てっきり『知識』の方だと思っていたわ......」
「そうじゃなあ。妾も最初は驚いたものよ。じゃが、『空間魔法の使用』は難易度が高いと聞く。もしかしたら、スポンジが水を吸うように知識を吸収するところを採用されたのかもしれん。」
結局、基準の心当たりが分からず、実際に会って、確認することにしたらしい。
「さて、もうすぐセクのところに着くが、ここに入る前に聞いておきたいことはあるかの?」
「じゃあ、一個聞くけど、セクってあまり人に協力するような質じゃなかった気がするけれど......」
モルは心配ないとばかりに、ニヤリと笑い、
「大丈夫じゃ。あやつは情に厚い奴ではあるからな。昔、妾とお主がやりあって、お主が気絶したときに、あやつが介抱したんじゃ。覚えておらんと思うがな。」
すると、驚きに目を見開き、今初めて知ったとばかりの反応をしていた。
「そうだったの!?てっきり、いつも村長が面倒見てくれたのかと思っていたわ......」
と。
『ところで、ソータは何か聞きたいことなどもないか?』
えっと、じゃあ、そのセクっていうのは、やっぱりなんか昔馴染みみたいな感じ?
『そうじゃのう......昔馴染みと言えば昔馴染みじゃが、弟分と言った方がしっくりくるかの。最後に会った時は、相変わらず本を読んでおったが、今は何をして過ごしておるのじゃろうな。』
懐かしそうな目を前方へとむけた。そこには崖があり、行き止まりになっていた。
しかし、モルはその崖に手を当て、一部にスイッチのようなものを見つけると、それを押し込んだ。
これもモルのスキルの力だとしたら、一体どんなスキルなんだろうか。
いかがでしたでしょうか?今回は、蒼汰たちが帝国へとむけて出発しましたね。果たして、無事にたどり着くことができるのでしょうか?そして、モルたちは、セクに協力してもらえるのでしょうか?
そして、今回から4章が始まりました。この章から物語が大きく動いていく予定です。ぜひ、お楽しみに。
次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。
それでは、また次回お会いしましょう。