勝負...とは...?
楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。
モルは森の中を走っていた。時々地面を見ながら。多分、最初の時にあった、罠とかに気をつけてるんだろうな。
だけど、森の中で走るのって、かなりきつくない?もちろん道はデコボコだし、枝とか石も結構落ちてるから、下手したら足をくじいたりするもんね。
まあ一度走ってくじきかけたのが昔の俺なんだけど。
それにしても、最後の勝負って一体何をするんだ?
『もちろん、決闘じゃ。相手が降参するか、気絶するまで戦う。しかも、この場合は森の中でするからの。いくら決闘と言っても、森を破壊するようなことはできぬが、代わりにフィールドとして、使うというルールじゃ。環境破壊さえしなければいくらでもな。たとえ、数時間でも数日でもな。』
なるほど。戦うのか。あれ?戦うの?
『そういえばそうであったな。お主はまだこの世界の常識を知らなんだったな。三本勝負と言われれば、三本中二本はお互いが提案し、最後の一本は決闘という形で戦うのが、ここでの常識じゃ。』
なんその常識。というか、戦えんの?モルは。
『馬鹿にしておるのか?戦えるに決まっておろう。余計なことを言う出ない。気が散ってしまうじゃろう。』
あ、すんません。黙って見ておきます。
確かに戦いとかをさっきは期待していたけども。
というか、とっくに十秒経ってるのに仕掛けたりしてくる気配とかないな。
『おそらく、罠を仕掛けたり、妾の出方を見ようとしておるのだろう。こういった勝負では後攻に回る方が楽なのじゃ。受け身でいる方がな。』
確かに、姿を見せて仕掛けるよりも、姿を隠して、こっそりやった方がいいかもな。
『言いたいことと全然違うのじゃが...まあでもそれは名案じゃな。確か...』
そこまで言うと、なぜか数秒待ってから、『フェード4』と、つぶやいた。
しかも、体が青く光ってるし。待って、よく見たら、若干体が透けてるように見えるんだけど。
『これはお主の持ってるスキルである、「気配消滅」じゃ。このスキルを使うと気配を可能な限り薄めることができるのじゃが、やはり覚えておらんのか?』
いや、さっき説明は読んだんだけど、あまり想像つかなくてね。
『まあ、確かにそんなものじゃろう。実際、妾も初めて使ったからな。使ってみるまでは実感がわかないのは当然じゃろう。』
まあ、体育の授業で教科書を読んでも、実際にやってみないと分かんない的な感じね。
...それにしてもさ、そろそろロサも仕掛けに来るんじゃない?
『確かにな。そろそろ来てもおかしくない。罠を設置し終わったころだろうでな。妾も仕掛けは設置し終えた。残るは、囮として動き、勝負に勝つだけじゃ。』
自分自身を囮としてって...それ、囮として成立してんの?
『別に、のこのこ出ていけば相手の思惑通りであるからの、あえてそれに乗るだけじゃ。』
まあやり方は知らんからさ、任せるけども...一体いつ仕掛けってのを設置してたんだ?
『なあに。お主の思うようなものではない。ただ水をまいただけじゃ。』
なしてそんなことをしたん?
『妾の使う「水魔法」は辺りに水があると、威力も上がり、発動までの時間も短縮できる。これを利用すれば、相手の罠の破壊もいくらか楽になるのでな。そうしたのじゃ。』
オッケ。俺には理解できない範囲だから、任せとくわ。いやでも、周囲の水を利用することで、使いやすくするってのは、結構セオリーか。なら、結構納得はしやすいかな。
『お主がどう思うかは自由だが、妾の邪魔はするでないぞ?邪魔でもされて気が散ると勝てるものも勝てなくなる時があるからの。』
じゃあ、静かに見守っときますわ。
『そうしておくことじゃな。』
......セリフだけ聞けば完全に俺をうっとうしく感じてるようだけどさ、完全に保護者目線だよね。
俺との会話を終えたモルは少し開けたところに出た。
そこには、あからさまな罠があった。
“←こっちに罠あり。気をつけてね☆”
という看板が。当然、モルもそれに気が付き、あたり一帯を凍らせた。
えっ?チート?俺の存在いらんやん。ここに引きこもってれば勝ち確じゃん。
...本当に見守るしかできんな。うん。慣れてしまえばいいんだろうけど、俺には記憶がないゆえに経験が少ししかない。だから、少なくとも今は任せとくしかできないというね...何回言うんだって話なんだけども。
それはそうと、周囲一帯を凍らせたモルはというと...
なにやら地面に手を突っ込み、何かを取り出していた。どうやら、それにはピンが付いているようで、モルはそれを引き抜いた。
その刹那、広範囲に閃光が走り、俺の目をつぶしにかかってきた。しかし、モルはそれを予測していたのか、水で光を屈折させ、ある方向に光を向けていた。
その行動で気が付いたのだが、そこにはロサが潜んでいて、こっちの出方を確かめていたらしい。
いや、囮として行くって話は!?どう考えても囮どころの話じゃないよね?
『...しゃあないのう。少し教えるぞ?まず、お主に言った、自分を囮とすることじゃが、これは嘘じゃ。妾の思考はどうかは分からんが、これはお主の体じゃ。奴が思考を読む類のスキルを持っていた場合、お主の考えが読まれてしまう可能性がある。そのため、お主に嘘をついておいたのじゃ。だが、それは杞憂であったようだが。』
なんで杞憂だったんだ?
『まだ確定してるわけではないが、あやつのスキルはまた別のところにあるのだろう。例えば、固有スキルではないが、吸血鬼にだけしか使うことのできないスキルを持っているとかな。』
え、そんなのがあるの?
『いや、知らん。じゃが、妾たち...均衡守護者が持っている「魔法種」のスキルように、代々受け継がれてきたスキルなどであれば、独自の進化を遂げたスキルであるやもしれぬな。』
スキルって進化するの?いや、そもそも、スキルって進化するなら、有機物...あるいは生物という扱いみたいになるのか?それとも、誰かの手によっても変えられるのなら、無機物扱いになるのか?
『さあな。妾には...というより、この世界の誰もようわからん。少なくとも、そのどちらでもないとしか言いようがない。ただのエネルギーであるとしかな。いや、エネルギーであるかもわからないのだがな。まあスキルという概念そのものとでも思っておいておけばよかろう。』
うん、まあ誰であってもよくわかんないってことだな。
『そういうことになるかの。理解しようとしなくても問題ないじゃろう。どれ、そろそろあやつも閃光の光から回復しただろうでな、少し向かってみるかの。』
そうして、モルはさっき光を向けた茂みへと向かっていった。若干葉っぱが焦げて見えるんだが...
『気のせいじゃな。』
いや、言い方変えるわ。普通に葉っぱが焦げえるんだが?
『気のせいじゃ。』
いや、気のせいじゃなくて本当にそうだから。
『うるさいわ。気のせいと思えば何事も気のせいなんじゃ。わかったか?』
結構暴論じゃね?それ。若干とはいえ、環境破壊してるし。
『邪魔するなと言っておろう。問題ないと言うのじゃから、問題のないのじゃ。』
あ、はい。声に圧が出てきたので引こうと思います。
モルは茂みをのぞいてみると、即座に後ろを振り返った。
そこには、モルに迫ってくるロサの姿が。しかも、さっきまでの姿ではなく、金髪に紅い目、そして真っ黒な羽と、鋭い牙を生やしている。
そして、そのままロサは無言で、モルに腕を振りかぶってきた。やばい、こいつ目が完全に据わってる。殺りにきてる目だ。無言なのが怖さを感じるところだ。
「どうしたの?驚いてる感じだけど?」
と、振りかぶってきた腕を受け止めたモルに向かって喋った。目からは変わらず、ものすごい圧を感じられる。
「よもや、お主に不意を突かれるとはのう...思っていたよりも、お主のスキルは妾...いや、お主以外の全員にとって厄介であるな。」
その言葉を聞いてロサは嬉しそうに、もしくは楽しそうに、笑った。目の奥は笑っていないが。
「よく気が付いたね。私は血を吸った相手のスキルを何回かだけ使うことができるスキルを持ってるの。今使ったのは、アリサちゃんから借りた、『偽装』のスキルだね。」
「よいのか?そんなことを妾に教えてしまっても...」
そう、怪訝そうな顔をしながら、ロサに聞くモル。まあ普通に考えたら、自分の手の内をあえて言う必要なんてないからな。
「別にいいよ。だって、私はそっちのスキルを知ってるんだから、そっちも知っておいた方がいいじゃんね。」
うん。これは俺にも分かる。今言った理由は嘘だと。だって、さっきまでは目が据わってたのに、今は少しだけモルから目を離したもんな。
どうやら、モルも同じように感じたようで、スルーしていた。それよりも、俺が持っているスキルのことを思い出しているようだった。
ロサが今までに、何人の血を吸っているのかにも関わってくるけどな。
「別にスキルを思い出すのはいいけど、考えても意味ないよ?だって、君が思いつきもしないスキルを持ってるんだから。」
果たして、『君』とは、俺とモルのどちらのことを指しているのだろうか。今の言葉には含みがあると思うのだが...
「そうだ!そこの足元気をつけてね。罠仕掛けたから。」
突然、思い出したように、ロサが言った。すると、反射的にモルは下を見てしまい、その隙にロサはモルの(俺の体だけど)首を掴み、地面へと押し倒した。
そして、ロサはモルに馬乗りになった。
「どうする?このまま負けを認めるなら、これ以上は何もしないけど。」
やばい、ここでモルが断ったら、ボコされる未来しか見えない。
「こんなことで勝ったつもりでおるのか?たかが地面に引き倒して馬乗りになってぐらいで。」
「もちろんそんなつもりはないよ?だけど、君はここから逃げることはできない。」
「少し自分が有利に立ってると勘違いしてると、とことん調子に乗るようじゃな。」
...待って、はたから見ると、絵面がものすごい。どうとは言わないけど、アウトな方にしか見えねえ。
いや、それよりも、モルのあの自信はなんだ?あの状態でも何事もないように見えるけど...それどころか、余裕を保ってるし。
「どこが調子に乗ってると思うのかな?」
「いや、生まれて十数年そこそこのやつに言われてものう...」
そういや、モルの年齢知らんな。何歳なんだ...
...今、怖気が走ったな。これ以上考えるのはやめとこ。
バケツプリンとか出せるんだったら、それを食べながら、見とこ。
俺はプラスチックの青いバケツの中に、たっぷりプリンが入っているのを想像する。ついでにスプーンも。すると...目の前に出てきたので、椅子に座って、抱えて食べる。
うめえ。しかも、ずっと食べても飽きない感じの甘さ加減だ。
俺は食べ進めながら、モルとロサの行方を見守る。...ん?緊張感に欠ける?いや、なんか、ここに居るから有効に使いたいなって。使わないと、もったいないてきな?まあ、あれだけ勝利を確信したような顔をしてるから、任しても大丈夫だろうなっていう考えですね。はい。
あれ?よく見ると、二人の足元になんか動くものがあるぞ?水の...蛇?新種の動物とか?なわけないか。
しかし、二人は全くそれに気が付いていないようで、互いににらみ合っている。
「そろそろ降参してくれてもいいかな?」
「何を言っておる。降参してほしいのだったら、力で示せばよかろう。お主はさっきから手を出すぞと、脅すことしかできないただの腰抜けじゃ。今まで一方的に、闇討ちのような形でやっておったのが目に見えるわ。」
おおう...結構煽るね、モルさん。だけど、ロサが完全に図星を突かれたような顔をしてる。
「もう一度血を吸ってみるか?そうすれば、たどり着いた記憶も奪えるぞ?今なら妾も封印できるやもしれぬぞ?」
と、さらに煽るモル。確かに、この状況じゃ血を吸うなんてできないもんな。
しかし、ロサはなぜか一気に顔を赤らめさせた。
「だめだよ!三回も同じ人から吸うのは...私にはできないよ!」
急にどした?明らかに相手の体調や負担を気にするような、ニュアンスや表情じゃないな。
「どうした?なにか恐ろしいことでもあるのか?」
「別にそういうわけじゃないんだけど...」
「何もないのなら問題ないが...いいのか?」
「いいって何が?」
だめだ。俺もわからん。さっきの水の蛇のことだとしても、一回もそっちに目を向けてないしな。
「妾に時間を与えたことかの。」
そう言った瞬間、蛇がロサの足に噛みついた。
それに気が付いたロサが、足から引き離そうとその蛇を掴もうとするが、水で体ができているため、掴むことができない。
モルはその様子を見て、愉快そうに笑い、
「こんなものにも気が付かぬとはな。少しはやると思うたが、全くそんなことはなかったの。」
と言って、指をパチンと鳴らした......
いかがでしたでしょうか?今回は、最後の勝負の内容がわかりましたね。とは言っても、次回からどんどんこの勝負がヒートアップしていく予定ですので、次回もぜひ読んでいってください。
次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。
それでは、また次回お会いしましょう。




