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ア、アリサ?どうした?

 楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。

 しばらくアリサの様子を見ていると、ゆっくりとアリサのまぶたが持ち上がり始めた。


「アリサ、大丈夫か?一体何があった?」


と、思わず声をかけていた。


 そして、ようやく完全に目が開くと、俺の方を見て一言。


「誰?」


と。


「いや、ちょっと待てアリサ。流石に寝ぼけてるとかふざけてるとかじゃないよな?」


 そう思わず、口にしてしまったのだが、帰ってきた答えは信じられないものだった。


「別にふざけてない。それと、アリサって誰?私のことを言ってる?」


 いやいやいや、流石におかしい。一体どういうことだ?


「ちょっと待って。本当にふざけてないんだよな?」


「ふざけてないってば。」


「じゃあ、アリサ、お前は記憶喪失になったってことか?」


「きおくそうしつ?よく分かんないけど、わたしの名前はメルフェ(・・・・)だよ?お兄さんは誰?」


 ...もうわけが分からん。(だけど、お兄ちゃん呼びはいいな。)記憶喪失になってることは間違いないんだけど、メルフェってあれよな?アリサが引き取られる前の名前。


 どういうことだ?


「ねえ、お兄さんは誰ってば。」


一応言っておくか。


「俺の名前はソータ。一応、君が記憶が少しなくなってる感じがするんだけど、昨日のこととかは覚えてる?」


 こうやって聞いてみれば分かることがあるかもしれない。


「うん。覚えてるよ。たしか...たしか.........覚えてないかも。」


無理か。そもそも記憶喪失の人なんて見たことがなかったから、どういう対応すればいいのかもわかんないし。


『のう、ソータよ。少し良いか?』


 いいけど、どうしたの?


『この小娘にサラがいるのだったな?』


 まあそうだけど。


『それがな、気配が極めて希薄なのじゃよ。それこそ別の空間で隔てられてるかのようにな。』


 ええと、つまり?


『サラが何者かの手によってその小娘の内で強制的に眠らされておるのやもしれぬ。もしくは封印(ロック)されておるか。その場合ならこの娘が記憶をなくしたことにも納得がいく。』


 なんで納得が行くんだ?


『大元になっているものが封印(ロック)されるということはすなわち、それに関する記憶も封印(ロック)されるということになる。つまり、この者の場合はおそらく、サラと出会ってからの記憶が封印(ロック)されてるのだろう。』


 要するに、何者かの手によってアリサは記憶を失ったってことだな。


『まあ、そういうことじゃな。どの道、このようにした本人を見つけねば記憶を取り戻すのは難しそうじゃ。その時は、ちゃんと「説得」すれば相手もわかってくれるじゃろうて。』


 その説得が平和的なものであるといいんだけど...ニュアンスが少し違うんだよなあ。


「......え!ねえってば!!」


あ、えと、モルとの話に集中してて聞こえてなかったわ。


「ええと、どうしたの?」


「お父さんとお母さんはどこ?」


「ええと?どこって?」


「だから、お兄さんがここに連れてきたんでしょ?だったら、お父さんとお母さんがどこにいるか知ってるかなって...」


 いや、そんな事言われても...


「そもそもアリサ...メルフェの両親を見たこともないし、その話を聞いたこともなかったぞ?」


「...なるほどね。わかった!!」


一体何がわかったのだろう?少々悪寒がする。


「もしかしてお兄さんは少女誘拐の犯罪者?それとも犯罪者予備軍に所属する予定の人?あ、私みたいな少女を騙して拉致監禁する気ね!!」


 ほっ、何を言い出すのかと思えば普通のことじゃ...


「ねえええええ!!違うよ?俺はそんな理由でアリ...メルフェの前にいるわけじゃないよ。」


「じゃあどんな理由?」


「一応、アリ...メルフェと他の3人と動物たちと一緒に住んでいるんだよ。」


すると、アリサ(メルフェ)が納得がいったという顔で、


「つまり、お兄さんはロリコンってことね!」


「違うけど?むしろ俺よりあいつのほうが...じゃなくて、どうすれば思い出せるのやら...」


そもそもなんで記憶は失ってんのにあんな言葉を知ってるんだよ。


「ねえねえ、なんか私が何も自分のことがわからないみたいになってるけど、ちゃんと分かるよ?」


ホントか?


「じゃあ、いくつか質問するぞ?」


アリサは満面の笑みで、大きく頷いた。


「まず、名前は?」


「お兄さん分かってるじゃん。」


「一応質問形式だから答えてほしい。」


「わかったよ〜。名前は...メルフェ・グラント。」


「年齢は?」


「女性に名前を聞くなんて失礼だよ?10歳。」


「......レベルは?」


「レベルがなにかわかんない。」


「......『サラ』と聞いて心あたりは?」


「あれでしょ。ご飯を乗っける皿。」


「冒険者証明書は?」


「知らないけど、ワクワクする響きだね。」


「質問へのご協力ありがとうございました。」


「ねえ、それって言う必要ある?」


 毎回、一言多いのは気になるが、だいたい分かった。これ、ちゃんと記憶失ってるな。しかも10歳以降の記憶を。


 俺はその情報が間違っていると伝えるため、冒険者証明書(プレート)を取り出し、アリサに見せる。確か、いつもポケットに入れてるって言ってた気がするな。


「ポケットにこんな感じの板みたいなやつとかない?」


そう尋ねると、アリサはポケットを漁りだした。


 一個目。出てきたのは......物騒ですね。


 アリサが最初にポケットから取り出したのは、手にはめて殴打力を上げる道具、俗に言う『メリケンサック』だった。


「なんでこんな物騒なもん持ってるんだよ。」


「...わかんない。もしかしたらお母さんが入れてくれてたのかも。」


どんな母親だ!...いや、よくよく考えたら護身用だね。いや、やっぱそれでも意味分からんわ。


 2つ目。出てきたのは、板は板でも『ココツオイル』と書かれた木の板だった。アリサは興味がない感じで投げ捨てたけど、もしかしたらレシートの代わりとかかな?


 3つ目。ここから反対側のポケットへ移ります。出てきたのは...細かいチェーンが輪っかのようになっていて、装飾も施されている、アクセサリーだった。要は指輪ね。


「なにこれ...いいね。付けとこっと。」


そう言ってアリサは右手の人差し指にそれを付けた。


 さてさて、アリサがアクセサリーを付けて満足したところで、本日の大目玉!


 4つ目の、冒険者証明書(プレート)です!これが目的だからあながち間違いでもないだろ?


「アリ...メルフェ、それだ。そこに書いてあることは、今のお前のことが書かれてるから見てみると良い。」


「うん。わかった。」


 アリサはそれを見はじめる。


 全く、ポケットからメリケンサックや指輪やらが出てくるって、謎すぎだろ。


 ...お、アリサが顔上げたな。ってことは見終わったってことか。


 しかし、アリサは困惑した顔で俺にプレートを渡してきた。


「ねえ、お兄さん、嘘ついたりしてないよね?全然読めないんだけど。」


 読めない?どういうことだ?


「それって字が読めないとかじゃなくて?」


「バカにしてないよね?字ぐらいは読めるよ!本当に読めなくなってるんだってば。」


いやいやそんなまさかあ。そんなわけが...と思ってた時期が数秒前にありました。だけど、本当に読めなくなっていた。まるで、記憶をなくしたアリサを写し取ってるかのように。


“[名前 メルフェ・グラント]

 年齢・12歳? 身長・151.8 体重・23.7キロ

 レベル・????

 体力 580

 スタミナ 254

 耐久力 892

 運動神経 悪いわけではなくもない

 知能 ???

 スキル・『偽装・解放済み機能 容姿偽装・???』『???・解放済み機能 ???』『???・解放済み機能 ???』”


 といった感じだ。


 あまり釈然としないが、俺のスキルで見てみると、スキルの所以外、全部ちゃんとこの前通りに出ていた。


 スキルはなぜか、プレートと同じ、『偽装・解放済み機能 容姿偽装』とだけしか出ていなかった。他は蓋が閉じられその上から鎖で巻いて、南京錠で鍵をかけたみたいなイメージが見えた。おそらくこれが記憶喪失になってる原因だろう。


 ってちょっと待てよ?今更だが、さっきアリサに『回復粉』をかけたよな?記憶が本当にないなら角と長い耳が見えてるはずだが...見えてないな。そもそもスキルによるものだとしたら、『回復粉』をかけた時点で記憶は戻ってるはずだ。実際、効果もこの前に試したしな。


 一体、何がどうなってる?そのことに気づいたからこそ、余計に謎が深まった。


 ...いや、もし、もしだが、スキルを使わないで、なんらかの力が働いてるとしたら...例えば固有スキルによるものとすれば...その固有スキルは『回復粉』の効果がないとすれば、この状況にも説明が付くんじゃないか?


 というわけで、モルさん、解説お願いします。


『急に解説と言われてものう...いや、その固有能力を持っている種族に心当たりがあるぞ。』


 というと?


吸血鬼族(ヴァンパイア)じゃ。彼奴らの固有能力は他者の血を吸い、その者の力の一部を我が物とする能力じゃ。しかも、厄介なことに血を吸われた量に比例して記憶が閉じ込められることもあるそうじゃ。』


 え、じゃあどうやったら記憶を戻せるんだ?


『確か...血を吸った吸血鬼(ヴァンパイア)にもう一度血を吸われるか、血を吸い返すことだったはずじゃ。』


 なるほどね...どうしろと?当の本人は記憶を失ってるから、その正体を知る術もないし。しかも、血を吸い返すって、吸血鬼同士でしかできないじゃん。


『ああ、そこが彼奴らの厄介なところじゃ。彼奴らは一度血を吸った相手の血は二度吸うことは少ないんじゃ。自分たちにとって不利になるしの。』


 ってことは、その吸血鬼族は下手したら認知すら難しい可能性があると?


『それ以前に、吸血鬼族(ヴァンパイア)は最初に認知された時期すらも分かっていないのじゃ。その存在を知っていることが不思議なくらいじゃ。しかも、争いで損失が生まれても記憶がないからなかったことにできるじゃろうしな。』


 厄介すぎません?え、てことはこの近くにいるとしたら俺もワンチャン血を吸われた可能性があるってこと?


『まあ、ほぼ確定じゃろうな。もしくは、これから吸われるか。』


 嫌だなあ。せめて吸われるんだったら美少女とかがいいなあ。


『.........妾も十分美少女じゃと思うんじゃが...会ったことがないような言い草は何じゃ?』


 いやいや、あの姿は美少女ってより可愛い幼女だったろ。俺は『かわロリ』とも言うけど。言っておくと、俺はロリコンではないぞ。


 すると、一瞬背筋が凍りかけた。しかし、それは精神的なものではなく、物理的なものだった。


『次、そんなことを言えば本当に凍らせるぞ?妾は別に好きであの姿になっていたのではない。わかったな?今回はお主の黒歴史の閲覧で許してやろう。』


 あ、はい。なんか、すんません。


『分かればよいのじゃ。』


 こええ...なんかイカついチンピラにでも絡まれた気分だ。まあ実際に絡まれたことなんてないが。


 さてさて、それは置いておいて、アリサを一体どうすればいいのやら...


 すると、ドアがバンッと大きな音を立てて開き、リーズ、ビーン、ファイガが入ってきた。そして、俺の姿見るなり、口々にお腹が空いたからご飯を作って欲しいと言い始めた。


 俺がわかったから、ちょっと待っててな。という風にいなしてる刹那、窓も空いていないのに風が巻き起こった。比喩抜きで。


 前も似たようなことが起こっていたが、あれは『偽装』してたからとかじゃないのか。根の素早さだったのか。


 はい。そう言うってことはその風を巻き起こした張本人であるアリサを見てみた。


「なに!?このもふもふ...はあ...柔らかい......あったかい...かわい...い......。」


あらあ、寝ちゃったね。今のでよほど疲れたのかな?いやさっき寝とったやろ。


「ねえ、ソータ、アリサどうしちゃったの?」


まあいきなりこんな風にまるで会ったことがないみたいにされたらな...


「アリサは記憶を失ってる感じなんだ。だけど、今まで通りに接して大丈夫だと思うぞ。」


どうやら根っからの可愛いもの好きみたいだし。


「わかった!そうするね!それはそうと...お腹すいたなあ。」


俺はそんなリーズの言葉に苦笑いして、


「じゃあ今から作るからちょっとまっててくれ。」


 とだけ言った。時間帯的にもそろそろ夜飯がいいだろうしな。


 .........思ったんだが、記憶がなくなった原因はあらかた予想がついた。だが、なんでアリサの『偽装』のスキルだけ解けてないんだろう?


『おそらく、記憶を失った部分より前にスキルを獲得していたからじゃろう。例え、そのスキルの知識を持っていなくても無意識に発動したままの場合もあるからな。』


 たしかに。俺も勝手に発動してるなあ。


『しかし、無意識に発動する場合は、感情の浮き沈みやちょっとのきっかけで解ける場合もあるからの。そこは本人次第じゃ。』


 何事も本人の意識次第ってことね。


『...な、なあソータよ。』


 ん?どした?


『妾もあの動物に触れてもよいか?』


 別にいいけど...せめて飯食ってからな。


 いかがでしたでしょうか?今回は何故かとあることが...なぜ、起こったのでしょうかね?真実はいかに?


 ところで、話は変わりますが、最近、冷え込んできて体調を崩しかけたので、みなさんも気をつけてくださいね。


 次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。


 それでは、また次回お会いしましょう。


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