ちょっと待て。何だそれは
楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。
俺が勝手に蒼汰のメンタル強者の片鱗を見て、己のチキンハートの軟弱さを再認識したところで、リアンさんが口を開く。
「実は、とある人から頼まれてたんです。あなたをこのスキルで苦しめるようにと。」
ふむふむなるほどね。つまりはこいつが誰かから指示を受けてやったってことね。
「それは誰なんだ?」
おっと蒼汰選手、頭の回転が速いと自他共にの自しか認められない、私が思考する前に発言しました!これはとんでもない記録だ!ワールドレコードなんて存在しないが!
……はぁ。何してんだろうか。こんなこと考えても口にできないなら意味ねぇのにな…。
まあ、突然出る俺のネガティブ思考なんて気にしちゃ負けですので、一旦忘れましょ。
「それは……言えません。でも、これだけは言えます。少なくともあなたを害するつもりはないみたいなんです。」
リアンの答えに蒼汰の眉がぴくりと動く。たしかに、この答えはちょっと意味がわからんな。
蒼汰に悪夢を見せて目覚めさせないようにしてたんだろ?害するつもり満々じゃねえか。
実際問題、蒼汰はそのせいでさっきみたいな態度になったみたいだしな。というかいい加減、リアンさんがそれができた理由を知りたい。
「ふざけてるのか?害するつもりはないとか言って、ロサやレサの協力がなきゃ、俺は目覚めることがなかったんだぞ?どこが害するつもりがないんだ?」
蒼汰さんがお怒りのようです。言葉に怒気を込めてリアンさんに言っている。
ロサさんやレサさんの協力って……その2人は何をしたのだろうか…
「それは……私が勝手にしたことなんです…何で同じようにこちらに来てるのに、怖い思いもせず、隠れもせず、悠々と暮らしているのか…そう考えると気づけばああいうことを……」
大分語っていたが、そこまで喋った所で語尾がしぼみ、ハッとした表情をしながら手で口を押さえた。
言うつもりはなかったが、気づいたら言ってしまったという感じらしい。
俺はチラリと後ろを見る。すると、明兎がこっそり俺にサムズアップしていた。
どうやら、こいつのおかげらしい。スキルを使って、蒼汰にああいうことをした理由を話させたようだ。
そして、口を押さえていたリアンさんに対し、蒼太は腕組みをして何かを思案する仕草を取る。
俺には分かるぜ。蒼汰が何を考えているか。それは、今日の天気から推測できる降水確率だね。間違いない。
ついでに、それは約37%って出てるね。
くっそどうでもいい、食う必要もない俺の道草でした。死にます。
さて、俺の思考時間で間は持ったな。蒼汰が口を開いた。
「何であいつらから狙われてるんだ?曖昧な答えじゃなく、なるべく、具体的な理由でな。」
予想外の言葉だった。何やねん、『あいつら』って。また2人しか…いや、ロサさんも耳を傾けてるし、単に俺と明兎が知らない話ってだけだな。後で問いただしたるわ。
リアンさんは、どこか落胆したように肩を落としながら語り出した。
「私があいつらに狙われてる理由は主に二つです。一つは、私があそこに侵入したことになっていて、情報の持ち逃げを危惧したからでしょう。」
よく分からんが、謎の組織のアジトにでもうっかり入っちゃったのかな?うっかりで入れない気もするけど……
「もう一つは、この目の原因…スキルの力です。蒼汰さんはその様子だと理解しているかもしれませんが、この力は自分または他の人の因果を捻じ曲げる力なんです。」
ほうほうなるほど?つまり、明兎と似たような能力ってことかな?
「例えば、初めてスキルを使ったとき、連中が迫ってきてました。スキルを使わなければ、捕まって何するのか分からない。だけど、スキルが捕まるという因果を捻じ曲げ、あそこから逃げることができたんです。」
なんそれ。明らか明兎より強いスキルじゃねぇか。おい明兎、お前この人の下位互換だぞ。
「しかし、何故かそれが連中の耳に入ったようで、狙われてるんです。でも、心当たりはそこしかありません。」
リアンさんは気丈に振る舞っているが、少し震えていた。四六時中落ち着かないまま暮らすのは確かに不安だしな。もし、今言ったことがホントなら、同情するところだが……
「その連中は、スキルを奪えるっていう噂があるんだよね。」
突然聞こえてきた声に視線を向けると、ロサさんがいつの間にか眠っちゃった、ルーナちゃんをおんぶしながら言っていた。
「どういうこと?」
蒼汰でもどういうことか理解できなかったようで、ロサさんに聞き返していた。よかった、蒼汰でも分からないんだな。じゃあ俺にも分からんわ。
っていうか、俺いらなくね?さっきから1人寂しく脳内豪速球を投げて、それを追いかけるみたいなことしかしてないけど。
ホントに何もしてない自分に……うるせぇ。そろそろ頭に浮かぶ余計な考えは排除せねば(使命感)。
「どういうことも何も、そのまんまの意味だよ〜。あの組織の連中のトップが人のスキルを奪えるってことだよ。」
すると、蒼汰の視線が少し鋭くなる。
「なんでそんなことを知ってるんだ?って思ったけど……」
急に蒼汰の視線の質が和らいだ。
「多分、バレた理由はロサがあいつらの誰かに近づいて、記憶を奪ってきたからなんだろ?」
確信ありげに蒼汰が言う。記憶奪うって…じゃあ、相手に気づかれずに血を吸えたのか?
まあいいや。一旦俺の疑問は数時間か後の蒼汰に丸投げしましょ。
「うん、まあそうだね。あのマントの人、私が少し血を吸っても気づかなかったみたい。でも、めちゃくちゃ不味かったから、その人の印象的な記憶しか取れなかったんだけどね。」
ん?待て、不味かったの?逆に美味しい血って何だ?鉄と塩の味しかしないイメージなんだが。
だけどなぁ、これを聞いたら、セクハラとか何とかになりそうなのがなぁ……単純な疑問でさえ聞くことが難しい世の中ですよホントに。
まぁ、多分ただの俺の被害妄想だけども。
「スキルを奪うスキルか……3人と違って、恒久的に奪うって形でしょ?」
またもやわからんフェーズ来たぜ。
「うん、僕たちと違って回数制限はないみたい。」
ロサさんが、少し困ったように眉を下げて言う。それはそうと、本気で困ってない感じの困り眉っていいよね。可愛いが詰まってる。
「そうかぁ…何持ってるか分からないのヤバいな……」
蒼汰は再び、思案するような仕草を取る。
すると、リアンさんにこう言った。
「リアン、とりあえず、連中から狙われないようにするから、一時的に協力してくれ。奴らは厄介なことを始めてるみたいなんだ。」
厄介なことねぇ……後で俺にも教えて欲しいものだが、今は俺のターンではないので、引き続き傍観しておく。
「厄介なこと…ですか?蒼汰さんにとって、それこそ私そのものが厄介なことじゃないんですか?」
……一理ある。だって、この人のせいで今日みたいなこと起こってるし、その謎の連中が追いかけてくるんだろ?
「いや、どっちみち俺にも降りかかる厄介ごとなんだ。あとは少なくともアリサにもな。
俺たちのスキルも、何か分かれば確実に狙ってくるはずだ。だから、それを知られないために、早めにしておかないといけないことがあるんだよ。」
なるほど。蒼汰が何かをしたいと言うのは分かった。何がしたいかはわからん。マジで後で教えてくれなかったら泣くぞ。
俺が危険に巻き込まれてもいいから教えてくれ、気になるから。
そして、リアンさんは次第に怪訝そうな顔になっていった。
「こう言っては何ですけど、あなたを信じられません。協力といって、用が済めば奴らに差し出すつもりなんでしょう?そうすれば見逃してもらえる可能性もあるわけですし。」
この意見は、若干卑屈的だが、俺より全然マシだし、筋は通ってる。間違いじゃない。間違いじゃないが……
「じゃあ信じなくていいから協力してくれ。その理論でいいなら、もしピンチになったときに、リアンが俺の持つスキルを全て話して、俺を差し出せばいいだけだ。」
ほらぁ、蒼汰のめんどくさい認識の刺せ方来ちゃったよ……まあ、つまりはそんなやつらに、誰かを差し出して自分だけ助かるとかいう判断は通用しないってことですね。
リアンさんも遅れて気がついたのか、罰の悪そうな顔をする。
「たしかに、蒼汰さんに何のメリットもない上に、敵対すれば、お互いの足を引っ張りあうことになってしまいますね……」
そうそう、全くもってその通り。この場合は蒼汰が歩み寄ろうとしているのを拒否してるから、リアンさんが足を引っ張ってるってことになるけど。
ま、存在して生きてるだけで、周りの足を引っ張りまくる俺とは大違いなので、俺が言えた義理じゃないけどね。
「……わかりました。内容によりますが、協力します。このままでは、ただ私が連中に捕まるだけですからね。」
リアンさんが目で訴える。何をしろと?っと。
当の蒼汰はというと……
「うん、じゃあまずは嘘偽りなく、誤魔化したりはぐらかしたりするでもなく、ちゃんと自己紹介してもらおうかな。そこからだね。」
…こいつにとっての重要性はどこなんだ……
いかがでしたでしょうか?今回は、明兎のおかげで、少しだけ話が前進しましたね。
そして、今更気づきました。空兎視点だと脱線しすぎて話が進まないと。グダグダしてる感じになってるので、まあ少し上手く進められるように頑張ります。
というか、この後の展開どんな風になるか、早く書いてみたいってのが本音です。
次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。
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それでは、また次回お会いしましょう。