落ち着け。大丈夫だ。
楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。
蒼汰を宥めた後(まだ先ほどのようにこちらを睨みつけているが)、何があったかを尋ねる。
「蒼汰、お前がそんなに俺らを睨みつけるぐらいのことがあったらしいが、何があった?」
しばらくの間、蒼汰はロサさんやレサさん含めて全員をジロリと見た後、鋭い雰囲気をそのままに、口を開く。
「お前らが本物なのか、俺自身、何が起こってるか分からないんだ。ただ、何度も夢から覚めた。ここはまだ、夢かもしれない。終わらない夢が、夢の中でお前らが、そんな夢を見る俺自身に嫌気が差してる。」
……え〜っと?つまりはどういうことだ?
まあでも、明らかな異常があるし、精神的にも落ち着いていないだろうからな、質問にうまく答えられなくても仕方ない。
聞いた感じだと、夢の中で何度も目覚める夢を見たってとこか。しかも、その夢の終わり方が最悪な形で。
そりゃ、夢かどうかも分からんし、目の前のことも信用もできなくなるわな。
「大体わかった。それじゃあ、夢じゃないことを確かめるために、お前の頬をつねるがいいか?」
よくある確認の仕方。だが、これは今の蒼汰には逆効果なようで……
「やめろ!そんなもので確認できてたらとっくにしてる……何個か前に見た夢でも、お前が頬をつねってそのまま喰ってきたからな。」
え、俺夢の中でゾンビになってたん?いや、夢なら別にあるあるだけども。
それはそれとして、そういうことなら、下手に刺激は出来ねぇな。かと言ってもう一回眠ってもらうにも、精神状態は良くなさそうだし。
そもそもそんなつもりも毛頭なさそうだからな……
「ソータ、一回落ち着こ?僕たちは本物だから。」
ロサさんが心配そうに近づき、蒼汰に言うが、蒼汰の様子に変化はなく、むしろその身に纏う雰囲気だけで、突き刺されてしまいそうなほど、蒼汰は神経を尖らせている感じがした。
俺含めて、周りが心配そうに蒼汰を見つめる中、ロサさんが落ち着かせようとしたのか、背中を軽くトントンとしていると、蒼汰はその手を払いのけた。
「やめてくれ!!今は誰も触らないでくれ……」
その拒絶にロサさんはショックを受けたのか、傷ついたような表情を浮かべ、レサさんとルーナちゃんのところに戻る。
流石に今のは見てられないので、スキルを使って、望み通り、触らずに場所を移動することにする。
っと、その前に、
「明兎、ちょっと蒼汰を連れて外出るからある程度の説明しといて。」
「え、説明って?どういうこと?」
俺はそれに答えず、すぐさまスキルを開き、俺自身と蒼汰を森のどこかへと移動させる。どこだったかは俺も覚えてない。
蒼汰は突然の変化に目を白黒させているが、そんなことは関係ない。
「蒼汰。話をしようか。お前がそうなったことについての話じゃない。楽しい思い出をお互い語り合おうじゃあないか。」
何を言っているんだと、訳がわからないというような表情をしたが、お構いなしに俺は語る。
「ほら、2年前の……いや、お前にとってはつい最近なのか?ともかく、修学旅行あっただろ?あんときに俺がゲーセンで有り金全部溶かして明兎の分しか、お土産を持って帰れなかったってことがあったんだよなぁ〜。覚えてるか?」
突然の語りに、蒼汰はひたすら困惑している様子だったが、覚えているようで、頷いた。
「ならよかった。あれな、帰った後の話してなかったけどよ、父さんと母さんには残念そうにされちまってな、唯一お土産を持って帰れた明兎の反応も微妙だったんだよ。せっかく金を全て溶かしてゲットしたっていうのにな……」
蒼汰はただひたすら黙って聞いている。
「まあでも、その後に明兎の部屋におんなじのがあるのが判明したんだけどな。しかも300円で取ったってよ。そりゃ、微妙な反応になるわけよな。」
やはり、蒼汰は無反応だ。だが、お構いなしに語り続ける。
「あん時に決めたんだ。俺は2度とクレーンゲームをしないと。んで、その翌週にお前とゲーセン行って2000円溶かすっていうな……割と笑い話だろ?笑っていいんだぞ。俺が泣くから。まあでも、お前はそのとき……」
と、ここまで語ったところで、
「500円で景品7つ取った、羨ましい。だろ?もう何度も聞かされたよ!2週間に一回くらいのペースで話されちゃ覚えてるに決まってんだろ。」
と言われてしまった。
おっ、割と普段の調子になってきてるな。まだ少し雰囲気が刺々しいが。
「あれ?そうだっけ?それじゃ、俺の秘密を明かすとするかねぇ〜。」
俺がまた語り出そうとすると、蒼汰がため息をつく。
「かわいいは好きだが、可哀想が特にかわいい。それよりもギャップ萌えを最重要視する。このわけ分からんお前の性癖を何度言えばいいんだよ。耳にタコどころか、頭痛、腹痛、胃痛までセットで来るくらいには聞いたわ。」
おっと、切れ味が実に鋭い。マグロの骨すらスパッと切れそうなほどの切れ味だ。
「おう、確かに間違っちゃいねぇが、まだある。俺の人に言えない性癖が。」
「お前の推しの統計的にロリコンなんだろ。」
「はぁ!?失敬な。俺の推しは別にロリ以外もいるし〜?ロリコン一択だでまとめないでください〜。性癖のストックの一つなだけです〜。」
「やっぱロリコンじゃねぇか。」
「だが残念。俺の推しの半数ぐらいは合法ロリだ。つまり、俺が好きなのは合法だからであって、ただのロリには興味がないのだよ。」
「残りの半数に目をつむればの話だけどな?」
結構、蒼汰の機嫌も直ってきたんじゃないか?代わりに俺のヒットポイントがそろそろ底をつきそうだが。
男2人だけの空間じゃねえとできねえよ、この会話。だから移動したと言うのもある。
ちなみに、俺の名誉のために一つ言い訳しておくと、俺はちょいSっ気があるキャラが好きなのだ。
たまたま俺のやってるゲームや、観てるアニメで、その役を担ってるのが、ロリであることが多いというだけだ。
もちろん、リアルのロリには興味はない。そもそもリアルに興味はない。と言おうと思ったが、この異世界で価値観は変わった。
……っと、危ない危ない。自他共にロリコン認定試験を合格するところだった。ボーダーは高いようで低いな。
……何言ってんだ俺は。
「さて、ではレアカードが紛れているかもしれない、蒼汰さんの、パック開封のお時間です。今回は特別に、5パック分のお値段で10パック分開けれます。購入しますか?イエスorノー?」
「ノーに決まってんだろ。わざわざ口に出すまでもなく、お前は大体把握してるだろ。」
「まあ、一夜を共に……いや、累計で七夜を共にした仲だからな。」
「その内の4回は修学旅行、残り3回は夜通しのカラオケだということを言ってもいいか?」
「まあ、俺の家で開催したし、あながち間違っちゃいねぇだろ。」
「あながちも何も、間違いに決まってんだろ。言い方に間違いしかねぇわ。」
「蒼汰さん…ひどい……私のハジメテを奪ったというのに。」
「あれはお前が格ゲーの野良戦で10連勝したぐらいでイキってる方が悪い。30連敗させたのも、30連勝したのも、お互い初めてだったし、それでトントンだな。」
くっ、この手段にも引っかからねぇか。なんも引っかけないけど。しゃあねぇ。この手段は使いたくなかったが……
「そういや蒼汰。お前はあのメンツの中で誰が好きなんだ?あんなに女の子に囲まれて何も起こらないはずがないだろ。」
そう、恋バナだ。自分から語るのは好きじゃないが、人のを聞いて冷やかしたり、応援したりするのは大好きだ。じゃんじゃん聞かせてくれ。
まあ、シンプルに、蒼汰がどう思ってるのかっていうのも知りたいけど。
俺が質問したあと、蒼汰は何かを悩んでいる様子だったが、すぐに首を振ってその何かを否定した。
「特には何もなかったな。お前が思うようなことは何も。ただまぁ、最近は毎朝目覚める時に困ったことが起こってるんだけど。」
……ふむふむ。なるほどね。こいつぁ照れ隠しっすわ。何かあったなこれは。
しかも、毎朝困ったことになるって、絶対羨ま……けしから…羨ましいことになってるじゃんよぉ。
え、リア充に転職できる窓口ってどこにありますか?枠がない?じゃあ爆発させるしかねぇ。
だけど、蒼汰もあんま言いたくなさそうっていうか、言おうかどうか悩んでるって感じだから、無理に問いただすことはないな。
「そう言うお前はどうなんだよ。俺がいなくなってから何かあったのか?」
うむ。一対一のキャッチボールはターン制だったな。蒼汰と一応語ったからには、俺も返さねば。
「あるわけねぇだろがあああ!!俺だって彼女欲しいよ!?でも願望だけで、何も行動してないせいで、年齢=彼女いない歴更新し続けてるんだよ!?何かがあるわけがなかろう。」
「ああ……なんかすまん。」
「謝んなって。お前がリア充と判明した瞬間に爆発と共に祝ってやるから。爆発すんの俺な。勝手に爆発させんなよ?」
「いや知らねぇよ。勝手に爆発しとけよ。お前の言う爆発はまだ洒落になるからいいけど、俺はやろうと思えば出来るから、なんとも言えん。」
え、嘘だろ……蒼汰は闇の力を得ていたのか……闇の力は冗談にしても、やろうと思えば出来るって……
一概に笑い飛ばせないな。なにせ、スキルとかいうものが存在する世界だしな。
何はともあれ、蒼汰も大分落ち着いたみたいだ。少なくとも、俺の冗談で笑えるくらいには戻った。
だが、まだ少しこちらを疑っている節がある。たまに笑ってない目で俺を見てくるしな。
「……蒼汰。聞かせてくれ……いや、聞かせろ。寝てる間、もしくは夜中のうちに何があった?起きた後、明らかにお前はおかしかった。何なら今も少しおかしい。何があった?」
そろそろ大丈夫かと、この話題を切り出した。蒼汰は目を伏せつつ、ポツリポツリと語り出した。
「いつからが夢だったかは分からない。だが、何度も目覚めた。夢の中で。数えきれないほど、何度も、何度も、何度も。夢の中で目覚めるたび、それが夢か現実かも分からない、そんな恐怖が俺を満たした。」
そこで深く息を吸った。息継ぎし忘れていたらしい。俺も思い出したように呼吸する。俺も忘れていたようだ。
「しかも、夢が終わるたび殺される。全てをめちゃくちゃにされてから。時にはこの森を全て燃やされ、時には誰かがみんなを殺していた。
最終的に身内のうちの誰かに殺される。そんな夢を何百回と見た。何が一番怖いって、それがリアルなんだ。音、声、熱、感触、痛み全て。」
そうか……きつい…なんて言葉じゃ表せないほど、夢の中で苦しめられ続けたのか……
気づけば、俺は蒼汰を抱きしめていた。安心できるように優しく、身を預けられるようにしっかりと。
「大丈夫だ。俺も、他のみんなも本物だ。もう無理して神経を尖らせなくていい。目の前のものが信じられないなら、信じなくてもいい。
だが、今目の前にいる俺を、お前が親友だと認めてくれた俺を信用してくれ。」
そういうと、肩のあたりが熱くなった。蒼汰が顔をうずめている。
俺は背中を優しくトントンしておき、蒼汰が落ち着くように、その震えが止まるまで、しばらくそれを続けた。
いかがでしたでしょうか?今回は、取り乱した蒼汰を空兎が宥めるお話でしたね。
ああいう、脊髄通さずに喋っていそうな、豪速球を投げまくる、頭悪そうな会話するの好きです⭐︎
頭空っぽに出来るから、リラックスできるんだよね。
次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。
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それでは、また次回お会いしましょう。