判断はなるべく迅速に
楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。
埃が高く舞い上がるこの場所に、先ほど俺とロサをここに押し込んできた張本人がゆったりと歩いてきた。
「ふふっ、やっぱりこの力を使えるのは楽しいわ。久しぶりに人間を痛ぶれるもの。」
さも愉快といわんばかりにジャスミンは表情を緩める。そして、俺は久しぶりという言葉に引っかかりを覚えた。
「ど、どういうこと?」
ロサも同じく疑問に思ったのか、動揺しつつもジャスミンに訊く。
するとジャスミンはロサを先程の力で自らのもとに引き寄せ、その首を掴んだ。
「カハッ.....グッ......どうし......て......」
「ああ、さっき言い忘れてたわね。あんたの遊び相手になってたのは退屈だったからっていうのと、あんたをネギ背負ってくるカモにしたかったからよ。」
そう言って、更にギリギリと喉を締め上げる。
俺はすぐにロサを話させようとジャスミンに近寄ろうとするも、やはり先程の力で押さえつけられているのか、近づくことができなかった。
「ソータ、そこでルーナと待ってろ。」
そう言って、立ち上がるレサ。
それに気づき、ジャスミンもレサに手を向けるが、なぜだか全く通用した様子はない。むしろ、レサが歩む速度を上げるばかりだ。そして、標的は片手につき一人にしか向けられないのか、あるいは向けてる一定範囲内なのか、わからないが、俺は押さえつけられていた力から開放された。
「何でっ!?何で効かないの!?」
焦ったように声を荒げるジャスミンだったが、それを意に返すこともなく、ジャスミンの眼前まで近寄り、思いっきりその顔面を殴った。よほどの威力なのか、ジャスミンは床に背中からダイブした。
その衝撃でロサは開放され、ゴホッゴホッと咳き込む。
「ロサ、大丈夫か?一旦お前はソータのところにいとけ。」
心配そうな眼差しでロサに言ってから、未だ殴られた衝撃から立ち直れないでいるジャスミンを、冷たい眼差しで見下ろす。
「なんで!?なんであんたには効かないのよ!?」
苛立っている様子で、レサに絶叫したように喚く。
「なに、簡単なことだ。お前がロサと遊んでたという名目で、そのスキルを使ってたからだ。」
「ど、どういうことよ?」
レサが言ったことがまるでわからないという風に、ジャスミンは睨んで再び訊く。
「はぁ、てめぇがどう思ってるか知ったこっちゃねえが、てめぇのその力なんてとっくに対策できてんだ。いつ私の妹に危害を加えてくるかわからねえからな。お前のカスみたいな欲望と願望がダダ漏れだったぞ?ロサは気づいちゃいねえようだったが。」
侮蔑する目をジャスミンに向け、同時にいつ仕掛けてくるのかという警戒をしているようにも見える。
レサはしゃがみ込んでジャスミンの胸ぐらをつかみ、目をギラつかせて眼前までジャスミンの顔を持ってくる。
「良いか?てめぇは二度とうちの妹に手出しできないように......いや、ロサを殺そうとしたんだ、逆に殺されても文句ねえよな?」
ひどく静かに、だがれっきとした怒りを込めて、ドスを効かせた声で言う。
その迫力は、俺に言われたら心臓がキュってなりそうなほどだった。
「ふふふっ、アハハハッ、殺す?笑わせないで。」
何がおかしいのか、甲高い声で笑うジャスミン。
「てめぇ、何がおかしいんだ。」
溢れんばかりの怒気をまとって、胸ぐらをつかんだままレサはジャスミンに笑う理由を訊く。
「いやねぇ、二度と手出しできないように、ってねぇ?出来もしないことを言うもんじゃないわよ。決めたわ。あなたは最後にしてあげる。」
「何を言って......」
突然、レサが背中から殴られたように床に叩きつけられた。それに伴い、レサは息をつまらせてしまう。
気づくと立ち上がってたジャスミンが、レサを蹴飛ばす。
壁に叩きつけられ、カヒュッと肺から漏れ出たであろう音がここまで聞こえてきた。
「さあて、最初は誰にしましょうか?」
俺達を舐めるように見回し、俺を指差す。
「決〜めた。ロサちゃんの彼氏くんが最初ね〜。」
近くまで戻ってきていたロサに、ルーナと一緒に距離を取るように言う。
二人が離れると、俺は立ち上がる。
「ええと、一つ言いたい。」
俺は水魔法を操り、ジャスミンの足元に気づかないように水を走らせる。
「何?遺言でも言いたいの?」
完全に油断しているようだ。まだいけるな。
「遺言じゃない。お前がなんでこんなことをしているのかという動機が知りたくてね。」
「今関係ある?でもまあ、気分もいいし、教えてあげようかしらね。私は人を痛ぶるのが好きなの。でも、子どもの泣き声なんて聞いてられないから、ロサちゃんが大きくなって苦しんで悲鳴を上げるのを待ってたの。だって、体の大きな子が苦しんでると最高の気持ちになれるじゃない。」
何を言ってんだこいつは。そんなことあるわけがない。というか、完全にイカれたやつの発言内容だな。人として終わってるね。
俺はそのまま流しておいた水を凍らせ、隆起させてジャスミンの足元を覆う。
よし、これで動けなくなった。
「へぇ、足元を凍らせたのね。でも、こんなものすぐに壊せるわ。」
ピシピシと段々氷にヒビが入り、そのまま粉々に砕け散ってしまった。
俺は若干まずいと思い、すぐさま水の球を前方に放つ。
予感は的中していたようで、その球は放ったときと比にならないレベルの速度で壁に飛んでいった。
「あらぁ、外れちゃったわ。というか、あなたは水を扱えるのね。おもしろそうじゃない。」
さて、どうしようか。単純な手を仕掛けても、相手はなにか策を持っていると考えて何かしら対策してくるだろう。そもそも、あの見えない力......サイコキネシスとでもいうのか?それに対応する策を考えねば。
『ソータ、あれは空間魔法の類だ。同じ力をぶつけてみろ。威力自体はソータのほうが高いはずだから押し返せると思うぞ。』
セクからの助言が飛んでくる。
わかったけど、セクは援助してくれないのだろうか。
『俺には無理だ。今じゃ全力の出力を出すことはできないからな。相手も練度は俺よりかは低いが、お前より高い。油断してると一瞬でやられるぞ。』
セクがそう言っている間も、なんとか水魔法で防いでる感じになっていた。最悪の事態......ゼリージさんやロサ、ルーナ、レサが攻撃に巻き込まれないように気をつけないと。
まあいい。次に手を向けられたらやり返すか。
ジャスミンが再び手を向けてくる。なので俺は、その手をジャスミン自身へと向けるように、方向を操作した。しかし、うまく決まらず、ジャスミンが自身を軽く押しただけになってしまった。
「へぇ、人のスキルのコピーあるいは、私のと同じスキルね......いいわ!もっと見せて頂戴!」
再び攻撃がはじまった。
数十秒は方向を変えたり、相殺したりすることができていたが、相手もそれに気づいたのか、少し操作を変えてきた。
それにより、俺は吹き飛ばされる。
痛ってぇ......手の向きを見ればある程度わかるとはいえ、結構むずいぞ。やっぱセクがなんとかやってくれない?
『だからこのままじゃ無理だ。実体を持たない状態じゃかなり無理がある。』
はぁ。やっぱ、俺がやるしかないか。でも俺が失敗したら、他が危険な目に合わされちゃうし。
ふと前を向くと、追撃なのか、瓦礫が目の前までとんできていた。
先ほどバリアを張っていたのもあって、眼前で動きを止めて落ちたが、おそらく、あちらからは俺が潰れたように見えただろう。
「ふふっ、次は誰にしてあげましょうか?」
なんて声が聞こえる。いつ仕掛けるのが良いんだ?というか、騙し討ちも失敗したら余計に危ない。
やっぱセクがやってくれない?俺も結構苛立ってるけど、流石に失敗するのが怖い。危険に巻き込みかねないし。セクなら確実でしょ?
『たしかにそうだが、ここでやっても本来の1割も出せないぞ?』
それでもやってくれ.......って待てよ?実体があればというか、体があれば良いんだよね?
『ああ、そうだが......』
よし、じゃあ今替わってくれ。俺にはまだあいつの相手は荷が重い。
『まあ仕方ない。確かに対人経験じゃ一応俺のほうが上だしな。』
俺は体の操作をセクと交代して、セクの様子を見守る。
って、あれ?モルさんなぜに俺の足を枕に......?
「少し眠くなってしまったんじゃ。終わったら起こしてくれ。」
まあいいか。セクがどんな風にするか見てみよ。
セクは瓦礫の隙間からジャスミンの様子をうかがっていた。ジャスミンは、今まさしくゼリージに
手を向けたところだった。
今とばかりに、セクは空間魔法を使い、ジャスミンの腕を締め上げて宙に浮かせる。そして、どこかへとつながるゲートを開き、そこに放り込んだ。
えっ、どこに放り込んだんだあれ。
『なに、心配はいらない。今はまだ掴んでいるが、水の中に沈めているだけだ。ほら、ソータが鉱石をとりにいくところの近くにある池に。』
中々えげつないことしますねセクさん......でも、掴んでるってどういうこと?
『いや、空間魔法は標的の周囲の空間を操れるのだが、上達すれば、こんな風に相手が見えないところにいても、操り続けることができるんだ。』
なるほど。それができるようにならないといけないのか。
『まあ戦う場合はそうだろうな。かなり難しいものだが......ソータならできるだろう。』
俺に言わないでくれ......できるかなんてわかんないんだから。
『そう言いつつ、すぐにゲートやら何やらを......嘘だろ?』
どうしたの?
『いや、少し驚いただけだ。加え続けてる力を逆に利用されて戻ってきたんだ。』
見ると、全身がびしょ濡れになったジャスミンが戻ってきていた。長い髪から水を滴らせてワナワナと肩を震わせる姿は、ホラーゲームか映画かに出てきそうな雰囲気をしていた。
ジャスミンはこちらをジロリと睨んできた。
「あなた、さっきので死んでなかったの?人を濡れ鼠にして、もう許せない。」
あ、こっちにも濡れ鼠って言葉あるんだ。というか、さっきカモがネギを背負って来るって言ってたけど、カモいたんだ。実際、カモネギ鍋ってどんな味なんだろうか。知らないんだよな。
そんなことを考えていると、ものすごい速度でジャスミンが迫ってきていた。
「おお、自分自身にスキルを使って移動してきたのか、中々のセンスだな。」
セクがつい声に出してしまう。ジャスミンはその言い方が癪に障ったのか、憤ったように顔を歪める。
攻撃されてもヒョイヒョイとセクは避け、ついでとばかりに、眼前ジャスミンの眼前に空間を置き、その中に閃光玉を入れ、ジャスミンの目のみに光が向かうようにしていた。
光を受けたジャスミンは、弾かれるように頭を引き剥がしたが、もうすでに光で目がやられてしまっているようで、目がうまくあかず、涙を流して周囲の気配を探っていた。
しかし、何も見えないのを知ると、おもむろに手を振り回し始めた。
「ちっ、暴れ回られると厄介なんだがっ......っと。」
セクはジャスミンを捕まえ、そのままゲートを使ってどこかに放り込んだ。
『一応言っておくが、やつを俺が作った空間に放り込んだ。出さない限りは、出てこれることはない。』
と、言ってもないのに説明してくれた。ありがたい。
そのままゲートを閉じ、俺に体を戻すという。
俺も戻りたいんだが、モルが俺を枕にして寝てるせいで、むやみにうごかせないんだよな。いや終わったから起こせばいいか。
「モル、起きろ。終わったぞ。」
「うん......なんだ、存外早く終わったの。」
すぐにパッチリと目があいて少し驚いた。
「セクがすぐに終わらせたから、ちょっとセクと交代してくるわ。」
モルを座らせ、セクとバトンタッチする。
目を開けると、さっきまで俯瞰視点で見てたままの光景があるが、ロサとルーナがレサに駆け寄っていた。
「ソータ、お姉ちゃんが......!」
ロサが焦ったような表情を浮かべ、レサを抱きかかえている。
レサはわずかにだが呼吸をしている。しかしそれも苦しそうで、中々に深刻なことが伝わった。
俺は回復粉をレサにふりかけてかる。呼吸はある程度安定したが、まだ少し苦しそうだ。
レサは目を開き、少し咳き込んでから、ロサを見る。
「ロサ......無事だったか。」
「お姉ちゃん、僕は無事だったけど、お姉ちゃんの怪我が......」
「これくらいなんともねえ。それより、絞められた首大丈夫か?
「大丈夫だよ。ねえソータ、さっきの粉、まだ残ってる?」
一応残ってる。何なら、飲ませようと水に溶かしてたところだ。
水に溶かした回復粉をロサに渡す。ロサはレサにゆっくりと飲ませた。
もう大丈夫そうだな。ルーナもちょっと怖かったらしく、顔がこわばっているけど、レサを心配もしていて、しっかりと二人の近くにいた。
ゼリージさんを見ると、腰を抜かしていた。さっき狙われてたし、無理もないかも。
「ソ、ソータくん、助かったよ。かなり壊されてしまったが、ひ、被害がなくて何より、だ。」
やはりまだ体がこわばっているのか、所々言葉に詰まっていた。
「あの人が帝国側の人間だったようですよ。」
「そ、そうか。感謝する。」
人間の純粋な悪意が怖いってのはこういうことか。確かに、自らを満たすためだけの行動で命を狙われたんだ、今思うと、もしミスってたら......ゾッとするな。仮に、帝国の命令がなくなったという事を言っても仕掛けてきてたんだろうな。
なにはともあれ、一件落着だな。
いかがでしたでしょうか?今回は、ジャスミンさんと戦うことになりましたね。最後はセクがサクッとおわらせてくれましたが、あの別空間に放り込まれたジャスミンさんはどうなることやら......
追記:今週も少々投稿が遅れてしまいました。書けてはいたんですけど、色々(ゲームだったりお絵かきだったり)をしてるうちに投稿することを忘れてしまい、現在、寝起きで書いている状況です。すみません
次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。
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それでは、また次回お会いしましょう。