帝国最強の女騎士、阿呆で有名な第二皇子に見初められる
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帝国の第二皇子、ロベルト・ブレイロック。彼のバースデイ・パーティーの席において、彼自身から、いきなり宣言されたのだった。
「ソニア・ソリン第一騎士団長、おっ、おまえを我が騎士に任命する!」
……は? ――といった具合に、私の目は当然、点になったわけだ。上司からの命令じみた指示があったから仕方なく出席したパーティーだ。望んでの成り行きではない。そのような場において、いきなり専属の騎士に登用するだと? おいおいおい。ふざけるのもたいがいにしろ、許せんぞ。そもそも誰が好き好んで、阿呆で有名な皇子の騎士になど――。
やはり、愚かだからなのだろう。ロベルト皇子はもう一度、同じことを言った。「ソ、ソニア・ソリン第一騎士団長、おまえを我が騎士に任命する!」と、もう一回言った。無礼にあたるのだろうが、私は額に右手を当て、やれやれといった具合に首を横に振った――それから顔を上げ、「ロベルト皇子、ほんとうでございますか!」と強い声で問いかけた。ロベルト皇子は壇上にてビクッと身を引き、そうでありながらも態勢を立て直し、しかしどもりつつ「ほ、ほんとうだ!」と答えたのだった。
立食形式の催し事。私は手にしていた赤ワインのグラスをテーブルに置くと、左の腰から勢いよくレイピアを抜いた。周りからぎょっとした視線を向けられる。皇子までもがまた身を引いた。殺気などまとっていないのに、なぜ怯えるのか。そこはやはり馬鹿で阿呆で無知な者しかいないからなのだろう。恐怖の気配とそうではない雰囲気。そのへんを肌で感じることができないのだ。
レイピアの切っ先を前に向けたまま、足早に進む。壇上に目を向け、私はロベルト皇子のことを睨みつけた。いよいよ礼を欠いているに違いない――百も承知で剣の先端を皇子にピンと向ける。その喉元を目がけて――。
「もう一度、問いたい! ロベルト皇子! 言葉に嘘はないとされるのか!」
「な、ない!」いちいちどもるあたりが、やはり気の弱さを示しているのだが。「ソニア・ソリン、お願いだ! 私の騎士になってくれ!」
「夜伽はお約束できませんが?」
「そそ、そんなこと、望んでいない」
「それは嘘でしょう?」
「う、嘘じゃない!」
「叙任の儀は?」
「こっ、ここで済ませよう!」
決断が早いのは評価に値する。
それは認めてやってもいい。
短い階段――赤絨毯を進む。レイピアが自らに突きつけられたまま動かないからだろう。ロベルト皇子はあるいは目を白黒させる。周囲はなおもざわついている。剣を引かない私のことを失礼だと感じてなのか、それともここまでの経緯と現象を前にして驚いているのか、そのあたりはわからないし、わからなくていい。無駄におこがましい思いを抱くつもりはない。
びくびくした様子のロベルト皇子の眼前にて、片膝をつく。捧げるようにして、レイピアを両手で持った。皇子はレイピアを取り、剣の腹を私の右肩にのせた。思いのほか堂に入った所作で、だから私は少しだけ感心した。阿呆のくせに、生意気なことだ。腐っても皇族だということの証左でもある。しかし、叙任の声は小さく。むにゃむにゃと経のよう。照れくさそうに、定例的に私のことを任命したに過ぎず。それでも事実は事実であり、だから私は従おうと思う。従わざるを得ないとも言う。少しおかしく思えて、人知れず、クスリと笑ってしまった。
レイピアが返却される。私は腰の鞘にそれを収め、ゆるしに従い、立ち上がった。会場が、わっと沸く。現金なものだ。しかし、私が叙任されたことはそれだけ喜ばしいことなのだろうし、そうである以上、ロベルト皇子は愛されているとも言えるのだろう。
思いどおりに事が運んで嬉しいのか、ロベルト皇子は一歩踏み出し、浮かれた様子で両手を振って歓声に応える。調子に乗っているとしか言いようがないその様を見て、私はなんだか腹が立った。よって彼の耳元で「お控えを」と妖しくささやいてやった。途端、びくんと背を正し、「ご、ごめんっ」と返してきた。
皇子と女騎士。
齢、二十七同士のまだまだ幼い関係は、こうして始まった。
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ロベルト皇子は生真面目なのだが、やはり阿呆だった。過去、執務中に執務を放り出し、それこそ執務室でメイドの女と行為に及んだらしい。身籠らせてしまったらしい。阿呆は阿呆なりに考えたらしい。責任をとるかたちで、「女と結婚する」としたらしい。しかし、家のニンゲンは揃って反対したらしい。当然だ。そんな背景があっての婚姻など、当事者以外の誰も喜ばない、得をしない、祝福だってされない。それでも女は子を生んだ。自らのことなのだからと、あらゆる攻撃を跳ねのけた。なんとも図太く豪放な話である。その出来事について、私は好感を抱いた。自分自身に馬鹿正直なニンゲンを、私は好む。
執務机を前にし、その旨を包み隠さず告白したロベルト皇子は、照れくさそうに笑った。
「情けないだろう、ソニア。私は性欲に負けたんだ」
私は「ほんとうに情けない」と嘆くように言い、しかしそのじつ、口元は緩んでいる。「性欲が旺盛なのは良いことです。皇子はいったい、どれだけの子種を欲し、残されるのか」
「よしてくれ。情けないと思っているのは、ほんとうなんだ」
「私のことを、抱きとうございますか?」
「えっ」
「抱きとうございますか?」
「そ、それは……」
「そう簡単に抱かせやしませんがね」
私は来客者用のソファから立ち上がり、ふふと笑った。
「わ、私はきみのような騎士が得られたことを、嬉しく感じている。ほんとうだ。そこにはたった一つの嘘も偽りもないんだ」
「でしたら、私にふさわしい主君になってくださいませ」
「ふさわしい、主君?」
「強くあってくださいということでございます」
「わ、わかった。私は誰よりもきみにふさわしくあろう」
おぼっちゃまごときが、まったく、過ぎた口を利いてくれる。私は戸を開け、執務室をあとにした。廊下でぴゅんとレイピアを抜き、その切っ先を見つめる。錆びついているように見え、だから「最近、サボりがちだな」と、自らの怠け具合を若干悔いる言葉が漏れた。私はストイックだ。美徳といえば、それくらいしかない。ないように思う。
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ロベルト皇子が風邪をひいた。やはり馬鹿だなと思った。病弱うんぬんはさておき、体幹がゆるいからそんなことになるのだ。体幹は大事だ。大事なのだ。しゃんとしてもらいたい。私のようなとびきりの女が仕えるのだから、しっかりしてもらいたい。まあ、熱がありながらも体調に支障をきたさない程度の公務であればこなすというのだから、そこは認めてやってもいい。阿呆だが誠実ではあるというわけだ。
けぷこんけぷこんと咳をしながらも、オーク材の執務机を前にし、書類に目を通す。顔は鮮やかな桃色。結構、キツいのだろう。ぽーっとした目をしている。休めばいい。そう助言してやろうとしたところで、皇子が「なあ、ソニア」と呼びかけてきた。
「どうかなさいましたか?」接客用のソファに腰掛けている私は、いい加減にしか聞こえない返事をした。「ソニアはここにおりますが、なんの御用でございましょう?」と嫌味を含んだ言い方をした。そう。私は性格があまりよろしくない。立派に妙に、ひん曲がっている。
「私は国の役に立っているのだろうか」
「美しい金髪に琥珀色の双眸。外見からして、女子の目の保養にはなっています。オナニーのネタになっているやもしれませんね」
「オオッ、オナニーとかっ!?」
「おや。気に入りませんか?」
「ソ、ソニア、おまえのことを思って言っているんだ。おまえはとても美しい。安易に下品な単語を述べるべきじゃない」
「オナニー、オナニー、オナニー」
「だだだっ、だから、ソニア!!」
私は笑った。
大いに笑った。
「職務に忠実であってくださいませ。なんでしたら、いつでもお手伝いいたしますから」
「ご、ごめん」阿呆が言う。「僕はじつに情けない男だなぁ。一人じゃなにもできないんだもんなぁ」
「ロベルト様」と私は叱るような声を向け。「僕という軟弱な呼称はおやめください。小うるさい蝿を思わせる文言でございますゆえ」
「あ、ああ、そうだな。ごめん」
「ただでさえ迫力に欠けるのですから、心の居住まいくらいは、常に正していただかないと」
わかっているよ。そう言って、ロベルト皇子は書類――自らを頼った嘆願書に押印した。よほどのことがない限り、彼が不認可の印を押さないことを、私はよく知っている。阿呆で馬鹿だが、だからこそ、途方もなく優しいのだ。
熱がキツいのだろう、相も変わらずぽーっとした顔で、ロベルト皇子は目線をぽかんと上にやった。
「我が帝国は、もはやプレッシャーに圧し潰されそうなのだと聞く。それはほんとうなのだろうか」
「報道が信じられないと?」
「違う。きみの口から聞きたいんだ」
「疑いようのない事実でございます。かつて栄華を極めた国。その終焉を見届けられることについて、私はいささか興奮しております」
「ソニア、おふざけはよくないと思う」
「非日常感がたまらないんですよ」私はクックと喉の奥を鳴らした。「やがて国は侵され、女は犯され、あらゆるものが略奪され剥奪され、かつてないほどの辱めの大波にさらされることでございましょう。我が帝国は、もはやそれほどまでに疲弊し、弱い。いつ滅びるのか。興味深いところでございます」
ロベルト皇子は深く俯き、深く吐息をついた。
「男はいい。ただ、女性と子どもは守りたいんだ」
切実さを含んだ彼の視線を受け止めてから、私は小さく肩をすくめた。
「そうお考えなのであれば、圧力には素直に屈するのがよろしいかと」
「屈すれば、民は助かるのか?」
「そうは言えない状況であることは、ご存じだと思いましたが?」
「それは……そうだな」ロベルト皇子は悲しげな目をして。「たとえば、私の首を差し出せば、事は好転しないだろうか」
「その段はとうのむかしに過ぎております。肝要なのは、腹を括ることです」
「悲しいなぁ」
「民を守りたければ、戦わなければなりません」
数秒の思考ののち、皇子は「わかった」と返事をし、一つ、首を大きく縦に振り、「ソニア、頼む。このあと、私に剣の稽古をつけてくれ」と言い。対して私は――。
――私はソファから立ち上がり、執務机の前まで歩み、腰を大きく折り、皇子の顔に顔を寄せた。吐息が交差する距離。コーヒーの匂い。そう。小生意気なことに、世間知らずのこのガキくさくて弱っちい皇子様は、苦い液体を好むのだ。ガキの背伸びとも言える。
「今日は早々に、お休みくださいませ。ロベルト様が倒れられたとあれば、私は皇帝陛下にどやされかねません」
腰を縦にした私。――ロベルト皇子はどぎまぎした態度ののち見上げてきて、目をぱちくりさせた。
「皇帝陛下は関係ないだろう?」と言うと、皇子は苦笑じみた表情を浮かべ。「だいいち、父上は私に関心がない。優秀ではない、世間一般では阿呆で通っている私になんて、いっさいの興味がない」
私はまた肩をすくめてみせた。ふふと笑む。最近、この不出来で不幸な皇子のことが、ほんとうにかわいく感じられるようになったのだ。――吊り橋効果に似ている。
「自虐はよろしくありません。犬も食わない」
「しかし、私は、実際――」
「実際、なんでございますか?」
「――皇子になど、生まれたくはなかった」
「贅沢な文句に聞こえなくもありませんね」
「そうかもしれない。そうではないのだけれど」皇子は「はは」と笑った。「馬を駆り、世界中を旅したい。それはそれほどまでにわがままな話なのかな」
わがままなことです。そう言い、私は腕を組んだ。すると、「そうか……」とロベルト皇子は肩を落とし。
「私はまだ、海を見たことがない。いつか見てみたいなぁ」
「そうお考えなら、生き延びることを考える必要がある」
「そんなに急を要することなのか?」
「明日明日にでも、事は起きます」
――隣国の本格的な侵入を許したのは、翌日のことだった。
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恭順、あるいは降伏を謳った皇帝が自らの子――第一皇子に討たれた。世論は真っ二つに別れた。戦わずして許しを乞うのか、戦って滅びるのか、どういったかたちで矜持を示すのか、その旨、割れた。第一皇子は抵抗のみを主張する。――やがてはその方向で話がまとまり、あらゆる国家の駐在大使は追放され、帝国は孤立化した。もはや戦争をするしかない。そういうことだ。そうなってしまった。そう決まってしまった。
訓練場。――ロベルト皇子に剣の稽古をつけてやった。最初は話にならなかったのだが、最近、力強くなりつつある。男の逞しさ頼もしさを獲得しつつある。それでも私は負けないし、負けてやりもしないのだが。いくら鍛錬を積んだところで限界があり、底は浅い――それが彼なのだが。
丸太を半分に切っただけの簡素なベンチに座り、ロベルト皇子は白いタオルで顔に浮かぶ汗をしきりに拭う。一方の私は、ただ前を睨んでいた。隣国のちょっかいのせいで国は荒らされ、多くの被害が出ている。包囲網は確実に狭められ、もはや待ったなし、いつ首都に攻撃を加えられてもおかしくない。当主、あるいはそれに準ずる者が殺され、屋台骨を揺るがせにさせられている貴族も少なくない。というより、もはや肩書に大きな意味などないのだ。誰がどうあっても、どうなってもおかしくない。そんなところまで、もはや来てしまった。戦場にあることが不憫? 不幸? 否。戦場を招いてしまった上層部のニンゲンが優れていないというだけのことだ。それが原因で命を落とす民草はたまったものではないだろう。
タオルでまた、額を拭ったロベルト皇子。
「明日かな、明後日かな? それとも今日なのだろうか。私が戦場に駆り出される日は」皇子は「ははっ」と努めて明るく振る舞おうとするところがあり、だからこそ笑うのだ。「きみが言ったとおりだ、ソニア。亡国と化すにあたり、そう日はかからないようだ」
弱気な物言いが気に食わなくて――と、普段ならたしなめそうなところであるが、私はもはや、達観している。怖いものなどない。国のためであれば、喜んで自分を殺そう、と。自らの身も心も、国のために、この帝国のために捧げよう、と。我がことながら感嘆すべき尊い精神だ。そう考える以上、やはり私は、この国のことが好きなのだろう。愛おしいのだろう。少なくとも、他に好きなものなんかない。だったら戦おう。最後の最期まで、この国を想って、その上で朽ち果ててみせよう、美しく散ってみせよう。
「な、なあ、ソニア」おっかなびっくりといった感じの口調で、隣から聞こえてきた。「ももっ、もしだ、もしもの話だ、私がいま、その……いま――」
「いま?」私は涼しい目――流し目を、ロベルトに向ける。「いまが、どうかなさいましたか?」
ロベルトは冷や汗を飛ばさんばかりに顔を真っ赤にし、俯いた。なにやらぶつぶつ言う。両手で頭を掻きむしり、それからにこっと笑んだ。「な、なんでもないよ」と笑ってみせた。
「世が世であれば、私はロベルト様の子を孕むことについて、やぶさかではなかったかもしれません」
「えっ」
「そういうことなのでございましょう?」
そんなふうに私が吐くと、ロベルト皇子はますます顔を赤くして、この上なく顔を赤くして――だけど、すぐに諦観したように。
「いまさら、子を授かりたいとは思わない。新しく生まれてくる命よりも、いまある命のほうが、ずっと大切だ」
「セックスはしたいが、子は要らない?」
「ダ、ダメかな?」
最近、そんなことをのたまうようになったから、私はロベルト皇子のことが嫌いではなくなったのだ――否、好きになりつつある。偉いと思う。立派だとも思う。民が彼のことを馬鹿だの阿呆だのと罵った時期はもう過ぎ去った。そもそも、彼は優しすぎて優柔不断すぎたから、妙にとろく映っただけなのだ。一皮剥ければヒトは変わる。その典型的な事例と言えるだろう。
――翌日から、隣国との本格的な戦争に突入した。どう考えても勝てない。一方的になぶられるのは目に見えていたし、そうである以上、尽きないむなしさしか覚えない。それでも、戦わなければならない。プライドゆえの、死にゆくまで続く闘争だ。薄っぺらなニンゲンであって、たまるものか。息が切れるまで、息が途切れるまで、閃光のように生きてやる。私は光だ。瞬くように輝く光――。
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天賦の才があったのだ。ロベルト皇子の指揮はまんべんなく行き届き、そんな調子だから、部隊の士気も高かった。それでも、圧倒的な戦力差をまざまざと見せつけられてしまっては、肉体的な消耗も精神的なダメージも激しいものとなる。兵士は裂かれ、削られ、確実かつ着実に目減りしてゆく。それでも「最後まで戦おう!」と誓い合い……。ある夜、私とロベルト皇子は、朽ちた街の人気のない宿のベッドで身体を重ねた。笑った。とにかくぎこちなかったのだ。凹凸を合致させるのがひどく難しかった。汗だくになった。奪い合うように馬鹿みたいに唇を欲し、愛し合った。ロベルト皇子は「幸せだった」と言い、私に腕枕をしてくれた。予想だにしなかった安らぎに、私の頬は緩んだ。
その翌日、ロベルト皇子は戦死した。誰よりも先頭に立ち、味方を鼓舞し続け走り戦った結果、顔面に太い矢をもらい、脳みそをぶちまけ、死んだ。私はひざまずき、顔が壊れたロベルトの死体を抱き上げ、泣いた。曇天を見上げ、しきりに強く舞う雨粒を浴びながら、ひたすら泣いた。
どのタイミングで惚れ、いつから愛していたのか、それはどうだっていい。途方もない喪失感の中――私もこのまま、彼の身体を抱えたまま、いつ死んでもかまわないと考えた。殺される前、敵兵に食い荒らされるかのごとく凌辱の限りを尽くされてしまうのかもしれないが、その折にはまあ、受け容れようと考えた。奪われるとは、そういうことだ。蔑ろにされるとは、そういうことだ。
そのとき、声が聞こえたのだ。
ロベルトの声だった。
天から聞こえた。
「ダメだよ、ソニア。きみは生きて。ちゃんと生きて、最期まで……っ」
茫然とした意識の中、私の瞳は毅然とした確かな輝きを取り戻し――。
愛した――愛するヒトの死体を、もう一度ぎゅっと抱き締める。朱色の世界に染まることは簡単だ。諦めればいい。なにもかも捨ててしまえばいい。それはそれで素晴らしい。ああ、そうだ、悪くない、きれいだ、血の色はいつだって美しい。ただ、それでも、それでも――。私は立ち上がった。下卑た笑い声を上げながら襲いかかってくる三人の兵――男らの首を、それぞれ、あっという間に刎ねた。舐めるな。私は誰にも負けやしない。帝国最強の名は伊達ではない。もう一度言う。舐めるな。
地から湧き出るマグマのような怒り、あるいは、叫び、懊悩、苛立ち。戦うことを決めた私の意志は固い。ロベルト皇子――ロベルト、いまなら言える、しっかり言える。私はなおもまだ、あなたのことが愛おしい。だから、さよならしか言わない、さよならしか言わないよ。悲しみに満ちた世界にあっての希望。――それを追い求め、私はまだまだ、生きてやる。明日というキャンバスに、私はまた、自分の色を塗ってやる。
戦え、私。
振り返るな、前だけを向け。
嘘偽りのない真実だけを思い知れ。